Last Updated on 2026年5月29日 by Co-Founder/ Researcher
a16z cryptoのロバート・ハケットが2026年5月23日に公開した記事によると、トークン化資産(RWA)市場はステーブルコインを除き先月300億ドルを突破し、340億ドル近辺で推移している。2024年半ばの30億ドル未満から2年弱で10倍に拡大した。米国でのGENIUS法成立を背景に、米国債が成長を牽引し、BlackRockやFranklin Templetonが参入。
資産担保クレジットは185日で時価総額10億ドルに到達。商品市場は約51億ドルのうち金が約50億ドルを占め、TetherのXAUTやPaxosのPAXGが代表的だ。Ethereumが157億ドルで過半を占め、BNB Chainが40億ドル、Solanaが22億ドル、Stellarが17億ドルと続く。債券は152億ドルだがDeFi利用は約5%。2030年予測はMcKinseyが2〜4兆ドル、Ark Investが11兆ドル、BCGとRippleが9.4兆ドル、Standard Charteredは2034年に30兆ドル超としている。
From: The tokenization boom in 7 charts
【編集部解説】
a16z cryptoが今回示した「7つのチャート」は、トークナイゼーション(資産のトークン化)という言葉が、いよいよ実態を伴った経済現象になりつつあることを物語っています。
そもそもトークン化資産(RWA)とは、米国債や金、株式、債券といった既存の金融資産を、ブロックチェーン上で取引・保有できるデジタルトークンに置き換えたものです。これまで実証実験の域を出なかった分野が、わずか2年弱で約10倍に拡大した背景には、3つの構造変化が重なっています。
1つ目は、2025年7月に米国で成立した「GENIUS法」によって、ステーブルコイン規制が連邦レベルで明確化された点です。OCC(米通貨監督庁)は2025年12月12日、Circle関連のFirst National Digital Currency Bank、Ripple、BitGo、Fidelity Digital Assets、Paxosの5件の国法信託銀行チャーター申請を条件付きで承認しており、機関投資家がオンチェーン取引に踏み込みやすい環境が整いつつあります。
2つ目は、BlackRockやFranklin TempletonといったTradFi(伝統的金融)の巨人が、トークン化マネー・マーケット・ファンドを本格展開し始めたことです。とくにBlackRockのBUIDLが、Uniswap Labsとの連携によってDeFiレールへの流動性オプションを獲得した事例は、TradFiとDeFiの境界線が溶け始めた象徴的な出来事と言えます。
3つ目は、機関投資家向けのオンチェーン・インフラ(カストディ、コンプライアンス、KYC基盤)の成熟です。これにより、金融機関は実験段階ではなく本番稼働としてブロックチェーンを使える段階に到達しました。
ただし、本記事の最も鋭い指摘は規模ではなく、「ほとんどのトークン化資産は、まだコンポーザブルではない」という点にあります。コンポーザビリティとは、レゴブロックのように複数の金融プロトコルを自由に組み合わせて、新しい金融商品やサービスを構築できる性質のことです。
債券は時価総額152億ドルとトークン化カテゴリ最大ですが、DeFiで実際に活用されているのはわずか5%。一方、再保険トークンは時価総額わずか3.62億ドルながら、84%がDeFiで運用されています。この対比が示すのは、現状の多くは「トークン化(tokenization)」というより「単なるデジタル化(digitization)」にとどまっているという、ある種の不都合な真実です。
この違いは重要です。デジタル化は紙の証券を電子化したPDF化のようなものですが、真のトークナイゼーションは、その資産がプログラマブルな金融部品として他のシステムと自動連携できることを意味します。後者が実現すれば、24時間365日に近い決済、フラクショナル(小口)所有による投資の民主化、スマートコントラクトによる自動配当・自動清算といった、従来の金融では難しかった世界が開かれる可能性があります。
ポジティブな側面として、新興国の投資家が米国債や金へ少額からアクセスできるようになり、金融包摂が進む可能性があります(ただし実利用には各国のKYC・販売規制・制裁規制などの制約があります)。また、米国市場ではすでに2024年5月にT+2からT+1へ決済サイクルが短縮されていますが、トークナイゼーションが進めば、これがさらに数秒〜数分単位へと圧縮される可能性があり、世界の資本効率は大きく改善する余地があります。
一方、潜在的リスクも見過ごせません。オフチェーン資産の真正性をどう担保するか(オラクル問題)、ハッキングや秘密鍵管理の脆弱性、複数チェーン間の流動性分断、そして規制当局による越境的な執行可能性など、課題は山積しています。特にGENIUS法が、海外発行ステーブルコインに対しても凍結・差押え機能を技術的に要求している点は、Web3の検閲耐性という理念との緊張関係を生んでいます。
将来予測についても冷静な視点が必要です。McKinseyの2030年2兆〜4兆ドル、Ark Investの11兆ドル、BCGとRippleの2030年9.4兆ドル(2033年には18.9兆ドル)、そしてStandard Charteredの2034年30兆ドル超まで、機関ごとに予測の幅は10倍以上に達します。この差は採用ペースへの見解の違いというより、「何をトークナイゼーションと数えるか」という定義の問題です。読者の皆さまが今後この分野のニュースに触れる際は、必ず「ステーブルコインや預金トークンを含むか否か」を確認することをおすすめします。
筆者が注目したいのは、今がまさにPDF時代からSaaS時代への移行期に相当する局面だという点です。ブロックチェーン・インフラは整い、資産も乗り始めた。次の5年で問われるのは、これらをいかに真にプログラマブルな金融部品として再設計できるか、です。米国債や金を単純にオンチェーンへ移すフェーズは、すでに次の段階へと向かいつつあります。
【用語解説】
RWA(Real-World Assets / 実世界資産)
米国債、株式、債券、不動産、金などの伝統的金融資産や実物資産を、ブロックチェーン上のトークンとして表現したもの。デジタルネイティブな暗号資産と区別するために用いられる呼称である。
トークナイゼーション(Tokenization)
資産の所有権や請求権を、ブロックチェーン上のデジタルトークンに変換するプロセス。24時間取引、小口分割、自動執行といった機能を資産にもたらす。
GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)
2025年7月に米国で成立した、ステーブルコインに関する初の連邦法。発行体に1:1の準備金を義務付け、監督当局を明確化した。トークン化資産市場の制度的基盤となっている。
コンポーザビリティ(Composability)
複数のスマートコントラクトやプロトコルを、レゴブロックのように自由に組み合わせて新しい金融サービスを構築できる性質。オンチェーン金融の核心的な価値とされる。
DeFi(Decentralized Finance / 分散型金融)
銀行や証券会社などの仲介者を介さず、スマートコントラクトによって貸借・取引・運用を行う金融の仕組み。
TradFi(Traditional Finance / 伝統金融)
銀行、証券会社、保険会社など、既存の金融機関が担う従来型の金融システム。DeFiの対義語として使われる。
スマートコントラクト
ブロックチェーン上で自動実行されるプログラム。あらかじめ定めた条件が満たされると、人手を介さず契約を執行する。
フラクショナル所有(Fractional Ownership)
高額資産を小口に分割し、複数の投資家で共有する所有形態。トークナイゼーションによって不動産や美術品などへの参加障壁が下がる。
T+1 / T+2決済
取引日(Trade)から決済完了までの営業日数を示す。米国市場では2024年5月28日からT+1(取引翌営業日決済)が標準となっており、それ以前およびその他多くの市場ではT+2が用いられてきた。トークナイゼーションはこれをさらに数秒〜数分単位へと短縮する可能性を持つ。
オラクル問題
ブロックチェーンの外にある現実世界の情報(価格、温度、選挙結果など)を、いかに信頼性をもってオンチェーンへ持ち込むかという技術課題。RWAでは原資産の真正性確認に直結する。
検閲耐性(Censorship Resistance)
特定の主体が取引を恣意的に止めたり巻き戻したりできない性質。パブリックブロックチェーンの中核価値とされる一方、規制との緊張関係を生む。
KYC(Know Your Customer)
金融機関が顧客の身元確認を行う本人確認プロセス。マネーロンダリング防止のため、機関投資家のオンチェーン参加には必須となる。
カストディ(Custody)
暗号資産や秘密鍵を安全に保管・管理するサービス。機関投資家がオンチェーンへ参入する際の前提インフラとなる。
PoC(Proof of Concept / 実証実験)
新技術やアイデアの実現可能性を、小規模に検証する取り組み。本番稼働の前段階に位置する。
HELOC(Home Equity Line of Credit)
住宅を担保にした融資枠。米国で広く利用されており、近年トークン化の対象となっている。
OCC(Office of the Comptroller of the Currency / 米通貨監督庁)
米国財務省傘下の銀行監督機関。GENIUS法のもとで国法信託銀行など特定の連邦監督対象機関を監督する。2025年12月にCircle関連のFirst National Digital Currency Bank、Ripple、BitGo、Fidelity Digital Assets、Paxosの5件へ条件付きで国法信託銀行チャーターを認可した。
BUIDL
BlackRockが発行する、米国債等を裏付け資産とするトークン化マネー・マーケット・ファンド。Securitizeを通じて発行され、Uniswap Labsとの連携によりDeFiレールでの流動性オプションも提供されている。トークナイゼーション市場を象徴するプロダクトの1つである。
XAUT / PAXG
それぞれTether、Paxosが発行する金裏付けトークン。1トークンがおおむね金1ファイントロイオンスに対応する所有権・権利を表す。
【参考リンク】
a16z crypto(公式サイト)(外部)
Andreessen Horowitzのクリプト投資部門。業界レポートやリサーチを継続的に公開している。
RWA.xyz(公式サイト)(外部)
トークン化された実世界資産のオンチェーンデータを集計・可視化するダッシュボード。
BlackRock(公式サイト)(外部)
世界最大の資産運用会社。トークン化マネー・マーケット・ファンドBUIDLを展開している。
Franklin Templeton(公式サイト)(外部)
米国大手資産運用会社。早期からトークン化政府マネー・マーケット・ファンドを提供している。
Tether(公式サイト)(外部)
USDT発行体として知られるが、金裏付けトークンXAUTも発行している。
Paxos(公式サイト)(外部)
規制対応型のステーブルコインおよび金裏付けトークンPAXGを発行している企業。
Circle(公式サイト)(外部)
USDC発行体。GENIUS法成立後、規制対応型のステーブルコイン発行体として事業を展開している。
Uniswap(公式サイト)(外部)
Ethereum上の代表的な分散型取引所。BUIDLのDeFi連携でも重要な役割を果たした。
Ethereum(公式サイト)(外部)
トークン化資産市場で過半シェアを持つパブリックブロックチェーン。
BNB Chain(公式サイト)(外部)
Binanceエコシステム発のブロックチェーン。トークン化資産で第2位のシェアを占める。
Solana(公式サイト)(外部)
高速・低コストを特徴とする高性能ブロックチェーン。
Stellar(公式サイト)(外部)
クロスボーダー送金と資産発行に特化したブロックチェーン・ネットワーク。
McKinsey & Company(公式サイト)(外部)
世界的なコンサルティングファーム。トークナイゼーション市場予測の主要発信源の1つ。
Ark Invest(公式サイト)(外部)
キャシー・ウッド率いる運用会社。年次Big Ideasレポートで強気の予測を発表している。
BCG(Boston Consulting Group)(公式サイト)(外部)
Rippleと共同でトークナイゼーション市場予測レポートを発行している戦略コンサル。
Ripple(公式サイト)(外部)
クロスボーダー決済ソリューションを提供する企業。トークナイゼーションの主要推進者。
Standard Chartered(公式サイト)(外部)
英系国際銀行。アジア・新興国でトークン化資産分野に積極的に展開している。
Pantera Capital(公式サイト)(外部)
老舗クリプト投資ファンド。トークン・プレゼンス・インデックスを発表している。
Nexus Mutual(公式サイト)(外部)
分散型保険プロトコル。オンチェーン再保険トークンの主要発行体の1つ。
Maple Finance(公式サイト)(外部)
オンチェーン・プライベートクレジット市場を提供するDeFiプロトコル。
OCC(米通貨監督庁)(公式サイト)(外部)
米国の連邦銀行監督機関。国法信託銀行など特定の連邦監督対象機関を監督する。
【参考記事】
OCC Announces Conditional Approvals for Five National Trust Bank Charter Applications(OCC)(外部)
2025年12月12日付OCC公式発表。First National Digital Currency Bank等5社を条件付き認可。
Fact Sheet: President Donald J. Trump Signs GENIUS Act into Law(The White House)(外部)
GENIUS法の署名と概要を伝えるホワイトハウス公式ファクトシート。発行体の100%準備等を説明。
Circle applies for US trust bank license after bumper IPO(Reuters)(外部)
CircleがOCCへ申請した新法人名がFirst National Digital Currency Bank, N.A.であることを報道。
SEC Chair Statement on Upcoming Implementation of T+1 Settlement Cycle(SEC)(外部)
米国証券決済が2024年5月28日からT+1へ短縮されたことを示すSEC公式声明。
Uniswap Labs and Securitize Collaborate to Unlock Liquidity Options for BlackRock’s BUIDL(Securitize)(外部)
BlackRockのBUIDLにUniswap Labs連携で流動性オプションが追加された旨を伝える公式発表。
Q1 2026 Real World Asset Tokenization Market Report(Investax)(外部)
2026年Q1にRWA市場が30%成長し約290億ドルに到達。米国債は4月初頭に134億ドルへ拡大した。
Next steps for GENIUS payment stablecoins(Brookings)(外部)
GENIUS法運用段階の動向解説。OCCによる国法信託銀行チャーター条件付認可についても整理。
【Crypto Verse 関連解説記事】
本記事のRWA(現実資産トークン化)に関する構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
【RWA(現実資産トークン化)の全体像】
- RWA(現実資産のトークン化)とは?仕組み・市場構造・TradFiとWeb3統合の全体像【2026年版】
→ 本記事のテーマを含むRWA(現実資産トークン化)領域全体を俯瞰する基礎記事です。オフチェーンの法的枠組み・オラクル・オンチェーンの3層アーキテクチャ、ステーブルコインとの構造的接続、トークン化米国債・不動産・国債の市場構造を体系的に解説しています。
【編集部後記】
トークナイゼーションという言葉は、まだ多くの方にとって遠い金融の話に聞こえるかもしれません。しかしこの動きが本当に進めば、米国債や金、不動産の一部を、銀行口座を持たない人でもスマートフォン1つで保有・取引できる未来が見えてきます。
皆さんなら、もし手元のお金で「金1グラム分のトークン」や「米国債1ドル分のトークン」を持てるとしたら、何に挑戦してみたいでしょうか。投資というより、デジタル資産を触ってみる感覚で関わってみると、この変化の手触りが見えてくるはずです。一緒に、次の金融インフラの姿を観察していきませんか。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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