AllUnity×Zebec、EURAUによる従業員福利厚生・法人決済をStellarで開始─MiCAR準拠ステーブルコインが実用フェーズへ

AllUnity×Zebec、EURAUによる従業員福利厚生・法人決済をStellarで開始──MiCAR準拠ステーブルコインが実用フェーズへ

Last Updated on 2026年7月2日 by Co-Founder/ Researcher

2026年6月25日、AllUnityとZebecは、Stellarネットワーク上でEURAUを基盤とした従業員福利厚生・法人決済プログラムを開始すると発表した。発表はドイツのフランクフルトで行われた。EURAUはAllUnityが発行する規制準拠のユーロ・ステーブルコインである。

本プログラムはパイロット段階にあり、AllUnityのエコシステムにおける給与支払いと労働者向け決済の拡大を目指す。参加する従業員は、福利厚生をデジタルウォレットで直接受け取り、Zebecのプラットフォームを通じて支出・貯蓄・決済の各機能を利用する。AllUnityはDWS、Flow Traders、Galaxyによって設立され、EURAU、CHFAU、SEKAUのMiCAR準拠ステーブルコインを提供する。Zebec NetworkのCEOはサイモン・ババカニ、AllUnityのCEOはアレクサンダー・ヘプトナーである。

From: 文献リンクAllUnity and Zebec Deploy EURAU-Powered Employee Benefits and Enterprise Payment Solutions on Stellar

【編集部解説】

ステーブルコインといえば、これまでは「取引所で売買される投機の対象」という顔が前面に出ていました。今回のニュースが示すのは、規制準拠ステーブルコインが、福利厚生や給与関連決済という、私たちの生活に近い領域へ入り始めたという事実です。Crypto Verseが今このニュースを取り上げるのは、規制された電子マネーが実証実験室を出て、欧州の従業員のウォレットへ流れ込もうとする瞬間を捉えているからにほかなりません。

まず押さえておきたいのは、EURAUが「素性の確かなデジタル・ユーロ」である点です。発行元のAllUnityは、ドイツの金融監督当局BaFinから電子マネー機関(EMI)ライセンスを2025年7月1日に取得し、同年7月31日にEURAUを発行しました。出資するのはDWS、Flow Traders、Galaxyという金融界の重量級プレイヤーで、なかでもDWSは1兆ユーロを超える資産を運用する大手です。過去に何度も試みられ、そのたびに頓挫してきた「暗号資産による給与支払い」と決定的に違うのは、この通貨がEUの包括的枠組みMiCAR(暗号資産市場規則)の下で、ユーロと1対1で完全に裏付けられている点にあります。

次に重要なのが、なぜStellarなのか、という選択です。Stellarは送金に特化したブロックチェーンで、決済は数秒で完了し、手数料は通常1セントを大きく下回ります。給与や福利厚生のように「速く、安く、確実に」届ける必要がある用途と、相性が良いわけです。

そしてこの提携は、ある日突然生まれたものではありません。AllUnity公式リリースによれば、同社は2026年4月13日にEURAUをStellarへ展開しています。これに加えて一部報道によれば、Stellar開発財団が同年3月19日にZebecをステーブルコイン給与の提供者として選び、6月15日には当初USDC建てでエンタープライズ給与が稼働を始めていたとされます(ただしこの2点は一次情報での独立した確認が取れておらず、単一報道に基づく記述です)。今回6月25日の発表は、これらの伏線——AllUnityのユーロ通貨、Stellarのレール、Zebecの給与エンジン——を一本の線につなぐ「結節点」だと理解すると、その意味が立体的に見えてきます。

技術的に最も面白いのは、Zebecが得意とする「ストリーミング給与」という考え方でしょう。月末の締めを待つのではなく、働いた分を秒単位で受け取り、Stellar上で即座に決済する。受け取ったEURAUは、ウォレットに保有することも、送ることもできます。加えてZebecはカード機能(一部報道によればApple PayやGoogle Payに対応)も備え、ステーブルコインでの支払いを日常の買い物へつなげようとしています。ただし、EURAUをカードでそのまま利用できる範囲は、今後の対応次第である点には留意が必要です。

ポジティブな側面は明快です。多国籍企業にとって、国境をまたぐ給与や業務委託先への支払いは、仲介銀行や営業時間の壁によって、遅延・高コスト・煩雑さという三重苦を抱えてきました。24時間365日、ほぼ瞬時に決済が完了する仕組みは、企業のキャッシュフロー管理を一段身軽にする可能性を秘めています。

一方で、冷静に見ておくべき点もあります。これはあくまで「パイロット(実証実験)」であり、参加企業数や取扱規模といった具体的な数字は公表されていません。次の段階へ進めるかは、雇用主・労働者・パートナーの実需次第です。加えて、給与をステーブルコインで受け取ることは、ウォレットの自己管理や税務上の扱いといった、従業員側の新たな負担も伴います。「便利さ」の裏側にある責任の移転を、私たちは見落とすべきではないでしょう。

規制という観点では、今回の動きは欧州における「ステーブルコイン覇権争い」の一手と読めます。MiCAR準拠のユーロ建てトークンは、すでにCircleのEURCやSociété GénéraleのEURCVが先行しています。そのなかでEURAUが「規制の確実性」を競争上の堀(モート)に変えられるかどうかが、勝敗を分けます。欧州中央銀行(ECB)がデジタル通貨への監督を強める流れのなかで、規制を味方につけた民間ステーブルコインがどこまで存在感を示せるか——その試金石が、まさに給与という最も生活に近い領域で行われているのです。

長期的に見れば、このパイロットは「規制されたデジタル・マネーが、現実の経済活動の血流になれるか」という壮大な問いの、ごく初期の答え合わせです。給与が秒単位で流れる世界は、立替・前借り・国際送金といった金融サービスのあり方そのものを書き換えていくかもしれません。未来に触れたい読者にとって、欧州の片隅で始まったこの小さな実験は、数年後の「当たり前」を先取りする窓になり得ます。Crypto Verseは、その窓の先を引き続き見つめていきます。

【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨などに価値を連動させ、価格変動を抑えるよう設計された暗号資産。EURAUはユーロと1対1で連動する。

EURAU
AllUnityが発行する、ユーロ建てのステーブルコイン。完全裏付け型で、マルチバンク(複数銀行)による準備金モデルを採用する。

MiCAR(暗号資産市場規則)
EUが定めた暗号資産の包括的規制枠組み。ステーブルコインを「電子マネートークン(EMT)」と位置づけ、準備金や償還権など厳格な要件を課す。

電子マネー機関(EMI/e-money institution)
電子マネーの発行を認可された規制下の事業者。AllUnityはドイツのBaFinからこのライセンスを取得している。

BaFin(ドイツ連邦金融監督庁)
ドイツの金融監督当局。AllUnityにEMIライセンスを付与した規制当局である。

ストリーミング給与(streaming payroll)
月次の締めを待たず、働いた分を秒単位で連続的に受け取れる給与の仕組み。Zebecが先駆けとなった概念だ。

償還権(Redemption Right)
EMT保有者が、いつでも額面価格で発行体に対して払い戻しを請求できる法的権利。MiCAR第49条に基づく。

XLM
Stellarネットワークのネイティブ資産(基軸トークン)。EURAU自体とは別物だが、Stellar上で送金する際のネットワーク手数料はXLM建てで支払われ、ネットワークの基盤を支える。

【参考リンク】

AllUnity(公式サイト)(外部)
EURAUを発行するドイツの規制準拠e-money機関。DWS・Flow Traders・Galaxyの合弁で欧州の決済インフラを構築。

EURAU(製品ページ)(外部)
AllUnityのユーロ・ステーブルコインの公式紹介。完全裏付け・24時間365日決済・MiCAR準拠の特徴を解説。

Zebec Network(公式サイト)(外部)
リアルタイム給与・決済インフラ企業。ストリーミング給与の先駆者でマルチチェーン金融基盤へ拡張している。

Stellar(公式サイト)(外部)
送金に特化した公開ブロックチェーン。数秒の決済と極めて低い手数料を特徴とし開発財団が運営を支える。

MiCAR(ESMAによる解説)(外部)
EUの暗号資産市場規則の公式解説ページ。規制の全体像と適用範囲を確認できる一次的な参照先である。

【参考記事】

Understanding The Collaboration Between Stellar, Zebec, & AllUnity(cryptonews.net)(外部)
提携を時系列で解説。3月19日のZebec選定・6月15日のUSDC建て稼働など伏線を整理した単一ソース記事。

EURAU Launches on the Stellar Network(AllUnity公式 / 2026年4月13日付)(外部)
EURAUをStellarへ展開した一次情報。編集部解説の「4月13日」記述の公式な裏付けとして使用した。

The Digital Euro’s First Job: A Regulated Stablecoin Enters the Payroll Arena(BriefGlance.com)(外部)
規制準拠の側面を深掘り。EMIライセンスやカードのApple Pay/Google Pay対応に言及した解説記事。

AllUnity Launches EURAU — Germany’s First Fully Reserved, MiCAR-Compliant EURO stablecoin(AllUnity公式)(外部)
EURAUローンチ時の一次情報。BaFin取得日やEthereum上のERC-20発行など基礎データを確認できる。

Germany’s AllUnity Launches BaFin-Regulated Euro Stablecoin EURAU(CoinDesk)(外部)
大手暗号資産メディアの報道。EURCやEURCVと並ぶMiCAR準拠ユーロ建てトークンとして競合関係を整理。

Stellar’s XLM Powers Euro Stablecoin Payroll Pilot in Europe as Zebec Joins(LiveBitcoinNews)(外部)
Stellar/XLM視点の報道。あくまでパイロット段階で全面展開ではない点を冷静に指摘した記事である。

AllUnity secures BaFin EMI License to Launch its MiCAR compliant EURO stablecoin(AllUnity公式)(外部)
BaFinライセンス取得の一次情報。3社合弁の構成と2025年7月1日の取得日を確認できる設立背景の根拠。

【Crypto Verse関連記事】

本記事のAllUnity×Zebec×EURAU・Stellar上でのユーロ給与プログラム・MiCAR準拠ステーブルコイン・BaFin認可EMI・DWS/Flow Traders/Galaxy合弁・ストリーミング給与・EU通貨戦略の構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。

各国のステーブルコイン制度整備(EU・日本・米国・中国)

Ripple/RLUSD関連の動向

AI×Web3・自律エージェント決済

日本の金融機関・取引所動向

RWA・トークン化資産の動向

米国規制動向

アジア圏の暗号資産政策

企業のトレジャリー・機関化動向

市場心理・BTC市場動向

AI×身分証・本人性インフラ

他の主要ブロックチェーン解説

セキュリティ・運用リスク

【編集部後記】

給料が「秒単位で流れてくる」世界を、あなたはどう感じるでしょうか。便利さに胸が高鳴る一方で、「自分のお金を自分で管理する」責任が、少しずつこちらへ移ってくる予感もします。今回の主役は欧州のユーロですが、この流れは決して対岸の火事ではありません。

もし日本で同じ仕組みが選べるとしたら、あなたは給料を円で受け取りますか、それともデジタル通貨で受け取ってみたいですか。私たちも答えを探している最中です。未来の働き方とお金のかたちを、ぜひ一緒に考えていけたら嬉しいです。

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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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By山本 達也

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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