SEC、暗号資産規則案の会合を前日に中止─公式告知は理由示さず

SEC、暗号資産規則案の会合を前日に中止──公式告知は理由示さず

Last Updated on 2026年8月17日 by Co-Founder/ Researcher

米SECが8月14日に予定していた公開会合は、その前日に中止されました。理由として広く報じられている「予期しないスケジュール上の問題」という言葉は、公式の告知には出てきません。議題は、暗号資産をめぐる規則案1件だけ。8月17日朝時点で、代替日はまだ示されていません。


米証券取引委員会(SEC)は2026年8月13日、翌14日午前10時(米東部時間)に予定していた公開会合の中止を告知した。議題は1件で、暗号資産が関わる一定の投資契約を対象とする専用の募集・売出し制度を創設する規則案を発出するか否かだった。議題名は「Regulation Crypto Assets」、提示は企業金融部。サンシャイン法に基づく中止告知は会合が中止された事実のみを記し、理由を記載していない。広報担当者は報道機関に対し、予期しないスケジュール上の問題により後日へ移すと述べた。代替日は示されていない。規則案は連邦規制情報サイト上でRIN 3235-AN38として提案規則段階に残る。上院ではCLARITY Actのクローチャー動議が9月15日に成熟する。

From:Sunshine Act Notice(Cancellation)

【編集部解説】

理由の書かれていない告知

SECが8月13日に出した中止告知は、サンシャイン法に基づく正式な文書です。そこには「会合の変更内容」を記す欄があり、書かれているのは一文だけでした。8月14日午前10時の公開会合は中止された、と。理由の記載はありません。署名は事務局長のバネッサ・カントリーマン氏。あわせて、前回の会合告知が連邦官報のどこに載ったかが示されています。

多くの報道が中止理由として伝えている「予期しないスケジュール上の問題」という言葉は、この文書には出てきません。広報担当者が報道機関に示した説明です。SECは同時に、暗号資産分野に確実性をもたらす取り組みは続けるとのコメントも出しています。

公式記録には理由がなく、報道向けコメントにだけ理由がある。この非対称は、事案を読むうえでの出発点になります。

会合の告知そのものも急でした。SECが8月14日の開催を公表したのは8月10日。サンシャイン法が原則として求める「少なくとも1週間前」より短い日程です。

何が止まったのか

議題は1件だけでした。企業金融部が提示し、担当職員6名の氏名まで公開されていました。委員会が決めるはずだったのは、暗号資産が関わる一定の投資契約について、専用の募集・売出し制度を創設する規則案を出すかどうか。可決しても最終規則にはならず、意見公募の手続きが始まるだけです。

アトキンス委員長が3月17日の講演で示した構想は、3つの経路からなります。立ち上げ期の免除、より大型の資金調達免除、そして投資契約セーフハーバー。語られた500万ドルや7500万ドルという金額は、講演の中で「たとえば」と添えて挙げられた数字であり、規則案本文の閾値が公表されたわけではありません。

3つのうち、Crypto Verseの視点から最も重い意味を持つのは3番目です。アトキンス氏の説明では、発行体が投資契約のもとで行うと表明・約束した本質的な管理上の努力を、すべて完了するか恒久的に停止したときに適用され得るセーフハーバーとされています。暗号資産がいつ連邦証券法の対象でなくなるのか、ルールに基づく基準を示すことが狙いです。分散化という設計上の選択に、法的な帰結を与えようとする条文だと言えます。

「すべて」と「本質的な」という限定が効いています。手を離したように見えることと、約束した管理をすべて終えたことは、同じではありません。この線引きを規則の言葉でどう書くのかは、規則案本文でしか確かめられない部分です。

なお、この構想の源流はピアース委員が2020年2月に示したToken Safe Harborにあり、アトキンス氏は講演でその功績に触れています。

なお、この規制案件がホワイトハウスの行政管理予算局へ届いたのは3月20日でした。アトキンス氏が構想を語った講演の3日後です。少なくともその時点で、提案規則段階のドラフトが審査に入っていたことになります。ただし審査中の文書は非公開で、中身がどこまで固まっていたのかは分かりません。

日付が決まっていないのはSECだけ

中止によって空白になったのはSECの日程だけで、周囲の予定は動いています。

CFTCは8月20日にイノベーション諮問委員会の初会合を開きます。そのCFTCの告知が出たのも、8月10日でした。SECが8月14日の会合を公表したのと同じ日です。同じ日に告知された2つの会合のうち、一方だけが消えたことになります。

上院は9月8日と10日にプロフォーマ会期を置いたあと、9月14日午後3時に通常の議事を再開し、CLARITY Actのクローチャー動議は翌15日午後2時15分に成熟します。ただし9月15日の手続きは、法案そのものの可否を決めるものではありません。成熟するのは、法案の審議に進むための動議へのクローチャーです。それが可決されても、それだけで審議入りが決まるわけではなく、次に動議そのものが採決されます。復帰初日の9月14日に予定されている記名投票も1件のみで、連邦地裁判事の指名をめぐるクローチャー採決です。

そして委員会の側にも動きがあります。8月17日時点のSEC委員はアトキンス氏、ピアース氏、ウエダ氏の3名です。定数は5名で、現在は2席が空いています。ピアース氏の通常任期は2025年に満了しており、いまは任期満了後の継続在任期間にあたります。同氏は11月にRegent Universityへ着任する予定で、SECを離れる時期が近いことを公にしています。ただしSECからの正式な退任日は示されていません。

規則案そのものは生きています。連邦規制情報サイトでは、SECの「Crypto Assets」(RIN 3235-AN38)が提案規則段階として登録されたままです。取り下げられていない以上、これは延期であって撤回ではない、と読むのが素直でしょう。

「議会を待っている」という読み

中止の背景については、一つ有力な見立てが出ています。American Bankerによれば、TD Cowenのジャレット・セイバーグ氏は、延期が10月まで及ぶ可能性を挙げ、SECがこの規則案をCLARITY Act不成立の理由として使われることを避けたいのではないか、と指摘しました。

この読みは、アトキンス氏自身が3月に語っていた立場と整合します。同じ講演で同氏は、この分野の規制を将来にわたって強固にできるのは議会だけだと述べ、Regulation Crypto AssetsをCLARITY Actから多くを引く枠組みと位置づけ、規則制定はいずれ成立する市場構造法制を実施するうえでの助走になる、と語っていました。

つまり構想の最初から、規則は立法の代役ではなく、その前座として設計されていた。「立法が止まったから行政が動いた」という8月11日時点の見立てのほうが、むしろ性急だったのかもしれません。

ただし中止との因果は、セイバーグ氏の観測です。SEC側は肯定も否定もしていません。9月15日を過ぎても再設定日が出ないかどうかで、読者自身が答え合わせできる論点として置いておきたいところです。

説明されないことについて

公開会合は、委員が公の場で議論し、その内容が記録に残る仕組みです。一方で中止は、事務局長の告知一枚で完結します。今回、代替日の告知はなく、委員長の声明もありません。8月17日時点で、SEC公式サイトに掲載された3委員の声明・講演にも、この件への言及は見当たりません。

サンシャイン法は、日時の変更について、実行可能な最も早い時期に公表することを求めています。少なくともこの条項は、中止理由の記載までは求めていません。議題の変更や非公開への切り替えであれば、全構成員の過半数による記録投票と各委員の投票内容の公表が必要ですが、今回はそれに当たりません。

そのうえで、原則より短い日程で設定した会合を前日に取り下げるという一連の動きは、規則の中身とは切り離して、手続きの見通しやすさという点で説明の余地を残しています。

延期が事務的なものであれば、数週間のうちに日付が出るはずです。出ない場合は、その空白自体が一つの情報になります。

日本から見たとき

日本は、逆の方向から同じ問題に取り組んでいます。米国は証券法という既存の枠の内側に、免除とセーフハーバーという例外を彫り込もうとしている。日本は暗号資産を資金決済法から金融商品取引法へ移し、枠そのものを載せ替えようとしています。

その法改正は7月15日に成立し、7月23日に公布されました。ただし主要な規定はまだ施行されていません。施行日は、公布から1年以内で政令が定める日とされています。工程には乗ったが、まだ走り出してはいない段階です。

方向は逆ですが、目的地は近い。「この資産は何であり、誰が監督するのか」を法の言葉で確定させることです。

米国での資金調達を選択肢に入れている発行体にとって、現時点で依拠できるのは3月17日の共同解釈です。共同解釈は資産の分類にとどまらず、非証券の暗号資産がどのように投資契約の対象となり、どのようにその対象でなくなるかまでを扱っています。答えが用意されているのは「終わり方」のほうです。

用意されていないのは、始め方です。Regulation Crypto Assetsが設けようとしていた新しい適用除外と、専用の資金調達・開示の枠組みは、共同解釈では定められていません。どこで手を離せば対象から外れるかの考え方は示されたが、どう発行し何を開示するかの受け皿がまだない。中止で宙に浮いたのは、この受け皿のほうです。

これから

規則案のドラフトは、3月からホワイトハウスの審査に入っています。中身は非公開のままですが、手続きの上では、公開の議論にかける一歩手前まで来ている。止まっているのは、その一歩です。

次に見るべきものは3つあります。SECが再設定日を告知するか。9月15日に上院が動くか。そしてRIN 3235-AN38の状態が「審査中」から変わるか。

このうちどれか一つでも動けば、止まっていた時計は回り始めます。

【用語解説】

サンシャイン法(Government in the Sunshine Act)
合議制の連邦機関に対し、会合を公開し、事前に告知することを求める法律。原則として開催の少なくとも1週間前の公表を求めている。会合の中止も、この法に基づく告知で行われる。

投資契約(Investment Contract)
金銭などを共同事業に投じ、他者の本質的な経営努力によって利益が得られると合理的に期待する取引や仕組み。米最高裁のHowey判決を基礎とし、これらの要件は累積的に判断される。暗号資産それ自体が証券でなくても、投資契約の一部として販売されれば証券法の対象となる。

セーフハーバー(Safe Harbor)
一定の要件を満たす場合に、特定の規制について適用除外や法的保護を受けられると定める仕組み。あらゆる法的責任からの免責を意味するものではない。今回の投資契約セーフハーバーは、アトキンス委員長がSECに検討を求めている構想の段階にあり、まだ施行された制度ではない。

募集・売出し(Offer and Sale)
証券を購入するよう勧誘・提案する段階から、対価を伴って実際に販売・処分する段階までを含む概念。米国では原則として登録が必要で、免除規定に該当する場合のみ登録なしで実施できる。

意見公募(Notice and Comment)
連邦行政手続法に基づく規則制定の手続き。規則案を公示し、一般から意見を募ったうえで、修正を経て最終規則を採択する。今回、SECが決めるはずだったのはこの手続きの開始可否だった。

クローチャー動議(Cloture Motion)
米国上院で討論を終結させ、採決へ進むための動議。可決には、正当に選出され宣誓した議員の5分の3の賛成が必要となる。欠員がなければ60票にあたる。提出から一定時間の経過を経て採決の対象となり、この経過を「成熟(ripen)」と呼ぶ。

プロフォーマ会期(Pro Forma Session)
上院や下院が形式上開く短時間の会期。通常、実質的な議事は行われない。

RIN(Regulation Identifier Number)
米政府のUnified Agendaで各規制案件を識別・追跡するための番号。同じ案件では、規則制定手続きの各段階を通じて同一のRINが使われる。

非証券の暗号資産(Non-security Crypto Asset)
暗号資産それ自体は証券に当たらないもの。ただし、投資契約の対象として募集・販売される場合、その取引や仕組みが連邦証券法の対象となることがある。

【参考リンク】

SEC「Open Meeting(2026年8月14日)」(外部)
中止された公開会合のページ。議題、サンシャイン法告知、中止告知の3点にたどれる。表示はCancelledのままで、更新日は8月13日。

SEC「Sunshine Act Notice(Cancellation)」(外部)
8月14日の公開会合が中止されたと伝えるサンシャイン法告知。事務局長名で発出され、記されているのは中止の事実のみという一次資料。

SEC「Regulation Crypto Assets: A Token Safe Harbor」(外部)
アトキンス委員長の3月17日の講演。3つの経路と、投資契約セーフハーバーが適用され得る条件が、本人の言葉で説明されている。

SEC「SEC Clarifies the Application of Federal Securities Laws to Crypto Assets」(外部)
SECとCFTCによる共同解釈の発表。資産の分類に加え、非証券の暗号資産が投資契約の対象となる場合と、その対象でなくなる場合を扱う。

上院「Schedule for Pro Forma Sessions and Monday September 14, 2026」(外部)
上院の休会中の日程。プロフォーマ会期11回分と、CLARITY Actのクローチャー動議が9月15日午後2時15分に成熟する旨を記載。

Reginfo.gov「Pending EO 12866 Regulatory Review(RIN 3235-AN38)」(外部)
規則案の審査状況を示す一次資料。SECのCrypto Assetsが提案規則段階にあり、3月20日に受領されたことを確認できる。

CFTC「Chairman Selig Announces Inaugural CFTC Innovation Advisory Committee Meeting on August 20 in Washington」(外部)
セリグ委員長による初会合の告知。8月20日午後1時にワシントンで開催され、ライブ配信されると記載している。8月10日付。

【参考記事】

SEC cancels long-awaited proposal of Reg Crypto, postponing meeting without new date(外部)
中止を最初期に伝えた記事。木曜の終業間際に声明が出たという経緯と、代替日がいまだに示されていないという点を押さえている。

SEC delays crypto initiatives amid CLARITY Act wait(外部)
TD Cowenのジャレット・セイバーグ氏の見立てを引用。延期が10月まで及ぶ可能性と、立法との関係についての読みを伝える。

SEC Delays Crypto Regulation Meeting in Latest Industry Setback(外部)
広報担当者の説明を引用しつつ、上院がCLARITY Actを処理できないまま休会入りした流れのなかに中止を位置づけている。

SEC delays Regulation Crypto meeting with no new date(外部)
Reginfo.govの登録状況を根拠に、規則案の撤回ではなく延期であると整理した記事。OIRAの受領日についても触れている。

SEC abruptly pulls Friday crypto rules meeting, cites scheduling issue(外部)
ロイターの配信時刻を明記したうえで、告知から開催までの期間が短ければ日程上の衝突は起こり得るという見方も併記している記事。

【編集部後記】

事務局長の署名が入った一枚の告知に、書かれていたのは会合が中止されたという一文だけでした。かわりに理由らしきものが載ったのは、報道機関へ配られたコメントのほうです。

公開会合という制度は、議論を記録に残すために設計されています。その会合が開かれなくなった経緯だけが、記録の外側に置かれた。この順序は、少し不思議な感じがします。

次に日付が告知されるとき、そこに説明が添えられるかどうか。そこを見ています。

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By山本 達也

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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