Last Updated on 2026年9月2日 by Co-Founder/ Researcher
USDCは35のブロックチェーンで発行されています。ところが日本で先に登録を受けたSBI VCトレードが入出庫に対応しているのは、そのうちEthereumの1本だけです。8月27日、コインチェックが2社目の登録を完了しました。増えたのは、チェーンへの入口ではありません。
コインチェック株式会社は2026年8月27日、資金決済法に基づく電子決済手段等取引業の登録を完了したと発表した。登録番号は関東財務局長第00002号である。金融庁の電子決済手段等取引業者登録一覧には、取り扱う電子決済手段としてUSDCが記載されている。
登録事業者は、2025年3月4日に第00001号を取得したSBI VCトレード株式会社と合わせて2社となった。USDCはCircleが発行し、同社の公表では2026年6月29日時点で35のブロックチェーンにネイティブ対応する。国内では資金決済法上の1号電子決済手段にあたる外国電子決済手段として扱われ、利用者の移転額は1回100万円以下に制限される。コインチェックはUSDCの取扱開始時期と対応チェーンを示していない。
From: コインチェック、電子決済手段等取引業登録を完了
【編集部解説】
まず、この登録によってオンチェーンで何が起きるのかを整理します。答えは「何も起きない」です。USDCを発行し、償還するのはCircleであり、日本の電子決済手段等取引業者は発行体ではありません。国内で登録が1件増えること自体は、CircleによるUSDCの発行や償還を直接発生させるものではありません。
変わるのは、日本円とUSDCのあいだにある窓口の数です。蛇口が増えたのではなく、窓口が増えた。この区別を最初に置いておくと、以降の話が読みやすくなります。
【追記(2026年8月30日)】この登録が制度全体の中でどんな意味を持つのかは、私がパートナーメディアのinnovaTopiaで「コインチェック、電子決済手段等取引業に登録完了|国内2社目でUSDCへ」として扱っています。発行と流通が別の枠に分けられている制度構造や、登録事業者が1社から2社に増えたことの意味を解説しています。
次に、USDCが日本の制度でどこに置かれているかを確認します。資金決済法2条5項は電子決済手段を4つの号に分けています。金融庁が2026年5月19日に公表したパブリックコメントの質問文では、現状のUSDCが「1号電子決済手段に該当する外国電子決済手段」と整理されています。金融庁はUSDCの分類自体には触れず、外国信託型の裏付け資産要件について回答しています。
ここで思い出したいのが、同じドル建てのRLUSDが「国内初の4号電子決済手段」として扱われたことです。4号は長らく指定されるものがない空の器でした。それが2026年6月1日施行の府令改正で、外国の信託銀行等が発行する信託受益権方式のステーブルコインのうち、日本の法制度との同等性が確保されたものを受け入れる器になりました。
この改正の狙いは、金融庁自身が明快に説明しています。外国の信託銀行等が発行するステーブルコインは、資金決済法の電子決済手段ではなく金商法の有価証券と評価される可能性があり、国内で決済手段として扱えるかが不明確だった。そこを整理するための改正だ、という趣旨です。
つまり、USDCとRLUSDは同じ「米ドル建てステーブルコイン」でありながら、日本の制度では別の器に入っています。裏付け資産に対する規制の掛かり方も号ごとに異なります。ドル建てというラベルだけで両者を並べると、この差が見えなくなります。
そのうえで、オンチェーンの側から見たときに最も効く論点はチェーンの選択です。
Circleの公表によれば、USDCは2026年6月29日時点で35のブロックチェーンにネイティブ発行されています。一方、登録簿や登録申請の様式に、対応チェーンを個別に特定する専用欄はありません。実際にどのネットワークで入出庫を提供するかは、事業者のサービス仕様として設計されます。ただし自由放任というわけではなく、取り扱う電子決済手段の技術や記録台帳の仕組みは、登録審査と自主規制の審査の対象です。
先行するSBI VCトレードは、一般向け提供の開始時点で対応チェーンをEthereumに限定しました。同社のサービスページとFAQは現在も、対応チェーンがEthereumのみであること、Ethereum以外から送られたUSDCは入庫アドレス宛であっても反映と回復ができないことを案内しています。ArbitrumとBNB Smart Chainが具体例として挙げられています。
35チェーンのうち、国内で先行するSBI VCトレードがUSDCの直接入出庫に対応しているのはEthereumの1本です。つまり、国内で登録が2社になったことは、35チェーンへの入口が2つ開いたという意味ではありません。2社目がどのチェーンを選ぶのか。ここが今回の発表で最も観測に値する点です。
もう一つ、オンチェーンの感覚と国内制度が食い違うところがあります。移転額の扱いです。
外国電子決済手段を扱う電子決済手段等取引業者には、利用者の指図による移転について、1回当たりの移転可能額を100万円以下に限定する措置が求められます。事業者が管理しないウォレットへ送る場合も含みます。また、管理する額が1人当たり100万円を超えた場合、そのうち移転される蓋然性が低いと判断されるものについては、買取りなど利用者が保有し続けないための措置が必要になります。金融庁は、これらを国内で取り扱われる預金、未達債務、信託受益権を用いた仕組みと同水準の利用者保護を確保する観点から求めています。
これとは別に、発行体が債務を履行できなくなった場合などに備えて、事業者が同額で買い取ることを利用者に約し、そのための資産を保全する措置も求められます。こちらは外国の発行体の信用リスクに向けられたものです。二つは同じ条文の下に並んでいますが、狙っているものが違います。
日本法上の1回100万円という上限は、チェーン上のUSDCそのものに課されたものではありません。国内の登録事業者を経由して外国電子決済手段を移転する場合にかかる制限です。国内の登録事業者は、Circleの信用を日本の利用者に取り次ぐ立場に立つと同時に、その信用が崩れたときの受け皿を自ら用意する立場にも立ちます。取扱いを始めるまでには、こうした買取りと資産保全の態勢も整えておく必要があります。
検証したい人のために、観測点を3つ挙げておきます。対応チェーンがEthereumだけなのか、複数なのか。入出庫の上限と反映の条件がどう案内されるか。そして、販売所形式なのか取引所形式なのか。いずれも、サービス開始時に事業者が公表する情報から確認できます。
チェーンの選択は、日本の取引所からUSDCを直接出し入れできる最初の着地点を決めます。Ethereumだけなら、最初に降りるのはEthereumです。SolanaやBaseが加われば、直接降りられる場所が増えます。もっとも、そこから先は別の話です。CircleはCCTPという仕組みを提供しており、元のチェーンで焼却して移転先でネイティブ発行する形で、対応チェーン間をまたぐ経路があります。最初の着地点と、その後の行き先は、分けて考える必要があります。制度が2社目を受け入れたいま、次に見るべきはチェーンの側です。
【用語解説】
電子決済手段等取引業
電子決済手段の売買・交換・媒介・取次ぎ・代理・管理などを業として行う者に必要な登録である。発行する側ではなく、扱う側にかかる。
1号電子決済手段
資金決済法2条5項1号。電子的に記録・移転される通貨建資産で、不特定の者への代価の弁済に使え、不特定の者を相手方として購入・売却できるもの。法定通貨担保型の典型がここに入る。
4号電子決済手段
1号から3号に準ずるものとして内閣府令で定めるもの。長く指定がなかったが、2026年6月1日施行の改正で、外国の信託銀行等が発行する信託受益権方式のステーブルコインのうち一定の要件を満たすものが対象となった。
外国電子決済手段
資金決済法等に相当する外国の法令に基づいて発行された電子決済手段を指す。1号から4号とは別の類型ではなく、発行地に着目した区分である。取り扱う事業者には追加の措置が課される。
信託受益権方式のステーブルコイン
信託の受益権として組成されたステーブルコイン。日本の信託を用いるものは3号(特定信託受益権)に、外国のものは要件を満たせば4号に位置づけられる。
ネイティブ発行
発行体がそのチェーン上で直接発行したトークンを指す。他チェーンから橋渡しされたブリッジ版とは区別される。
CCTP
Circleが提供するクロスチェーン転送の仕組み。元のチェーンでUSDCを焼却し、移転先でネイティブ発行することで、ロック型のブリッジに伴う構造を避ける設計である。
償還
発行されたコインを発行体に戻し、額面どおりの通貨で払い戻すこと。発行が入口、償還が出口にあたる。
入出庫
事業者の口座と外部のウォレットとのあいだで、トークンを受け取り、また送ること。どのチェーンに対応するかは事業者ごとに異なる。
【参考リンク】
金融庁 電子決済手段等取引業者登録一覧(外部)
登録番号、登録年月日、取り扱う電子決済手段が事業者ごとに記載された一覧である。対応チェーンを特定する欄は設けられていない。
金融庁 事務ガイドライン 第三分冊 17 電子決済手段等取引業者関係(外部)
外国電子決済手段の適切性の判断基準を定めている。移転可能額の限定や、買取りのための資産保全の要件は、ここに置かれている。
コインチェック株式会社(外部)
暗号資産取引サービス「Coincheck」を運営する会社である。2026年8月27日に電子決済手段等取引業の登録を完了したと発表した。
SBI VCトレード株式会社(外部)
電子決済手段等取引業の国内第1号登録事業者である。USDCの特設ページとFAQで、対応チェーンや入出庫の条件を案内している。
Circle(外部)
USDCの発行体である。ネイティブ対応チェーンの一覧のほか、準備金の構成や、第三者機関による月次の証明報告を公開している。
Circle Developers(CCTP)(外部)
CCTPの技術文書である。元のチェーンで焼却し、移転先でネイティブ発行する仕組みと、対応するチェーンの一覧が示されている。
【参考記事】
コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(外部)
2026年6月1日施行の府令改正に関する回答である。外国信託型を電子決済手段として規定し、有価証券から除外した趣旨が示されている。
事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)17 電子決済手段等取引業者関係(外部)
1回100万円以下の移転制限と、管理額が100万円を超えた場合の措置が、外国電子決済手段の項に具体的に書き込まれている。
サポートコンシェルジュ|暗号資産・電子決済手段の取引所|SBI VCトレード(外部)
Ethereum上で出庫されたUSDCのみ入庫できると案内している。他のチェーンから送られたものは反映できないとする。
USDCの概要|投資家視点で見る特徴と日本における今後の展望(外部)
ベータ版が2025年3月12日、一般向けが同月26日という時系列を、取扱事業者自身が整理して公開しているコラムである。
USDC | Powering global finance. Issued by Circle.(外部)
2026年6月29日時点で35のブロックチェーンにネイティブ対応していると、発行体自身が基準日を添えて公表している一次資料。
【Crypto Verse関連記事】
コインチェック電子決済手段等取引業登録完了と「窓口は増えたが蛇口は増えていない」構造を、より広い文脈で理解するための関連記事をご案内します。日本のステーブルコイン制度整備(1号/3号/4号)・USDCと他ステーブルコインの比較・日本の取引所業界動向・機関金融インフラを横断的に読むことで、35チェーンと日本の窓口の距離が立体的に見えてきます。
日本のステーブルコイン制度整備(電子決済手段1号・3号・4号)
- SBI VCトレード×リップル―「RLUSD」が国内初の「4号電子決済手段」として取扱い開始 → 本記事内で直接比較される、4号電子決済手段の実装事例。「同じドル建てでもUSDCは1号、RLUSDは4号」という制度上の差を両記事併読で立体的に理解できます。
- JPYSC始動―SBI・Startaleが国内初の信託型円ステーブルコインを発行 → 本記事の電子決済手段動向と並ぶ、3号(特定信託受益権)の実装事例。日本のステーブルコイン制度全区分を横断的に理解できます。
- 【解説】JPYC×AZ-COM丸和|10億円超の出資検討と2300社B2B決済を構造で検証 → 本記事の外国電子決済手段動向と並ぶ、資金移動業型ステーブルコインの実装事例。
- デジタルガレージ、ステーブルコイン決済基盤「DG SPS」商用展開を始動―JCB・DGFTへ先行導入予定 → 本記事のUSDC活用動向と直接連動する、日本のUSDC決済基盤動向。「取引所窓口」「決済基盤」両軸でのUSDC浸透経路を理解できます。
- ネットスターズ「Stablecoin Pay」始動―店舗向け決済基盤にステーブルコインを接続 → 本記事のUSDC取扱動向と並ぶ、USDC/USDT/JPYC対応の店頭決済動向。「取引所→出庫→店頭決済」の経路を理解できます。
日本の暗号資産取引所・業界再編動向
- Laser Digital Japan登録完了 4年ぶり新規参入、相手は個人ではなく交換業者 → 本記事の直近姉妹記事。「暗号資産交換業者(Laser Digital)」「電子決済手段等取引業者(コインチェック)」両方の登録が同時期に動く構造を理解できます。
- SBI、ビットバンクを467億円で完全子会社化─暗号資産の預かり資産で国内首位へ → 本記事のコインチェック動向と並ぶ、日本の暗号資産取引所業界統合動向。
日本の制度整備・監督体制
- 金融庁の新課名から「ブロックチェーン」が消えた|暗号資産監督の再配置を読む → 本記事の電子決済手段等取引業動向と並ぶ、監督組織再編動向。
- 【解説】暗号資産の分離課税はまだ動かない。金商法改正成立で投資家が知るべき3つの変化 → 本記事の資金決済法動向と並ぶ、日本の金商法改正動向。
機関金融インフラ・骨太の方針「オンチェーン金融」
- トークン化預金の銀行間決済に43社 焦点は決済資産の選択 → 本記事の直前姉妹記事。「小売の窓口(コインチェック)」「銀行間の決済(トークン化預金)」両輪で日本のステーブルコイン・オンチェーン金融が動く構造を理解できます。
- SBI×Solana財団―SBI R3 Japan「SBI Solana Global(仮称)」、日本発オンチェーン金融市場の創出へ → 本記事の日本のUSDC対応チェーン論点と並ぶ、日本発オンチェーン金融の基盤整備動向。「Ethereum1本」を超えたチェーン戦略の可能性を理解できます。
Ripple/XRPL関連(RLUSDの発行体)
- Ripple、XRPとRLUSDでAIエージェント決済へ参入─USDCが席巻するx402市場に挑む → 本記事のUSDC/RLUSD比較文脈と直接連動する、RLUSDのグローバル戦略動向。
チェーン基盤解説(USDCネイティブ発行対象)
- Solanaとは?高速・低コストのブロックチェーンの仕組みと特徴を徹底解説 → 本記事の35チェーン論点で言及されうる主要USDC対応チェーンの一つ、Solanaの構造解説。「Ethereum以外の選択肢」の候補として理解できます。
【編集部後記】
登録一覧のPDFには、取り扱う電子決済手段の欄に「USDC」とだけ書かれています。どのチェーンで、という情報はどこにもありません。
制度の書類はトークンの名前までしか見ておらず、そこから先のネットワークの選択は事業者の設計に委ねられている。この構造は、しばらく続きそうです。ドルがどの地面に降りるのかを知りたければ、当面はサービス仕様の告知を読むしかありません。
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