Last Updated on 2026年9月22日 by Co-Founder/ Researcher
ボリビアの正規ディーラーで、トヨタ車をビットコインで買えるようになりました。ただ、1年前の発表と並べると、もう一つ入れ替わっているものがあります。決済のウォレット基盤を出している会社が、州の認可を受けた信託会社から、連邦の監督下にある国法信託銀行に変わっていました。
TOYOSAは2026年9月18日、サンタクルスのExpocruz 2026で、トヨタ車をビットコインで購入できるようにすると発表した。ボリビアーノ、米ドル、USDTに続く4つ目の手段となる。取引処理はTowerbank、ウォレット基盤はBitGo Bank & Trust, National Associationが担う。同行はOCC(米国通貨監督庁)が規制するデジタル資産の信託銀行で、BitGo Holdings, Inc.(NYSE: BTGO)の子会社である。
TOYOSAは2025年9月にUSDT決済を導入しており、その拡張にあたる。ボリビアでは2024年6月のBCB決議082/2024で、仮想資産の売買に電子決済の手段を使うことが認められたが、法定通貨はボリビアーノのみである。
From: TOYOSA revoluciona la industria automotriz al incorporar Bitcoin como medio de pago
【編集部解説】
1年で入れ替わっていた「決済基盤の法人格」
見出しだけを読むと、ボリビアでトヨタ車がビットコインで買えるようになった、という話に見えます。それはその通りです。ただし、この1年で動いたものがもう一つあります。決済を支えるウォレット基盤を提供する会社の法人格です。
TOYOSAが2025年9月にUSDT決済を始めたとき、提携先として名前が挙がったのは BitGo Trust Company, Inc. でした。米サウスダコタ州の認可を受けた信託会社です。
今回のリリースに並んでいる名前は違います。BitGo Bank & Trust, National Association。2025年12月12日、米国通貨監督庁(OCC)はBitGo Trust Company, Inc.の国法信託銀行への転換を条件付きで承認しました。最終承認を得たとBitGoが公表したのは2026年1月です。親会社のBitGo Holdings, Inc.が同月22日にニューヨーク証券取引所へ上場したことと合わせての発表でした。州の認可を受けた信託会社から、連邦の監督下にある国法信託銀行へ移ったということです。
今回の発表でBitGo Bank & Trustが担うのは、決済処理のフローを支える機関向け水準のウォレット基盤です。取引処理のプラットフォームはTowerbankが提供します。BitGoが代金の受取人になるとも、受け取ったビットコインの最終的な保有者になるとも公表されていません。それでも、ウォレット基盤を提供するBitGo法人が、州認可の信託会社からOCC監督の国法信託銀行へ転換したうえで今回の決済を支えているという事実は残ります。TOYOSAのリリースが正式名称を省かず「OCCが規制するデジタル資産の信託銀行であり、BitGo Holdings, Inc.(NYSE: BTGO)の子会社」と書き切っているのも、そこが訴求点だからです。
USDTとビットコインでは、受け取る側の仕事が変わる
支払い手段が増えた、という以上の違いもあります。
USDTはTether社が発行し、同社が裏付け資産を持つトークンです。米ドルに連動するよう設計されているため、車両価格をドル建てで提示していれば、受け取った時点で金額はほぼ確定します。
ビットコインには発行体がいません。価格は市場が決めます。車1台という単位で受け取るなら、どの時点のレートで何ボリビアーノ分と見なすのかという換算の取り決めが、必ずどこかに要ります。この算定方法と、受け取ったビットコインを保有し続けるのか、その場で法定通貨に換えるのかは、公表されていません。
ここは区別しておきたい点です。公表されている材料から確実に言えるのは、顧客がビットコインで支払えるということまでです。TOYOSAがビットコインを自社の資産として積み増している、という話ではありません。世界の上場企業がビットコインを財務に組み入れる動きと、この件は別の現象として読む必要があります。
ビットコインをオンチェーンで受け取るなら、承認(コンファメーション)の扱いが高額決済の要になります。ブロック生成はおよそ10分間隔で、何ブロック待ってから車を引き渡すかを決めておかなければならないからです。ただし、TOYOSAが採用する決済方式も、利用できるウォレットも、必要な承認数も、まだ公表されていません。9月21日時点の決済案内ページに載っているのはUSDTの手順で、対応ネットワークとしてPolygon、BNB、Tron、Ethereumの4つが示されています。ビットコイン向けの手順は確認できません。
ドル不足が開けた扉
この取り組みは、ボリビアという場所を抜きには読めません。
2024年6月25日、ボリビア中央銀行(BCB)は決議082/2024を出し、2020年12月の決議144/2020を失効させました。これによって、仮想資産の売買に電子決済のチャネルと手段を使うことが認められました。ビットコインが法定通貨になったわけでも、仮想資産の取引そのものが新たに合法化されたわけでもありません。動いたのは、仮想資産の売買に電子決済のチャネルと手段を使えるかどうか、という点です。背景にあるのは慢性的な米ドル不足で、企業も個人も、国際的な支払いや価値の保存に別の道を探していました。
BCBはこの見直しから1年の節目に数字を公表しています。2025年6月27日の発表によれば、電子決済のチャネルと手段を通じた仮想資産取引額は、2024年上半期の4,650万ドルから2025年上半期には2億9,400万ドルへ、およそ6倍に増えました。決議082/2024以降の累計は4億3,000万ドルです。1年以上前の数字ではありますが、規制の見直しの前後で何が起きたかを示す材料としては足ります。
同時に、BCBははっきり線を引いています。ボリビアーノが唯一の法定通貨であり、個人にも事業者にも仮想資産を受け取る義務はない。使う人がリスクを負う。今回TOYOSAがビットコインを受け取るのは、法律が求めたからではなく、企業がそう決めたからです。この順番は押さえておきたいところです。
日本から見ると何が見えるか
日本でも、ステーブルコインを決済に使う動きは具体化しています。円建てのJPYCは資金決済法のもとで資金移動業型の電子決済手段として発行されており、発行体がいて、価値を誰かの負債として運ぶ設計です。
ボリビアの今回は、その一歩外側にあるビットコインそのものを支払い手段に加えた点で異なります。誰の負債でもない資産が、正規ディーラーの支払い手段に並ぶ。字面だけ取れば、日本の実装より先に行っているように見えます。
ただ、その流れを支えているのは規制された金融機関です。この事例が示しているのは、決済として成立するかどうかがチェーンの設計だけで決まるわけではない、ということです。受け取る側がどの監督下にいて、どんな帳簿と運用を持っているかが、同じくらい効いてきます。JPYCが資金決済法の枠組みに置かれていることと、ビットコインのウォレット基盤がOCC認可の信託銀行のものであることは、同じ問いに対する別の答えです。ボリビアが先行しているというより、両者は違う入口から同じ場所に向かっています。
そしてこの構図は、悲観する話ではありません。暗号資産を持つ人が、それを売って現金に替えるのではなく、そのまま車という現実の買い物に使える場所が一つ増えた。これは小さな出来事ではないからです。
その選択肢がどこまで本当に使えるものなのかを判断するには、現時点で公表されていない手順の確認が必要です。利用できるウォレット、必要な承認数、レートの算定時点。これらが具体化すれば、ラテンアメリカの自動車販売がどこまで来たのかが、もう一段はっきり見えてきます。
【用語解説】
国法信託銀行(National Trust Bank)
米国の連邦法にもとづき認可され、OCCの監督を受ける銀行のうち、信託業務を専門に行うもの。州ごとの認可を取り直さずに全米で業務を展開できる点が、州認可の信託会社との大きな違いである。預金業務を行わないため、預金保険の対象にはならない。
州認可の信託会社
米国では信託業は州が認可する制度が長く使われてきた。サウスダコタ州は信託業に適した法制で知られ、デジタル資産の保管事業者が拠点を置く例が多い。業務を他州へ広げるには、州ごとの手続きが必要になる。
承認(コンファメーション)
ブロックチェーン上の取引が、ブロックに取り込まれて確定していく過程を指す。後続のブロックが積み上がるほど取引は覆りにくくなる。ビットコインのブロック生成はおよそ10分間隔で、高額の決済では何ブロック待つかを取り決めておく必要がある。
ボリビアーノ
ボリビアの法定通貨。通貨コードはBOB。BCBは、ボリビアーノが国内で唯一の法定通貨であるという立場を繰り返し示している。
決議082/2024
BCBが2024年6月25日に出した理事会決議。2020年12月15日の決議144/2020を失効させ、仮想資産の売買に電子決済のチャネルと手段を使うことを認めた。仮想資産そのものを法定通貨としたわけではない。
電子決済のチャネルと手段
銀行口座、カード、モバイルウォレットなど、金融システムを通じて資金を動かすための経路と道具を指すボリビアの制度用語。決議082/2024で解けたのは、この経路を仮想資産の売買に使えるかどうかという部分である。
ステーブルコイン
法定通貨などに価値を連動させるよう設計された暗号資産。発行体が裏付け資産を持つ型が主流で、価格が市場で決まるビットコインとは設計思想が異なる。
USDT
Tether社が発行する、米ドルに連動するよう設計されたステーブルコイン。複数のブロックチェーン上で発行されており、送る側がネットワークを選ぶ必要がある。
電子決済手段
日本の資金決済法における区分。円建てステーブルコインのJPYCは、資金移動業者が発行する電子決済手段として位置づけられている。
【参考リンク】
TOYOSA S.A.(外部)
ボリビアでトヨタ、レクサス、ヤマハなどの正規輸入販売を手がける企業。サンタクルスに本拠を置き、国内各地に販売の拠点を持つ。
TOYOSA USDT決済案内(外部)
USDTでの支払い手順を案内するTOYOSAの専用ページ。見積、ネットワークの選択、QRコードの読み取りという流れを示す。
BitGo(外部)
2013年創業のデジタル資産インフラ企業。カストディ、ウォレット、決済の基盤を機関向けに提供する。親会社はNYSE上場。
BitGo「OCCの承認を取得」(外部)
BitGo Trust Company, Inc. から BitGo Bank & Trust, N.A. への転換に関する同社の発表。
Towerbank(外部)
1971年に設立されたパナマの銀行。暗号資産に親和的な銀行を掲げ、ラテンアメリカ各国で法人と個人向けの金融サービスを営む。
Office of the Comptroller of the Currency(外部)
米国財務省の外局として1863年に設置された監督当局。国法銀行、連邦貯蓄組合、外国銀行の米国支店を認可し、監督にあたる。
OCC「5件の国法信託銀行認可を条件付き承認」(外部)
BitGoを含む5件の国法信託銀行認可を条件付きで承認したと伝えるOCCのリリース。2025年12月12日付で公表された。
Banco Central de Bolivia(外部)
ボリビア中央銀行。金融政策と決済システム、統計を所管する。仮想資産に関する規則や利用状況の公表も、この中央銀行から出ている。
BCB「ASFI・UIFと連携し仮想資産の規則を更新」(外部)
決議082/2024により決議144/2020を失効させたと伝えるBCBの発表。今回の規制変更を確認できる一次資料にあたる。
【参考記事】
Toyosa adds BTC alongside USDT for Toyota purchases(外部)
TOYOSAのビットコイン決済導入を伝えた英語記事。BitGoが基盤を提供すること、決済案内ページの現状にも触れている。
Toyosa habilita pagos con BTC para comprar vehículos Toyota en Bolivia(外部)
スペイン語の暗号資産メディアによる記事。2025年の座組みと、決議082/2024が変えた範囲をあらためて整理している。
Bolivia registra auge histórico en operaciones con activos virtuales y supera 430 millones de dólares en un año(外部)
BCBの2025年6月27日の発表を伝えた記事。累計で4億3,000万ドルという数字と、ASFIによる集計を併せて扱っている。
Transacciones digitales pasan en un año de $us 46,5 MM a $us 294 MM(外部)
BCBのロランド・オルモス金融機関部長による説明をまとめた記事。集計の対象となる期間と、利用した人々の内訳に触れている。
Transacciones con criptoactivos en un año aumentan de $us 8 a 80 millones al mes, según el BCB(外部)
月ごとの平均の推移を扱った記事。2024年上半期の月800万ドルから、8,000万ドルへというBCBの説明を伝えている。
Toyosa S.A. & Crown Ltda. Announces Landmark Alliance with BitGo, Tether and Towerbank(外部)
2025年のUSDT決済導入を伝えるTOYOSAとCrown Ltda.の公式リリース。当時の提携先がどこだったかを確認できる。
【Crypto Verse関連記事】
TOYOSAトヨタ車BTC決済とBitGoの国法信託銀行転換を、より広い文脈で理解するための関連記事をご案内します。ステーブルコイン決済インフラの国際比較・日本の電子決済手段動向・機関金融インフラのオンチェーン化・BTC企業戦略とカストディを横断的に読むことで、「暗号資産で買える」の裏側で動く法人格の意味が立体的に見えてきます。
ステーブルコイン決済インフラ・国際比較
- 【解説】Swift台帳・XRP・USDC|その価値は誰の負債として運ばれるか → 本記事の直近姉妹記事。「BTCは誰の負債でもない」議論と「トークン化預金・XRP・USDCの3設計対比」を両記事併読で立体的に理解できます。TOYOSAが法定通貨・USDT・BTCと3つの負債構造を並べる意味が浮かびます。
- JPYCの乖離を埋めたのは発行上限ではない|供給2.2倍の24時間 → 本記事の直近姉妹記事。「ボリビアBTC決済」「JPYC海外板」いずれも日本や新興国から暗号資産決済が具体化していく事例。発行体側の運用と決済需要の関係を対比して理解できます。
- AllUnity×Zebec、EURAUによる従業員福利厚生・法人決済をStellarで開始─MiCAR準拠ステーブルコインが実用フェーズへ → 本記事の実装フェーズ動向と並ぶ、欧州MiCAR準拠ユーロ建てステーブルコイン実用事例。「ボリビアのBTC決済」「欧州のEURAU決済」の対比を理解できます。
- Polygon、ステーブルコイン送金で全チェーン首位に—取引件数でSolana・BNB Chainを抜いた「決済レイヤー」戦略 → 本記事のUSDT対応ネットワーク動向(Polygon・BNB・Tron・Ethereum)と直接連動する、ステーブルコイン決済インフラ動向。
- Tether Gold(XAU₮)がLedn上陸、230億ドルの金が暗号資産担保ローンに → 本記事のUSDT発行体Tetherの並走事例。決済用途と担保用途、両軸でのTether戦略を理解できます。
日本のステーブルコイン・電子決済手段
- 【解説】JPYC×AZ-COM丸和|10億円超の出資検討と2300社B2B決済を構造で検証 → 本記事内で明示的に言及されるJPYCの動向。「ボリビアはBTC」「日本はJPYC(資金移動業型電子決済手段)」の対比を理解できます。
- JPYSC始動―SBI・Startaleが国内初の信託型円ステーブルコインを発行 → 本記事の日本制度動向と並ぶ、信託型円ステーブルコイン制度整備動向。
- SBI VCトレード×リップル―「RLUSD」が国内初の「4号電子決済手段」として取扱い開始 → 本記事のドル建てステーブルコイン動向と並ぶ、日本市場での取扱動向。
- USDCは35チェーン、日本の窓口はEthereum1本という現実 → 本記事のマルチネットワーク動向と並ぶ、日本のUSDC制度整備動向。
機関金融インフラ・カストディ・国法信託銀行
- BNY、Digital Transfer Agencyでファンドの原簿をパブリックチェーンへ → 本記事のOCC監督下カストディ動向と並ぶ、伝統的カストディアン(BNY)のオンチェーン化事例。「BitGoは新興カストディ→国法信託銀行」「BNYは既存機関金融→パブリックチェーン」の両側面の動きを理解できます。
- MUFG、国債レポをオンチェーンへ―権利は振替国債のまま帳簿と連動 → 本記事の機関金融オンチェーン動向と並ぶ、日本の機関金融オンチェーン実装事例。
BTC企業戦略・トレジャリー
- Strategy、10週間で6,916BTCを原価割れ売却──代金はSTRC買い戻しと配当へ → 本記事の「TOYOSAはBTCを財務積み増していない」議論と対比される、企業BTCトレジャリー動向。「保有型トレジャリー」「決済受入」の設計対比を理解できます。
米国規制動向・ステーブルコイン凍結能力・OCC監督
- ステーブルコイン「凍結」の定義なきまま―ABAが求めた4点 → 本記事のOCC監督動向と並ぶ、GENIUS法とFDIC規則制定動向。「BitGoの国法信託銀行転換」「ステーブルコイン発行体の凍結義務」いずれも米国連邦当局の暗号資産関与深化を理解できます。
- CLARITY Act否決、止まったのは法案ではなく「入口」 → 本記事の米国連邦当局動向と並ぶ、米国の暗号資産市場構造法案動向。
【編集部後記】
BitGoのサイトを末尾までたどると、小さな文字で断り書きが並んでいます。カストディされたデジタル資産はBitGoが保証するものではなく、連邦預金保険公社(FDIC)の保護対象でもない。国法信託銀行になっても、そこは変わりません。
「銀行」という語は、預けたお金が守られる印象を連れてきます。ただ今回その語が意味するのは、監督の枠組みが連邦に一本化されたということであって、預金保険がついたということではありません。同じ単語の中に、まだ二つの温度差が残っています。

