Last Updated on 2026年6月11日 by Co-Founder/ Researcher
EMURGOは2026年6月8日、セルフカストディ型ネオファイナンス・プラットフォーム「SecondFi」の正式ローンチを発表した。
SecondFiは、CardanoウォレットYoroi Walletがマルチチェーン型の金融プラットフォームへ進化したものである。Cardanoネイティブトークンに限られていたYoroiと異なり、SecondFiは1万種類以上の資産でクロスチェーンスワップに対応し、SOLからADAなどのスワップをアプリ内で行える。
Wirexとの提携でセルフカストディ型Visaカードを導入し、BanxaおよびEncryptusと提携して法定通貨のオン・オフランプに対応する。カードは現段階で、フィリピン、ベトナム、ドイツ、台湾などを含む39カ国で利用でき、最低チャージ額はなく、Apple PayとGoogle Payに追加できる。日本は第3四半期に提供予定である。
ADAのステーキング報酬、DRep委任、ステークプール参加はSecondFi内でも維持される。
From: SecondFi Launches: Spend, Save, and Earn With Crypto While Keeping Full Control
【編集部解説】
まず押さえておきたいのは、今回の「ローンチ」が突然の発表ではなく、周到に設計された段階的ロールアウトの到達点だという点です。EMURGOは2026年4月22日、バンコクで開催された金融カンファレンス「Money20/20」でSecondFiを初公開し、その時点ではウェイトリストの受付を開始していました。
続く5月7日にWirexとの提携深化が公表され、6月8日の正式ローンチへと至ります。CryptoVerseがこのタイミングで取り上げるのは、構想から実装へと移った「いま」が、暗号資産の自己管理と日常決済が初めて本格的に両立する転換点になりうるからです。
最大の論点は、見出しにもある「セルフカストディ型のVisaカード」という、一見すると矛盾した概念をどう理解するかにあります。従来の暗号資産カードの多くは、利用者がいったん資産を取引所や発行会社に預け、そこから支払う「カストディアル(預託型)」の仕組みを採用してきました。
SecondFiのカードはここを反転させます。利用者の資金は取引の瞬間までユーザー自身のウォレットに留まり、ADA、BTC、ETH、USDCなどの資産を、Visaが使える店舗で支払いに充てられる仕組みです。つまり「決済が成立する直前まで鍵を握り続ける」設計であり、これが「セルフカストディを保ったまま使える」という主張の核になっています。
ただし、この表現は一定の留保を要します。決済が確定する瞬間には、暗号資産の換金や決済ネットワークへの連携が発生し、そこにはWirexやVisaという第三者が介在します。「常に完全に自己管理」というよりは、「保有の局面では自己管理を維持し、支払いの局面でのみ仲介を通す」と理解するのが正確でしょう。免責事項にも、提供可否が法域・コンプライアンス・提携先の承認に左右されると明記されています。
この技術が開くのは、長らく暗号資産文化を縛ってきた「Not your keys, not your coins(鍵を持たぬ者にコインなし)」という標語と、日常の利便性とのトレードオフの解消です。FTX破綻のような中央集権的取引所の崩壊が、資産を自己管理へ移す動きを繰り返し後押ししてきた経緯があり、SecondFiはその不安に応えつつ決済体験を損なわない着地点を狙っています。
戦略的な射程はさらに広く見えます。EMURGOが照準を合わせているのは、暗号資産に明るい層だけではありません。ステーブルコインの流通額が3000億ドルを超えるなか、安定した通貨や基本的な銀行サービスへのアクセスが限られる東南アジア・ラテンアメリカ・アフリカといった新興国市場で、国境を越える金融ツールへの需要が高まっている、というのが同社の見立てです。カードの対応国にフィリピンやベトナムが含まれ、日本が第3四半期に控えるのも、この文脈で読むと一貫しています。
一方で、潜在的なリスクも冷静に見ておくべきです。支払い資産が暗号資産である以上、価格変動は購買力に直結します。ステーブルコインを使えば緩和できますが、今後予定されるステーブルコインのイールドやRWA(実物資産)連携は、各国で規制論議が活発な領域でもあります。
規制面では、日本市場への参入が特に注目に値します。日本は暗号資産交換業や資金移動業に関する規制が厳格で、Visaカードを通じた暗号資産決済には独自のハードルが想定されます。もっとも、日本の提供はあくまで「Q3予定」であり、現時点で公開されている対応国一覧に日本は含まれていません。提供可否は法域・コンプライアンス・提携先の承認に左右されると免責事項にも明記されており、確定情報ではない点に留意が必要です。第3四半期という時期設定が予定通り実現するか、どのような形態で提供されるかは、国内の他事業者にとっても試金石となるはずです。
長期的に見れば、今回の動きはCardanoエコシステムの性格そのものの転換を示唆します。基盤を支えてきたYoroiが、ADAの保有・管理を中心とした従来型のウォレットから、生活者向けの金融アプリへと衣替えするわけです。提携先のWirexは130カ国で700万人以上に利用されているとされ、SecondFi自身も100万人超の利用者を掲げています。ただし、自己管理型カードが日常決済として数百万人規模へ広がるかどうかは、確定した事実ではなく、これからの問いです。SecondFiは、その問いに対するCardano陣営からの具体的な解答だと位置づけられます。
【用語解説】
セルフカストディ(自己管理型)
暗号資産の秘密鍵をユーザー自身が保有し、取引所や事業者に預けずに資産を管理する方式である。対義語は、第三者に資産を預ける「カストディアル(預託型)」となる。
クロスチェーンスワップ
異なるブロックチェーン上の資産同士を交換する取引である。たとえばSolana上のSOLとCardano上のADAのように、本来は別々のネットワークにある通貨を1つのアプリ内で交換できる。
ステーキング/ステークプール
保有する暗号資産をネットワークの維持に預け入れ、その対価として報酬を得る仕組みである。Cardanoでは、複数の参加者の資産をまとめる「ステークプール」へ委任して報酬を受け取る。
DRep(Delegated Representative/委任を受けた代表者)
Cardanoのオンチェーン・ガバナンスにおいて、投票権を委ねる代表者を指す。保有者は自ら投票する代わりにDRepへ委任し、ネットワークの意思決定に間接的に参加できる。
オンランプ/オフランプ
法定通貨を暗号資産に交換する経路を「オンランプ」、暗号資産を法定通貨に戻す経路を「オフランプ」と呼ぶ。現実のお金とブロックチェーンの世界をつなぐ出入口にあたる。
RWA(Real World Assets/実物資産)
不動産や債券、貴金属など現実世界の資産をブロックチェーン上でトークン化したものである。伝統的金融とWeb3をつなぐ領域として注目されている。
Not your keys, not your coins(鍵を持たぬ者にコインなし)
秘密鍵を自分で管理しない限り、その暗号資産を本当に所有しているとは言えない、という標語である。自己管理の重要性を説く文脈で広く使われる。
FTX
かつて大手だった暗号資産取引所で、2022年に経営破綻した。預けた資産が引き出せなくなった事例として、自己管理の必要性が再認識される契機となった。
【参考リンク】
SecondFi 公式サイト(外部)
EMURGOが提供する自己管理型ネオファイナンスの公式サイト。対応国の一覧や各機能、最新情報をここで確認できる。
EMURGO 公式サイト(外部)
SecondFiとYoroiを開発するCardano共同創設エンティティの公式サイト。プレスリリースや事業内容を掲載している。
Wirex 公式サイト(外部)
SecondFiカードを発行するグローバル決済企業の公式サイト。VisaとMastercardの主要会員として知られる存在だ。
Banxa 公式サイト(外部)
SecondFiが提携する、法定通貨と暗号資産の出入口を提供するインフラ企業の公式サイト。対応通貨や仕組みを確認できる。
Encryptus 公式サイト(外部)
SecondFiが提携する機関投資家向けOTC・オフランプ企業の公式サイト。CardanoのステーブルコインUSDAにも関わる。
Cardano 公式サイト(外部)
ADAを基軸とするブロックチェーンの公式サイト。SecondFiが基盤とするネットワークの解説やエコシステム情報を掲載する。
Solana 公式サイト(外部)
クロスチェーンスワップの例に挙がったSOLを基軸とするブロックチェーンの公式サイト。技術や用途の解説を掲載している。
Visa 公式サイト(外部)
SecondFiカードが加盟店ネットワークとして利用する、世界的な国際決済ブランドの公式サイト。サービス概要を確認できる。
Money20/20 公式サイト(外部)
SecondFiが初公開された国際的なフィンテック・カンファレンスの公式サイト。開催情報や登壇企業などを掲載している。
【参考記事】
EMURGO Unveils SecondFi(EMURGO 公式)(外部)
2026年4月22日の初公開を伝えるEMURGO公式発表。ステーブルコイン3000億ドル超という市場背景が示されている。
SecondFi and Wirex Partner(PR Newswire)(外部)
Wirexとのカード提携深化を伝える公式リリース。130カ国700万人超という規模や提携の経緯が記されている。
SecondFi and Wirex Partner(Chainwire)(外部)
同提携の詳細版。Wirexが130カ国で200億ドル超を処理した実績や、取引の瞬間まで自己管理する仕組みを解説する。
Yoroi Wallet Is Evolving Into SecondFi(EMURGO 公式)(外部)
既存Yoroiユーザー向けの移行案内。自動更新で新規DL不要、資産やアクセスがそのまま継承される点を示している。
Non-custodial crypto cards proliferate(Blockworks)(外部)
自己管理型カードの業界潮流を論じた記事。FTX破綻が資産を自己管理へ移す動きを後押しした経緯を指摘している。
EMURGO launches SecondFi neobank platform(cryptonews.net)(外部)
第三者メディアによる紹介記事。暗号資産初心者でも複雑な設定なしに使える設計である点などが報じられている。
暗号資産に関連する事業を行うみなさまへ(金融庁)(外部)
国内で暗号資産交換サービスを行うには交換業登録が必要と示す公的情報。日本提供が「予定」段階である留保の根拠だ。
MetaMask Card、米国全土に展開──セルフカストディ型デビットカードでニューヨーク初参入(外部)
同じ「自己管理型カード」を、Ethereum系のMetaMaskが米国で展開した先行事例。SecondFiと比較して読むと理解が深まります。
トークンかステーブルコインか。それともPayPayか? 6月1日『新仲介業』がひらく、日本のデジタル金融インフラ(外部)
2026年6月施行の新仲介業を解説。SecondFiの「日本Q3提供」を読み解く制度的な前提として参考になります。
【Crypto Verse関連記事】
本記事のSecondFi・セルフカストディ・Cardano(ADA)・Visa対応カード・ステーブルコイン決済・新興国市場戦略・日本の規制環境をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
【セルフカストディ・自己管理の基本】
- 秘密鍵(Private Key)のアーキテクチャ解剖:所有権の数学的証明と「資産防衛」のインフラ設計 → 本記事の「鍵は自分のまま」という設計思想の数学的・技術的な基礎。秘密鍵がなぜ資産所有の根拠となるのか、そして「Not your keys, not your coins」という標語が意味する構造を解説しています。
- 暗号資産の守り方:ウォレット・秘密鍵・セキュリティ対策【2026年最新版】 → 本記事のSecondFiが提供する自己管理型ウォレットの基盤となる、ウォレット運用全般の防衛戦略。ハードウェアウォレット・コールドストレージ・多層防衛の基本を学べます。
- ビットコインセルフカストディの技術的本質:UTXOモデル・マルチシグ・プライバシー保護【2026年最新版】 → 本記事のセルフカストディ思想を、ビットコイン領域で深掘り。マルチシグやエアギャップなど、「端末を信用しない」設計の本格的な実装例として参考になります。
- 仮想通貨ウォレットの復旧方法とは?リカバリーフレーズ・秘密鍵による復元手順を徹底解説【2026年版】 → 本記事のYoroi WalletがSecondFiへ移行する際の前提となる、ウォレット復旧の基本技術。BIP39/BIP44規格による復元手順を解説しています。
- MetaMaskの「Approve(承認)」を理解する:技術的仕組みとセキュリティ対策【2026年版】 → 本記事のSecondFiが採用する「決済の瞬間まで鍵を握り続ける」設計と類似する、ウォレットレベルでの権限管理の仕組み。承認の意味と危険性を理解できます。
- 【緊急】暗号資産が盗まれた時の対応マニュアル:被害拡大を止める7ステップ【2026年最新版】 → 本記事のセルフカストディ運用において、万が一の事態に備える具体的な対応手順。自己管理の利便性とリスクの両面を理解できます。
【ステーブルコイン・暗号資産決済】
- Mastercardがステーブルコイン決済を導入|USDC・RLUSD対応で常時稼働型清算へ → 本記事のSecondFiカード(Visa対応)と並ぶ、伝統的決済ネットワークと暗号資産の統合事例。「カード×暗号資産」という決済構造の業界動向を理解できます。
- Square、ビットコイン決済を米国数百万店舗に自動解放—お金の「インフラ」が静かに塗り替わる → 本記事のSecondFiが目指す「使える暗号資産」の文脈と並ぶ、決済インフラレベルでの暗号資産統合事例。実需としての暗号資産の動向を理解できます。
- Tether・Fasset、世界初の金裏付けVisaカード発表|買い物で金が貯まる新時代 → 本記事と同じ「Visaカード × 暗号資産」構造で、別領域(金トークン)の決済統合を実現した事例。カード型決済インフラの多様化を理解できます。
- StraitsXが描く「決済の未来」―ステーブルコインはなぜ東南アジアで静かに覇権を握りつつあるのか → 本記事のSecondFiが照準を合わせる東南アジア・新興国市場での、ステーブルコイン浸透の構造的背景。フィリピン・ベトナム等での対応戦略の必然性を理解できます。
- USD1エアドロップ開始—Binanceとトランプ家のステーブルコインWLFI、日本は対象外 → 本記事のステーブルコイン市場(3000億ドル超)の動向を理解する補完情報。新興ステーブルコイン群の動向と日本市場の位置づけを把握できます。
【日本の規制環境・参入動向】
- Startale・SBI・Sony、6,300万ドル調達—日本の金融がブロックチェーンと本格接続へ → 本記事のSecondFi日本参入動向と並走する、日本の金融セクターのブロックチェーン接続事例。日本市場の構造変化を理解できます。
- 暗号資産の規制区分をSECとCFTCが整理 BTC・ETHは「デジタル証券」ではなく「コモディティ」側に → 本記事のSecondFiがグローバル展開する際の前提となる、米国側の規制動向。各国規制環境の比較理解に役立ちます。
【DeFi・分散型金融の構造】
- DeFi(分散型金融)とは?従来の金融との違い・仕組み・代表的サービスを完全解説【2026年版】 → 本記事のSecondFiが「ネオファイナンス」と位置づける、分散型金融全体の構造。SecondFiがDeFi文化の中でどう位置づけられるかを理解できます。
- DeFi(分散型金融)のリスク一覧:スマートコントラクト・インパーマネントロス・オラクル攻撃の構造 → 本記事のSecondFiが提供する「使う・貯める・稼ぐ」のうち、「稼ぐ」局面で接続するDeFi領域のリスク構造。利回りの源泉とリスクを理解できます。
- イールドファーミングとは?AMMの数学的構造と「集中流動性」の完全解剖 → 本記事の「貯める・稼ぐ」が依存する、DeFi利回りの仕組み。SecondFiが将来的に統合するイールド機能の基礎を学べます。
【RWA(現実資産トークン化)領域】
- RWA(現実資産のトークン化)とは?仕組み・市場構造・TradFiとWeb3統合の全体像【2026年版】 → 本記事で言及された「RWA連携」の基礎知識。SecondFiが将来統合を予定する現実資産トークン化の全体像を解説しています。
- 米国債をオンチェーンで保有する時代。RWAトークン化の構造と日本投資家の実務論点【2026年4月最新版】 → 本記事のRWA連携が具体化した場合に接続される、代表的なRWA資産である米国債トークンの市場構造を理解できます。
- XRP Ledger vs Ethereum、RWA資本移動説の真相─未検証の15億ドルをどう読むか → 本記事のCardanoエコシステムと並ぶ、XRPL・EthereumのRWA戦略動向。各ブロックチェーンによるRWA競争の全体像を把握できます。
【AI×決済・次世代金融インフラ】
- AIが自律的に支払う時代へ—x402 Foundation発足、Linux Foundationのもとで標準化へ → 本記事のセルフカストディ決済と並ぶ、もう一つの次世代決済パラダイム(AI自律決済)の動向。決済の主体が「人間」から「AI」へ拡張する流れを理解できます。
- Ethereum・World・Mastercard——AIと暗号資産が塗り替える経済の輪郭 → 本記事のSecondFiが位置する、AI×暗号資産×決済融合の全体像。Cardanoエコシステムを多角的な業界動向の中で位置づけられます。
【市場構造・機関化の動向】
- ビットコイン6万2000ドル割れ、Strategy 32BTC売却が招いた18億ドル清算の連鎖 → 本記事のSecondFiが対象とする暗号資産市場全体の、最新の動向。決済資産としての暗号資産の価格変動リスクを理解できます。
- ビットコインETF、過去最長13日の純流出。約43億ドルが抜けた背景とETFが「限界的な買い手」になった構造変化 → 本記事のSecondFiが提供する「保有」「決済」のうち、ETFを介さない直接保有モデルとの対比。機関化動向と自己管理の関係を理解できます。
【検証可能性・FACT主義】
- プログラム可能な通貨と検証可能なコード:2026年における次世代金融インフラの構造解剖 → 本記事のSecondFiが体現する「検証可能な決済」の哲学的基盤。スマートコントラクトとセルフカストディが組み合わさることで実現する、新しい金融インフラの本質を解説しています。
【編集部後記】
「鍵は自分で持ったまま、コンビニでも海外でも使える」――そんな財布が現実になりつつあります。便利さのために資産を誰かに預けるのか、それとも自分で握り続けるのか。この問いは、暗号資産に縁がない方にとっても、これからのお金との付き合い方を考えるヒントになりそうです。
みなさんなら、日々の支払いに自己管理型のカードを使ってみたいと思いますか。日本での提供が予定される今年第3四半期(Q3)に向けて、一緒に動向を追いかけていけたら嬉しいです。気づいたことがあれば、ぜひ教えてください。
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