Last Updated on 2026年9月26日 by Co-Founder/ Researcher
銀行をまたぐトークン化預金の決済を、どう成立させるか。8月に43社が検証を始めたこの問いが、1か月後、業界団体の議題として現れました。体制図を開くと、技術部会はほかの部会の要望を受けて動く位置にあります。お金のルールは、どの順番で、誰の視点から書かれていくのでしょうか。
一般社団法人デジタル通貨イノベーション機構(DCIO)は2026年9月25日、東京都内で記者会見を開き、10月1日から本格的な活動を始めると発表した。2020年に発足したデジタル通貨フォーラムを改組し、7月1日に設立した。トークン化預金を中核とするデジタル通貨・決済インフラの整備と社会実装を掲げ、市場環境の整備、標準化、政策提言に取り組む。
代表理事は元財務事務次官の勝栄二郎氏、エグゼクティブアドバイザーは前日本銀行総裁の黒田東彦氏である。理事には3メガバンク系、ゆうちょ銀行、SBI新生銀行、GMOあおぞらネット銀行の役員が就いた。9月25日時点で、40社以上が入会を決定または検討している。
From: デジタル通貨イノベーション機構、10月に活動スタート
【編集部解説】
8月28日、トークン化預金の銀行間決済を検証する43社の実証を取り上げました。論点は送金の速さではなく、銀行どうしの決済を最後にどの資産で終えるのか、でした。
その問いが、1か月後に別の場所で現れました。DCIOの会見で山岡浩巳副代表理事は、銀行部会で早く結論を出したい課題として、トークン化預金をA銀行とB銀行のあいだでどう交換するかを挙げています。候補として示されたのは、中央銀行に預金を持つ特別な銀行を介する方式や、ホールセールCBDCと銀行預金を連動させて同時に決済する方式です。
銀行をまたぐトークン化預金の決済を、どう成立させるか。8月の実証が具体的な方式を検証していたこの問いを、DCIOは業界で合意を形成していく課題として掲げました。実証で検討されている方式と、山岡氏が例示した方式は同じではありません。受け継がれたのは方式ではなく、問いのほうです。
席に着く顔ぶれも変わりました。8月の実証の名簿に、3メガバンクとゆうちょ銀行、SBI新生銀行の名前はありませんでした。DCIOでは、これらの役員が理事に並び、3メガの会長・社長が特別顧問に就いています。両方に名前があるのは、実証の代表銀行を務めるGMOあおぞらネット銀行と、申請代表のDCPです。
では、ルールはどの順番で書かれるのでしょうか。発表資料の体制図が、その手がかりになります。
部会は3つ置かれる予定です。銀行部会は、金融機関が協調領域で市場環境の整備や制度設計、標準化を検討する場。ユーザー部会は、産業・地域・生活者の視点から、法人間の商取引や地域社会などのテーマの標準化を検討する場です。そして技術部会は、他の部会で整理された課題や制度設計の要望をもとに、技術面の対応と標準化を担うと説明されています。
この体制図では、技術部会は、銀行部会やユーザー部会が整理した課題や要望を受けて技術面を検討する位置づけです。パブリックチェーンにも、公開の場で提案し、議論し、採否を決める手順があります。DCIOは、預金という既存の法的な枠組みを出発点に、銀行や利用者の側の課題を部会のあいだで受け渡す構成を明示しました。何を議論の入口に置くかの違いが、体制図に表れています。
その順番の中で、利用者の声はどこから入るのか。体制図で「生活者」という言葉が出てくるのは、ユーザー部会の説明の中です。
現時点で理事に名を連ねる企業は、銀行・金融グループの6社と、事務局を務めるDCPです。発表資料は、今後、地方銀行や金融インフラを担うIT系企業からも理事を迎えるとしています。会員名は10月以降に公表される予定で、9月25日時点では40社以上が入会を決定、または検討している段階です。ユーザー部会にどのような事業者や自治体が加わるのかが、この機構の性格を知る最初の手がかりになりそうです。
もう一点、押さえておきたいことがあります。DCIOは自らを、幅広い主体が利用できるインフラを整える「包摂的・中立的な社団法人」と位置づけています。一方で、事務局は前身のフォーラムから引き続きDCPが務め、所在地もDCPと同じ住所です。DCPは、トークン化預金のプラットフォーム「DCJPY」を提供する事業者です。
フォーラムの運営を担ってきた経緯を考えれば、自然な引き継ぎでもあります。そして発表資料は、活動の柱の一つに、官民やプラットフォーム相互間の連携・相互運用を掲げています。中立性は、異なるプラットフォームとの相互運用に加え、標準づくりへの参加や意思決定がどれだけ開かれていくかによって、これから確かめられていくことになります。
銀行部会が向き合う決済方式の選択も、同じ問いにつながっています。金融市場インフラに関する国際原則は、実行可能で利用できる場合には中央銀行マネーで資金決済することを求め、民間銀行マネーを用いる場合にも、信用リスクと流動性リスクを厳格に管理することを求めています。山岡氏が例示したホールセールCBDCとの同期決済は、中央銀行マネーを銀行間の決済に使う方向の選択肢といえます。どの方式を選ぶかは、決済の最後に誰の負債が受け渡されるのかを決めることでもあります。
山岡氏は、ステーブルコインではなくトークン化預金に注力してきた理由として、企業間決済への注目、銀行の信用仲介機能の維持、本人確認やマネーロンダリング対策のノウハウの活用を挙げました。
【追記(2026年9月26日)】3メガが同時に進めているもう一本の線については、私がCryptoverseのパートナーメディアであるinnovaTopiaで書いた「3メガ、トークン化預金の新機構で理事に|ステーブルコインと並ぶ2つの線」で扱っています。PIPの支援を受けた共同発行ステーブルコインで2026年度中の実取引開始をめざしている点まで含め、実証・政策・標準化という3つの側面から整理しています。
トークン化預金も、利用者が発行銀行に対して持つ預金債権です。取引にはブロックチェーン上の記録を使いますが、発行銀行とプラットフォーム運営者がそれぞれ何を担うかは、設計によって異なります。ステーブルコインにも、利用者自身が秘密鍵を管理する持ち方と、事業者に管理を委ねる持ち方があります。誰に対する請求権を持ち、誰が移転を管理するのか。利用者が何を自ら管理できるかは、預金かステーブルコインかという区分に加え、方式ごとの設計にも左右されます。
勝栄二郎代表理事は設立の背景として、デジタル通貨が社会実装の段階に移ったこと、そして欧州で民間銀行・中央銀行・産業界が連携するコンソーシアム型の標準化が進んでいることを挙げています。日本でも7月21日に閣議決定された骨太の方針2026に、トークン化預金を含むオンチェーン金融の推進が書き込まれました。
DCIOは10月1日から本格的な活動を始め、予定する部会で市場環境の整備や標準化などを検討していきます。実証で浮かび上がった決済の問いに、どのような合意が形になるのか。その議論に、どの利用者の視点が加わっていくのか。会員名簿が公開される10月以降、この機構の輪郭は、名前の並びから少しずつ見えてくるはずです。
【用語解説】
トークン化預金
銀行預金をブロックチェーン上でトークンとして表現したもの。預金であることは変わらず、利用者は発行銀行に対する預金債権を持つ。
ステーブルコイン
価値の安定を目的とするデジタル資産。日本では資金決済法上の電子決済手段にあたり、預金ではない。保有方法には、利用者自身が秘密鍵を管理する形と、事業者に管理を委ねる形がある。
ホールセールCBDC
中央銀行が金融機関どうしの取引向けに発行するデジタル通貨。個人が使うリテール型と区別される。
中央銀行マネー
中央銀行の負債として存在するお金。金融機関が中央銀行に持つ当座預金や、現金がこれにあたる。
金融市場インフラに関する国際原則
CPMIとIOSCOが定めた、決済システムなど金融市場インフラの安全性と効率性に関する原則。資金決済について、実行可能で利用できる場合には中央銀行マネーを用いることを求めている。
信用仲介機能
銀行が預金として集めた資金を、貸し出しとして企業や個人に回す働き。
相互運用
異なるシステムやプラットフォームのあいだで、データや価値を受け渡せる状態。
オンチェーン金融
ブロックチェーン上で資金決済や資産の移転を行い、商流・物流のデータと連動させる金融の仕組み。骨太の方針2026で推進が明記された。
【参考リンク】
一般社団法人デジタル通貨イノベーション機構(DCIO)(外部)
トークン化預金を中核とする決済インフラの整備と標準化を掲げる一般社団法人の公式サイト。2026年10月1日に本格的な活動を始める。
株式会社DCP(DCJPY)(外部)
トークン化預金のプラットフォーム「DCJPY」を提供する事業者の公式サイト。前身のフォーラムから続けてDCIOの事務局を務めている。
Principles for financial market infrastructures|BIS(外部)
CPMIとIOSCOが定めた金融市場インフラの国際原則の概要ページ。中央銀行マネーでの資金決済を扱う原則9もここに含まれている。
【参考記事】
「デジタル通貨フォーラム」が一般社団法人に改組、『トークン化預金』の社会実装を本格化へ(外部)
会見で示された銀行・技術・ユーザーの3部会の構成と、銀行間決済の方式に関する山岡副代表理事の発言を、会見資料とともに伝える。
トークン化預金の標準化へ──デジタル通貨イノベーション機構が始動、黒田前日銀総裁も参画(外部)
勝代表理事が挙げた設立の背景となる3つの課題意識と、骨太の方針へのオンチェーン金融の明記など、政策面の動きをあわせて伝える。
金融庁「FinTech実証実験ハブ」支援案件「トークン化預金の銀行間決済」の検証に43社が参加(外部)
8月の実証に参加した43社を、申請者・参加銀行・オブザーバーの区分付きで公表したリリース。検証する方式と各社の役割が示されている。
【Crypto Verse関連記事】
DCIO(デジタル通貨イノベーション機構)10月本格始動と「実証から業界団体の議題へ」の構造を、より広い文脈で理解するための関連記事をご案内します。トークン化預金の銀行間決済動向・機関金融オンチェーン化・日本のステーブルコイン制度整備・銀行連合の国際比較を横断的に読むことで、「体制図の順番が誰の視点から書かれているか」という問いが立体的に見えてきます。
トークン化預金・銀行間決済の同系事案
- トークン化預金の銀行間決済に43社 焦点は決済資産の選択 → 本記事内で明示的に対比される、8月28日の43社実証を扱った直接連動記事。「実証」から「業界団体の議題」への遷移を両記事併読で立体的に理解できます。同じ問いが1か月後に別の場所で現れる構造が浮かびます。
- カナダ6大銀行のトークン化預金、ScotiabankとTDの二つの顔 → 本記事の直近姉妹記事。「日本3メガ×DCIO」「カナダ6行×トークン化預金」いずれも国内大手行がそろって同じ方向を向く動きを両記事併読で立体的に理解できます。
- Appleの求人票が並記したトークン化預金、問いは誰の負債を載せるか → 本記事の直近姉妹記事。「Big Techが求人票で並記したトークン化預金」「日本の業界団体が議題に掲げたトークン化預金」いずれもトークン化預金を軸に置く動きを両記事併読で立体的に理解できます。
- 【解説】Swift台帳・XRP・USDC|その価値は誰の負債として運ばれるか → 本記事の「決済の最後に誰の負債が受け渡されるのか」議論と直接連動する、決済インフラの3設計対比。DCIOの銀行部会が向き合う方式選択の背景を理解できます。
機関金融インフラのオンチェーン化
- MUFG、国債レポをオンチェーンへ―権利は振替国債のまま帳簿と連動 → 本記事の3メガバンク系DCIO理事参加動向と並ぶ、MUFGの機関金融オンチェーン実装事例。「業界標準化(DCIO)」「個別実装(MUFG)」両軸で日本の機関金融オンチェーン化を理解できます。
- BNY、Digital Transfer Agencyでファンドの原簿をパブリックチェーンへ → 本記事の機関金融動向と並ぶ、米国側の機関金融オンチェーン化事例。
- CAC「Pactora」提供開始―未実施の工程まで書いた手順書 → 本記事の日本発オンチェーン金融動向と並ぶ、日本発のマルチチェーンDvP決済基盤動向。
日本のステーブルコイン・電子決済手段
- JPYSC始動―SBI・Startaleが国内初の信託型円ステーブルコインを発行 → 本記事の「ステーブルコインではなくトークン化預金に注力する理由」議論と対比される、日本の信託型円ステーブルコイン制度整備動向。「トークン化預金型(DCIO)」「信託型ステーブルコイン(JPYSC)」の設計対比を理解できます。
- 【解説】JPYC×AZ-COM丸和|10億円超の出資検討と2300社B2B決済を構造で検証 → 本記事の日本ステーブルコイン動向と並ぶ、資金移動業型ステーブルコインの実装事例。
- SBI VCトレード×リップル―「RLUSD」が国内初の「4号電子決済手段」として取扱い開始 → 本記事の日本ステーブルコイン動向と並ぶ、日本市場でのドル建てステーブルコイン制度整備動向。
日本の制度整備・監督体制・骨太の方針
- 【解説】暗号資産の分離課税はまだ動かない。金商法改正成立で投資家が知るべき3つの変化 → 本記事内で明示的に言及される、骨太の方針2026「オンチェーン金融推進」動向と並ぶ、日本の金商法改正動向。
- 金融庁の新課名から「ブロックチェーン」が消えた|暗号資産監督の再配置を読む → 本記事の監督体制動向と並ぶ、日本の監督組織再編動向。「業界団体(DCIO)」「監督組織(金融庁新課)」両軸で日本の制度整備を理解できます。
- Laser Digital Japan登録完了 4年ぶり新規参入、相手は個人ではなく交換業者 → 本記事の日本暗号資産業界動向と並ぶ、日本の暗号資産取引所業界動向。
21金融機関ステーブルコイン
- 21金融機関のステーブルコイン新会社―利息を封じた側が発行体に回る → 本記事の欧州コンソーシアム型標準化動向と並ぶ、G7銀行連合のステーブルコイン戦略動向。「日本のDCIO」「米欧の21金融機関」いずれも銀行連合が主導する国際的動きを理解できます。
【編集部後記】
2021年の報道によれば、前身のデジタル通貨フォーラムには、金融庁や財務省、日本銀行などがオブザーバーとして参加していました。当局は議論の外側で、成り行きを見守る席にいたことになります。
今回の発表資料の特別顧問欄には、前日銀副総裁と前金融庁長官の名前が並びました。一方で、現役の当局がこの機構にどのような形で関わるのかは、これから明らかになっていく部分です。オブザーバーの席は、新しい機構にも用意されるのでしょうか。
——————–
※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
詳細は当サイトの免責事項をご確認ください。
——————–

