中国、台帳は推進し暗号資産の業務は禁じる|新質生産力の意見と8部門通知を読む

中国、台帳は推進し暗号資産の業務は禁じる|新質生産力の意見と8部門通知を読む

Last Updated on 2026年10月12日 by Co-Founder/ Researcher

中国は今年2月、暗号資産(仮想通貨)の関連業務を8部門の通知で改めて厳しく禁じました。その同じ年、党中央と国務院の新しい意見は「国家ブロックチェーンネットワークの建設」を掲げています。しかも両方の文書に、同じ官庁が名を連ねています。推進と禁止の線は、どこに引かれているのでしょうか。

中国共産党中央委員会と国務院は2026年10月9日、「新質生産力の発展に関する意見」を公表した。5方面19項目の施策のうち第9項は、実体経済とデジタル経済の融合として、データの財産権の帰属認定、市場取引、権益分配、利益保護の制度を整え、データ要素の試行・モデル事業を実施するとした。

あわせて国家データ基盤の配置と運営を最適化し、「東数西算」などの事業を進め、全国一体化の計算資源網と国家ブロックチェーンネットワークを建設するとしている。第14項は全国一体化のデータ市場の建設を、第17項は効率的で便利かつ安全な越境データ流通の仕組みの構築を掲げた。

From: 受权发布丨中共中央 国务院关于发展新质生产力的意见(新華社)

中国の新しい意見で、ブロックチェーンが出てくるのは1か所だけです。第9項の中で、データの財産権や取引の制度、全国一体化の計算資源網と並んで、「国家ブロックチェーンネットワークの建設」が置かれています。暗号資産やトークンへの言及はありません。

ブロックチェーンは、ここでは「データを流通させるための基盤」の一部として扱われています。この位置づけを押さえると、同じ年に中国が出した別の文書と、一本の線でつながります。

国家ブロックチェーンネットワークは、新しい言葉ではない

国家ブロックチェーンネットワークは、2026年3月に批准された第15次5カ年計画の要綱に、すでに「建設事業を実施する」と書かれていました。今回の意見は、それを国の方針として改めて書き込んだものです。

その性格は、これまでの公表資料からも読み取れます。北京市は2023年11月、データ制度の先行区の設置にあわせて「国家ブロックチェーンネットワークのハブ」を建設すると発表しました。北京市政府のサイトに掲載された記事では、研究機関の担当者が、プライバシー計算と融合したブロックチェーン技術を使い、政務、工業、金融、エネルギー、医療などの重要なデータを、安全を前提に流通させる基盤になると説明しています。

2024年12月に国家発展改革委員会(NDRC)や国家データ局などが出したデータ産業の指導意見も、ブロックチェーンを、プライバシー計算や匿名化と並ぶ「データの信頼できる流通技術」に位置づけています。

2026年8月に公表された上海市の「数字上海」第15次5カ年計画は、国家ブロックチェーンネットワークの上海ハブを高度化するとしました。金融サービスや海運物流での活用、ブロックチェーン上の信用状や、電子船荷証券といった貿易の場面も挙げています。

公表資料では、国家ブロックチェーンネットワークは、安全で信頼できるデータ流通を支える基盤として位置づけられています。金融や貿易への応用も含まれます。ただし、そうした基盤を育てることと、暗号資産を自由に発行・取引できるようにすることは、別の政策です。

同じ年の2月、暗号資産の業務は改めて禁じられた

2026年2月6日、中国人民銀行、NDRC、工業情報化部、公安部など8部門は「暗号資産等の関連リスクのさらなる防止と処置に関する通知」(銀発〔2026〕42号)を出しました。2021年の10部門の通知を廃止し、置き換える文書です。原文の「虚拟货币」を、ここでは暗号資産と訳しています。日本の法令上の「暗号資産」と、分類が完全に一致するわけではありません。

通知は、ビットコイン、イーサ、USDTなどの暗号資産について、通貨当局が発行したものではなく、法定通貨と同じ法的地位を持たないと定めています。関連する業務は違法な金融活動として、国内で厳しく禁じられました。金融機関は、関連業務への口座開設や資金決済を提供できません。マイニングは、NDRCが関係部門と整理を進め、既存の事業を洗い出して停止させ、新規の事業を厳禁としています。社名や事業の範囲に「暗号資産」「ステーブルコイン」「RWA」の語を使うことも禁じています。

ステーブルコインについては、関係部門が法令・規則に従って同意しない限り、国内外の誰であっても、人民元に連動するステーブルコインを国外で発行してはならないとしました。

RWA(現実資産のトークン化)は、国内での活動と、その仲介や技術サービスの提供が禁じられました。この禁止の例外は一つだけで、業務の主管部門が法令・規則に従って同意し、「特定の金融インフラ」に依拠して行う業務です。どの基盤がこれに当たるかは、通知には書かれていません。国内の主体が国外で行うRWA業務については、別の項で監督の対象としています。

注目したいのは、通知が「ブロックチェーン」という語を使っていない点です。暗号資産の特徴は「暗号技術と分散型台帳、またはそれに類する技術を使う」と書かれています。規制の対象は技術そのものではなく、その上で行う業務です。

同じ官庁が、台帳を推し、暗号資産の業務を禁じる

NDRCは、今回の意見の実施で中央財経委員会弁公室とともに統括役を担う官庁です。そのNDRCと工業情報化部は、2月の通知を出した8部門にも名を連ねています。マイニングの整理を進めるのも、NDRCです。

矛盾しているように見えますが、二つの文書を並べると、台帳技術の活用と、暗号資産関連の業務への規制を分けていることが分かります。分散型台帳は、データを安全に流通させる国の基盤として推し進める。暗号資産関連の業務は厳しく禁じる。国内のRWA業務は原則として禁じ、主管部門の同意を得て特定の金融インフラに依拠する場合だけを例外とする。人民元連動のステーブルコインの国外発行や、国外でのRWA業務にも、それぞれ別の規制を置いています。

なお、意見の最終章には「実体経済を離れて金融や投機に偏ってはならない」という一文があります。これは実体経済から離れて金融や投機などに偏ることへの戒めで、暗号資産を名指ししたものではありません。

【追記(2026年10月12日)】この戒めが意見全体のなかでどう位置づけられているかについては、私がCryptoverseのパートナーメディアであるinnovaTopiaで書いた「【解説】中国の新質生産力の意見が「一斉に飛びつくな」と戒める理由|未来産業は既出の6分野」で掘り下げています。NDRCが挙げた是正すべき問題や、2024年3月の習近平国家主席の発言以来の経緯、盲目的な投資で重大な損失を出した場合に責任を追及すると明記した点、未来産業の6分野が5カ年計画と同じ顔ぶれである点まで、意見本文の読みを扱っています。

「人間の主権」から見た、この設計

ビットコインが示したのは、信頼できる第三者に頼らず、参加者のネットワークで取引を検証する仕組みでした。国家ブロックチェーンネットワークは、同じ系譜の技術を使いながら、国が主導して敷く基盤です。上海市の計画には、分散型のノード管理の仕組みを整え、ノードをクラウドや地域をまたいで接続しやすくする方針もあります。ただ、確認できた資料だけでは、全国共通の運営体制や参加の条件の全体像は分かりません。

Crypto Verseでは、10月3日の記事で、AWSのAmazon Managed Blockchainの終了をきっかけに「ノードは誰が持つか」を問いました。国家ブロックチェーンネットワークは、同じ問いを国家の規模で投げかけています。6月20日の記事で扱ったデジタル人民元の越境決済網CBETSも、国が設計する決済の基盤という点で、同じ流れの上にあります。

日本では、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業に登録制度があり、要件を満たした事業者が業務を営みます。電子決済手段の発行には、取引業とは別の要件が課されます。暗号資産の交換やトークン発行による資金調達などの関連業務を、中国本土で厳しく禁じる制度とは、出発点が違います。

中国発の「ブロックチェーン」のニュースを読むときは、それが台帳の話なのか、暗号資産の話なのかを分けて見ることが欠かせなくなりました。台帳への投資が増えても、それは暗号資産の解禁を意味しません。逆に、暗号資産の業務を禁じていても、分散型台帳の技術を手放しているわけではありません。国家ブロックチェーンネットワークが、どのような参加の形で、どこまで開かれた基盤になるのか。第15次5カ年計画の期間中に示される具体的な設計が、その答えになります。

【用語解説】

国家ブロックチェーンネットワーク
中国が国家事業として建設を進めるブロックチェーンの基盤。中国語では「国家区块链网络」。第15次5カ年計画の要綱と新質生産力の意見に記載があり、北京や上海にハブが置かれている。

東数西算
東部で生まれるデータ処理の需要を、電力や土地に余裕のある西部のデータセンターに振り向ける中国の国家事業。

RWA(現実資産のトークン化)
不動産、債券、ファンドなど現実の資産の権利を、ブロックチェーン上のトークンとして表す仕組み。中国語では「现实世界资产代币化」。

ステーブルコイン
法定通貨などに価値を連動させるよう設計されたトークン。中国の通知は、人民元に連動するステーブルコインの無承認での国外発行を禁じている。

プライバシー計算
データの中身を相手に見せないまま、集計や分析などの計算を行う技術の総称。秘密計算や連合学習などを含む。

分散型台帳
複数の参加者が同じ記録を持ち合い、合意の仕組みで更新していく台帳。ブロックチェーンはその代表的な方式である。

ノード
ブロックチェーンのネットワークに参加し、記録の保持や検証を担うコンピューター。誰がノードを運営できるかで、ネットワークの開かれ方が決まる。

電子決済手段
日本の資金決済法で定められた区分で、法定通貨に価値が連動するステーブルコインなどが含まれる。取り扱う事業者には登録制度がある。

【参考リンク】

中国証券監督管理委員会|虚拟货币等相关风险的通知(银发〔2026〕42号)(外部)
2026年2月6日付の8部門の通知の全文。暗号資産関連業務の禁止、ステーブルコインの国外発行、RWAの例外条件を定める。

新華社|第十五个五年规划纲要(全文)(外部)
2026年3月に批准された第15次5カ年計画要綱の全文。第2篇第7章第4節に、国家ブロックチェーンネットワークの建設事業がある。

上海市人民政府|上海市“数字上海”建设“十五五”规划(外部)
2026年8月公表の上海市の計画。国家ブロックチェーンネットワーク上海ハブの高度化や、ブロックチェーン上の信用状を挙げる。

国家データ局|关于促进数据产业高质量发展的指导意见(外部)
2024年12月の6部門の指導意見(发改数据〔2024〕1836号)。ブロックチェーンを、データの信頼できる流通技術に位置づける。

【参考記事】

严格禁止!8部门联合发文进一步防范和处置虚拟货币等相关风险(外部)
新華社が2026年2月6日に配信した、8部門の通知の解説記事。暗号資産、ステーブルコイン、RWAに関する規定の要点を伝える。

保障高价值数据安全高效流转 北京将建国家区块链网络枢纽(外部)
北京市政府サイトに掲載された2023年11月の記事。データ制度の先行区で、国家ブロックチェーンネットワークのハブを建設するとした。

《上海市“数字上海”建设“十五五”规划》解读(外部)
上海市政府による計画の解説。上海ハブを「数字上海」の重点に位置づけ、分散型のノード管理の仕組みなどを整える方針を説明している。

国家发展改革委有关负责同志就《关于发展新质生产力的意见》答记者问(外部)
NDRCの担当者が新質生産力の意見の狙いを説明した一問一答。意見を出した理由や、5カ年計画と結びつけた実施の進め方を挙げている。

【編集部後記】

通知の最後の項には、投資する個人に向けた一文があります。暗号資産やRWAのトークンなどへの投資が公序良俗に反する場合、その民事上の行為は無効とされ、損失は本人が負うと定めています。

禁止の網は主に業務にかかり、個人の保有そのものを罰する書き方ではありません。それでも、公序良俗に反すると判断されれば、損をしても法による救済は受けられません。台帳は国が敷き、その外側で動く価値は自己責任に置かれる。この線引きが、中国の利用者の行動をどう変えていくのかを追いかけたいと考えています。

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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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By山本 達也

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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