Last Updated on 2026年6月17日 by Co-Founder/ Researcher
2026年6月14日、SkyBridge Capital創業者のアンソニー・スカラムッチ氏と、Galaxy Digital CEOのマイク・ノボグラッツ氏が、ポッドキャスト「All Things Markets」最新回で、ビットコインが2026年7月末までに7万ドルを回復しうると述べた。
スカラムッチ氏は市場の悲観的センチメントを反発の材料とみており、ノボグラッツ氏はCLARITY法案が前進した場合の確率を「70対30」とした。ノボグラッツ氏は米国の約40兆ドルの債務にも言及した。GalaxyはCLARITY法案の2026年成立確率を60%へ引き下げ、JPMorganとBitwiseも慎重な見方を示した。SpaceXのIPOには2,500億ドル超の申し込みが集まり、初日終値はIPO価格を19%近く上回り、時価総額は2兆1,000億ドルを超えた。
Strategy社は32BTCを売却後に1,550BTCを購入し、保有総量は845,256BTCとなった。
From: Bitcoin to $70K by July? Scaramucci and Novogratz see a path
【編集部解説】
まず、この強気予想がどんな場で語られたのかを押さえておきましょう。スカラムッチ氏とノボグラッツ氏の「7万ドル回復」発言は、両氏が共同でホストを務めるポッドキャスト「All Things Markets」の最新回でのものです。冒頭の主題はSpaceXの史上最大規模のIPOであり、ビットコインはその文脈の一部として語られました。つまりこれは独立した相場分析ではなく、「巨大IPOが市場の資金をどう動かすか」という大きな話の中での一場面だという点が、本記事を読むうえでの土台になります。
ここで重要なのが、両氏の温度差です。元記事はノボグラッツ氏の確率を「70対30」と記していますが、これは発言の一面で、U.Todayが伝えた詳細を見ると、同氏は「3週間前なら85対15だったが、今は60対40に下げた」とも述べており、確率の数字は時点や切り取り方で揺れています。スカラムッチ氏は「(売りが)出尽くしてセンチメントがあまりに悪いので、わずかな買いでも7万ドルを抜ける」と述べる一方、ノボグラッツ氏は「7月10日までに(CLARITY法案が)通るかどうか分かる」と、期限を区切った慎重な見方を示しました。同じ「強気」でも、片方は心理の反転に、もう片方は立法の成否に賭けている。この温度差こそ、見出しの「7万ドル」よりも実は情報量が多い部分です。
では、その鍵を握るCLARITY法案とは何か。正式名称を「Digital Asset Market Clarity Act(デジタル資産市場明確化法)」といい、米国で暗号資産がSEC(証券)とCFTC(商品)のどちらの管轄に属するのかという、長年あいまいだった線引きを連邦レベルで初めて定めようとするものです。業界が「米国史上もっとも重要な暗号資産立法」と呼ぶのは、この管轄の明確化が、上場・課税・商品設計のすべての前提になるからです。
法案が今、土壇場で止まっている理由の一つは、技術論だけでなく政治倫理にもあります。主要な対立点の一つが、トランプ大統領と一族の暗号資産事業をめぐる利益相反です。民主党のジリブランド議員やギャレゴ議員らは、政府高官の暗号資産保有を制限する倫理条項を盛り込むことを支持の条件として重視しており、トランプ氏と一族が政権復帰後にこうした事業から得た収益はロイターの推計で約23億ドルに上るとされています。もう一つの停滞論点が、元記事の言う「プライバシーソフトの法的扱い」です。これは非カストディアル(資産を預からない)型のソフト開発者を資金移動業者として訴追しないよう保護する条項をめぐるもので、捜査機関がマネーロンダリング摘発の妨げになると懸念しています。技術者の自由と捜査当局の権限がぶつかる、暗号資産規制の本質的な難問です。
時間軸も冷静に見ておく必要があります。Galaxy Researchのアレックス・ソーン氏が成立確率を75%から60%へ引き下げたのは6月5日のことで、これは5月14日の上院銀行委員会での15対9の可決後、機関投資家による主要な下方修正の一つでした。本会議の通過には60票が必要ですが、共和党のホーリー氏とポール氏は反対が見込まれており、与党側は最低でも9人の民主党議員の賛成を取り付ける必要があると見られています。元記事はGalaxyの60%とJPMorgan・Bitwiseの慎重姿勢に触れていますが、補足すると、JPMorganは今年中の成立を50%未満とみていると報じられ、BitwiseのMatt Hougan氏は5〜30%という、さらに低く幅の広いレンジを示しています。8月の議会休会という事実上の締め切りまで、残された審議日数は驚くほど少ないのが実情です。
ではなぜ、SpaceXのIPOがビットコインの話に絡んでくるのでしょうか。論点は「資金の奪い合い」です。SpaceXは6月11日に1株135ドルで価格を決め、単一の公募としては史上最大の750億ドルを調達、翌12日の終値は約161ドルとIPO価格を19%上回り、時価総額は2兆1,000億ドルを超えました(その後、グリーンシュー条項の行使により調達額は857億ドルへ増えたとの続報もあります)。これだけの規模の魅力的な上場が現れると、投機的なリスクマネーが暗号資産から大型テック株へ流れる、という懸念が生じます。元記事が「すでに6月の急落で暗号資産は約2,500億ドルを失った」と並べているのは、この資金移動の文脈を示すためです。なお記事中の「公募に2,500億ドル超の注文」と「暗号資産が失った約2,500億ドル」は、たまたま数字が近いだけの別物である点には注意が必要です。
最後に、長期的な視座でこのニュースの本質を捉え直してみます。今回語られた三つのテーマ(債務とインフレ、規制の明確化、巨大IPOによる資金移動)は、いずれも「ビットコインが投機的なオモチャから、マクロ経済の一資産クラスへと組み込まれていく過程」の断面です。ノボグラッツ氏が約40兆ドルの米国債務とインフレによる実質目減りを「希少資産としてのビットコイン」の論拠に据えたのは、ビットコインを金(ゴールド)になぞらえる古典的な議論の延長線上にあります。皮肉なのは、その同じビットコインが、いまやSpaceX株という別のリスク資産と資金を取り合う立場にもなっているという点です。「7万ドルを回復するか」という短期の問いの裏側で進んでいるのは、ビットコインが既存の金融システムにどう接続され、どう規制され、どう位置づけられるのかという、より長い構造変化なのです。Crypto Verseが今この記事を取り上げる理由も、まさにそこにあります。価格の予想そのものより、その予想が成り立つ土台が、技術と政治と金融の交差点で組み替えられつつある——その地殻変動を読者と共有したいからです。
【用語解説】
CLARITY法案(Digital Asset Market Clarity Act)
米国で暗号資産がSEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)のどちらの管轄に属するかを連邦レベルで初めて明確に線引きしようとする法案である。正式名はデジタル資産市場明確化法。上場・課税・商品設計など、あらゆる前提となる管轄の確定を目的とする。
倫理条項(ethics provision)
政府高官やその家族が、在職中の地位を利用して暗号資産事業から私的利益を得ることを制限する規定である。CLARITY法案では、トランプ大統領と一族の暗号資産事業をめぐる利益相反が争点となり、民主党が支持の条件として重視している。
非カストディアル(non-custodial)
利用者の資産(秘密鍵)を預からず、本人が自己管理する形態のソフトウェアやサービスを指す。CLARITY法案では、こうしたソフトの開発者を資金移動業者として訴追しないよう保護する条項が、捜査当局との間で停滞論点となっている。
ハードアセット(hard asset)
発行量に上限があり、価値保存の手段として語られる資産を指す。金(ゴールド)が代表例で、ビットコインも供給上限が決まっていることから、インフレや通貨価値の下落への備えとして同様の文脈で語られる。
センチメント(sentiment)
市場参加者の心理や雰囲気を指す。スカラムッチ氏は、悲観に傾きすぎたセンチメントが、わずかな買いで反発を生む土台になりうると論じた。
Common Equity Bitcoin Exposure BPS(CEBE BPS)
Strategy社のマイケル・セイラー氏が提唱する独自のリスク指標である。債務や優先株の請求権を差し引いたあとに、普通株主が実質的に持つビットコインへのエクスポージャー(持ち高)を測る、保守的な物差しとされる。
【参考リンク】
crypto.news(外部)
暗号資産専門のニュースメディア。価格分析、規制動向、業界ニュースを英語で発信している。
Galaxy Digital(外部)
マイク・ノボグラッツ氏率いる暗号資産金融サービス企業。調査部門のリサーチも広く参照される。
SkyBridge Capital(外部)
アンソニー・スカラムッチ氏が創業した投資運用会社。オルタナティブ投資を手がけ、暗号資産関連の運用にも関わる。
Strategy(外部)
旧MicroStrategy。2025年2月にリブランドした、マイケル・セイラー氏率いるビットコイン保有企業として知られる。
SpaceX(外部)
イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業。史上最大規模のIPOを実施し、暗号資産市場の資金移動の文脈で言及された。
JPMorgan(外部)
米大手金融機関。CLARITY法案の今年中の成立について慎重な見方を示した一社として登場する。
Bitwise(外部)
暗号資産に特化した米資産運用会社。CLARITY法案の成立確率に幅の広い慎重な見積もりを示した。
【参考記事】
Galaxy Cuts CLARITY Act Passage Odds From 75% to 60% as Senate Calendar Tightens(外部)
Galaxyのソーン氏が6月5日に2026年成立確率を75%から60%へ引き下げたと報じた記事。審議日程の逼迫が主因だと説明している。
Over 200 Crypto Firms Urge Senate Vote on CLARITY Act as Galaxy Cuts Passage Odds to 60%(外部)
200社超が本会議採決を求めた書簡と確率引き下げを報じた記事。通過には60票が必要で、9人以上の民主党議員の賛成が要ると整理している。
SpaceX IPO raises valuation to $2T, making Elon Musk the world’s first trillionaire(外部)
SpaceXが135ドルで価格を決め750億ドルを調達、終値で19%上昇し時価総額2兆1,000億ドル超に達したと報じた記事。
Scaramucci and Novogratz Predict BTC to Reclaim $70K Soon(外部)
両氏の発言を直接引用で伝えた記事。ノボグラッツ氏は確率を85対15から60対40へ下げたと記している。
Galaxy Digital Lowers CLARITY Act Passage Odds to 60% as Deadline Nears(外部)
確率引き下げに加え、JPMorganが今年中の成立を50%未満とみていることを伝えた記事。論点の未解決状況も整理している。
Clarity Act Hits Ethics Snag as White House Courts Law Enforcement Support(外部)
倫理条項をめぐる非公開協議が合意に至らなかったと報じた記事。トランプ一族の収益はロイター推計で約23億ドルとされる。
Crypto’s Historic May 2026: Inside the CLARITY Act, Trump EO & Fed Shift(外部)
非カストディアル型ソフト開発者を訴追から保護する条項が協議停滞の焦点になったと詳述した記事。
【編集部後記】
「7万ドルを回復するか」という問いの面白さは、価格そのものよりも、その予想が立つ土台にあるのかもしれません。今回の話には、国家の債務、立法の駆け引き、巨大IPOによる資金の流れが、一本の線でつながっていました。みなさんなら、この三つのうちどれがビットコインの行方を最も左右すると感じるでしょうか。
市場の悲観に賭けるスカラムッチ氏と、法案の成否に期限を区切るノボグラッツ氏、どちらの読み筋がしっくりきますか。答え合わせの一つの節目が、この夏に訪れます。私たちも同じ場所から、その瞬間を見届けたいと思っています。
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