Last Updated on 2026年7月3日 by Co-Founder/ Researcher
2026年7月1日、Chainlink は、Robinhood の Ethereum ベースのレイヤー2ブロックチェーン Robinhood Chain が、公式のデータおよびクロスチェーン・オラクル基盤として Chainlink を採用したと発表した。
Robinhood Chain はメインネットで稼働を開始し、Chainlink の Cross-Chain Interoperability Protocol(CCIP)、Data Streams、Data Feeds が初日から稼働する。これらは NVDA、GOOG、AAPL などを含む Robinhood Stock Tokens をはじめ、Robinhood が発行するすべてのアセットを支える。
Robinhood Chain は Arbitrum の Orbit テクノロジー上に構築される。Chainlink は DeFi の70%超を担保し、これまでに31兆ドルを超える取引額を可能にしてきたとされている。発表では Chainlink Labs のトドリス・カラコスタスと Robinhood Crypto のガエタン・タボがコメントを寄せている。
【編集部解説】
今回のリリースは Chainlink 発の「オラクル採用」の告知ですが、その背景には見逃せない大きな動きがあります。Robinhood は2026年7月1日、ロンドンでの基調講演「Robinhood Presents: The World is Flat」で、Robinhood Chain のパブリック・メインネットを本番稼働させました。この講演はロンドンの旧王立海軍学校からライブ配信され、CEO のヴラド・テネフと暗号資産・国際部門を統括するヨハン・ケルブラが登壇しました。つまり本件は、単独の技術提携ではなく、Robinhood のブロックチェーン戦略の総仕上げの一部なのです。
まず「オラクル」という言葉に戸惑う読者のために補足します。ブロックチェーン上のプログラム(スマートコントラクト)は、それ自体では外部の情報を知りません。株価や市場データといった現実世界の情報とスマートコントラクトを橋渡しするのがオラクルであり、これは必須のインフラです。株価連動型のトークンを扱う Robinhood Chain にとって、正確でリアルタイムな価格データの供給は生命線にあたります。
Chainlink が担うのはこの中核部分です。CCIP(チェーン間をまたぐ相互運用プロトコル)、Data Streams、Data Feeds の3つが初日から動くことで、複数のブロックチェーンをまたいだ資産の移動と、信頼できる価格参照が可能になります。
ここで数字の扱いに注意が必要です。リリースにある「DeFi の70%超を担保し、31兆ドル超の取引額を可能にしてきた」という数値は、Chainlink 側が自社インフラの実績として主張しているものです。独立した第三者の検証(たとえば Messari は2025年10月時点で約69.9%・26兆ドル超と分析)とは時点や集計方法が異なり、完全には一致しません。発信元の自己申告である点は、読者に正確に伝えておくべきでしょう。
では、この仕組みで具体的に何ができるようになるのか。対象となる Stock Tokens は120か国超で Robinhood Wallet に順次展開されます。対象ユーザーは新しい Stock Tokens を24時間取引でき(従来の Classic Stock Tokens は平日24時間の提供でした)、担保として使ったり、DeFi の貸付プールに預けたりできます。従来の株式市場の営業時間や国境の制約から解き放たれる、という点が最大の魅力です。
一方で、リリースの「数百万人にアクセスを開放」という表現は、鵜呑みにせず輪郭を確かめる必要があります。これは実際の利用者数ではなく、数千万人規模の Robinhood ユーザーに向けた潜在的なアクセス拡大をうたう広報表現に近いものです。加えて、Stock Tokens は米国居住者には提供されず、カナダ、英国、スイス、UAE などでも制限されています。「誰もが使える」わけではないのです。
さらに重要な論点があります。この Stock Tokens は、原資産である株式の価格に連動する一方、株式そのものへの法的権利や受益的権利を利用者に与えるものではないと説明されています。価格は追えても株主にはなれない、という設計です。
この構造は昨年、実際に摩擦を生みました。Robinhood が OpenAI や SpaceX といった未公開企業に連動するトークン(株式そのものではなく間接的なエクスポージャーをうたうもの)を配布した際、OpenAI は X 上で「これらは OpenAI の株式ではなく、当社は関与も承認もしていない」と公に否認しました。技術的な革新性と、法的な裏付けの間にあるギャップが露呈した出来事でした。
規制の観点でも本件は象徴的です。トークン化の裾野が広がるほど、各国当局は「投資家保護」と「新技術の受容」の間でバランスを迫られます。Robinhood が米国を外し、対象法域を限定しながら国際展開を進めている事実自体が、規制の温度差を映す鏡だと言えます。
長期的な視点で捉え直すと、本件の本質は「Robinhood が Chainlink を選んだ」ことよりも、数千万人規模の顧客基盤を持つ大手リテール金融アプリが、ユーザーに意識させないかたちでブロックチェーンを裏側に組み込み始めた、という点にあります。ブロックチェーンが「投機の対象」から「意識されない土台」へと変わっていく兆しだと言えます。金融の民主化という理念と、所有権や規制という現実を、私たちがどう両立させていくのか――今まさに、その長い移行期の入り口に立っているのかもしれません。
【用語解説】
スマートコントラクト
あらかじめ定めた条件が満たされると自動で実行される、ブロックチェーン上のプログラムを指す。契約や取引の処理を人手を介さず自動化できる。
レイヤー2(Layer 2)
Ethereum などの基盤チェーン(レイヤー1)の外側で取引を処理し、処理速度と手数料を改善する技術の総称である。Robinhood Chain はこのレイヤー2にあたる。
CCIP(Cross-Chain Interoperability Protocol)
Chainlink が提供する、異なるブロックチェーン間をまたいでデータや資産を安全にやり取りするためのプロトコルである。
Data Streams / Data Feeds
いずれも Chainlink の価格・市場データ供給サービスを指す。Data Feeds は定期更新型、Data Streams は低遅延で高頻度のデータ配信に適した仕組みとされる。
Stock Tokens(株式トークン)
現実の株式の価格に連動するトークン。Robinhood のものは、株式そのものの所有権を与えるのではなく、価格に連動する形で提供される点に特徴がある。
【参考リンク】
Chainlink(公式サイト)(外部)
分散型オラクルネットワークを提供する Chainlink の公式サイト。データ供給や相互運用の各製品情報を掲載している。
Robinhood Chain(公式ページ)(外部)
金融サービスと現実資産のために構築されたレイヤー2ブロックチェーンの公式紹介ページ。概要を確認できる。
Robinhood(公式サイト)(外部)
米国発の金融サービスアプリ Robinhood の公式サイト。株式・暗号資産の取引や各種金融プロダクトを提供している。
Arbitrum(公式サイト)(外部)
Robinhood Chain の基盤技術「Orbit」を含む、Ethereum レイヤー2ソリューションを開発する Arbitrum の公式サイト。
【参考動画】
【参考記事】
Robinhood Launches Robinhood Chain Mainnet(The Defiant)(外部)
7月1日のメインネット稼働と新製品を報道。提携先や120か国超の展開、24時間取引などを伝えている。
Robinhood Accelerates Global Expansion(Robinhood公式)(外部)
Robinhood 自身による一次情報。約2,800万人・38か国の顧客規模や各国での規制上の注意事項を記載している。
Robinhood Tokenized Stocks: What’s Live(Eco Support)(外部)
株式トークンの構造を整理。資産規模が2025年下半期に約10億ドル、同期間で128%成長したと伝える。
Robinhood CEO downplays OpenAI concerns(CNBC)(外部)
CEO テネフの見解と、OpenAI の否認、EU 当局が構造の説明を求めた経緯を報じている。
Robinhood selects Chainlink for testnet(Cryptopolitan)(外部)
2026年2月のテストネット段階での Chainlink 採用を報道。今回の発表の前段を確認できる。
OpenAI says it has not partnered with Robinhood(Reuters)(外部)
OpenAI が Robinhood との提携・関与・承認を否定したと報道。未公開企業連動トークンの論点を伝える。
【Crypto Verse関連記事】
本記事のRobinhood Chain メインネット始動・Chainlink公式オラクル採用・Arbitrum Orbit基盤・NVDA/GOOG/AAPL株式トークン・24時間取引・120か国展開・OpenAI/SpaceX一件の教訓の構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
株式トークン化・トークン化資産の動向
- SpaceX・Solanaが変える株式投資|3つのトークン化商品、その仕組みとリスク → 本記事のRobinhood株式トークンと並ぶ、別チェーン(Solana)での株式トークン化実装事例。「原資産裏付け型」「価格連動型」の設計思想の対比を理解できます。
- メタプラネット、Siiibo証券を21億円で買収—ビットコイン連動金融商品「Project Nova」始動 → 本記事の株式トークン化と並ぶ、日本企業による金融商品のオンチェーン化動向。
- Moody’s×Solana×AlphaLedger:信用格付けがトークンに直接埋め込まれる時代へ。TIEがメインネット稼働 → 本記事の株式トークン化と並ぶ、信用格付けインフラのオンチェーン化動向。「株式」「信用情報」両軸でのトークン化を理解できます。
- XRP Ledger vs Ethereum、RWA資本移動説の真相─未検証の15億ドルをどう読むか → 本記事の「自己申告数値の扱い」議論と共通する、RWA資本フロー検証のFACTアプローチ。
- Tether Gold(XAU₮)がLedn上陸、230億ドルの金が暗号資産担保ローンに → 本記事の株式トークンと並ぶ、実物資産(金)トークン化の実装事例。
L2・機関金融インフラの動向
- 日鉄ソリューションズとN.Avenue、円建て暗号資産インデックス報告書を公表 → 本記事の株式トークン基盤整備と並ぶ、日本市場でのインデックス整備動向。「機関金融向けものさし」「機関金融向けインフラ」両軸を理解できます。
- Polygon、ステーブルコイン送金で全チェーン首位に—取引件数でSolana・BNB Chainを抜いた「決済レイヤー」戦略 → 本記事のRobinhood Chainと並ぶ、別のL2/決済レイヤー戦略動向。「株式トークン」「決済レイヤー」でL2競争が激化する構造を理解できます。
- Claude Codeに「Solana AI Kit」登場―Solana開発を一括構築 → 本記事のChainlink採用と並ぶ、別チェーンでの開発者エコシステム動向。
機関投資家・企業のオンチェーン戦略
- Ethereum下落でも買い続ける機関投資家─ロバート・キヨサキ「9万5000ドル」予測再燃の裏側 → 本記事のEthereumベースRobinhood Chain始動と並ぶ、Ethereumエコシステムへの機関マネー流入動向。
- Strategy「mNAV」1割れ、セイラー氏が新規ビットコイン購入を示唆—逆回転するフライホイールの行方 → 本記事の機関金融のオンチェーン化と並ぶ、企業のBTCトレジャリー動向。
- Strategy、マイケル・セイラーの「ドット」投稿が新たなビットコイン購入観測を再燃させる → 本記事のトークン化動向と並ぶ、企業のBTC戦略動向。
- Morgan Stanley、ステーキングETF参戦|イーサリアム・ソラナで報酬95%を投資家へ → 本記事のリテール金融アプリのオンチェーン化と並ぶ、機関投資家のETFによるオンチェーン参入動向。
- ビットコインETF、過去最長13日の純流出。約43億ドルが抜けた背景とETFが「限界的な買い手」になった構造変化 → 本記事のRobinhood展開と並ぶ、ETFを介した機関マネー動向。
- ビットコイン6万2000ドル割れ、Strategy 32BTC売却が招いた18億ドル清算の連鎖 → 本記事のオンチェーン金融拡大と並走する、暗号資産市場全体の動向。
- ビットコイン7万ドル回復なるか、スカラムッチ・ノボグラッツが挙げるCLARITY法案・債務・SpaceX → 本記事のトークン化拡大と並ぶ、市場心理が織り込む期待動向。
- enishがビットコイン全売却、Solana中心の「DAT 2.0」へ転換|運用型トレジャリーの狙い → 本記事のRobinhood戦略と並ぶ、企業の暗号資産戦略動向。
ステーブルコイン決済インフラ
- AllUnity×Zebec、EURAUによる従業員福利厚生・法人決済をStellarで開始─MiCAR準拠ステーブルコインが実用フェーズへ → 本記事のRobinhood Chain実用フェーズと並ぶ、欧州でのステーブルコイン実用事例。
- JPYSC始動―SBI・Startaleが国内初の信託型円ステーブルコインを発行 → 本記事のオンチェーン金融拡大と並ぶ、日本でのステーブルコイン制度整備動向。
- SBI VCトレード×リップル―「RLUSD」が国内初の「4号電子決済手段」として取扱い開始 → 本記事のリテール金融オンチェーン化と並ぶ、日本市場でのドル建てステーブルコイン導入動向。
- Coinbase、ステーブルコイン決済の課税撤廃を米議会に要請 ― 暗号資産税制改革の行方 → 本記事の株式トークン税務論点と関連する、米国のステーブルコイン税制動向。
- ステーブルコインとトークン化で家計は軽くなる?米上院公聴会、賛否とCLARITY Actの行方 → 本記事のRobinhood米国除外という論点と関連する、米国のトークン化議論動向。
- Visa×OpenAIが拓くAIエージェント決済|Visaのステーブルコイン決済は年換算70億ドル規模に → 本記事のリテール金融オンチェーン化と並ぶ、TradFi×暗号資産統合の最新事例。
- CBETS始動と中国人民銀行のステーブルコイン警戒—デジタル人民元 vs ドルの「通貨OS」争いが本格化 → 本記事のRobinhoodグローバル展開と並ぶ、通貨インフラの国家間競争動向。
Ripple/XRPL関連の動向
- Ripple、XRPとRLUSDでAIエージェント決済へ参入─USDCが席巻するx402市場に挑む → 本記事のRobinhood Chain動向と並ぶ、別チェーン(XRPL)のオンチェーン金融戦略動向。
- Ripple、XRPL「AI Starter Kit」でAIエージェント決済へ──x402対応とGenAI人材募集の狙い → 本記事のAgentic Trading導入と並ぶ、XRPL側のAIエージェント決済動向。
- RLUSDに利回り活用の道─SOILとXRPL Lending Protocolが拓くXRPLネイティブ融資 → 本記事のオンチェーンレンディング機能と並ぶ、XRPL上でのレンディング動向。
日本市場・金融統合動向
- SBI、ビットバンクを467億円で完全子会社化─暗号資産の預かり資産で国内首位へ → 本記事のRobinhood垂直統合と並ぶ、日本の金融機関による暗号資産業界統合動向。
- bitFlyer SOL上場の本当の意味─Solanaに集まる日本企業と金融商品取引法改正 → 本記事のRobinhood米国除外という論点と対比される、日本市場での暗号資産関連サービス動向。
- HyperLending、日本初HYPE対応の暗号資産レンディング開始 → 本記事のRobinhoodレンディング機能と並ぶ、日本市場でのレンディングサービス動向。
- SecondFi始動|「鍵は自分のまま」EMURGOが挑む、暗号資産で使う・貯める・稼ぐ時代 → 本記事のRobinhoodカストディモデルと対極にある、自己管理型サービスの実装事例。
AI×Web3・自律エージェント
- アライドアーキテクツ × Nyx Foundation、AIがDeFiの安全を”検算”する時代へ → 本記事のRobinhood Chain動向と並ぶ、オンチェーン領域の安全性検証動向。
- OpenAI「GPT-5.6」を限定公開にした理由—命名騒動と米政府の要請 → 本記事のOpenAIトークン一件と関連する、OpenAIの直近動向。
AI×身分証・本人性インフラ
- Worldcoin(WLD)とは?AI時代の「本人性証明」と独自のデジタルIDインフラ構造【2026年版】 → 本記事の投資家保護・KYC論点と並ぶ、本人性証明インフラの動向。
- Worldcoin(WLD)はヘイズなしで価格を保てるか—AI時代の身分証トークンを読む → 本記事の株式トークン市場と並ぶ、新興トークンの市場動向事例。
米国規制動向・アジア圏動向
- CLARITY Act、Coinbase・Rippleら200社超が上院に採決要求─成立確率60%に低下 → 本記事のRobinhood米国除外という判断と関連する、米国の規制整備動向。
- FBI被害113億ドル受け、米議会がクリプト犯罪対策の連邦タスクフォース新設法案を提出 → 本記事のトークン所有権論点と関連する、米国側の投資家保護動向。
- 韓国、債務救済に暗号資産を組み込み—KAMCO が残高証明書で資産審査、返済能力で減免率を調整へ → 本記事のRobinhoodグローバル展開と並ぶ、アジア圏での暗号資産制度組込動向。
基盤チェーン解説
- Solanaとは?高速・低コストのブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事のEthereum L2と並ぶ、別の主要ブロックチェーンの構造解説。
- XRP Ledger(XRPL)とは?分散型ブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事のEthereum L2と並ぶ、機関金融向けブロックチェーンの構造解説。
- Hyperliquidとは?HYPE基盤のレイヤー1ブロックチェーンとオンチェーンCLOBアーキテクチャの完全解剖 → 本記事のRobinhood L2と並ぶ、独自レイヤー1ブロックチェーンの構造解説。
決済プラットフォーム動向
- X Money決済とは?イーロン・マスクが描く「総合金融プラットフォーム」の正体 → 本記事のRobinhood金融民主化構想と並ぶ、別経路(プラットフォーマー主導)での総合金融プラットフォーム構想。
セキュリティ・運用リスク
- Hola Browser にクリプトマイナー混入、Sophos が発見—サプライチェーン侵害の手口とは → 本記事の「便利さの手前で立ち止まる」議論と並ぶ、エンドユーザー側のセキュリティリスク事例。
【編集部後記】
今回のニュースの主役はオラクルそのものではなく、「ブロックチェーンが見えなくなっていく」という静かな変化なのだと感じました。私たちが日々使うアプリの裏側で、金融の仕組みが少しずつ組み替えられていく――その最初の兆しを、冷静に見つめていたいと考えています。
同時に、便利さの手前で立ち止まり、「自分が手にするものは本当は何なのか」を問う視点も手放したくありません。読者のみなさんと一緒に、この移行期を丁寧に見届けていきたいと思います。
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