Last Updated on 2026年7月3日 by Co-Founder/ Researcher
日鉄ソリューションズ株式会社(NSSOL)とN.Avenue株式会社は、2026年6月30日、両社が共同で事務局を務める「暗号資産インデックス協議会」(座長:森下哲朗 上智大学法学部教授)の報告書を公表した。
報告書は、国内暗号資産ETFの組成等に必要となる、日本円建て暗号資産インデックスの算出に向けた議論の成果をまとめたものである。2024年1月に米国で現物ビットコインETFが承認され、運用資産残高が1年間で1000億ドルに迫る規模まで拡大したこと、日本国内で規制の根拠が資金決済法から金融商品取引法へ移行しつつあることが背景にある。
協議会は2025年に設立され、2025年11月から2026年5月にかけて全6回開催された。両社は2026年6月からBTC・ETHのテスト算出を開始し、2027年1月にシステム接続・配信開始を予定している。
From: 国内暗号資産ETFの実現へ、暗号資産インデックス協議会の報告書を公表|プレスルーム|日鉄ソリューションズ
【編集部解説】
このニュースは、一見すると地味な「報告書の公表」にすぎません。しかし日本の暗号資産市場に「ものさし」を据える動きだという見方もできます。ETFという商品そのものではなく、その値動きを測る基準(インデックス)を先に整えようとする点に、この発表の本質があります。
なぜ「円建て」でなければならないのでしょうか。暗号資産は世界中の取引所で24時間取引され、同じビットコインでも市場ごとに価格が微妙に異なります。日本では海外相場より高値で取引される「ジャパンプレミアム」が生じやすいとされ、報告書の観測期間でも海外指標に対し平均8〜14bps(ベーシスポイント)のプレミアム傾向が確認されています。海外のドル建て指数を為替換算して流用するだけでは、この国内特有の需給がこぼれ落ちてしまいます。国産のベンチマークは、その歪みを織り込んだ「日本の正価」を映す装置なのです。
「トラッキングエラー」という言葉も補足しておきましょう。ETFは連動を目指す指数からどれだけズレたかで運用の巧拙が測られます。土台となる指数が日本市場の実態とずれていれば、そのETFは出発点から狂った地図を持たされることになります。信頼できる円建て指数は、いわば正確な地図の作成に相当します。
タイミングも見逃せません。日本では暗号資産の根拠法を資金決済法から金融商品取引法へ移す改正案が、2026年4月10日にすでに国会へ提出されています。成立すれば、施行時期は公布後の政令等で定められる見込みで、2027年中の施行が想定されるとの見方もあります。税制も、総合課税(最高55%)から株式並みの申告分離課税(税率20%、正確には20.315%)へ移行する方向が令和8年度税制改正大綱で示され、金商法改正の施行を条件に適用される見通しです。金融庁は暗号資産を所管する部署を2026年夏に「課」へ格上げする組織再編も予定していると報じられています。制度の扉が開こうとするまさにその局面で、市場の計測インフラが用意されようとしている、という構図です。
この技術基盤が整うと何が可能になるのか。金融機関はNAV(純資産総額、ファンドの中身の時価)を客観的な国産指標で算定でき、投資家は日本円の視点でパフォーマンスを比較できるようになります。国内ETFや投資信託の組成コストと信頼性が上がれば、これまで税負担や利便性の壁で二の足を踏んでいた層にも、暗号資産が資産運用の選択肢として届きやすくなるでしょう。
主体が日本製鉄グループのNSSOLである点も、Crypto Verse の視座から見ると示唆に富みます。鉄という重厚長大産業を源流に持つ企業のITアームが、Web3金融の「配管」を敷設する。旧来の産業インフラを支えてきた技術力が、次の金融インフラへ接続されようとしているのです。
一方で、楽観だけでは語れません。指数の算出方法や採用取引所の選定には、恣意性や利益相反が入り込む余地があります。事務局を務める2社が算出・運用まで担う体制は、迅速さと引き換えに「作る側と使う側の距離の近さ」という論点を残します。報告書自体も独立したガバナンスや外部諮問体制の必要性に触れており、この点は今後の運用で問われる部分でしょう。加えて、米国のビットコインETFはAUMが大きく変動しており、一部データではピーク時に1600億ドル台まで拡大した後、2026年に1000億ドルを割り込む局面もあったとされています。指数の信頼性とは別に、原資産そのもののボラティリティは残り続けます。
長期的に見れば、これは暗号資産が「投機的な例外」から「制度に組み込まれた金融資産」へと位置づけ直される過程の一里塚だと捉えられます。指数という共通言語ができて初めて、金融機関・監督当局・投資家が同じ地図の上で対話できるようになります。派手さはなくとも、こうした土台づくりこそが、未来の市場の輪郭を静かに決めていくのだと考えます。
【用語解説】
暗号資産ETF(上場投資信託)
ビットコインなどの暗号資産の価格に連動するよう設計された、証券取引所で売買できる投資商品である。投資家は暗号資産そのものを保有・保管せず、証券口座を通じて値動きに投資できる。実際に原資産を保有する「現物型」と、先物で連動させる「先物型」がある。
現物ビットコインETF
運用会社が実際にビットコインを購入・保管し、その価格をファンドに反映させる方式のETF。米国では2024年1月にSEC(米証券取引委員会)が初めて承認した。なお、SECの承認文書上は「ETP(上場取引商品)」と表記される。
NAV(Net Asset Value/純資産総額)
ファンドが保有する資産の時価から負債を差し引いた正味の価値。ETFや投資信託の「中身の値段」にあたり、算定には信頼できる基準価格が不可欠となる。
bps(ベーシスポイント)
金利や利回り、価格差を表す単位。1bpsは0.01%にあたる。
申告分離課税/総合課税
総合課税は他の所得と合算して累進税率(暗号資産では最高55%)で課す方式。申告分離課税は他の所得と分けて一定税率(株式等は約20%)で課す方式で、暗号資産もこの方式へ移行する方向が示されている。
令和8年度税制改正大綱
2026年度の税制改正方針をまとめた文書。与党大綱が2025年12月19日に、政府大綱が同年12月26日に公表された。暗号資産への申告分離課税(税率20%)の導入と、ETFの国内組成に向けた方針が明記された。
【参考リンク】
日鉄ソリューションズ株式会社(NSSOL)(外部)
日本製鉄グループのITソリューション企業。金融や製造など幅広い業界を支援し、本協議会の共同事務局を務める。
N.Avenue株式会社(外部)
2018年設立のWeb3・デジタル資産分野の情報サービス企業。メディア運営やインデックス事業を手がける本協議会の主催者。
NADA NEWS(ナダ・ニュース)(外部)
N.Avenueが運営するデジタル資産特化メディア。CoinDesk JAPANを前身とし、2025年末に独自ブランドへ刷新した。
暗号資産インデックス協議会 報告書(PDF)(外部)
本協議会が公表した報告書の本体。円建てインデックスの算出方針に関する議論の成果を記した一次資料である。
金融庁(外部)
暗号資産の金商法移行やETFの組成環境整備を所管する行政機関。関連法案を2026年4月に国会へ提出済み。
【参考記事】
US spot Bitcoin ETFs set to hit $2 trillion cumulative trading volume milestone(The Block)(外部)
米国の現物ビットコインETFが累計取引高2兆ドルに接近し、運用資産残高760億ドル超に達したと報じた記事。
Bitcoin Spot ETFs Reach $1.25T AUM in Two Years(KuCoin)(外部)
承認から2年でビットコインETFの運用資産残高が1248億ドルに達し、金の金融商品化になぞらえて論じた記事。
金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料(金融庁)(外部)
暗号資産規制を資金決済法から金商法へ移管する法案の資料。2026年4月10日に国会提出された一次資料。
【Crypto Verse関連記事】
本記事の日鉄ソリューションズ×N.Avenue 円建て暗号資産インデックス協議会報告書公表・国内暗号資産ETF向けベンチマーク整備・ジャパンプレミアム(平均8〜14bps)・金商法移行と申告分離課税・金融庁組織再編の構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
日本の金商法移行・税制改正・制度整備動向
- SBI、ビットバンクを467億円で完全子会社化─暗号資産の預かり資産で国内首位へ → 本記事のインデックス整備と並走する、日本市場での暗号資産業界統合動向。「ものさし整備」と「取引所統合」の両軸で進む日本市場の制度化を理解できます。
- bitFlyer SOL上場の本当の意味─Solanaに集まる日本企業と金融商品取引法改正 → 本記事の金商法移行と直接連動する、取引所側の対応動向。「銘柄拡大」「制度移行」の両軸で日本市場の準備が進む構造を理解できます。
- JPYSC始動―SBI・Startaleが国内初の信託型円ステーブルコインを発行 → 本記事の円建てインデックス整備と並ぶ、日本での円建てステーブルコイン整備動向。
- SBI VCトレード×リップル―「RLUSD」が国内初の「4号電子決済手段」として取扱い開始 → 本記事のインデックス整備と並走する、日本市場での電子決済手段制度整備動向。
- HyperLending、日本初HYPE対応の暗号資産レンディング開始 → 本記事の金商法移行動向と並ぶ、日本市場での暗号資産関連サービスの拡大事例。
- SecondFi始動|「鍵は自分のまま」EMURGOが挑む、暗号資産で使う・貯める・稼ぐ時代 → 本記事のETF組成と対極にある、セルフカストディ型サービスの日本市場動向。「制度化」「自己管理」の両軸を理解できます。
- メタプラネット、Siiibo証券を21億円で買収—ビットコイン連動金融商品「Project Nova」始動 → 本記事のインデックス整備と並ぶ、日本企業による暗号資産金融商品化動向。
- enishがビットコイン全売却、Solana中心の「DAT 2.0」へ転換|運用型トレジャリーの狙い → 本記事の金商法移行と並走する、日本企業の暗号資産財務戦略動向。
ETF・機関投資家動向
- Morgan Stanley、ステーキングETF参戦|イーサリアム・ソラナで報酬95%を投資家へ → 本記事の国内ETF組成準備と並走する、米国側のETF動向。米国先行モデルが日本にどう波及するかを理解できます。
- ビットコインETF、過去最長13日の純流出。約43億ドルが抜けた背景とETFが「限界的な買い手」になった構造変化 → 本記事の米国BTC ETF動向と直接関連する、ETF経由フローの構造変化。
- Ethereum下落でも買い続ける機関投資家─ロバート・キヨサキ「9万5000ドル」予測再燃の裏側 → 本記事の機関投資家向けインフラ整備と並ぶ、機関投資家の直近動向。
- Strategy「mNAV」1割れ、セイラー氏が新規ビットコイン購入を示唆—逆回転するフライホイールの行方 → 本記事のインデックス整備と並ぶ、企業BTCトレジャリー戦略動向。
- Strategy、マイケル・セイラーの「ドット」投稿が新たなビットコイン購入観測を再燃させる → 本記事のETF動向と並ぶ、企業のBTC戦略動向。
BTC市場動向
- ビットコイン6万2000ドル割れ、Strategy 32BTC売却が招いた18億ドル清算の連鎖 → 本記事の暗号資産のボラティリティ議論と並ぶ、暗号資産市場全体の動向。
- ビットコイン7万ドル回復なるか、スカラムッチ・ノボグラッツが挙げるCLARITY法案・債務・SpaceX → 本記事の日本のETF準備と並ぶ、市場心理が織り込む期待動向。
新規金融インフラ・機関マネー流入
- Robinhood Chainがメインネット始動|Chainlinkが支える新金融 → 本記事の「暗号資産が制度に組み込まれた金融資産へ」という潮流と並ぶ、新金融インフラの構築事例。
RWA・トークン化・信用インフラ
- Moody’s×Solana×AlphaLedger:信用格付けがトークンに直接埋め込まれる時代へ。TIEがメインネット稼働 → 本記事のインデックス(ものさし)整備と密接に関連する、信用格付けインフラのオンチェーン化動向。
- XRP Ledger vs Ethereum、RWA資本移動説の真相─未検証の15億ドルをどう読むか → 本記事の「自己申告データの読み方」議論と共通する、FACT検証アプローチの事例。
- SpaceX・Solanaが変える株式投資|3つのトークン化商品、その仕組みとリスク → 本記事のETF組成環境と並ぶ、株式トークン化の実装事例。
- Tether Gold(XAU₮)がLedn上陸、230億ドルの金が暗号資産担保ローンに → 本記事のBTC・ETH中心のインデックスと並ぶ、実物資産(金)トークン化の実装事例。
ステーブルコイン決済インフラ
- AllUnity×Zebec、EURAUによる従業員福利厚生・法人決済をStellarで開始─MiCAR準拠ステーブルコインが実用フェーズへ → 本記事の日本のインデックス整備と並ぶ、欧州MiCAR準拠のステーブルコイン実用事例。
- Polygon、ステーブルコイン送金で全チェーン首位に—取引件数でSolana・BNB Chainを抜いた「決済レイヤー」戦略 → 本記事のインデックス整備と並ぶ、ステーブルコイン送金インフラ動向。「インデックス」「決済レイヤー」両軸での基盤整備を理解できます。
- Coinbase、ステーブルコイン決済の課税撤廃を米議会に要請 ― 暗号資産税制改革の行方 → 本記事の日本の申告分離課税移行と並ぶ、米国側の税制動向。日米税制改革の比較理解に役立ちます。
- ステーブルコインとトークン化で家計は軽くなる?米上院公聴会、賛否とCLARITY Actの行方 → 本記事の日本での制度整備と並ぶ、米国のオンチェーン金融議論動向。
- Visa×OpenAIが拓くAIエージェント決済|Visaのステーブルコイン決済は年換算70億ドル規模に → 本記事のインデックス整備と並ぶ、TradFi×暗号資産統合の最新事例。
- CBETS始動と中国人民銀行のステーブルコイン警戒—デジタル人民元 vs ドルの「通貨OS」争いが本格化 → 本記事の日本市場の制度整備と並ぶ、中国の国家主導型決済網動向。
Ripple/XRPL関連の動向
- Ripple、XRPとRLUSDでAIエージェント決済へ参入─USDCが席巻するx402市場に挑む → 本記事のBTC・ETH中心のインデックスと並ぶ、別領域(AI決済)でのRipple戦略動向。
- Ripple、XRPL「AI Starter Kit」でAIエージェント決済へ──x402対応とGenAI人材募集の狙い → 本記事のインデックス整備と並ぶ、XRPL上でのRLUSD用途拡張動向。
- RLUSDに利回り活用の道─SOILとXRPL Lending Protocolが拓くXRPLネイティブ融資 → 本記事のBTC・ETH インデックスと並ぶ、ステーブルコイン利回り活用動向。
米国規制動向・比較
- CLARITY Act、Coinbase・Rippleら200社超が上院に採決要求─成立確率60%に低下 → 本記事の日本の金商法移行と並ぶ、米国側の暗号資産市場構造法案動向。日米制度整備の比較理解に役立ちます。
- FBI被害113億ドル受け、米議会がクリプト犯罪対策の連邦タスクフォース新設法案を提出 → 本記事の日本の制度整備と並ぶ、米国側の被害者保護動向。
アジア圏の動向
- 韓国、債務救済に暗号資産を組み込み—KAMCO が残高証明書で資産審査、返済能力で減免率を調整へ → 本記事の日本での暗号資産の制度組込と並ぶ、韓国での公的制度組込動向。
AI×Web3・自律エージェント
- アライドアーキテクツ × Nyx Foundation、AIがDeFiの安全を“検算”する時代へ → 本記事のインデックス信頼性議論と並ぶ、AI×Web3領域での安全性検証動向。
- Claude Codeに「Solana AI Kit」登場―Solana開発を一括構築 → 本記事の金融インフラ整備と並ぶ、AI×Web3開発エコシステム動向。
- OpenAI「GPT-5.6」を限定公開にした理由—命名騒動と米政府の要請 → 本記事のインデックス整備と並ぶ、AI業界の政府介入動向。
AI×身分証・本人性インフラ
- Worldcoin(WLD)とは?AI時代の「本人性証明」と独自のデジタルIDインフラ構造【2026年版】 → 本記事のETF投資家保護と並ぶ、本人性証明インフラの動向。
- Worldcoin(WLD)はヘイズなしで価格を保てるか—AI時代の身分証トークンを読む → 本記事のインデックス組成対象銘柄と並ぶ、新興トークンの市場動向事例。
基盤チェーン解説
- Solanaとは?高速・低コストのブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事のBTC・ETH中心インデックスと並ぶ、他の主要ブロックチェーンの構造解説。
- XRP Ledger(XRPL)とは?分散型ブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事のBTC・ETH中心インデックスと並ぶ、機関金融向けブロックチェーンの構造解説。
- Hyperliquidとは?HYPE基盤のレイヤー1ブロックチェーンとオンチェーンCLOBアーキテクチャの完全解剖 → 本記事のインデックス対象と並ぶ、別のレイヤー1ブロックチェーンの構造解説。
決済プラットフォーム動向
- X Money決済とは?イーロン・マスクが描く「総合金融プラットフォーム」の正体 → 本記事の暗号資産の金融資産化と並ぶ、別経路での金融プラットフォーム構想。
セキュリティ・運用リスク
- Hola Browser にクリプトマイナー混入、Sophos が発見—サプライチェーン侵害の手口とは → 本記事の制度整備と並ぶ、エンドユーザー側で残るセキュリティリスク事例。
【編集部後記】
ETFという商品よりも先に、それを測る「ものさし」が用意されようとしている──今回のニュースからは、市場がかたちになる前の静かな準備が見えてきます。皆さんは、暗号資産が株式や投資信託と同じ土俵に並ぶ未来を、どう受け止めるでしょうか。
制度が整った先で、ご自身の資産運用の選択肢はどう変わっていくのでしょうか。あるいは、鉄を源流とする企業が金融の土台を築くという構図に、どんな可能性を感じるか。よければ一緒に考えていければうれしいです。
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