Last Updated on 2026年6月4日 by Co-Founder/ Researcher
SecondFiは2026年5月26日、Banxaとのパートナーシップを発表し、同社のセルフカストディ型ネオファイナンス・プラットフォームに法定通貨のオンランプおよびオフランプ機能を統合した。
本統合は180を超える市場と30を超える法定通貨に対応し、ユーザーは銀行振込、Apple Pay、Google Pay、PayPalといった現地の決済手段を通じて、セルフカストディアカウントへの入金および現地通貨への出金が可能となる。資金はオンランプおよびオフランプの過程を通じてユーザーのウォレット内に維持される。EMURGOのCEOであるフィリップ・ポン氏、およびBanxaのChief Product & Growth Officerであるショーン・ヘン氏がそれぞれコメントを発表している。BanxaはOSL傘下の企業であり、これまでに400を超える事業者へ暗号資産インフラを提供してきた。
From: SecondFi Integrates Banxa to Let Users Move Between Fiat and Self-Custody Crypto in a Single Tap
【編集部解説】
このニュースを単独の業務提携として読むだけでは、その重要性が見えてきません。まず押さえておきたいのは、SecondFi自体がEMURGO ― Cardanoブロックチェーンの共同創設団体 ― によって、2026年4月22日にMoney20/20 Bangkokで初めて発表されたばかりの新興プロダクトであるという点です。
つまり、ローンチからわずか1か月余りの間に、SecondFiはWirexとの「セルフカストディアル型カード」発表(5月7日)、Slash Vision Labsとの日本市場向け提携、そして今回のBanxa統合と、決済・送金・両替を担う主要プレイヤーを矢継ぎ早に取り込んでいることになります。これは単なる連続発表ではなく、「セルフカストディを前提とした金融体験を、現実世界の決済レールに接続する」という設計思想を一気に組み上げにかかっている動きとして読むべきでしょう。
ここで核心となる概念が「セルフカストディ」と「オン/オフランプ」の関係です。セルフカストディとは、暗号資産の秘密鍵をユーザー自身が保有し、取引所や事業者に預けない状態を指します。Mt.Goxの破綻、そして近年ではFTXの崩壊により、「Not your keys, not your coins(鍵を持たなければ、それはあなたのコインではない)」という思想が業界に浸透しました。一方で、銀行口座から暗号資産へ、あるいはその逆へ資金を動かす「ランプ」の部分は、依然として取引所などのカストディアル(預託型)サービスを経由する必要があり、ここに大きな摩擦が残っていたのです。
今回の統合は、この最後のギャップを埋めようとするものです。ユーザーは銀行振込、Apple Pay、Google Pay、PayPalといった既存の決済手段でセルフカストディウォレットに直接入金でき、出金時もウォレットから銀行口座へ一連の流れで戻せる設計になっています。途中で資産が中央集権型カストディアンの管理下に置かれない、という点が技術的にも哲学的にも重要です。
提携相手のBanxaにも注目すべき文脈があります。同社は2026年1月2日、香港証券取引所上場のOSL Group(コード: 863.HK)による買収を完了したばかりです。買収価格は1株あたりC$1.55で、米国の州別マネートランスミッターライセンス(37州中ほぼすべて)、オランダ中央銀行(De Nederlandsche Bank)、英国FCAなど複数の規制当局における支配権変更承認を経ての成立でした。OSL傘下となったBanxaにとって、Cardano経済圏との大型統合は今後の戦略を占う重要な一手と捉えることができます。
競合環境としては、フィアット・オンランプ市場にはMoonPay、Transak、Stripe、Coinbase Onramp、Ramp Networkといった有力プレイヤーが存在しています。各社は手数料、対応通貨、規制ライセンス、対応国数で競っており、Banxaの強みは「規制対応の厚み」と「180超の市場・30超の法定通貨」というカバレッジの広さにあります。
日本の読者にとって特に意義深いのは、EMURGOがすでにSlash Vision Labsと提携し、Cardano Cardを日本のQRコード決済システムへ接続する計画を発表している点です。日本は世界でも有数の暗号資産規制整備国であり、ADA(Cardanoのネイティブトークン)の個人投資家保有率も高いことで知られています。今回のBanxa統合により、SecondFiが日本展開する際に、円建てでのオン/オフランプが技術的に整う可能性が高まったと言えるでしょう。
ポジティブな側面として、これまで「暗号資産を持つには取引所アカウントが必須」という前提が崩れ、ユーザーが鍵を握り続けたまま日常の金融活動を完結できる選択肢が現実味を帯びてきます。これはWeb3が長らく掲げてきた「金融の主権をユーザーへ」という理念の、地味だが本質的な前進です。
一方で、潜在的なリスクも冷静に見ておく必要があります。第一に、利用可能性は管轄地域に強く依存します。Disclaimerに繰り返し記載されている通り、KYC/AMLチェック、制裁スクリーニング、パートナー承認など複数のゲートが存在し、すべての地域・ユーザーで均一なサービスが受けられるわけではありません。第二に、セルフカストディは「鍵の管理責任もユーザーが負う」ことを意味します。鍵を失えば、誰も助けてはくれません。第三に、ステーブルコインを含むデジタル資産自体の価格変動・参照価値喪失リスクは依然として存在します。
長期的な視点で見ると、このような「セルフカストディ+既存決済レール」の組み合わせは、ネオバンクと暗号資産プラットフォームの境界を融解させていく流れの一部です。Revolut、Wise、PayPalといった既存フィンテックも暗号資産機能を取り込みつつあり、逆方向からはSecondFiのような暗号資産起点のプロダクトが日常決済領域に踏み込んできています。この双方向の浸食が、5年後の「お金の置き場所」の標準を書き換えていく可能性は十分にあります。
【用語解説】
セルフカストディ(Self-Custody)
暗号資産の秘密鍵をユーザー自身が保有・管理する形態を指す。取引所や事業者に資産を預けるカストディアル型と対をなす概念であり、「Not your keys, not your coins」の原則に基づいた管理方式である。
オンランプ/オフランプ(On-ramp / Off-ramp)
法定通貨から暗号資産へ資金を移すプロセスをオンランプ、その逆をオフランプと呼ぶ。暗号資産を日常生活で使う際の入口と出口にあたり、利便性と規制対応の両立が長年の課題となってきた領域である。
ネオファイナンス(Neofinance)/ネオバンク(Neobank)
店舗を持たず、モバイルアプリを中心にサービスを提供する新世代の金融プラットフォームを指す。SecondFiは従来の銀行機能(支出・運用・貯蓄)を、暗号資産のセルフカストディと組み合わせて再構成している。
オンチェーン(On-chain)
取引や状態変化がブロックチェーン上で直接記録・処理されることを指す。中央集権型のサーバー上で帳簿管理されるオフチェーンと対比され、改ざん耐性と透明性を担保する仕組みである。
KYC/AML
KYC(Know Your Customer)は本人確認手続き、AML(Anti-Money Laundering)はマネーロンダリング対策を意味する。金融サービス提供時に各国の規制で義務付けられており、暗号資産事業者にも適用される。
ステーブルコイン(Stablecoin)
米ドルなどの法定通貨や資産を裏付けに、価格の安定を目指して設計された暗号資産。USDT、USDCなどが代表例で、決済や送金、価値保存の手段として急速に普及している。
Money20/20
世界最大級のフィンテック・カンファレンスシリーズ。米国、欧州、アジアで開催され、決済、銀行、暗号資産業界の主要プレイヤーが集まる場として知られる。
Cardano(カルダノ)
学術研究に基づく設計思想で開発されたパブリックブロックチェーン。ネイティブトークンはADA。EMURGOはその共同創設団体の一つである。
マネートランスミッターライセンス(MTL)
米国において州ごとに発行される送金事業者向けライセンス。暗号資産事業者が米国でフィアット関連サービスを提供する際の重要な認可となる。
【参考リンク】
SecondFi公式サイト(外部)
EMURGOが提供するセルフカストディ型ネオファイナンス・プラットフォームの公式ページ。
Banxa公式サイト(外部)
組み込み型暗号資産インフラの主要プロバイダー。フィアット・オン/オフランプを提供する。
EMURGO公式サイト(外部)
Cardanoブロックチェーンの共同創設団体。Web3商業化と資産トークン化を推進している。
OSL Group公式サイト(外部)
香港証券取引所上場(コード:863.HK)のアジア有数の暗号資産プラットフォーム。
Wirex公式サイト(外部)
130か国以上で700万人超のユーザーを持つグローバルなデジタル決済プラットフォーム。
Apple Pay公式サイト(外部)
Appleが提供するモバイル決済サービス。本統合における入金手段の一つ。
Google Pay公式サイト(外部)
Googleが提供する決済・送金サービス。本統合でセルフカストディアカウントへの入金手段としてサポート。
PayPal公式サイト(外部)
グローバルに展開するオンライン決済サービス。本統合の決済手段の一つとして組み込まれている。
Money20/20公式サイト(外部)
世界最大級のフィンテック・カンファレンス。SecondFiは2026年4月のバンコク開催で正式発表された。
【参考記事】
OSL Group Completes Banxa Acquisition, Accelerating Global Compliant Payment Network Expansion(外部)
2026年1月2日、OSL GroupによるBanxa Holdings Inc.の買収完了を発表した公式リリース。グローバル決済ネットワーク拡大の節目となる買収であった。
Banxa Holdings Inc. Enters into Definitive Agreement to Be Acquired by Hong Kong-Listed Fintech Leader(外部)
2025年6月27日付発表。Banxa株主への現金対価1株C$1.55、30日平均株価に対し80.2%、60日平均に対し138.5%のプレミアム条件が記載されている。
Banxa Provides Update in Connection with Take-Private Transaction(外部)
2025年12月17日付更新。米国MTL支配権変更承認が37州中36州まで進捗していたことが明記されている。
EMURGO Unveils SecondFi: The Self-Custodial Neofinance Platform Bridging Everyday Spending with Onchain Yield(外部)
2026年4月22日、Money20/20 Bangkokで発表されたSecondFiの正式ローンチ告知。ステーブルコイン流通量3000億ドル超という市場文脈が示されている。
SecondFi and Wirex Partner to Launch Self-Custodial Card, Putting Global Users in Full Control of Their Money(外部)
2026年5月7日付。Wirexが130か国以上700万人超ユーザー基盤の上に、SecondFiが初のセルフカストディ型カードを展開する発表。
Cardano card targets Japan’s QR payments(外部)
EMURGOがSlash Vision LabsとCardano CardをSecondFi経由で日本市場に展開する計画を報じた記事。日本のQR決済インフラへの統合戦略が解説されている。
Banxa Holdings Provides Update on Previously Announced Plan of Arrangement with OSL Group(外部)
2025年9月4日付更新。米国MTL承認進捗、オランダ中央銀行からの異議なし宣言、英国FCAとの調整状況などBanxaの規制対応の厚みが示されている。
【Crypto Verse関連記事】
本記事のセルフカストディ×オン/オフランプ×ネオファイナンスの構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
【セルフカストディ・資産防衛】
- ビットコインセルフカストディの技術的本質:UTXOモデル・マルチシグ・プライバシー保護【2026年最新版】
→ 本記事の核心思想「Not your keys, not your coins」を、Bitcoin領域から深掘り。UTXOモデル・マルチシグ・ハードウェアウォレットの技術的本質を解説しています。 - セルフカストディの真実:2026年に資産を守り抜く「自己主権」のリスク管理術
→ 本記事の「鍵を失えば誰も助けてくれない」という潜在リスクの構造解説。資産喪失の具体的シナリオとその防止策を解説しています。 - 秘密鍵(Private Key)のアーキテクチャ解剖:所有権の数学的証明と「資産防衛」のインフラ設計
→ 本記事のセルフカストディの基盤である秘密鍵の数学的構造と所有権証明の仕組みを解剖した記事です。 - 暗号資産の守り方:ウォレット・秘密鍵・セキュリティ対策【2026年最新版】
→ ウォレットの基本種類と秘密鍵管理の物理的・論理的リスクを網羅した基礎解説。SecondFiのようなセルフカストディ型プラットフォームの位置づけを理解できます。
【セルフカストディ運用・関連事例】
- Trezorがステーブルコイン運用に参入|USDC・USDTの利回りを自己管理のまま獲得・運用へ
→ 本記事と同じく「セルフカストディを維持したまま既存金融機能を取り込む」流れの代表事例。ハードウェアウォレット起点のステーブルコイン利回りモデルとして比較理解できます。
【ステーブルコイン基礎】
- ステーブルコインの仕組みと役割:Web3経済を支える「安定」のインフラ
→ 本記事の「ステーブルコイン流通量3000億ドル超」の市場文脈の基礎理解。ステーブルコインの基礎(定義・役割・3分類・ペグメカニズム・デペグリスク)を体系的に解説しています。 - USDC vs USDT:流動性・透明性・リスクから読み解くステーブルコインの構造的比較
→ 本記事のセルフカストディウォレットで保管される主要ステーブルコインの構造的比較。両者の準備金構造・透明性・規制対応・ディペッグ事例を理解できます。 - ブロックチェーン決済の技術的解剖:ステーブルコインとL2が再構築する「価値移動」の構造的実態【2026年版】
→ 本記事のオン/オフランプを支える、ブロックチェーン決済全体の技術的構造を理解できる記事です。
【CeFi対比・運用代替】
- CeFiの資産管理構造─集中型暗号資産取引所の運営モデルとリスクの完全解剖【2026年版】
→ 本記事のSecondFi(セルフカストディ型)と対比される、CEX(中央集権型)の運営モデルとリスクを解剖した記事。FTX・Mt.Gox崩壊の構造的背景を理解できます。 - 暗号資産の運用利回りはどこから生まれるのか|ステーキング・DeFi・LPの構造比較【2026年版】
→ 本記事の「オンチェーン・イールド」と既存金融機能の融合の前提となる、暗号資産運用全体の利回り構造を理解できる俯瞰記事です。
【規制動向との接続】
- 金融庁、海外信託型ステーブルコインを電子決済手段へ|2026年6月1日施行の改正内閣府令を解説
→ 本記事のSecondFi日本展開(Slash Vision Labs提携)の前提となる、日本のステーブルコイン規制動向(2026年6月1日施行)を解説した最新記事。 - 暗号資産サービス仲介業とは|2026年6月施行、誰が参入できるのか【資金決済法改正】
→ 本記事のSecondFi・Banxa統合のような新興プラットフォームの日本展開に直接影響する、資金決済法改正(2026年6月施行)の構造解説。 - JPMorgan対Coinbase、CLARITY Actで激突|ステーブルコイン「報酬」規制の攻防を解説
→ 本記事のセルフカストディ運用と並行する、米国規制動向の最前線。銀行業界vs暗号資産業界の対立構造を解説しています。 - ステーブルコインの需要は衰える?イングランド銀行が示す「トークン化預金」の未来
→ 本記事のSecondFi(民間セルフカストディ型)と対比される、銀行発行のトークン化預金。デジタルマネー競争の3者構造(CBDC・ステーブルコイン・トークン化預金)を理解できます。 - 日立、DCJPYで企業間取引を自動化|トークン化預金が拓く「AIが支払う」未来
→ 本記事の「セルフカストディ型ネオファイナンス」と対比される、銀行マネーを基盤とする日本企業実装の最新事例。日本における「銀行マネー vs 暗号資産マネー」の対比構造を理解できます。
【RWA・マクロ】
- RWA市場340億ドル突破 ─ a16z cryptoが7つのチャートで読み解くトークナイゼーションの現在地
→ 本記事のSecondFiが体現する「Web3が日常金融に踏み込む流れ」を、RWA市場340億ドルというマクロデータで裏付けた記事。 - 2026年のWeb3概論:AIエージェント決済と公的資産保有に向けた構造的検証
→ 本記事のSecondFiの取り組みを、2026年Web3全体のマクロ構造変化(AIエージェント決済・公的資産保有・RWA)の文脈に位置づけた俯瞰記事です。
【編集部後記】
「自分の鍵は自分で握る」というセルフカストディの思想と、「PayPalで入金してそのまま使える」という日常の便利さ。一見すると相反するこの二つを、SecondFiとBanxaはひとつのタップに収めようとしています。皆さんは普段、銀行アプリと暗号資産取引所を行き来する手間を、どこまで「仕方ないもの」として受け入れていますか。鍵を自分で持つことに不安はあるか、それとも、誰かに預ける方がむしろ不安か。お金の置き場所をめぐる感覚は、ここ数年で大きく揺らいでいます。皆さんの「お金との距離」が、これからどう変わっていくのか。一緒に見届けられたら嬉しいです。
——————–
※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
詳細は当サイトの免責事項をご確認ください。
——————–

