Trezorがステーブルコイン運用に参入|USDC・USDTの利回りを自己管理のまま獲得・運用へ

Trezorがステーブルコイン運用に参入|USDC・USDTの利回りを自己管理のまま獲得・運用へ

Last Updated on 2026年5月30日 by Co-Founder/ Researcher

ステーブルコインのイールド機能が、Trezor Suiteに直接組み込まれた。イーサリアム上でUSDCまたはUSDTを保有していれば、セルフカストディ(自己管理)の安全性を離れることなく利回りを得られる。

提供基盤はMorphoで、Trezor Suiteの内部から厳選された貸出ボールトへ直接預け入れでき、すべての操作はTrezorデバイス上でクリアサイン(内容を明示した署名)されるという。

ブラウザ拡張機能も、内容を確認しないままのブラインドサインも、中央集権型取引所への預託も不要。ステーブルコインを運用するための、よりシンプルで安全な方法といえる。

From: A safer way to earn yield with stablecoins in Trezor Suite

【編集部解説】

今回の発表でまず押さえておきたいのは、これが「ハードウェアウォレットの会社が利回り商品を始めた」という以上の意味を持つ点です。Trezorはチェコ・プラハ発祥の、世界的に広く使われる大手ハードウェアウォレットメーカーで、デスクトップとモバイルの双方で利用できるTrezor Suiteを通じ、200万人を超えるユーザーを抱えるとされます。その規模の利用者基盤に向けてこの機能が開放された——つまり、これまでDeFiを敬遠してきた層が一気に運用の入り口に立たされる、という構図なのです。

仕組みの核心にあるのが、提携先のMorphoです。これはイーサリアム上で稼働する貸出プロトコルで、預けられたステーブルコインを借り手に貸し出し、その金利が利回りの源泉となります。ここは誤解されやすい点ですが、利回りはトークンの配布によるバラマキではなく、実際の借入需要から生まれるとされています。一時的なキャンペーンで跳ね上がり、配布の原資が尽きれば消えてしまうタイプの「見せかけの高利回り」とは、設計思想が根本から異なるわけです。

Morphoの規模感にも触れておきましょう。Morpho Blueは、各市場が独立した「隔離市場型」の設計を採る貸出プロトコルです。2026年5月時点の一部の第三者集計では、約118億ドル(11.8B)規模のTVL(預かり資産)を持つ大手の一つに数えられていますが、TVLや業界順位は集計基準や時点によって大きく動くため、固定的なランキングとして受け取るのは禁物です。元記事に登場する「Morpho Prime Vaults」は、その上に乗る運用層にあたり、独立系の利回り戦略企業であるSteakhouse FinancialがキュレーションするUSDC PrimeとUSDT Primeの2つのボールトです。専門のキュレーターがリスクパラメータを設計・管理する構造だからこそ、利用者は数分で運用を始められます。ただし「専門家が見ているから安全」と過信するのは禁物で、管理はリスクをゼロにするものではありません。

数字の扱いには、とりわけ慎重さが要ります。Trezorの公式記事が明示しているのは「最大4% APY」という表現です。実際に受け取れる利回りは、市場の借入需要やボールトの状況によって変動し、固定されたものではありません。さらにそこから10%のパフォーマンスフィーが差し引かれます。公式の説明によれば、ボールトが5% APYを得た場合、ユーザーの手取りは正味4.5%になります。表示上の数字と最終的な手取りは別物だ、と分けて捉えておくのが健全でしょう。

この機能が解決しようとしている本質は、「安全と利回りの二者択一」を消すことにあります。Trezorは、ユーザーがこれまで信頼してきたのと同じセキュリティを、そのままステーブルコインの運用にも広げることを狙いとして説明しています。すべての操作が物理デバイス上でクリアサインされる仕組みは、内容を確認せずに署名する「ブラインドサイン」がフィッシングの温床になってきた現実への、ひとつの回答です。ただし、これは被害を減らすための設計であって、あらゆるリスクを完全に消し去るものではない点には留意が必要です。

一方で、潜在的なリスクは元記事が挙げる3点に集約されます。スマートコントラクトの脆弱性、引き出しが遅延しうる流動性リスク、そしてステーブルコインそのものが価格を割り込むデペッグの可能性です。最後のリスクは見落とされがちですが、2023年3月にはシリコンバレー銀行の破綻に際してUSDCが一時的に1ドルのペッグを割り込んだ実例があり、「安定した通貨」という名前の印象とは裏腹に、決して起こり得ないことではない、と記憶しておくべきでしょう。

業界全体の流れとして見ると、この動きは決して孤立していません。競合のLedgerはすでに、Ledger Liveを通じてKilnによるMorpho、Aave、Compoundとの統合でステーブルコイン利回りを提供しています。カストディ(資産管理)事業者がDeFiを自社製品の内側へ取り込む競争は、すでに本格化しているのです。

最後に、より大きな視座をひとつ。イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は、多くの「USDC利回り」戦略が中央集権的な発行体に依存し、カウンターパーティーリスクに十分対処できていないと警鐘を鳴らしたと報じられています。Trezorの試みは利便性と安全性の橋渡しとして評価できますが、「自己管理」を掲げる製品が、その裏で外部のスマートコントラクトや発行体の信用に依存しているという構造は残ります。便利になった先で何に信頼を預けているのか——それを問い続ける姿勢こそ、未来の金融と向き合う私たち読者に求められるものだと考えます。

【用語解説】

ボールト(Vault)
預けられた資金をまとめて運用する「金庫」にあたる仕組み。今回のMorpho Prime Vaultsがこれにあたる。

キュレーター
ボールトの運用方針やリスク配分を設計・管理する専門の運用者。今回はSteakhouse Financialが担う。

カウンターパーティーリスク
取引や運用の相手方が義務を履行できなくなることで生じる損失リスク。

パフォーマンスフィー
運用で得られた利益に対してのみ課される成功報酬型の手数料。今回Trezorはイールドの10%を徴収する。

TVL(預かり資産総額)
Total Value Lockedの略で、あるプロトコルに預け入れられている資産の総額を示す。プロトコルの規模を測る代表的な指標。

【参考リンク】

Trezor(公式サイト)(外部)
チェコ・プラハに本社を置くハードウェアウォレットメーカーの公式サイト。製品情報やサポート、ブログを掲載している。

Trezor Suite(外部)
Trezorの資産管理アプリの紹介ページ。今回のステーブルコイン・イールド機能もこのアプリ上で提供される。

Morpho(外部)
イーサリアム上で稼働する分散型貸出プロトコルの公式サイト。仕組みや各種ボールトの情報を確認できる。

Steakhouse Financial(外部)
今回のPrime Vaultsを運用するDeFiリスク・キュレーション専門企業の公式サイト。機関投資家向けの運用設計を手がける。

USDC(Circle運営の公式サイト)(外部)
USDCを発行する米Circle社が運営する専用公式サイト。仕組みや1:1の裏付け資産などを確認できる。

Tether(USDT発行元)(外部)
ステーブルコインUSDTを発行するTether社の公式サイト。発行残高や準備資産に関する情報を提供している。

Ledger(外部)
Trezorの競合にあたるハードウェアウォレットメーカーの公式サイト。Ledger Liveでも同種の利回り機能を提供している。

【参考記事】

Trezor Launches USDC, USDT Yield in Trezor Suite Through Morpho(Cointelegraph)(外部)
2ボールト構成や利回りの源泉、Ledger先行、ブテリン氏の警鐘まで最も詳しく報じた記事。

Trezor Brings USDC And USDT Yield Straight Into Its Suite App(Yellow.com)(外部)
200万人超への開放、CTOとMorpho CEOのコメント、Morphoの稼働経緯に触れた記事。

Trezor adds USDC, USDT yield via Morpho(crypto.news)(外部)
利回りが借入需要に由来する点や、Morpho公式の発表投稿を引用して伝えた記事。

Aave vs Morpho vs Spark vs Fluid 2026: Lending Protocol Comparison(Eco)(外部)
DeFiLlama基準でMorpho Blueを約118億ドル規模と位置づけた比較記事。規模感の参照に用いた。

Ledger Live x Kiln DeFi: Non-custodial approach to stablecoin yield(Kiln)(外部)
Ledger LiveがKiln経由でステーブルコイン利回りを提供する仕組みを説明した公式記事。

【編集部後記】

「鍵を自分で握る」という暗号資産の原点と、「資産に働いてもらう」という運用の欲求は、長らく相いれないものとされてきました。今回の統合は、その溝を技術で埋めようとする試みとして注目に値します。ただ、便利さが増すほど、その裏で何に信頼を預けているのかは見えにくくなります。

私自身、新しい仕組みの登場を歓迎しつつ、「誰が、何を、どこまで担保しているのか」を一緒に確かめていく視点をこれからも大切にしたいと考えています。みなさんが自分なりの「お金の置き場所」を考えるとき、本記事がその一助になれば幸いです。

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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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ByTaTsu@innovaTopia

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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