Last Updated on 2026年9月10日 by Co-Founder/ Researcher
9月1日午前9時、Unifiの利回り特典が年5%から2%へ切り替わりました。その直後の一週間で、JPYCの流通量は約6億1,100万JPYC減っています。ただ、この「流通量」という数字が何を数えたものかを確かめると、減った分の行方は見た目ほど単純ではありませんでした。
日本円ステーブルコイン「JPYC」の流通量が減少を続けている。JPYC Infoによると、8月30日の約27億800万JPYCから9月6日には約20億9700万JPYCへ縮小した。減少額は約6億1100万JPYCで、前週の約1億6600万JPYCから約3.7倍に拡大した。押し下げたのはKaia上の流通量で、同期間に約17億8000万JPYCから約11億5800万JPYCへ約6億2200万JPYC減った。
Polygonなどでは増加したが、Kaiaの減少を補っていない。時期が重なるのが、Kaia上のウォレットサービス「Unifi」の利回り特典の終了だ。Unifiは年率5%の期間限定特典を実施しており、日本語公式Xは8月25日、9月1日午前9時から基本年率2%へ切り替わると告知していた。
From: JPYCの流通量減少止まらず、一週間で約6億円減
【編集部解説】
9月1日午前9時に、何が終わったのか
まず、時刻を揃えてみます。
Unifiの公式Mediumに残る当初の告知では、追加年利率3%のイベント期間は2026年7月31日23時59分59秒(UTC)まででした。日本時間に直すと、8月1日8時59分59秒です。
そのUnifiが8月1日に告知した「JPYC友だち紹介イベント第2弾」の開催期間は、8月1日9時から9月1日8時59分(JST)まで。招待した側に年1%、招待された側に年2%相当のJPYC報酬が付き、上位10名には総額50万JPYCが用意されていました。報酬の対象は、招待された側がJPYC EXで新たに購入し、Unifiへ新規に預け入れた分に限られます。
当初の終了予定と、紹介イベントの開始のあいだに、1秒の隙間もありません。
そして8月25日、Unifiの日本語公式Xは、年5%の特典が9月1日午前9時(JST)に基本年利率2%へ切り替わると案内しました。紹介イベントが終わる時刻と、利率が変わる時刻が、ここでも重なります。
8月のひと月は、利回りの上乗せと、新規の預け入れを促す紹介報酬が並走する期間として組まれていたことになります。そして9月1日午前9時、両方が同時に止まりました。
「流通量が減った」とは、何が減ったのか
ここからは数字の読み方の話です。
JPYC Infoは、集計の方法を公開しています。チェーン上の供給量を取得したうえで、ライブ表示では発行・償還用アドレスの残高が取得できる場合にそれを差し引く、と明記されています。同サイトのガイドでも、表示している流通量は発行者保有アドレスの残高を除いた合計だと説明されています。
償還の手順も公開されています。利用者はJPYC EXで予約したうえで、指定のアドレスへJPYCを送り、登録した出金口座で日本円を受け取ります。
この二つを重ねると、数字の見え方が定まります。利用者が償還の窓口へトークンを送った時点で、その分は流通量から外れます。銀行口座に日本円が着金したかどうかは、この数字の外側にあります。
では、報じられた約6億円はどう動いたのか。
8月30日から9月6日にかけて全体が約6億1,100万JPYC減るあいだ、Kaiaは約6億2,200万JPYC減りました。他のチェーンの増加は、差し引き約1,100万JPYCにとどまります。
減った分がそっくり別のチェーンへ移し替えられたのなら、移った先が同じだけ増えているはずです。そうなっていない以上、チェーン間の移し替えだけでは説明がつきません。ただし、移った先で同時に償還が起きていれば純増は見えなくなります。移動がなかったとまで言い切れるわけではありません。
日々のフローも見ておきます。9月7日の「Issuerからの供給とRedeemへの回収」の差し引きはマイナス30,643,783 JPYC。同じ日、流通量は前日から30,597,570 JPYC減りました。差は46,213 JPYC、0.15%です。
ただしこの近さを、独立した二つの観測が裏づけ合った証拠として読むことはできません。流通量そのものが償還用アドレスの残高を差し引いて算出されている以上、両者は同じ材料から作られた数字だからです。
ここまでで言えるのは、二つです。全体の純減を、Kaiaから他チェーンへの単純な移し替えだけでは説明できないこと。そして9月7日の1日分については、Redeem側への純フローと流通量の減少がほぼ一致していることです。
Kaia「国内首位」の中身
もうひとつ、数字を並べると見えてくるものがあります。9月8日10時9分時点の内訳です。
Kaiaは流通量の54.0%を占めます。いっぽうでホルダーアドレスは5,562件、全体の7.7%です。Polygonは流通量の34.7%を、40,962件で保有しています。1件あたりの平均は、Kaiaが約19万9,000 JPYC、Polygonが約1万7,000 JPYCです。
保有額別の内訳では、Kaiaはアドレスの99%が1万JPYC以下と表示されています。この表示から逆算すると、1万JPYC超のアドレスは全体の約1%。その約1%が、Kaia上のJPYCの少なくとも約95%を保有している計算になります。小口側が全員ちょうど上限額を持つと仮定した下限値なので、実際の集中度はこれより高くなります。整数の丸め表示から導いた概数である点も含め、正確な分布は個々のアドレスを追う必要があります。
年5%が2%になったとき、5万円を預けている人と、数千万円を預けている人とでは、動く理由の重さが違います。「Kaiaが流通額で国内首位」という数字は、それだけでは利用者の広がりを表していませんでした。
これはKaiaやUnifiの設計が甘かったという話ではありません。まとまった残高を短期間で呼び込むインセンティブとして機能したことは、数字からうかがえます。ホルダーアドレス数には目立った減少が見られず、変化は主に残高の側に表れています。もっとも、アドレス数は人数ではありません。1人が複数のアドレスを持つことも、1つのアドレスが多数の利用者の資金をまとめて預かることもあります。
この数字から言えること、言えないこと
JPYC Infoには累積の発行額と償還額も並んでいます。9月7日時点で、累積発行が7,833,202,748 JPYC、累積償還が5,784,773,498 JPYC。累積の償還額は、累積の発行額の73.85%にあたります。
同じJPYCが発行と償還を何度も往復すれば、この比率は上がります。発行されたトークンの4分の3が退場した、という意味ではありません。それでも、発行と償還がこれだけの規模で回っていること自体は、この通貨の使われ方の一面を映しています。
ステーブルコインの流通量は、しばしば普及の物差しとして読まれます。ただしJPYC Infoのライブ流通量は、取得できる場合に発行・償還用アドレスの残高を差し引いた値です。そこに残っている額が、決済に使われて滞留しているのか、利息を待って置かれているのかを、この数字は区別しません。同サイトも、数値の増減だけで利用者数や決済需要を断定しない、と断りを置いています。
なおUnifiが提示する年利率は固定ではなく、市場環境や運営方針で変わるとサービス側が明記しています。またUnifiの利息サービスは銀行預金ではなく、預金保険の対象ではありません。JPYCというトークン自体が資金移動業者の発行する電子決済手段であることと、ウォレットサービス上の残高にどの条件が適用されるかは、分けて確かめる必要があります。
【追記(2026年9月9日)】この「資金移動業者が発行する電子決済手段」という区分が、日銀の統計上どこに位置づけられるかについては、私がCryptoverseのパートナーメディアであるinnovaTopiaで書いた「【解説】ステーブルコインは通貨を増やすのか|JPYCとPayPay残高の位置」で掘り下げています。資金移動業者はマネーストック統計上の「通貨発行主体」に含まれないため、JPYCはM1・M2・M3・広義流動性のいずれにも計上されません。
自分で確かめるために
JPYC Infoは、運営が自ら「非公式」と記しているダッシュボードです。数字を信じる前に、確かめる道が用意されています。
JPYCのコントラクトアドレスは4チェーンとも共通で、0xE7C3D8C9a439feDe00D2600032D5dB0Be71C3c29。発行元のIssuerアドレスは0x8549e82239a88f463ab6e55ad1895b629a00def3、償還先のRedeemアドレスは0xb808af91bdc577bfb3f9c91470f3286dd076e5c1です。コントラクトアドレスは、JPYC株式会社が公開している契約締結前交付書面の記載と一致します。
Redeemアドレスへの入金を追えば、償還の窓口へトークンがいつ、どれだけ移ったかを誰でも確認できます。そこから先、日本円がいつ利用者へ渡ったかはオンチェーンの外の話です。エクスプローラで見えるものと見えないものを分けておくと、数字の意味を取り違えずに済みます。
JPYC Infoは、確認するときのチェックリストも公開しています。オンチェーン数値の対象チェーン、取得時点、欠損条件が書かれているか。供給量やTransfer eventから利用実態を断定していないか。データを出す側が、そのデータで言えないことを先に書いている。読む側としては、ここに合わせるのが筋だと思います。
これから見えてくるもの
9月1日を境に起きたことは、失敗ではなく、観測の機会です。
利回りという追い風が止まったあとに、どれだけの残高が残るのか。その額は、いまJPYCがどう使われているかを考えるための材料のひとつになります。残高には決済を待つ資金も、取引所やDeFiの流動性も、法人の運転資金も混ざっているので、ひとつの数字で用途を測ることはできません。だからこそ、チェーン別の内訳や保有の分布と重ねて見る意味があります。
国内の円ステーブルコインは、発行のニュースが続いた段階から、使われ方が問われる段階へ移りつつあります。9月以降の推移は、その入口の記録になるはずです。
【用語解説】
ステーブルコイン
法定通貨などの価値と連動するよう設計された、ブロックチェーン上で移転できる価値の記録。JPYCは日本円と1対1で発行・償還される。
電子決済手段
資金決済法第2条第5項に定められた区分。JPYC株式会社は公式発表で、この区分に基づいてJPYCを発行すると説明している。
資金移動業者
銀行以外で為替取引を業として行うために登録を受けた事業者。JPYC株式会社はこの登録を受けている。
Kaia
2024年8月、KakaoのKlaytnとLINEのFinschiaが統合して誕生したブロックチェーン。Chain IDの8217はKlaytn時代から引き継いでいる。JPYCは2026年5月に対応した。
オンチェーン
ブロックチェーン上に記録され、誰でも参照できる状態を指す。取引の記録は残るが、銀行口座の入出金など外部の事象までは記録されない。
コントラクトアドレス
トークンの本体となるプログラムが置かれた場所を示す文字列。JPYCは4チェーンとも同一のアドレスを使っている。
Issuerアドレス/Redeemアドレス
発行元がトークンを送り出すアドレスと、償還の申し込みで利用者がトークンを送るアドレス。JPYC Infoはこの2つの残高を流通量から差し引いている。
ホルダーアドレス
トークンの残高を持つアドレスの数。人数とは一致せず、1人が複数持つことも、1つが多数の資金をまとめて預かることもある。
ブロックエクスプローラ
チェーン上の取引やアドレスの残高を検索・閲覧できるツール。Kaiascan、Polygonscan、Etherscanなどがある。
Transfer event
トークンが移転したときにチェーン上へ記録される事象。分散型取引所などを経由すると、同じ経済的な移動が複数回現れることがある。
DeFi
分散型金融。仲介する事業者を置かずに、プログラムで交換や貸借を成立させる仕組みの総称。
JPYC EX
JPYCの発行と償還を申し込む窓口。本人確認を済ませた利用者が、日本円の振り込みと引き換えに発行を受け、償還では指定アドレスへ送付して出金口座で日本円を受け取る。
預金保険
金融機関が破綻した場合に預金者を保護する制度。対象は銀行等の預金であり、ウォレットサービス上のトークン残高はこの制度とは別の枠組みにある。
年利率
1年あたりに換算した利息の割合。Unifiは基本利率が市場環境や運営方針で変わり得ると明記している。
【参考リンク】
JPYC Info(外部)
JPYCのチェーン別供給量、ホルダー数、掲載サービスをまとめたダッシュボード。運営のユアブライト株式会社が自ら非公式と明記している
JPYC発行量・流通量チャート(外部)
チェーン別の供給量を取得時刻つきで表示するデータページ。ライブ表示では発行・償還用アドレスの残高を差し引く旨が明記されている
JPYCとは?日本円ステーブルコインをリアルタイムデータで解説(外部)
JPYCの法的な位置づけ、発行と償還の流れ、オンチェーンで確認できることを、公式資料と金融庁資料に基づいて整理した解説記事
LINE NEXTのUnifiにてJPYCの採用が正式決定(外部)
LINE NEXTが提供するウォレット「Unifi」で日本円ステーブルコインJPYCの採用が正式に決まったことを伝えるJPYC株式会社の発表
Unifi日本語公式X(外部)
JPYCの利率変更やキャンペーンの告知が随時投稿されるUnifiの日本語公式アカウント。本記事の年利率の根拠もここにある
【参考記事】
日本円ステーブルコイン「JPYC」、初の追加対応チェーンとして「Kaia」で発行開始(外部)
Kaia上のコントラクトアドレスとChain ID 8217を明記した2026年5月の発表。本記事のアドレス照合の根拠とした
JPYC発行量・流通量チャート|チェーン別最新データ(外部)
チェーン別の供給量を取得時刻つきで示すデータページ。流通量の集計方法と、ブリッジや取得失敗で差が生じ得る旨の注記を参照した
JPYCとは?日本円ステーブルコインをリアルタイムデータで解説(外部)
発行と償還の手順、そして供給量から利用実態を断定しないための確認項目を整理した解説記事。本記事の枠組みはここに依拠している
JPYCダッシュボード(外部)
キリフダ株式会社による独立した集計。総供給量から発行・償還アドレスの残高を差し引いて流通量を算出しており、相互確認に用いた
FinschiaとKlaytnの統合チェーン「kaia(KAIA)」、8/29メインネットローンチへ(外部)
Kaiaの成り立ちを伝える2024年の報道。KlaytnとFinschiaの統合の経緯と、トークンがKAIAへ置き換えられた過程を確認した
【Crypto Verse関連記事】
JPYCの流通量6億円減とUnifi利回り特典終了の関係を、より広い文脈で理解するための関連記事をご案内します。日本のステーブルコイン制度整備(電子決済手段1号/3号/4号)・JPYCの決済実装事例・国際比較・制度監督体制を横断的に読むことで、「流通量という数字が何を数えたものか」を判断する材料が立体的に見えてきます。
日本のステーブルコイン制度整備
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- JPYSC始動―SBI・Startaleが国内初の信託型円ステーブルコインを発行 → 本記事のJPYC(資金移動業型)と対比される、日本の信託型円ステーブルコイン動向。「資金移動業型」「信託型」の設計対比を理解できます。
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日本のステーブルコイン決済インフラ・実装事例
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アジア圏・国際比較
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- 21金融機関のステーブルコイン新会社―利息を封じた側が発行体に回る → 本記事の利回り論点と直接連動する、G7銀行連合のステーブルコイン利息論点動向。「利回りが動く」「利息が封じられている」の対比を理解できます。
機関金融インフラ・骨太の方針「オンチェーン金融」
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- SBI×Solana財団―SBI R3 Japan「SBI Solana Global(仮称)」、日本発オンチェーン金融市場の創出へ → 本記事のKaia動向と並ぶ、日本発オンチェーン金融の別基盤動向。
【編集部後記】
Kaiaというチェーンは、2024年にKlaytnとFinschiaが統合してできました。前者はKakao、後者はLINEの系譜にあります。今回JPYCの残高が集まり、そして引いていった場所は、メッセージアプリが持つ数億人という入り口の上に載っています。
入り口の広さは、そこを通った人が何をしたかまでは教えてくれません。9月以降の残高が映すのは、たぶんそちらのほうです。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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