Last Updated on 2026年6月12日 by Co-Founder/ Researcher
2026年6月9日、複数の暗号資産メディアの報道によると、Stand With Cryptoなどが関与した書簡に、Coinbase、Ripple、Kraken、Circle、Binance US、Andreessen Horowitzを含む200を超える企業・団体が署名しました。
書簡は上院多数党院内総務のジョン・スーンと上院民主党院内総務のチャック・シューマーに送付され、Blockchain Association、Crypto Council for Innovation、The Digital Chamberと連携して進められました。同法案は上院銀行委員会を通過したものの、本会議での審議、修正、委員会版の調整が残されています。報道によれば、Galaxy Digitalのアレックス・ソーン氏は年内成立の確率を75%から60%へ引き下げ、JPMorganは50%未満と見積もっています。ティム・スコット上院銀行委員長ら推進派に加え、報道ではシンシア・ルミス上院議員、財務長官のスコット・ベッセント氏、ホワイトハウス顧問のパトリック・ウィット氏も前向きな姿勢を示しているとされます。
From: Ripple and Coinbase press Senate as CLARITY Act faces delays
【編集部解説】
まず、CLARITY Act(正式にはデジタル資産市場明確化法案)が何を目指す法律なのかを押さえておきましょう。最大の論点は、暗号資産を「証券」とみなして米証券取引委員会(SEC)が監督するのか、それとも「商品」として米商品先物取引委員会(CFTC)が監督するのか、という管轄の境界線をはっきり引くことにあります。この線引きが曖昧だったために、米国でのトークン発行は長らく法的に危うい行為とされてきました。
今回の記事のポイントは「反対が強い」のではなく「時間がない」という点に尽きます。法案は5月14日に上院銀行委員会を15対9の超党派で通過し、6月1日には本会議の議事日程に乗りました(Calendar No. 423)。ところが本会議で採決に進むには、フィリバスター(議事妨害)を阻むため通常60票が必要です。
なぜ60票が高い壁になるのか。共和党のジョシュ・ホーリー氏とランド・ポール氏が反対に回るとみられており、その場合、可決には少なくとも9人の民主党議員の賛成が要ります。つまり、超党派の合意形成がそのまま日程の重さに直結する構図です。
ここで効いてくるのが、原記事が「未解決の論点」として触れた倫理規定と不正資金の文言です。報道によれば、委員会で賛成に回った民主党のアンジェラ・アルソブルックス氏は、政府高官の暗号資産保有を対象とする規定が先に盛り込まれない限り、本会議での採決を支持しない姿勢を示しています。大統領一族の暗号事業との関係が取り沙汰されるなか、この「倫理」条項は単なる技術論ではなく政治の核心に触れる部分です。さらにステーブルコインの利回り制限も、合意に至っていない争点として残っています。
時間の問題が深刻化した一因は、暗号資産とは無関係の他の審議でした。上院は政権の予算をめぐる対立やICE・国境警備の予算審議、外国情報監視法702条の再授権が47対52で否決されたことなどで本会議の時間を消耗しています。結果として、8月の休会前に残る審議可能日数は6月に約4週間、7月に3週間ほどとされ、ジョン・スーン院内総務が7月の早い段階で本会議の時間を確保しなければ手続きが間に合わない、というのがアレックス・ソーン氏の見立てです。
確率の数字も整理しておきます。報道によれば、Galaxy Digitalのソーン氏は年内成立の確率をいったん75%と見ていたものの、上院日程の逼迫などを理由に60%へ引き下げました。JPMorganは50%未満、Bitwiseのマット・ホーガン氏は5%〜30%という、より幅広く慎重なレンジを示しているとされます。機関ごとに読みが割れている点は、それだけ不確実性が高いことの裏返しです。
この法案が成立すると何ができるようになるのか。事業者にとっては、自社のトークンが証券か商品かという根本的な不確実性が大幅に低減され、登録の道筋が見えます。開発者保護も明文化されるため、米国に開発拠点を留める誘因になります。原記事の連合体が「イノベーション・投資・雇用を米国内に留める」と訴えたのは、この点を指しています。
一方で、リスクと反対論も公平に見ておく必要があります。エリザベス・ウォーレン氏は「暗号業界が暗号業界のために書いた法案」だと批判し、有権者の優先度調査では暗号資産を最重要課題に挙げた人はわずか1%だったと指摘しました。消費者保護や法執行上の懸念が置き去りにされないか、という視点は、未来を語るメディアとしても外せません。
最後に、長期的な視点と日本の読者にとっての意義です。重要なのは、たとえ年内に成立しても規制がすぐ動くわけではないという点です。SEC、CFTC、財務省が規則案を起草し、30〜90日の意見公募を経て最終規則を出すまでには少なくとも1年かかると見込まれ、実際に守るべきルールが存在するのは2027年以降になりそうです。2025年に成立したステーブルコイン法(GENIUS Act)に続くこの市場構造法案は、米国が「デジタル資産のルールを世界に先んじて定める国」になれるかどうかの試金石です。米国が明確な枠組みを敷けば、人材と資本の引力はいっそう米国へ傾きます。すでに資金決済法のもとで独自の暗号資産規制を築いてきた日本にとっても、これは対岸の火事ではなく、自国の競争力をどう設計するかという問いを突きつける出来事だと言えるでしょう。
【用語解説】
CLARITY Act(デジタル資産市場明確化法案/H.R.3633)
暗号資産を「証券」と「商品」のどちらに区分するかを定め、米国の規制の枠組みを一本化することを目指す法案。下院は2025年にすでに可決しており、現在は上院での審議段階にある。
SEC(米証券取引委員会)とCFTC(米商品先物取引委員会)
SECは株式など「証券」を、CFTCは先物など「商品」を監督する米国の二大金融規制当局。CLARITY Actは、どの暗号資産がどちらの管轄に入るのかという境界線を明確化する。
フィリバスター/60票
上院の少数派が長時間の討論で採決を阻む議事妨害のこと。これを打ち切って採決に進むには、出席議員ではなく定数100のうち通常60票が必要となる。
委員会通過(マークアップ)
法案の条文を委員会が修正・採決し、本会議に送るかどうかを決める手続き。CLARITY Actは5月14日に上院銀行委員会を15対9で通過した。
Calendar No. 423
上院本会議で審議を待つ法案に付される議事日程上の整理番号。番号が付いていても、実際の採決日程が確保されるとは限らない。
Digital Commodity Intermediaries Act(DCIA/S.3755)
上院農業委員会が2026年1月29日に可決した、CFTCのデジタル資産規制権限を定める法案。下院通過のCLARITY Actとは別個だが密接に関連し、上院での市場構造法案の最終設計では、銀行委員会案や下院CLARITY Actとの調整が課題になる。
ステーブルコイン
米ドルなど法定通貨と価値が連動するよう設計された暗号資産。今回の法案では、その「利回り(報酬)」をどこまで認めるかが未解決の争点となっている。
GENIUS Act
2025年に成立したステーブルコインに関する米国の法律。発行体に準備資産の保有などを義務づけた。CLARITY Actは、これに続く市場構造の整備を担う位置づけにある。
FISA 702条
外国情報監視法の一条項。今回は暗号資産とは直接関係しないが、その再授権をめぐる審議が上院の本会議の時間を消費し、CLARITY Actの日程を圧迫する一因となった。
【参考リンク】
Ripple(外部)
国際送金向けのブロックチェーン技術と暗号資産XRPで知られる企業。書簡の署名企業の一つ。
Stand With Crypto(外部)
暗号資産利用者を束ねる草の根の政策提言団体。CLARITY Actの本会議採決を求める活動の中心を担う。
Kraken(外部)
米国を拠点とする大手暗号資産取引所。書簡の署名企業の一つ。
Circle(外部)
ステーブルコインUSDCを発行する企業。書簡の署名企業の一つ。
Andreessen Horowitz(a16z)(外部)
暗号資産分野に大規模投資を行う米国の著名ベンチャーキャピタル。書簡の署名者に名を連ねる。
Galaxy Digital(外部)
暗号資産に特化した金融サービス企業。リサーチ部門が法案の成立確率を分析・公表している。
Blockchain Association(外部)
米国の暗号資産業界団体。今回の働きかけを連携して進めた組織の一つ。
Crypto Council for Innovation(外部)
暗号資産のイノベーション促進を掲げる業界団体。書簡への支持を公に表明した。
The Digital Chamber(外部)
米国のデジタル資産業界団体(旧Chamber of Digital Commerce)。働きかけに連携した。
【参考記事】
CLARITY Act chances of passage this year falls to 60%, Galaxy Digital says(CryptoSlate)(外部)
Galaxyが成立確率を75%から60%へ引き下げ。FISA再授権の否決などで審議日数が縮んだ経緯を解説。
Over 200 Crypto Firms Urge Senate Vote on CLARITY Act as Galaxy Cuts Passage Odds to 60%(The Defiant)(外部)
200社超の署名と60票の壁を詳述。可決には民主党9人の賛成が要る点と倫理規定の論点を伝える。
Galaxy drops CLARITY Act odds to 60% as time is running out(Bitget News)(外部)
確率の推移を時系列で整理。JPMorganの50%未満や、両委員会可決済みで60票が要る点を記す。
Senate Calendar Crunch Forces Galaxy to Cut Clarity Act Odds by 15%(Yahoo Finance)(外部)
法案が6月1日に議事日程(Calendar No. 423)に乗ったこと、引き下げは日程要因だと解説。
Galaxy trims CLARITY Act passage odds to 60% as deadline nears(CryptoBreaking)(外部)
Galaxy60%、JPMorgan50%未満に対し、Bitwiseが5%〜30%と見る機関差を整理して伝える。
CLARITY Act Timeline: From 15-9 Senate Win to July 4 Signing, Here Is Every Step Ahead(The Crypto Times)(外部)
成立後も規則策定に1年かかり、守るべきルールの実在は2027年以降になると指摘する。
LIVEBLOG: Senate Banking Committee advances Clarity Act to full Senate floor(CoinDesk)(外部)
委員会での攻防を記録。ウォーレン氏の批判と、有権者の最重要回答が1%だった調査を伝える。
【Crypto Verse関連記事】
本記事のCLARITY Act・SEC/CFTC管轄論争・米国暗号資産規制・GENIUS Act・日本の規制環境との対比をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
【米国の暗号資産規制動向】
- 暗号資産の規制区分をSECとCFTCが整理 BTC・ETHは「デジタル証券」ではなく「コモディティ」側に → 本記事のCLARITY Actが法的に確定させようとしている、SEC vs CFTCの管轄論争の前提整理。BTC・ETHがコモディティとして扱われる根拠を理解できます。
【ステーブルコイン規制(GENIUS Act関連)】
- Mastercardがステーブルコイン決済を導入|USDC・RLUSD対応で常時稼働型清算へ → 本記事で言及されたGENIUS Act(2025年成立のステーブルコイン法)以降に進行する、ステーブルコインの制度的統合の事例。法整備が業界実装にどう波及するかを理解できます。
- USD1エアドロップ開始—Binanceとトランプ家のステーブルコインWLFI、日本は対象外 → 本記事で論点となった「大統領一族の暗号事業」「倫理規定」の文脈に関連するステーブルコイン事例。米国の政治と暗号資産の交差点を理解できます。
【日本市場の対比・参入動向】
- Startale・SBI・Sony、6,300万ドル調達—日本の金融がブロックチェーンと本格接続へ → 本記事の「日本にとっても対岸の火事ではない」という結論と対応する、日本側のブロックチェーン接続動向。米国規制整備が日本に与える影響の比較理解に役立ちます。
【機関投資家・市場構造への波及】
- Moody’sがビットコイン担保債券に格付け—史上初、公債市場に暗号資産が参入 → 本記事のCLARITY Actが目指す「規制の明確化」が実現した場合に加速する、伝統金融セクターの暗号資産参入事例。
- 401(k)に暗号資産が解禁へ|米労働省が規則案を公表、10兆ドル市場に変革の波 → 本記事のCLARITY Actと並走する、米国における暗号資産制度化の別領域の動き。年金マネー10兆ドル市場への波及を理解できます。
- ビットコイン6万2000ドル割れ、Strategy 32BTC売却が招いた18億ドル清算の連鎖 → 本記事の規制不確実性が継続する市場環境下で発生した、暗号資産市場の構造的調整事案。規制の遅れが市場ボラティリティに与える影響を理解できます。
- ビットコインETF、過去最長13日の純流出。約43億ドルが抜けた背景とETFが「限界的な買い手」になった構造変化 → 本記事のCLARITY Act成立による機関化加速期待と、現実のETFフロー逆回転の対比。期待と実態のギャップを理解できます。
【RWA・実需領域への波及】
- XRP Ledger vs Ethereum、RWA資本移動説の真相─未検証の15億ドルをどう読むか → 本記事で言及されたRippleが、米国規制明確化の最大の受益者となりうる文脈。XRPLでのRWA展開が規制整備とどう連動するかを理解できます。
- SecondFi始動|「鍵は自分のまま」EMURGOが挑む、暗号資産で使う・貯める・稼ぐ時代 → 本記事のCLARITY Actが整備しようとする決済領域で、グローバル展開が進む実装事例。米国規制が新興国市場戦略にどう影響するかを理解できます。
- HyperLending、日本初HYPE対応の暗号資産レンディング開始 → 本記事が言及した日本の資金決済法のもとで進む、独自のレンディングサービス展開事例。日米規制環境の違いが実装にどう反映されるかを理解できます。
【AI・自律エージェント領域】
- Ethereum・World・Mastercard——AIと暗号資産が塗り替える経済の輪郭 → 本記事の規制論争と並走する、AI×暗号資産の融合という別軸の構造転換。規制の明確化がAI×Web3領域に与える影響を理解できます。
- AIが自律的に支払う時代へ—x402 Foundation発足、Linux Foundationのもとで標準化へ → 本記事のCLARITY Actが対象としない、AIエージェントによる自律決済領域の標準化動向。次世代の規制論点を先取りできます。
- Worldcoin(WLD)はヘイズなしで価格を保てるか—AI時代の身分証トークンを読む → 本記事のCLARITY Actが管轄を定めようとする「トークン」の代表事例の一つ。AI時代の身分証トークンが法的にどう分類されるかという論点と関連します。
- アライドアーキテクツ × Nyx Foundation、AIがDeFiの安全を”検算”する時代へ → 本記事のCLARITY Actが整備する規制環境下で、AIがコンプライアンス・セキュリティ検証を担う事例。規制とAIの相互補完を理解できます。
【市場構造・データ検証】
- ビットコインドミナンスの推移と2026年の市場構造:2024年からの変遷と機関・企業主導サイクルの客観的検証 → 本記事の規制動向と並走する、長期的な市場構造変化。CLARITY Act成立が機関主導サイクルにどう影響するかを長期データで理解できます。
- デジタル経済の構造転換とアジア暗号資産市場の現在:2024年から2026年への定量的検証 → 本記事の「米国でルールが決まる」グローバル文脈と並走する、アジア市場の構造転換。米国規制整備がアジアに与える波及を理解できます。
【セキュリティ・検証可能性】
- Hola Browser にクリプトマイナー混入、Sophos が発見—サプライチェーン侵害の手口とは → 本記事のCLARITY Actが対象としない、エンドユーザー保護の重要事案。規制整備とは別軸での「ユーザー保護」の現状を理解できます。【確認済】
- プログラム可能な通貨と検証可能なコード:2026年における次世代金融インフラの構造解剖 → 本記事の「ルール作りは速さと丁寧さのどちらを優先すべきか」という編集後記の問いと通底する、次世代金融インフラの哲学的基盤。検証可能性こそが規制の核心であるという視点を提供します。【要確認】
【編集部後記】
「ルールが決まる」と聞くと地味に感じるかもしれませんが、暗号資産が証券なのか商品なのか、その線引き一つで、どの国に人材とお金が集まるのかが変わっていきます。今回の米国の攻防は、日本でこの分野に関わる私たちにとっても、自分ごととして眺められる出来事だと感じています。
みなさんは、暗号資産の「ルール作り」は速さと丁寧さのどちらを優先すべきだと思いますか。よろしければ、感じたことをぜひ聞かせてください。一緒に考えていけたら嬉しいです。
——————–
※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
詳細は当サイトの免責事項をご確認ください。
——————–

