ズベルバンクの試算「初年度は2割」—ロシア暗号資産合法化、次の節目は2027年7月

By山本 達也

2026年9月3日
ズベルバンクの試算「初年度は2割」—ロシア暗号資産合法化、次の節目は2027年7月

Last Updated on 2026年9月3日 by Co-Founder/ Researcher

9月1日、ロシアで暗号資産法とデジタルルーブルが同時に動き出しました。ところが制度の中心にいるズベルバンク自身は、規制下の取引所へ来る取引を国内全体の約2割と見積もっています。整えた側と、使う側。同じ制度について、見ている数字がこれだけ離れています。


2026年9月1日、ロシアで暗号資産とデジタルルーブルの制度が同時に動き出す。連邦法282-FZ「デジタル通貨およびデジタル権利について」は8月4日にウラジーミル・プーチン大統領が署名し、主要規定がこの日に施行される。同日から、システム上重要銀行12行と、その顧客で前年収入1億2000万ルーブル超の小売事業者に、デジタルルーブルの取り扱いが義務づけられる。

ロシア中央銀行は8月11日、取引所で公開流通できる暗号資産としてビットコイン、イーサリアム、USDTを挙げた。ズベルバンクは8月末、この3つを担保に受け入れる方針を示したが、開始日も融資条件も公表していない。同行の調査部門は、規制下の取引所での取引額を初年度3兆5000億〜4兆ルーブルと見込む。

From: Digital Ruble to Be Introduced on a Large Scale

【編集部解説】

同じ日に始まるのに、動き方がまるで違う

9月1日にロシアで動き出すものは3つありますが、性質はそれぞれ別物です。

デジタルルーブルは義務です。システム上重要銀行12行と、その顧客で前年収入1億2000万ルーブルを超える小売事業者は、この日から口座開設と支払いに対応しなければなりません。翌年の9月1日には年商3000万ルーブル超の事業者へ、2028年には残り全体へと段階的に広がります。年商500万ルーブル未満の店舗は義務を免除されます。

暗号資産法は施行です。ただし交換業者などの登録制度には経過措置があり、2027年7月1日までは登録を持たないまま活動できます。法律が動き出す日と、市場が動き出す日は同じではありません。

ズベルバンクの暗号資産担保ローンは計画です。経営執行部副議長のアナトリー・ポポフ氏が8月末、東方経済フォーラムを前にしたタス通信のインタビューで語ったのは、ビットコインに加えてイーサリアムとテザーのUSDTも担保に加える方針でした。融資比率も金利も最低担保額も、少なくとも公表資料には見当たりません。

3つを「同時に開いた3本の道」と読むと、実際の速度差を取り落とします。同じ日に動き出すのは確かですが、義務として即日効くもの、施行されても受け皿が経過措置の中にあるもの、まだ計画のもの。進み方は3段階に分かれています。

中央銀行が選んだ3銘柄と、その選び方

中央銀行は8月11日、取引所で公開流通できる暗号資産としてビットコイン、イーサリアム、Tether USDTを挙げました。選定の基準が興味深いところで、時価総額と1日あたりの平均取引高に加え、海外市場での価格形成の履歴が5年以上あることが求められます。新しい銘柄は、そもそも入り口に立てない設計です。

同じ日に公表された指令は案の段階で、意見の受付は8月24日まで続いていました。この案には、非適格投資家が仲介業者1社あたり年30万ルーブルまでしか購入できないという上限が入っています。適格投資家には上限がありません。そして立場を問わず、取引の前にテストを受け、リスクの説明を読むことが求められます。

「12行で約80%」が指しているもの

ロシア中央銀行が2025年10月7日に確定した現在のシステム上重要銀行は12行。ズベルバンク、VTB、ガスプロムバンク、アルファバンク、ソフコムバンク、モスクワ信用銀行、T銀行、プロムスビャジバンク、ロシア農業銀行、ライファイゼンバンク、ユニクレジット銀行、そして今回から加わったドムRF銀行です。前年まで名を連ねていたオトクリティエはVTBへ、ロスバンクはT銀行へ吸収され、リストから外れました。

この12行が占める約80%という数字は、銀行セクターの総資産に対する比率です。決済市場のシェアではありません。似た数字が別の意味で流通しやすい箇所なので、ここは押さえておく価値があります。

ズベルバンク自身が置いた「2割」という見積もり

この事案で最も情報量が多いのは、実は担保ローンの話ではありません。同じ取材でポポフ氏が示した取引額の見通しです。

財務省の2月時点のデータでは、ロシア国内の暗号資産取引は1日あたり約500億ルーブル。年に直すとおよそ18兆ルーブルになります。SberCIB Investment Researchの試算は、合法化の初年度に取引所で扱われるのはこのうち約2割、年3兆5000億〜4兆ルーブルというものです。2028年に4兆7500億〜5兆2500億ルーブル、2029年で約7兆5000億ルーブル。母数となる18兆ルーブルが2月時点の推計である点は、半年が経っていることも含めて割り引いて読む必要があります。

慎重な数字の理由も本人が説明しています。取引の相当部分は取引所を経由しない交換業者に残り続けること。そして専門業者の免許取得が2027年7月1日まで認められているため、最初の1年で市場は成熟しないこと。

国内最大の銀行が、自国の制度について「初年度に内側へ入るのは5分の1」と見積もっている。これは弱気な予測というより、この法律の設計思想をそのまま映した数字だと私は受け取りました。禁止して締め出すのではなく、境界線を引いて、内側に来たものに保護を与える。282-FZが暗号資産を財産として位置づけ、関連する権利を司法上の保護の対象としたのは、その現れです。

一方で、内側に入るための条件は軽くありません。交換業者には自己資金1500万ルーブル、内部統制責任者の設置、サーバーの国内設置、取引記録の10年保存が求められます。ここでいう交換業とは、自己の名義と計算で暗号資産の売買を反復して行う活動のことで、その反復性を判定する基準が月2件以上かつ合計350万ルーブル超です。月に2回取引しただけの保有者が直ちに交換業者になる、という規定ではありません。

USDTを担保に取るということ

担保資産の話に戻ると、USDTには価格変動とは別種の論点があります。テザーは、法執行機関の要請や自社のリスク評価に基づいて、USDTを凍結できます。

担保として差し入れられた資産の可用性が、発行体の判断に依存する。これは暗号資産担保ローン一般に共通する設計上の論点で、ロシアの銀行に固有の欠点ではありません。ただし制裁下にある国の銀行が、米国企業が発行するトークンを担保に取ろうとしているという構図は、そのまま読んでおいたほうがいい部分です。

ズベルバンクには前例があります。2025年12月、マイニング企業のインテリオン・データに対してビットコイン担保の融資を試験的に実行しました。2022年からは情報システム運営者として登録され、2025年以降はビットコインやイーサリアムに連動する構造化債券とデジタル金融資産(DFA)を扱っています。アレクサンドル・ベジャヒン第一副会長は7月24日、暗号資産取引のインフラとデジタル・デポジトリを12月1日までに立ち上げる計画を示しました。実現すれば、保管・担保評価・融資が同じ屋根の下に揃います。

同じ方向を向いているのはズベルバンクだけではありません。アルファバンクはすでに自社の投資アプリで暗号資産のテスト取引を始め、年内にデジタル・デポジトリと交換用のゲートウェイを整える計画を示しています。

外向きの扉は、5月に閉じられていた

見落とされがちな事実がひとつあります。EU理事会は4月23日、規則2026/506を採択しました。Annex LIIIにはデジタルルーブルとRUBxが追加され、この2つを含む取引の禁止が5月24日から適用されています。

条文の前文には、EU側の見方がそのまま書かれています。デジタルルーブルはまだ準備段階にあるとしたうえで、この計画はロシアの関係者を制裁の効果から遮蔽する決済システムを提供することを意図している、と。稼働前の指定は、その判断の帰結です。

同じ規則は、EU規則の適用を受ける者に対し、ロシアに設立された暗号資産事業者や、暗号資産の交換・移転を可能にするプラットフォームとの取引も原則として禁じました。在ロシアの外交・領事代表部の運営に必要な取引や、2022年2月24日より前からロシアに居住する加盟国国民の取引などは例外とされています。

ここには設計の転換があります。前文によれば、2025年2月に指定された取引所ガランテックスの活動が、指定を逃れるためロシア国内の別の事業者へ移された。個別に名前を挙げても、そのたびに新しい事業者が立つ。だからEUは、事業者名ではなく「ロシアに設立されていること」で線を引いたわけです。

ロシアが境界の内側へ業者を集めようとしているのと同じ時期に、EUはその内側との接続をまとめて制限した。同じ線を、正反対の側から引いています。

発行する側と、配る側の見ている距離

制度と設備は整いました。ただし、使う側の反応は別の話です。

ズベルバンクの経営執行部副議長で財務を担当するタラス・スクボルツォフ氏は8月末、大量導入の準備は整っているとしたうえで、市場の他の参加者にも顧客にも「この手段への明確な関心」はまだ見えないと述べました。そのうえで、踏み込んだ数字を口にしています。年内には需要の大きさが分かるはずで、いま正確な評価は避けたいが、決済高に占める割合はよくても0.1%台にとどまり、大きな影響は与えないだろう、と。

中央銀行の側の見通しは、広範な利用が始まってから7年以内に決済額の最大5%です。時間軸が違うため単純には比べられませんが、発行する側の到達目標と、配る側の当面の実感には、これだけの距離があります。

とはいえ、これを失敗の予告と読むのは早いはずです。インフラが先に完成し、需要が後から来るかを確かめる段階にある。デジタルルーブルは現金・預金に次ぐ第3の形態として設計されており、統一QRコードによって既存の決済手段と同じ入り口に並びます。この統一QRコードは国家決済カードシステム(NPCS)の仕組みを基礎としたもので、利用者から見れば、支払い画面の選択肢がひとつ増えるという体験になります。

人間主権という物差しを当てると

デジタルルーブルのウォレットは中央銀行のプラットフォーム上に作られ、銀行のアプリはそこへのアクセス手段として機能します。取引の履歴を追える設計で、予算資金の使途を追跡できることは、当局が導入意義として挙げている点でもあります。利用するかどうかは本人の選択とされており、給与の受け取りについても、意思に反して使わせる制度としては説明されていません。

そして暗号資産による国内の支払いは、引き続き禁止です。デジタル形態を含むルーブルが唯一の法定通貨である、という一線は動いていません。

9月1日に広がったのは、自由の幅ではなく、合法の境界線です。境界の内側では保有者の権利が強くなり、外側では時間をかけて弱くなっていく。人間主権という物差しで測ると、得たものと差し出したものが同じ場所に並んでいます。

日本から見ると

日本もこの1年、似た形の作業を進めてきました。暗号資産を金融商品取引法の対象とする制度整備、分離課税の導入をめぐる議論、ステーブルコインの電子決済手段としての位置づけ。このうち分離課税は、現時点でまだ実現していません。それでも、「規制下の暗号資産市場」を作ろうとしている点は共通します。

違うのは、線を引く動機のほうです。日本は投資家保護を軸に引き、ロシアは決済主権と対外制裁への対応を軸に引いている。同じ形の制度でも、引く理由が違えば、境界の高さと窓の位置が変わります。

次の節目は、経過措置が終わる2027年7月1日です。そこまでの10か月で、どれだけの取引が境界の内側へ移るのか。ズベルバンクが置いた2割という数字を、この国が上回れるのかどうか。その答えが、この制度が読者にとっての「地図」になるのか「壁」になるのかを決めることになります。

【用語解説】

デジタルルーブル
ロシア中央銀行が発行する中央銀行デジタル通貨。現金・預金に次ぐ第3の形態と位置づけられ、ウォレットは中央銀行のプラットフォーム上に作られる。銀行のアプリはそこへのアクセス手段として機能する。

連邦法282-FZ「デジタル通貨およびデジタル権利について」
ロシア初の包括的な暗号資産法。2026年8月4日に大統領が署名し、主要規定が9月1日に施行された。暗号資産を財産として位置づけ、関連する権利を司法上の保護の対象とした。

システム上重要銀行
破綻すると金融システム全体に影響が及ぶとして中央銀行が指定する銀行。2025年10月7日時点で12行が指定され、あわせて銀行セクター総資産の約80%を占める。

適格投資家・非適格投資家
ロシア法上の投資家区分。非適格投資家は仲介業者1社あたり年30万ルーブルまでとする上限が指令案で示された。適格投資家に同じ上限は適用されない。

経過措置
新しい制度へ移行するための猶予期間。282-FZでは交換業者などの登録制度について、2027年7月1日まで登録を持たないままの活動が認められる。

デジタル金融資産(DFA)
ロシア法上、暗号資産とは別に区分されるトークン。証券に近い性質を持ち、2020年施行の連邦法259-FZが根拠となる。

デジタル・デポジトリ
暗号資産の保管と権利の記録を担う基盤。ズベルバンクは12月1日までの立ち上げを計画しており、実現すれば保管・担保評価・融資が同じ屋根の下に揃う。

Annex LIII
EU規則833/2014の附属書のひとつ。取引が禁じられる暗号資産と中央銀行デジタル通貨を列挙する。2026年4月採択の規則2026/506で、デジタルルーブルとRUBxが追加された。

ガランテックス
2025年2月にEUの制裁対象となったロシアの暗号資産取引所。その活動が国内の別の事業者へ移されたことが、EUが個別指定から属地基準へ切り替える理由として規則の前文に記されている。

【参考リンク】

ロシア銀行「非適格投資家の暗号資産購入規則」(外部)
公開流通の対象としてBTC・ETH・USDTを挙げ、非適格投資家の年間購入上限を定める指令案を公開協議にかけた8月11日のリリース。

ロシア銀行 デジタルルーブル大規模導入の日程(外部)
デジタルルーブルの義務化が2026年から3段階で進む日程と、対象となる小売事業者の年間収入の基準を示した公式発表。英語版。

ロシア銀行 システム上重要信用機関リスト(外部)
システム上重要な信用機関として指定された12行の名称と、これらが銀行セクターの総資産に占める比率を掲載するロシア銀行の公式ページ。

連邦法282-FZ 官報掲載ページ(外部)
「デジタル通貨およびデジタル権利について」の法文全文を掲載する官報ページ。施行期日と、登録制度に関する経過措置の規定を含む。

EU理事会規則2026/506(外部)
Annex LIIIの改正と、ロシアに設立された暗号資産事業者との取引禁止を定めた条文。前文に指定へ至った理由が記されている。

ズベルバンク 暗号資産担保融資のリリース(外部)
暗号資産を担保とする融資のパイロットについて、ズベルバンクが公表した公式リリースのページ。実施に至った経緯と枠組みが確認できる。

【参考記事】

Сбер оценил потенциальный объем торгов криптовалютами в РФ(外部)
SberCIBの試算を数値で伝える。財務省の2月時点データを母数に、初年度で取引所へ来るのは約2割という比率を示している。

День 1649: в «Сбере» пока не видят «явного интереса» к цифровому рублю(外部)
スクボルツォフ氏の「決済高に占める割合はよくても0.1%台」という見通しを引用。同日の為替と暗号資産の水準も併記される。

Сбербанк в приложении запустит международные расчеты в цифровых валютах(外部)
法人向けアプリを通じた国際決済を年内に始める計画と、必要なインフラがすでに構築済みである旨を、副会長の発言として伝える記事。

Сбербанк собирается выдавать кредиты под залог криптовалюты(外部)
担保の対象としてビットコイン、イーサリアム、USDTを想定するという、ズベルバンクの発表内容を簡潔に整理したロシアの専門メディアの記事。

【編集部後記】

EU規則の前文に、こんな一節がありました。デジタルルーブルは今後数年のうちに、ロシアの企業や個人、金融機関のあいだで、そして第三国の事業者との取引でも、一般的な決済手段になると見込まれる。

規制する側が、規制対象の普及をここまではっきり予測している文書はあまり見ません。ロシア国内では需要が読めないと言われている通貨を、外側からは広がる前提で塞いでいる。どちらの見立てが当たるのかは、年内には見えてくるはずです。

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By山本 達也

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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