Last Updated on 2026年10月12日 by Co-Founder/ Researcher
Solana財団は「SamsungがSolanaと提携」と発表し、翌日にはSui財団が「SamsungがSuiを選んだ」と発表しました。どちらも正しく、Samsung自身の発表は両方の名前を並べています。米国の8200万台のGalaxyで始まるUSDC送金で、チェーンが2本あるとき、利用者のお金と鍵はどこにあるのでしょうか。
米Samsung Electronics Americaは2026年10月7日、Samsung Walletで米国の対象Galaxy利用者向けにステーブルコイン機能を10月最終週から提供すると発表した。当初扱うのはUSDCで、対応する暗号資産ウォレットへの送金と、60か国超の対象銀行口座への送金ができ、銀行口座の受取人は現地通貨で受け取る。
利用できるのは米国居住の18歳以上で、本人確認と生体認証の設定が必要となる。USDCはBastionが預かり、CoinbaseがサブカストディアンとしてCoinbase Prime Vaultで保管する。ブロックチェーンネットワークのパートナーにはSolanaとSuiが挙がった。提供開始時点で対応する米国のGalaxy端末は8200万台である。
From: Samsung Wallet to Bring Stablecoin Access to Eligible Galaxy Users in the US
【編集部解説】
9月、AppleとSamsungの財布をめぐる記事で、SamsungがGalaxy Unpackedで示したステーブルコイン対応の方針に触れました。その記事では、扱う銘柄、組む相手、時期、対象国は、これから示される段階にあると書きました。今回の発表は、その4つに一度に答えています。銘柄はUSDC、時期は10月の最終週、対象は米国です。そして相手は、1社ではありませんでした。
Samsung自身の発表は、ブロックチェーンのパートナーとしてSolanaとSuiを並べて挙げています。Solana財団は自らとの提携を、Sui財団も自らとの提携を、それぞれ見出しに掲げました。どちらも事実ですが、片方だけを読むと、Samsungが1本のチェーンを選んだように見えます。
Solana財団は、ネットワークの仕組みがSamsung Walletの裏側で動くと説明しています。利用者が別の暗号資産アプリを入れたり、自分でウォレットを作ったり、秘密鍵を管理したりする必要はありません。USDCを預かるのは、米国の金融当局の監督下にあるカストディアンのBastionで、その下でCoinbaseがCoinbase Prime Vaultに保管します。Samsungは脚注で、自らは銀行でも送金業者でもカストディアンでもなく、顧客の資金を持たないと明記しています。
Samsungが担うのは入口であり、お金を預かる役目ではありません。クレジットカードを登録して使うSamsung Payと同じ立ち位置に、ステーブルコインを置いた形です。利用者自身が秘密鍵を管理する必要はなく、端末は生体認証で送金を始める門として働きます。
この設計は、Crypto Verseが大切にしてきた「自分の鍵を自分で持つ」という考え方とは、出発点が違います。ただし、閉じた設計ではありません。Samsung Walletからは、対応する外部のウォレットや取引所の口座へUSDCを送れます。入口は預ける形でも、出口は利用者の手に開いています。鍵を持つことに慣れていない人が、まず預ける形で触れ、必要になったら自分で鍵を持つウォレットへ移す。主権を一度に渡すのではなく、段階的に手にできる道筋だと読めます。
その出口を使うときに、チェーンが2本あることが効いてきます。脚注によれば、送り先は「Samsung Walletが対応するネットワーク上のUSDCを受け付けるウォレットや取引所」に限られます。どちらのネットワークで送るのか、その選び方は今回の各社の発表では示されていません。提供が始まった後の画面で確かめたい点です。
もう一つの使い道が、60か国超の銀行口座への送金です。受取人は暗号資産のウォレットを持たなくても、現地通貨で受け取れます。こちらには手数料がかかり、金額は送り先と送金額によって変わり、確定前にアプリで表示されます。外部ウォレットへの送金にSamsungは手数料を課しませんが、受け取り側の取引所が手数料を取る場合はあると注記されています。
数字の読み方にも触れておきます。見出しに並ぶ「8200万」は、Samsung Walletに対応する米国のGalaxy端末の台数です。利用者の数でも、口座の数でもありません。利用には米国居住の18歳以上であること、本人確認、生体認証の設定が求められます。Samsungのページ冒頭の要約欄は、即時に送れるといった言い回しを使っていますが、送金速度や着金時期の条件は脚注のほうに書かれています。
Solana財団は発表の中で、Solana上のステーブルコイン供給量が前年比で約20%増え、2026年だけで5兆2500億ドルを超えるステーブルコインの取引を処理したと述べています。いずれも財団が示した数値で、集計の方法は添えられていません。PayPalやWestern UnionがすでにSolanaでステーブルコインを扱っていることも挙げており、決済の基盤として選ばれる流れの中に今回の発表を位置づけています。
日本の読者にとっては、まだ利用できないサービスです。Samsungは他の市場への拡大を、各国の規制次第としています。国内でUSDCの売買や他人のための管理を業として行うには、原則として電子決済手段等取引業の登録が必要です。金融庁の一覧に載る登録事業者は、8月27日時点でSBI VCトレードとコインチェックの2社です。SBI VCトレードの案内では、入出庫に対応するのはEthereumネットワーク上のUSDCだけです。SolanaやSui上のUSDCを、そのまま同社へ入庫することはできません。
Samsungは今後、オンラインや店頭のタッチ決済でもステーブルコインを使えるようにする構想を示しています。送金から始まった機能が、日々の支払いへ広がる道筋です。
端末メーカーの財布が、ステーブルコインの入口になる競争が始まりました。9月の記事で問いとして残したのは、その財布に「誰の負債を載せるか」でした。Samsungの答えは、Circleが発行するUSDCを、規制下のカストディアンに預ける形です。チェーンの仕組みを裏側に置き、送り先と金額を中心に操作できる体験を目指す設計です。暗号資産を意識しないまま使われる日常が、米国の8200万台の端末から始まろうとしています。
【用語解説】
ステーブルコイン
米ドルなどの法定通貨と価値が連動するよう設計された暗号資産。価格の変動を抑え、送金や決済に使うことを想定している。
USDC(USD Coin)
Circleが発行する米ドル建てのステーブルコイン。1USDCを1米ドルと交換できるよう、現金と短期の米国債などを裏付けにしている。Ethereum、Solana、Suiなど複数のブロックチェーンで発行されている。
カストディアン/サブカストディアン
顧客の資産を預かって保管する事業者がカストディアン。その委託を受けて実際の保管を担う事業者をサブカストディアンと呼ぶ。今回はBastionがカストディアン、Coinbaseがサブカストディアンにあたる。
秘密鍵
ブロックチェーン上の資産を動かすための署名に使う鍵。持ち主だけが知る情報で、失うと資産を動かせなくなり、他人に知られると資産を移される恐れがある。
電子決済手段等取引業
日本の資金決済法に基づく業種。ステーブルコインなどの電子決済手段の売買・交換や、他人のための管理を業として行うには、原則としてこの登録が必要になる。
Galaxy Unpacked
SamsungがGalaxyシリーズの新製品や新機能を発表するイベント。2026年7月22日にロンドンで開かれ、Samsung Walletのステーブルコイン対応の方針が示された。
【参考リンク】
Samsung Wallet | Samsung US(外部)
Samsungの米国向けSamsung Wallet公式ページ。カード、身分証、搭乗券、デジタルキーなどをスマホにまとめて保管できる。
Solana(外部)
Solana財団が運営するSolanaの公式サイト。高速処理と低手数料を特徴とするレイヤー1ブロックチェーンの技術情報やニュースを掲載。
Sui(外部)
Sui財団が運営するSuiの公式サイト。ガスレスのステーブルコイン送金に対応するレイヤー1ブロックチェーンの情報を掲載。
Bastion(外部)
Bastionの公式サイト。企業のステーブルコイン事業向けに、技術・運用・コンプライアンスの基盤を提供する米国の事業者。
Coinbase Prime(外部)
Coinbaseの機関投資家向けサービスCoinbase Primeの公式ページ。カストディ、取引、融資、ステーキングを提供する。
USDC | Circle(外部)
USDCの発行元Circleによる公式ページ。USDCの仕組みや裏付け資産、対応するブロックチェーンなどを案内している。
【参考記事】
Samsung Partners with Solana to Natively Deliver Stablecoins in Samsung Wallet to 82 Million U.S. Galaxy Devices(外部)
Solana財団の発表。同チェーンのステーブルコイン供給量が前年比約20%増、2026年の取引高は5兆2500億ドル超とする。
Samsung Collaborates with Sui to Bring USDC to Samsung Wallet on 82 Million U.S. Galaxy Devices(外部)
Sui財団の発表。Samsung WalletがSuiをインフラパートナーに選んだとし、手数料なしの送金とSUI非対応を説明。
Coinbase and Samsung bring USDC to Samsung Wallet(外部)
Coinbaseのブログ。USDCをSamsung Walletの既定のステーブルコインとし、保管はCoinbase Primeが担う。
Samsung to launch USDC transfers on Solana for US Galaxy users(外部)
The Blockの報道。Bastion、Coinbase、Solana、Suiの役割と、Coinbaseとの協業の経緯を伝える。
電子決済手段等取引業者登録一覧(外部)
金融庁の電子決済手段等取引業者登録一覧。2026年8月27日時点でSBI VCトレードとコインチェックの2社が登録されている。
【Crypto Verse関連記事】
Samsung Wallet USDC送金提供開始と「チェーンは2本、利用者は鍵を持たない」設計を、より広い文脈で理解するための関連記事をご案内します。Big Tech決済インフラ動向・USDC/ステーブルコイン制度・Solanaエコシステム・カストディ型とセルフカストディの対比を横断的に読むことで、「暗号資産を意識しないまま使われる日常」と「主権を段階的に手にする道筋」が立体的に見えてきます。
Big Tech決済インフラ・ステーブルコイン決済動向
- Appleの求人票が並記したトークン化預金、問いは誰の負債を載せるか → 本記事内で明示的に言及される、9月のApple×Samsung財布記事の直接連動記事。「Apple求人票で問われたトークン化預金/ステーブルコインの選択」「Samsungの答えとしてのUSDC+Bastion+Coinbase」の対比を両記事併読で立体的に理解できます。
- Visa×OpenAI―AIエージェントが買い物する時代、Visaは決済レール提供へ → 本記事のBig Tech決済動向と並ぶ、AI時代の決済インフラ動向。「Samsungの端末ベース決済」「VisaのAIエージェント決済」両軸でのBig Tech決済再編を理解できます。
- Cloudflare「Monetization Gateway」―x402・ステーブルコインでリクエストを取引に → 本記事のBig Tech×ステーブルコイン動向と並ぶ、Cloudflareのステーブルコイン決済インフラ動向。
- トヨタ車をBTCで買える裏側で、BitGoは州認可から国法銀行へ → 本記事の決済実装動向と並ぶ、「暗号資産を日常の支払いに」の別パターン事例。
- 21金融機関のステーブルコイン新会社―利息を封じた側が発行体に回る → 本記事のUSDC動向と並ぶ、銀行連合側のステーブルコイン発行動向。「既存USDCの端末拡大」「G7銀行連合の新SC」の対比を理解できます。
USDC・ステーブルコイン制度
- USDCは35チェーン、日本の窓口はEthereum1本という現実 → 本記事内で明示的に言及される、日本のUSDC制度整備動向。「SamsungはSolanaとSuiで送金」「日本はEthereumのみ入出庫可」のチェーン制約の対比を理解できます。
- SBI VCトレード×リップル―「RLUSD」が国内初の「4号電子決済手段」として取扱い開始 → 本記事内で明示的に言及される、日本の電子決済手段等取引業登録事業者SBI VCトレードの直近動向。
- 【解説】Swift台帳・XRP・USDC|その価値は誰の負債として運ばれるか → 本記事の「誰の負債を載せるか」議論と直接連動する、USDC発行体Circleの凍結能力・設計対比。「Samsungの入口」「Circleの発行体責任」の構造を理解できます。
Solanaエコシステム・Sui関連
- Solana「Alpenglow」、確定は誰でも検証できる証明書に → 本記事のSolanaパートナー動向と並ぶ、Solana本体側のプロトコル改革動向。「決済レール採用」「本体プロトコル改革」両軸でのSolanaの位置づけを理解できます。
- SBI×Solana財団―SBI R3 Japan「SBI Solana Global(仮称)」、日本発オンチェーン金融市場の創出へ → 本記事のSolanaパートナー動向と並ぶ、日本発Solanaを軸にしたオンチェーン金融基盤動向。
- CAC「Pactora」提供開始―未実施の工程まで書いた手順書 → 本記事のSolana動向と並ぶ、日本発のSolana RWA決済基盤動向。
カストディ型とセルフカストディの対比
- au PAYで暗号資産ウォレット提供開始、KDDIら「αU wallet」 → 本記事の直前姉妹記事。「αU walletはノンカストディアル(鍵は手元)」「Samsung Walletはカストディ型(鍵は預け先)」の設計対比を両記事併読で立体的に理解できます。日本と米国の決済ウォレットの出発点の違いが浮かびます。
- MetaMask Agent Wallet の「セルフカストディ」を検算する—鍵の置き場所とガードレールの射程 → 本記事のカストディ設計動向と並ぶ、セルフカストディ型AIエージェントウォレットの実装事例。
日本のステーブルコイン決済インフラ
- デジタルガレージ、ステーブルコイン決済基盤「DG SPS」商用展開を始動―JCB・DGFTへ先行導入予定 → 本記事の日常決済動向と並ぶ、日本のステーブルコイン決済基盤動向。
【編集部後記】
Samsungの役員の言葉は、Solana財団の発表にもSui財団の発表にも載っています。書き出しは同じ一文で、Samsung Walletは役に立つ体験をシンプルで直感的に感じられるものにするためにある、という趣旨です。どちらの財団も、この同じ一文を自らとの提携を伝える言葉として掲げました。
Samsung自身の発表には、海外送金を手元の財布と同じ手軽さに、という別の言葉が載っています。財布の作り手が語っているのは、どのチェーンを選んだかではなく、利用者に何を感じてほしいかのほうでした。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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