Last Updated on 2026年8月8日 by Co-Founder/ Researcher
暗号資産と、ステーブルコインのうち電子決済手段に該当するものは、いま同じ資金決済法の中にあります。ただし、別々の区分として。改正法の主要部分が施行されれば、暗号資産取引に関する規制は金商法へ移ります。その分岐を控えた2つが、8月7日から1つの課名に並びました。
金融庁は2026年8月5日、8月7日付で組織再編を実施すると発表した。暗号資産とステーブルコインを所管する「暗号資産・ステーブルコイン課」を新設し、資産運用・保険監督局の直下に置く。同課の前身は、総合政策局リスク分析総括課に置かれていた暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室である。傘下には暗号資産交換業者の監督を担う暗号資産モニタリング室のほか、イノベーション推進室とデジタル決済企画室が入る。同じ局には資金決済課も新設され、金融サービス仲介業室と電子決済等代行業室を抱える。一方、デジタル・分散型金融の企画を担う室は、企画市場局に新設された信用課の傘下に置かれる。再編は金融庁組織令の一部を改正する政令等に基づく措置である。
From: 金融庁の組織再編について
【編集部解説】
看板から2つの言葉が消え、1つが入った
新旧表を並べると、名前の変化が目に入ります。
前身の名称は「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室」でした。新しい課の名前は「暗号資産・ステーブルコイン課」です。
技術の名前(ブロックチェーン)と、姿勢の名前(イノベーション)が看板から降り、資産クラスの名前(ステーブルコイン)が上がりました。
ただし、機能が消えたわけではありません。新旧表の上では、旧イノベーション推進室が再編後のイノベーション推進室とデジタル決済企画室に対応づけられています。少なくとも、「イノベーション」を冠する室は再編後も残っています。
看板が「何を育てるか」から「何を見るか」へ書き換わった——これは組織図から読み取れる変化の解釈であり、金融庁がそう説明しているわけではない点は押さえておいてください。ただ、当局が自分の担当領域をどう名指すかは、その領域をどう捉えているかの表明でもあります。
いま同じ法律の中にいて、これから分かれる
まず現在地を確認します。暗号資産も、電子決済手段に該当するステーブルコインも、2026年8月7日時点では資金決済法の中にあります。暗号資産は同法2条14項、電子決済手段は同法2条5項。同じ法律の、別々の区分です。
ここで注意が必要なのは、ステーブルコインが法律上の区分ではないという点です。金融審議会の報告は、法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額での償還を約する「デジタルマネー類似型」を念頭に、資金決済法で電子決済手段として規制されていると整理しています。ステーブルコインを名乗るものがすべて電子決済手段になるわけではありません。
電子決済手段は資金決済法2条5項の1号から4号まであり、資金移動業者が発行するタイプは典型的に1号、特定信託受益権を用いる信託型は3号にあたります。信託型だから電子決済手段ではない、という区別ではありません。
そのうえで、これから起きることです。2026年7月15日に成立し、7月23日に公布された改正法により、暗号資産取引に関する規制は金商法へ移ります。一方、電子決済手段は資金決済法の枠組みに残ります。暗号資産規制の移管を含む主要部分は、原則として公布の日から1年を超えない範囲内で政令が定める日に施行されますが、具体的な期日は2026年8月7日時点で決まっていません。なお改正法には別の施行日が定められた規定もあり、開示関係は2027年4月1日からとされています。
なお、今回の改正法は資金決済法もあわせて改正します。暗号資産取引に係る規定を同法から削除するほか、2026年6月に始まった「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」が「電子決済手段サービス仲介業」へ整理されるなど、電子決済手段に関係する条文にも変更が入ります。ただし、電子決済手段の定義や電子決済手段等取引業の基本的な枠組みを金商法へ移すものではありません。
変わったのは、並びが課名として表に出たこと
ここで、ひとつ補助線を引いておきます。
暗号資産と電子決済手段の監督は、再編前から同じフィンテック部門が担ってきました。今回の再編で初めて2つの領域が同居したわけではありません。
変わったのは、その並びが「暗号資産・ステーブルコイン課」という課名として明示されたことです。課名から「ブロックチェーン」と「イノベーション」が降り、「ステーブルコイン」が上がった——冒頭で見た変化と、ここでつながります。
金商法へ移る暗号資産、なぜ監督組織は証券側ではないのか
暗号資産が金商法へ移るにもかかわらず、監督は証券課を抱える銀行・証券監督局ではなく、資産運用・保険監督局の直下に置かれました。
ただし、この課が別の系列へ突然移されたわけではありません。
新設された資産運用・保険監督局は、総合政策局と監督局の機能を組み替えて設けられた局です。資産運用課や保険課は旧・監督局から、暗号資産部門は旧・総合政策局リスク分析総括課から入りました。
ここは3つの層に分けて読む必要があります。
公表資料から確認できる再編の狙いは、モニタリング機能を2つの監督局へ集約することです。
担当職員の説明として、金融庁の中村香織企画市場局市場課市場企画室長が、6月の広報誌「アクセスFSA」の対談で、資産運用・保険監督局が資金決済・暗号資産・ステーブルコインなどのフィンテック関連を所管し、これまでリスク分析総括課の中にあったモニタリング機能が2つの監督局に収れんされると述べています。
外部研究者の見方として、対談相手の服部孝洋・東京大学金融教育研究センター特任准教授が、監督局への権限集中を避けるため総合政策局に監督機能を置いてきた経緯を整理したうえで、資産運用・保険監督局にフィンテック関連の課を入れるのは従来の流れに沿っていると述べています。これは金融庁の公式見解ではなく、対談参加者の解釈です。
法制をつくる部署と、監督する部署
同じ対談から、もうひとつ確認できることがあります。
中村氏は、自身が所属する企画市場局市場課市場企画室について、現在は暗号資産等に関する法改正を担当していると述べています。一方で、暗号資産の監督機能は資産運用・保険監督局へ収れんされる。
今回の暗号資産法改正を担当する部署と、暗号資産等のモニタリングを担う部門は、再編後は別の局に置かれます。ただし新設の課にもイノベーション推進室とデジタル決済企画室があり、企画機能がすべて企画市場局に集まるわけではありません。
関連して、今回の改正法にはDEX固有の新たな規制枠組みは盛り込まれませんでした。ただし、金融審議会のワーキング・グループ報告は、DEXプロトコルの開発・設置について、現行法上も一定の場合には暗号資産交換業に該当する余地があると整理しています。そのうえで、現状ではDEXについて明確な規制の手法が確立されていないとして、技術的性質に合わせた規制のあり方を継続して検討するとしました。国内居住者向けの接続UIを提供する者については、接続先のリスクに関する説明義務や犯収法上の本人確認を含むAML/CFT対策を念頭に、まず実態把握を深める必要があるとしています。「DEXは規制の外にある」と言える状態ではありません。
事業者にとって、今日から変わること
制度論とは別に、実務で効く部分を整理します。
8月6日以前に総合政策局・企画市場局・監督局が作成した文書は、旧組織名が記載されたままでも有効です。8月7日以降に旧名称で提出した申請書類も、無効にはなりません。
これから新規に申請や届出を行う場合、金融庁本庁の旧・リスク分析総括課などを提出先としていた手続は、新旧表に従って再編後の部署へ読み替えます。ただし財務局の組織・所掌事務は今回変更されておらず、財務局が窓口となる手続もあります。個別の申請・届出は、それぞれの所定の提出先を確認してください。
証券取引等監視委員会、公認会計士・監査審査会についても、組織・所掌事務に変更はありません。
この再編で、変わっていないこと
留保を3つ置きます。ここを飛ばして読むと、この記事は誤読されます。
ひとつ目。この組織再編そのものは、事業者に課される規制の内容を変えるものではありません。変わったのは金融庁組織令等の組織規定であり、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者の実体的な義務を変える措置は、今回の再編資料からは確認できません。「専門の課ができたから規制が厳しくなる」「イノベーション推進室が残ったから当局は推進寄りだ」——どちらの読み方にも、現時点で根拠はありません。
ふたつ目。ETFの上場時期や税制について、今回の組織再編の資料には記載がありません。なお金融庁の税制改正資料では、分離課税について「改正金商法の施行日の翌年1月以降」という枠組みが示されていますが、具体的な暦年は確定していません。税制の取り扱いは改正の段階ごとに条件が異なるため、個別の判断は税務の専門家に確認する必要があります。組織再編と税制を地続きで語るのは、この時点では飛躍です。
みっつ目。成否を測る指標が示されていません。金融庁が挙げた再編の理由は、資産運用立国の推進、デジタル技術の進展への対応、モニタリングの高度化です。いずれも方向であって、達成度を測る基準ではありません。新設される暗号資産・ステーブルコイン課単独の人員規模や予算も、8月5日の発表資料では公表されていません。
組織図から読み取れるのは、当局が自分の担当領域をどう区切ったかまでです。その区切りが実際に機能するかどうかは、この課が最初に何を出すかを見るまで分かりません。
金融庁が公表した別紙2「組織再編前後の新旧表」は、課室の単位で再編の前後を対応づけた1枚の表です。暗号資産・ステーブルコイン課の行をたどると、前身が総合政策局リスク分析総括課の下の参事官室だったこと、傘下に監督系1室と企画系2室が並んだことが確認できます。届出や申請の宛先も、この表が起点になります。では、改正法の施行で規制の根拠法が分かれたとき、この課の形はどうなるのでしょうか。
【用語解説】
暗号資産・ステーブルコイン課
2026年8月7日に新設された金融庁の課である。資産運用・保険監督局の直下に置かれ、傘下に暗号資産モニタリング室、イノベーション推進室、デジタル決済企画室を抱える。前身は総合政策局リスク分析総括課の暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室である。
参事官
中央省庁に置かれるポストである。担当する分野や府省によって位置づけは異なるが、今回の再編対象となった金融庁の5参事官は課長級であり、金融庁は5課の設置を「既存の関係参事官を課長に名称変更」と説明している。
金融庁組織令
金融庁の内部組織を定める政令である。局や課の設置と所掌事務の範囲はこの政令に基づいて決まる。今回の再編は、この政令の一部を改正する政令等に基づく措置である。
電子決済手段
資金決済法2条5項に定められた法的区分である。1号から4号まであり、資金移動業者が発行するタイプは典型的に1号、特定信託受益権を用いる信託型は3号にあたる。ステーブルコインは法律上の区分ではなく、法定通貨の価値と連動し発行価格と同額での償還を約するデジタルマネー類似型のうち、同項の要件を満たすものが電子決済手段となる。
金融商品取引法(金商法)
有価証券の発行・売買や金融商品取引業者の規律を定める法律である。2026年7月15日に成立し、7月23日に公布された改正法により、暗号資産取引に関する規制は資金決済法からこの枠組みへ移る。主要部分の施行は、原則として公布の日から1年を超えない範囲内で政令が定める日とされる。
暗号資産交換業者
資金決済法に基づく登録を受け、暗号資産の売買・交換、その媒介等のほか、他人のための暗号資産の管理など、同法所定の暗号資産交換業を行う事業者である。
電子決済手段等取引業者
資金決済法に基づく登録を受け、電子決済手段の売買・交換、その媒介等や、他人のための管理など、同法所定の電子決済手段等取引業を行う事業者である。
金融サービス仲介業室
新設された資金決済課の傘下に置かれる室である。金融サービス仲介業は、銀行・証券・保険の各分野の商品を分野をまたいで仲介できる業態を指す。
分散型取引所(DEX)
明確な法的定義はないが、一般に、中央集権的な運営者を介さず、利用者同士がスマートコントラクトを通じて暗号資産を交換する仕組みを指す。DEXを称するサービスでも中央集権的な性質を持つ場合がある。金融審議会のワーキング・グループ報告は、プロトコルの開発・設置について現行法上も一定の場合には暗号資産交換業に該当する余地があると整理している。
【参考リンク】
金融庁(外部)
日本の金融行政を担う行政機関。今回の組織再編に関する一次資料のほか、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者の登録一覧も公表している。
組織再編の概要(別紙1・PDF)(外部)
再編前後の組織図を1枚に収めたPDF。どの課がどの局の下に置かれるか、その傘下にどの室が並ぶかを一目で確認できる資料である。
組織再編前後の新旧表(別紙2・PDF)(外部)
課室の単位で再編前後を対応づけた表。各課の前身組織を特定できるほか、届出や申請の宛先を確認する際の実務上の基準ともなる。
金融審議会 暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告(PDF)(外部)
暗号資産規制を金商法へ移す方向性を示した金融審議会の報告。DEXへの対応方針や、無登録業者対策の考え方も整理されている。
金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料(PDF)(外部)
金商法および資金決済法の改正法案について金融庁が作成した説明資料。暗号資産に係る規制見直しの全体像が図解で示されている。
アクセスFSA 第274号 特別企画(PDF)(外部)
金融庁職員と研究者による対談を掲載した広報誌の特別企画。組織再編の考え方や、フィンテック関連の所管について語られている。
【参考記事】
金融庁、暗号資産・ステーブルコイン課を新設 8月7日組織再編(外部)
金融庁が公表した新旧組織対応表をもとに、暗号資産・ステーブルコイン課の前身と再編後の配置を特定したうえで報じた記事である。
金融庁が「暗号資産・ステーブルコイン課」新設|8月7日に再編(外部)
参事官室と課の組織単位としての違いに触れたうえで、新課の傘下に置かれる3つの室の機能分担についても整理している記事である。
金融庁、「暗号資産・ステーブルコイン課」を新設 「資金決済課」も(外部)
2018年の検査局廃止以来8年ぶりの大規模改編という位置づけを示した報道。新設される5課の名称と局の再編内容をまとめている。
暗号資産に係る2026年金商法等改正法の成立 金融法務ニュースレター(2026年7月)(外部)
2026年金商法等改正法の成立を受け、暗号資産に係る規制の見直し内容を法務の観点から詳細に解説したニュースレターである。
2026年金商法等改正案に基づく暗号資産に係る規制の見直しの概要と実務への影響(外部)
改正法案の施行期日と、分散型取引所に対する直接的な規制が見送られた経緯について、条文に即して整理している解説記事である。
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【編集部後記】
課の名前を声に出して読むと、時間の感覚が少し狂います。「暗号資産・ステーブルコイン課」。ここに並んだ2つは、いま同じ資金決済法の中にいて、これから別々の法律へと分かれていくものです。
分岐そのものは、今回の再編で始まったわけではありません。フィンテック関連の監督は、再編前から同じ部門が担ってきました。今回変わったのは、その並びが課の名前として表に出たことです。
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