Last Updated on 2026年6月30日 by Co-Founder/ Researcher
韓国の金融委員会は、6月25日に Korea Asset Management Corporation(KAMCO)と開いた点検会合の後、自営業者や小規模事業者向けの債務再編プログラム New Start Fund を改定すると表明した。
今後は暗号資産や非上場株式も資産審査の対象とし、財産評価や承認後のモニタリングを強化する。主要5つのウォン建て暗号資産取引所の会員と確認された New Start Fund 申請者は1月から残高証明書の提出を求められており、非上場株式の開示は5月に始まった。
返済能力が100%を超える借り手は、最低元本減額率が60%から30%に変わり、当局は返済能力に応じて債務救済を5〜30パーセントポイント引き下げる。現行ルールでは90日超延滞の無担保債務で60〜80%、低所得・脆弱層は最大90%の減額が認められている。8月13日施行の信用情報法改正で、債務再編機関は財産情報を一括取得できるようになる。
From: South Korea revises debt relief rules to include crypto assets
【編集部解説】
このニュースを読み解く鍵は、「なぜ今なのか」という背景にあります。FSC の発表自体は、改定の理由を「最近、新しい出発基金の目的に合わない支援事例が確認されたため」と述べるにとどめています。ただ、その背景には、2025年12月に韓国の監査院(Board of Audit and Inspection)が公表した監査結果や、それを受けた報道で問題が表面化した流れがあったとみられます。DL News などの報道によれば、本来はコロナ禍で苦しむ自営業者を救うはずの New Start Fund から、269人の暗号資産保有者に総額1500万ドル超の債務減免が渡っていた事実が判明していました。
象徴的なのが、報告書で「B」と匿名化された人物の事例です。Bは6万2350ドル(債務の77%)の減免を受けながら、同時期に約30万7000ドル相当の暗号資産を保有していたとされます。つまり、十分な資産を持つ人が「見えない資産」を盾に公的救済を受け取れてしまう。今回の制度改定は、この抜け穴をふさぐための措置だと理解すると、輪郭がはっきりします。
技術的な要点は、資産を「捕捉する仕組み」が二段構えになったことです。ひとつは、New Start Fund 申請者のうち、主要5取引所の会員と確認された人に課される残高証明書の提出手続。もうひとつが、8月13日施行の信用情報法改正によって、KAMCO などの機関が暗号資産・非上場株式のデータを一括取得できるようになる点です。従来も行政情報の共同利用網などは活用されていましたが、暗号資産や非上場株式に関しては自己申告や限定的な確認に頼らざるを得ませんでした。今後は行政が関係機関から直接データの提供を受け、申告内容を事後検証できる。捕捉の精度が根本から変わります。
影響を受けるのは暗号資産保有者全般ではなく、あくまで公的債務救済を申請する層です。返済能力が100%を超える借り手の最低減免率が60%から30%へと半減し、能力に応じて5〜30ポイントの幅で救済が絞られる。これは「持てる人への減免を薄くし、本当に困窮している人へ手厚く配る」という再分配の精緻化であり、制度の公平性を高める方向の調整だと言えるでしょう。
ポジティブに捉えれば、これはモラルハザードの抑制であり、税金を原資とする公的支援への信頼を守る取り組みです。同時に、暗号資産が、少なくとも公的債務調整の財産審査において「確認対象の資産」として扱われるようになったことを意味します。取引所レベルの規制から、世帯の財務という生活の領域へ。デジタル資産が社会のインフラに組み込まれていく過程の、ひとつの到達点とも読めます。
一方で、見落とせない論点もあります。残高証明書が捕捉できるのは、あくまで国内取引所に預けられた資産です。自己管理ウォレットや海外取引所の保有まで完全に追えるわけではなく、「捕捉できる人」と「できない人」の間に新たな不公平が生まれる懸念は残ります。加えて、当局が個人の金融データへ広範にアクセスできる枠組みは、プライバシーや監視の観点から慎重な運用が求められるはずです。
長期的に見れば、この一手は単発の措置にとどまりません。韓国では、デジタル資産を正規の財産として行政手続きに統合する流れが着実に進んでいます。今月、規制サンドボックスのデジタル資産法への拡大や、12月施行予定の越境仮想資産移転業務の登録・報告枠組みを相次いで打ち出していることも、その文脈の一部です。暗号資産が「見えない資産」だった時代は、静かに終わりを迎えようとしています。
【用語解説】
New Start Fund(新しい出発基金)
韓国政府が運営する債務再調整プログラムである。コロナ禍などで経営難に陥った自営業者・小規模事業者を対象に、延滞した無担保債務の元本を一定割合減免し、再起を支える「金融セーフティネット」の一つだ。運営は KAMCO が担う。
信用情報法(Credit Information Act)
個人の信用・金融情報の収集や利用、保護のあり方を定める韓国の法律である。今回の改正により、政府の債務再編機関が本人の同意なしに暗号資産や非上場株式の保有データを一括取得できるようになる。施行は8月13日。
仮想資産残高証明書(virtual asset balance certificate)
取引所が発行する、利用者の暗号資産保有残高を証明する公式書類である。申請者が国内主要取引所にどれだけの暗号資産を預けているかを行政が客観的に確認する根拠となる。2026年1月から、New Start Fund 申請者のうち主要取引所の会員と確認された人について提出手続きが運用されている。
監査院(Board of Audit and Inspection)
韓国の会計検査・行政監察を担う独立機関である。2025年12月、New Start Fund の運用を監査し、暗号資産を保有しながら債務減免を受けていた事例を指摘した。今回の制度改定の背景の一つになったとみられる。
【参考リンク】
金融委員会(FSC)(外部)
韓国の金融政策と金融監督を統括する政府機関。金融関連法の立案や許認可を担い、今回の改定を主導した。
韓国資産管理公社(KAMCO)(外部)
1962年設立の公的資産管理機関。不良債権処理や家計の信用回復支援を担い、New Start Fund の実務を運営する。
聯合ニュース(Yonhap)(外部)
韓国の代表的な通信社。元記事が一次情報として参照した、金融委員会の発表を報じた現地メディアである。
【参考記事】
「新しい出発基金」財産審査を強化…仮想資産・非上場株式も綿密に確認(韓国政策ブリーフィング)(外部)
FSC・KAMCO の発表を伝える韓国政府の一次情報。改定の趣旨や減免率の差等化を直接確認できる。
How South Korean government paid crypto holders $15m in debt relief(DL News)(外部)
監査により、中小事業者向け基金から269人の暗号資産保有者へ1500万ドル超が渡っていたと報じた記事。
South Korea Now Considers Crypto Holdings In Debt Relief Reviews(Bitcoin World)(外部)
1月開始の残高証明書活用や、主要5取引所との協議の経緯を整理し、元記事を実務面から補う解説。
South Korea Integrates Crypto into Debt Relief Screening(EconoTimes)(外部)
暗号資産を伝統的資産と並べ審査する点に着目し、隠し資産の発見とモラルハザード抑制の意図を解説。
South Korea’s New Start Fund Adds Crypto Assets to Debt Relief Review(CoinCu)(外部)
全面改革ではなく一制度の審査基準の調整と冷静に位置づけ、他の公的制度への前例性を論じた記事。
【Crypto Verse関連記事】
本記事の韓国KAMCO・New Start Fund改定・暗号資産を資産審査対象化・残高証明書・信用情報法改正・監査院指摘269人1500万ドル・デジタル資産の「正規財産」化の構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
アジア圏の暗号資産政策・通貨インフラ
- CBETS始動と中国人民銀行のステーブルコイン警戒—デジタル人民元 vs ドルの「通貨OS」争いが本格化 → 本記事の韓国による暗号資産制度統合と並走する、中国の国家主導型決済網動向。「韓国」「中国」「日本」のアジア3カ国でそれぞれ異なる方向に進む暗号資産政策の対比を理解できます。
- bitFlyer SOL上場の本当の意味─Solanaに集まる日本企業と金融商品取引法改正 → 本記事の韓国の暗号資産公的制度組込と並ぶ、日本の金商法改正動向。日韓両国で進むデジタル資産の制度的位置づけの比較理解に役立ちます。
- SBI、ビットバンクを467億円で完全子会社化─暗号資産の預かり資産で国内首位へ → 本記事の韓国主要5取引所連携と並ぶ、日本の取引所統合動向。「制度統合」「業界統合」の両軸でアジア圏の暗号資産インフラ整備を理解できます。
- JPYSC始動―SBI・Startaleが国内初の信託型円ステーブルコインを発行 → 本記事の韓国の暗号資産制度組込と並ぶ、日本のステーブルコイン制度整備動向。
- SBI VCトレード×リップル―「RLUSD」が国内初の「4号電子決済手段」として取扱い開始 → 本記事の韓国規制整備と並ぶ、日本でのドル建てステーブルコイン制度的受け入れ動向。
米国規制動向との対比
- CLARITY Act、Coinbase・Rippleら200社超が上院に採決要求─成立確率60%に低下 → 本記事の韓国による暗号資産制度組込と並走する、米国における規制整備動向。
- FBI被害113億ドル受け、米議会がクリプト犯罪対策の連邦タスクフォース新設法案を提出 → 本記事のモラルハザード抑制・公的支援の信頼確保と並ぶ、米国側の被害者保護動向。
- Coinbase、ステーブルコイン決済の課税撤廃を米議会に要請 ― 暗号資産税制改革の行方 → 本記事の暗号資産の財産的取扱いと並走する、米国側の税制論議動向。
- ステーブルコインとトークン化で家計は軽くなる?米上院公聴会、賛否とCLARITY Actの行方 → 本記事の韓国制度改定と並ぶ、米国での暗号資産制度議論動向。
日本市場・実需領域
- SecondFi始動|「鍵は自分のまま」EMURGOが挑む、暗号資産で使う・貯める・稼ぐ時代 → 本記事の「残高証明書で捕捉できない自己管理ウォレット」の論点と関連する、セルフカストディサービスの動向。
- HyperLending、日本初HYPE対応の暗号資産レンディング開始 → 本記事の韓国制度動向と並ぶ、日本市場での暗号資産関連サービス動向。
- メタプラネット、Siiibo証券を21億円で買収—ビットコイン連動金融商品「Project Nova」始動 → 本記事の韓国における暗号資産の正規財産化と並ぶ、日本企業による暗号資産の金融商品化動向。
- enishがビットコイン全売却、Solana中心の「DAT 2.0」へ転換|運用型トレジャリーの狙い → 本記事の暗号資産が「正規財産」として扱われる流れと並ぶ、企業財務の文脈での暗号資産扱い動向。
Ripple/XRP/RLUSD関連の動向
- Ripple、XRPとRLUSDでAIエージェント決済へ参入─USDCが席巻するx402市場に挑む → 本記事の韓国制度整備と並ぶ、グローバルなステーブルコイン展開動向。
- Ripple、XRPL「AI Starter Kit」でAIエージェント決済へ──x402対応とGenAI人材募集の狙い → 本記事の規制整備と並ぶ、XRPL上でのRLUSD用途拡張動向。
- RLUSDに利回り活用の道─SOILとXRPL Lending Protocolが拓くXRPLネイティブ融資 → 本記事の韓国KAMCOによる暗号資産活用と並走する、XRPL上でのレンディング動向。
RWA・トークン化資産
- XRP Ledger vs Ethereum、RWA資本移動説の真相─未検証の15億ドルをどう読むか → 本記事の「暗号資産の正規財産化」と並ぶ、RWA市場での資本移動動向。
- Moody’s×Solana×AlphaLedger:信用格付けがトークンに直接埋め込まれる時代へ。TIEがメインネット稼働 → 本記事の信用情報法改正による暗号資産情報統合と並走する、信用格付けインフラのオンチェーン化動向。
- SpaceX・Solanaが変える株式投資|3つのトークン化商品、その仕組みとリスク → 本記事の非上場株式が資産審査対象化される論点と関連する、株式トークン化の実装事例。
機関化・ETF・市場動向
- Morgan Stanley、ステーキングETF参戦|イーサリアム・ソラナで報酬95%を投資家へ → 本記事の暗号資産の正規金融商品化と並ぶ、米国機関投資家のオンチェーン参入動向。
- ビットコイン6万2000ドル割れ、Strategy 32BTC売却が招いた18億ドル清算の連鎖 → 本記事の韓国制度動向と並走する、暗号資産市場全体の動向。
- ビットコインETF、過去最長13日の純流出。約43億ドルが抜けた背景とETFが「限界的な買い手」になった構造変化 → 本記事の機関投資家動向と並ぶ、ETF経由フローの動向。
- ビットコイン7万ドル回復なるか、スカラムッチ・ノボグラッツが挙げるCLARITY法案・債務・SpaceX → 本記事の規制整備と並走する、市場心理が織り込む期待動向。
- Strategy、マイケル・セイラーの「ドット」投稿が新たなビットコイン購入観測を再燃させる → 本記事の暗号資産の正規財産化と並ぶ、企業による暗号資産保有動向。
基盤チェーン解説
- XRP Ledger(XRPL)とは?分散型ブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事の暗号資産制度組込で扱われる、主要ブロックチェーンの構造解説。
- Solanaとは?高速・低コストのブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事の韓国制度の対象となる暗号資産の、別の主要ブロックチェーンの構造解説。
- Hyperliquidとは?HYPE基盤のレイヤー1ブロックチェーンとオンチェーンCLOBアーキテクチャの完全解剖 → 本記事の暗号資産制度組込と並ぶ、レイヤー1ブロックチェーンの構造解説。
ステーブルコイン・決済・AI
- Visa×OpenAIが拓くAIエージェント決済|Visaのステーブルコイン決済は年換算70億ドル規模に → 本記事の韓国制度整備と並ぶ、TradFi×暗号資産統合の最新事例。
- X Money決済とは?イーロン・マスクが描く「総合金融プラットフォーム」の正体 → 本記事の韓国制度動向と並ぶ、別経路(プラットフォーマー主導)での金融構想。
AI×Web3・身分証
- アライドアーキテクツ × Nyx Foundation、AIがDeFiの安全を”検算”する時代へ → 本記事の信用情報法改正による行政データ連携と並ぶ、AI×Web3領域でのデータ検証動向。
- Claude Codeに「Solana AI Kit」登場―Solana開発を一括構築 → 本記事の韓国規制整備と並ぶ、AI×Web3開発エコシステムの動向。
- Worldcoin(WLD)とは?AI時代の「本人性証明」と独自のデジタルIDインフラ構造【2026年版】 → 本記事の信用情報法改正による個人金融データ把握と関連する、本人性証明インフラの動向。「行政把握」「プロトコル証明」の対比を理解できます。
- Worldcoin(WLD)はヘイズなしで価格を保てるか—AI時代の身分証トークンを読む → 本記事の市場心理と並ぶ、新興トークンの市場動向事例。
セキュリティ・運用リスク
- Hola Browser にクリプトマイナー混入、Sophos が発見—サプライチェーン侵害の手口とは → 本記事の暗号資産の制度統合議論と並ぶ、エンドユーザー側で残るセキュリティリスク事例。
【編集部後記】
「暗号資産は自由でつかみどころのない資産」——そんなイメージは、少しずつ過去のものになりつつあるのかもしれません。今回の韓国の動きは、デジタル資産が公的制度のなかで「正規の財産」として扱われ始めた一例です。みなさんなら、この変化をどう受け止めるでしょうか。
透明性が高まる安心と、行政が個人の資産を把握する怖さ。その両方が同居しているように私たちには見えました。もし日本で同じ議論が始まったら、と想像してみると、少し違う景色が見えてくるかもしれません。
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