Last Updated on 2026年6月24日 by Co-Founder/ Researcher
Morgan Stanley は2026年6月18日、提案中の Morgan Stanley Ethereum Trust と Morgan Stanley Solana Trust について、ステーキングを組み込む修正S-1登録届出書(S-1/A)を提出した。
新たな仕組みでは、ステーキング報酬の5%をステーキングサービスプロバイダーとカストディアンへ支払い、残りをトラストに帰属させてNAVに反映する。年率0.14%のスポンサー報酬を課し、スポンサーは管理報酬を超えてステーキング報酬を受け取らない。
イーサリアムの提出書類によると、2026年5月18日時点でバリデーターの有効化待ち行列は約364万ETHにのぼり、1エポックあたり最大256 ETH(1日あたり約57,600 ETH)の有効化上限から、報酬獲得まで約63日の待機が見込まれる。ソラナの修正書類は同様の報酬分配を記すが、1日あたりの流入上限は明記していない。
Morgan Stanley は今年、現物ビットコイン連動の上場取引型商品(MSBT)を展開し、Galaxy Digital とも提携している。
From: Morgan Stanley adds staking incentive to Ethereum, Solana ETFs
【編集部解説】
今回の修正届出書で最も注目すべきは、Morgan Stanley が打ち出した年率0.14%という手数料水準です。The Block の報道によれば、この0.14%は米国のイーサリアムETF・ソラナETFの両市場において、通常手数料ベースで最安水準とされます。SoSoValue のデータに基づく同社の集計では、これまでの通常手数料の最安はイーサリアムが Grayscale の Mini Ethereum Trust(0.15%)、ソラナが Franklin Templeton の SOEZ(0.19%)でした。ただし一部の商品には期間限定の手数料免除があるため、実効コストは時期や資産残高によって異なります。後発だからこそ手数料で優位を取りにいく、という王道の戦略がここに見て取れます(ティッカーはイーサリアムがMSSE、ソラナがMSOLとされます)。
「ステーキング報酬の5%を事業者報酬とし、残りをトラストに帰属させる」という設計も、読み解くと投資家にとっての意味が見えてきます。ステーキングとは、保有する暗号資産をネットワークに預けて取引の承認に協力し、その対価として報酬を得る仕組みです。従来の現物ETFは値上がり益しか取れませんでしたが、ステーキングを組み込むことで「保有しているだけで利回りが乗る」状態に近づきます。報酬のうち5%は、実際にバリデーター(承認作業を担う計算機)を運用する事業者やカストディアン(資産の保管業者)へ支払われ、残りはトラストに帰属します。なお報酬はNAVに反映され、月次または少なくとも四半期で投資家へ分配される見込みですが、利回りは保証されず、ゼロになる可能性もあります。
ここで効いてくるのが、運用の外部委託という構造です。The Block や CoinCentral の報道、およびSEC提出書類では、ステーキングの実務は Figment、Galaxy Blockchain Infrastructure、Coinbase Canada といった専門業者が担い、資産の保管は BNY Mellon と Coinbase Custody が務めるとされています。銀行本体ではなくカストディアンが秘密鍵を管理し、ステーキング事業者は資産移転用の鍵を持たない設計です。伝統的金融が暗号資産の技術的リスクをどう「分業」で吸収しているかが、よく表れた構造といえます。
一方で、見過ごせないリスクも開示されています。ひとつはスラッシング、つまりバリデーターがルール違反や稼働不良を起こした際に預けた資産の一部が没収される罰則です。利回りには必ず代償が伴う、という当たり前の原則がここにもあります。
もうひとつが、イーサリアム特有の「約63日の順番待ち」です。届出書では2026年5月18日時点で約364万ETHが有効化の待ち行列に並び、1エポックあたり最大256 ETH、1日あたり約57,600 ETHしか新規参入できないと記されています。つまりファンドが資金を集めても、すぐ全額を稼働させて利回りを生めるわけではありません。ソラナ側の修正書類にこの種の日次上限が明記されていないのは、両チェーンの設計思想の違いを映しています。
規制の文脈を補えば、この動きは決して突発的なものではありません。SEC は2026年3月17日に、非証券とされる暗号資産のプロトコル・ステーキングなどへの連邦証券法の適用を明確化する解釈を公表しました。これにより、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)型資産のステーキングETFを組成する道筋が大きく開けました。すでに BlackRock の ETHB や Bitwise の BSOL といった先行商品が走っており、Morgan Stanley はその潮流に低コストで合流しようとしている、と位置づけられます。
長期の視点で見ると、本件の本質は「利回りを生む暗号資産」が、証券口座のなかの普通の金融商品として並び始めたことにあります。ウォレットも秘密鍵も意識せず、銀行や証券会社の画面から利回り付きのデジタル資産に触れられる——その地ならしが、いま静かに進んでいるのです。
ただし、これらはあくまで SEC の審査中であり、上場日も確定していません。手数料競争の激化が運用各社の体力を削る可能性や、利回りを求める資金がネットワークの待ち行列をさらに長くするといった副作用も、今後注視すべき論点として残されます。
【用語解説】
ステーキング
保有する暗号資産をブロックチェーンのネットワークに預け入れ、取引の承認作業に協力する仕組みである。その対価として報酬(利回り)を受け取れる。PoS型のチェーンで採用されている。
エポック
イーサリアムにおける時間の単位である。一定数のスロットをまとめた区切りで、バリデーターの有効化はこの単位で処理される。届出書では1エポックあたり最大256 ETH(約8バリデーター相当)が新規に有効化できる上限とされ、これが1日あたり約57,600 ETHに相当する。
S-1登録届出書
米国で証券を公募する際に SEC へ提出する登録書類である。事業内容やリスク、手数料などを開示する。修正版は「S-1/A」と呼ばれる。
PoS(プルーフ・オブ・ステーク)
資産を預けた量などに応じて承認権限を割り当てる、ブロックチェーンの合意形成方式である。
【参考リンク】
Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)(外部)
米国の大手投資銀行・資産運用会社。本件のステーキング型ETFを提出した主体である。
SEC EDGAR|Morgan Stanley Ethereum Trust S-1/A(外部)
有効化上限256 ETH/エポック、57,600 ETH/日、約63日待機などを記す一次情報である。
SEC EDGAR|Morgan Stanley Solana Trust S-1/A(外部)
SOLのステーキング手順や報酬配分、最大100%ステークの設計を記す一次情報である。
Galaxy Digital(外部)
暗号資産の運用・トレーディング・インフラ事業を手がける企業。本件で提携先や基盤として登場する。
Figment(外部)
機関投資家向けにステーキングインフラを提供する企業。本件のサービスプロバイダーの一社である。
BNY Mellon(外部)
米国の老舗カストディ銀行。本件で資産の保管や現金カストディ、事務管理を務める。
SoSoValue(外部)
暗号資産ETFの資金流入や手数料を集計するデータ基盤。本件の手数料比較の根拠を提供する。
Ethereum 公式(ステーキング解説)(外部)
イーサリアムのステーキングの仕組みを公式に解説するページ。待ち行列の理解に役立つ。
Solana 公式(ステーキング解説)(外部)
ソラナのステーキングと委任の仕組みを公式に解説するページである。
【参考記事】
Morgan Stanley files amendments for ETH and SOL ETFs, revealing lowest fees in market(The Block)(外部)
両ETFの手数料0.14%が両市場で最安水準と報道。Figment等の業者やMSSE/MSOLのティッカーにも触れている。
Morgan Stanley Reveals 0.14% Fees for Proposed Ethereum and Solana ETFs(CoinCentral)(外部)
手数料は日次計上・現金払いで、95%が投資家・5%が業者へ配分される構造を解説している。
Breaking: Morgan Stanley Reveals Fee Details For Ethereum, Solana ETFs In New Filing(Coingape)(外部)
1日約57,600 ETHの制限から約63日の待機が見込まれ、ソラナに日次上限がない点を指摘している。
SEC Crypto Ruling Impact: ETFs, Staking, and Institutional Access in 2026(Phemex)(外部)
2026年3月17日にステーキング利回りの証券法上の扱いが整理された経緯を解説している。
Solana ETF Approval: Where Things Stand in 2026(usethebitcoin)(外部)
包括的上場基準で承認期間が240日超から約75日へ短縮された経緯と現状を解説している。
【Crypto Verse関連記事】
本記事のMorgan Stanley ステーキングETF・イーサリアム/ソラナETF・報酬95%還元・19b-4申請・S-1/N-1A・SECルール6c-11・Anchorage Digital Bankカストディの構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
Solana・基盤チェーンの基礎を知る
- Solanaとは?高速・低コストのブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事のMorgan Stanleyが申請したSOL ETFの基盤チェーンSolanaの全体像。ステーキング報酬の源泉であるPoS型ブロックチェーンの技術特性を理解する出発点として参考になります。
ETF・機関投資家フローの動向
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- ビットコイン6万2000ドル割れ、Strategy 32BTC売却が招いた18億ドル清算の連鎖 → 本記事の機関マネー流入シナリオと並走する、暗号資産市場全体の最新動向。
- ビットコイン7万ドル回復なるか、スカラムッチ・ノボグラッツが挙げるCLARITY法案・債務・SpaceX → 本記事のステーキングETF参戦と並ぶ、市場心理が織り込む回復シナリオの動向。
- Strategy、マイケル・セイラーの「ドット」投稿が新たなビットコイン購入観測を再燃させる → 本記事のETF経由の機関フローと並ぶ、企業の直接保有による機関フローの動向。「ETF」「企業財務」両軸での機関化を理解できます。
Solanaへの機関採用拡大
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- Claude Codeに「Solana AI Kit」登場―Solana開発を一括構築 → 本記事の機関投資家側のSolana採用と並走する、開発者エコシステム側の拡充事例。「投資」「開発」両面でSolanaに資源が集まる構造を理解できます。
RWA・トークン化資産の動向
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規制動向・米国の3本柱
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- Coinbase、ステーブルコイン決済の課税撤廃を米議会に要請 ― 暗号資産税制改革の行方 → 本記事のステーキング報酬課税と関連する、米国側の税制改革動向。
- FBI被害113億ドル受け、米議会がクリプト犯罪対策の連邦タスクフォース新設法案を提出 → 本記事のETF経由の機関採用と並走する、米国の被害者保護動向。「機関採用」と「個人保護」が同時並行で進む構造を理解できます。
通貨インフラ・国家戦略
- CBETS始動と中国人民銀行のステーブルコイン警戒—デジタル人民元 vs ドルの「通貨OS」争いが本格化 → 本記事のドル建てステーキングETFと対極にある、国家主導型決済網の動向。「民間」「国家」両軸での通貨インフラ整備を理解できます。
決済・ステーブルコイン・AI
- Visa×OpenAIが拓くAIエージェント決済|Visaのステーブルコイン決済は年換算70億ドル規模に → 本記事のステーキングETFと並ぶ、TradFi×暗号資産統合のもう一つの大潮流。「投資」「決済」両軸での統合の全体像を理解できます。
- Ripple、XRPとRLUSDでAIエージェント決済へ参入─USDCが席巻するx402市場に挑む → 本記事のSOL ETFと並ぶ、別のアルトコイン基盤(XRP)の機関採用動向。
- X Money決済とは?イーロン・マスクが描く「総合金融プラットフォーム」の正体 → 本記事のETFと並ぶ、別経路(プラットフォーマー主導)での金融統合動向。
他基盤チェーンとの比較
- XRP Ledger(XRPL)とは?分散型ブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事のETHとSOLと並ぶ、別の主要ブロックチェーンの構造解説。「どのチェーンがETF対象となるか」の比較理解に役立ちます。
- Hyperliquidとは?HYPE基盤のレイヤー1ブロックチェーンとオンチェーンCLOBアーキテクチャの完全解剖 → 本記事のETHとSOLと並ぶ、別のレイヤー1ブロックチェーンの構造解説。
日本市場・実需領域
- SecondFi始動|「鍵は自分のまま」EMURGOが挑む、暗号資産で使う・貯める・稼ぐ時代 → 本記事のETF(カストディアン保管)と対極にある、自己管理型サービスの実装事例。「機関カストディ」と「セルフカストディ」の対比を理解できます。
- HyperLending、日本初HYPE対応の暗号資産レンディング開始 → 本記事のステーキングETFと並ぶ、暗号資産から利回りを得る別の手法の実装事例。
AI×Web3・身分証
- アライドアーキテクツ × Nyx Foundation、AIがDeFiの安全を”検算”する時代へ → 本記事の機関投資家マネー流入の前提となる、オンチェーン領域の安全性検証動向。
- Worldcoin(WLD)とは?AI時代の「本人性証明」と独自のデジタルIDインフラ構造【2026年版】 → 本記事の機関投資家向けインフラと並ぶ、別領域の信頼インフラ動向。
- Worldcoin(WLD)はヘイズなしで価格を保てるか—AI時代の身分証トークンを読む → 本記事のETF審議と並ぶ、新興トークンの市場心理事例。
セキュリティ・運用リスク
- Hola Browserにクリプトマイナー混入、Sophos が発見—サプライチェーン侵害の手口とは → 本記事のステーキング運用が直面する、ソフトウェア層のセキュリティリスク事例。
【編集部後記】
ウォレットも秘密鍵も意識せず、いつもの証券口座から「利回りの乗った暗号資産」に触れられる日が、すぐそこまで来ているのかもしれません。みなさんは、こうした流れをどう受け止めるでしょうか。手軽さに期待が膨らむ一方で、スラッシングや順番待ちといった「裏側の仕組み」を知ると、見える景色も少し変わってくる気がします。もし関心が湧いたら、ステーキングがそもそも何を支えているのか、その根っこを一緒にのぞいてみませんか。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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