Last Updated on 2026年6月12日 by Co-Founder/ Researcher
「預けるだけで、暗号資産が同じ通貨建てで増えていく」。そんなレンディングサービスが、また一つ日本に登場しました。2026年6月10日に事前登録を開始した「HyperLending」です。注目すべきは、ビットコインやイーサリアムに加えて、いま世界の取引マニアが熱視線を送る分散型取引所HyperliquidのトークンHYPEを、同社調べで国内初めて貸出対象にした点。BTC・ETHなら最大年率10%という高水準の利率を掲げ、先着順のブースト特典まで用意されています。けれど、その利回りはいったい何に支えられているのでしょうか。そして、ちょうど日本で暗号資産レンディングの規制が大きく動き出そうとしている、このタイミングで生まれた意味とは。サービスの中身から、過去に世界を揺るがしたレンディング破綻の教訓、そして「金融そのものがブロックチェーンへ移っていく」大きな潮流まで、未来を報じる視点で読み解いていきます。
株式会社ICHIZEN HOLDINGS(東京都渋谷区、代表取締役 水野倫太郎・木田陽介)は2026年6月10日、暗号資産レンディングサービス「HyperLending」の事前登録受付を開始した。
ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)に加え、分散型取引所HyperliquidのトークンであるHYPEを、同社調べで国内初めて貸出対象とする。正式サービス開始は2026年7月1日を予定する。貸借料率はBTC・ETHが最大年率10%、HYPEが最大年率4%で、フレキシブル型と定期型の2種類を用意する。
サービス開始に先立ち、先着1,000名を対象に適用料率を最大1.12倍に引き上げるブーストキャンペーンを実施する。法人向けにはBTC・ETH・HYPEに加え、USDT・USDCの貸出にも対応する。
From: 日本初*、HYPEに対応した暗号資産レンディング『HyperLending』が事前登録を開始

【編集部解説】
今回のリリースで注目したいのは、HYPEという銘柄を入り口に、金融がブロックチェーン上へ移りつつある潮流と、それを規制が追いかけ始めた「制度の転換点」が重なっている、という構図です。
まず、HYPEという銘柄について整理します。HYPEは分散型取引所Hyperliquidの基軸トークンで、Hyperliquid自体は売買・約定・清算までをすべてブロックチェーン上で完結させる、取引に特化したレイヤー1ブロックチェーンです。公式ドキュメントによれば、多くの競合DEXが注文の照合を外部に頼るのに対し、Hyperliquidはこれらをオンチェーンで処理し、毎秒20万件規模の注文処理に対応するとされます。中央集権型取引所に迫る処理性能を、許可不要のオープンな環境で目指している点が特徴です。
数字の面でも、この銘柄の存在感は増しています。複数の分析記事では、Hyperliquidの2025年の取引高は2.9兆ドルで前年比400%超の伸びを示し、オンチェーンの分散型パーペチュアル市場で高いシェアを占めると報じられています。また2026年6月初旬時点でTVL(預かり資産)は約58億ドル、年換算の手数料収入は8億ドル超とされます。これらの数値はDeFiLlama等のダッシュボードで日々更新されるため、最新値は出典で確認するのが確実です。いずれにせよ、「金融がチェーンへ移る入り口」というリリースの表現は、実装の裏付けを一定程度伴った主張だと評価できます。
そのうえで、本サービスが提供するのは「レンディング(貸出)」です。保有する暗号資産を事業者に預け、同じ通貨建ての数量を金利として受け取る仕組みで、価格上昇とは別に「数量を増やす」ことを狙えます。眠っていた資産に働いてもらえる点が魅力ですが、ここに最大の注意点が潜んでいます。
リリースは「自社運用」を強みとして掲げています。外部業者を挟まないため手数料を利率に回せ、破綻や凍結に巻き込まれにくい、という説明です。これは一面で正しいのですが、別の視点も必要です。第三者によるカストディ(資産保管)や運用先の分散を持たない構造は、裏を返せばリスクが運営主体一社に集中することを意味します。2022年に破綻したCelsiusでは、巨額の顧客資産が凍結されました(米FTCとの和解では47億ドルの判決額が言及されています)。誤解を招く説明や財務状況の不透明さが問題視された事例であり、近年は過剰担保・第三者保管・透明性の確保で信頼回復を図る事業者も現れています。預ける側にとって本当に重要なのは「自社運用かどうか」よりも、準備金の証明(プルーフ・オブ・リザーブ)や運用・分別管理の透明性がどこまで担保されるか、という点です。
そして、最も大きな論点が規制です。日本では暗号資産交換業者に登録制・分別管理義務などが課される一方、レンディング専業の事業者については保護の枠組みが弱いという指摘があります。その状況がいま、変わろうとしています。金融庁は2025年11月7日のワーキング・グループ(第5回)で、暗号資産に係る規制を資金決済法から金融商品取引法(金商法)の枠組みへ移す方向性を示しました。制度化が進めば、暗号資産の貸出にも、投資商品に準じた情報開示・説明義務が及ぶ可能性があります。
つまり本サービスは、ルールが固まりきる前の過渡期に船出することになります。これは利用者にとって、保護の網がまだ十分に張られていない時期だということでもあります。
長期的な視点では、二つの流れが交差していきます。一つはオンチェーン金融が実体を伴って拡大していく流れ、もう一つは各国の規制がそれを「投資商品」として捕捉していく流れです。運営元のICHIZEN HOLDINGSは、上場企業の暗号資産トレジャリー(DAT)戦略を支援するWEB3コンサルティング企業で、2026年1月には上場企業など155社を分類した「暗号資産トレジャリー企業カオスマップ」を公開したと発表しています。企業が暗号資産を「持つ」フェーズから「運用する」フェーズへ移る潮流の延長線上に、このレンディング事業が位置づけられていると読み解けます。
最後に、読者への視点として一つだけ。過去の教訓は「利回りはタダではない」という単純な事実に集約されます。高い利率は、価格変動・カウンターパーティー・流動性・規制という複数のリスクへの対価です。元本(数量)が同じ通貨建てで返る設計であっても、円換算での価格下落リスクは利用者が負う、とリリース自身が明記している点は、冷静に受け止めておきたいところです。
【用語解説】
暗号資産レンディング
保有する暗号資産を事業者に貸し出し、対価として同じ通貨建ての数量を金利として受け取る仕組み。価格上昇とは別に「数量を増やす」ことを狙える一方、元本保証ではなく、貸出先の信用リスクを負う。
レイヤー1ブロックチェーン
他の基盤に依存せず、単独で取引の記録・検証を完結できる土台となるブロックチェーン。ビットコインやイーサリアムが代表例で、Hyperliquidも取引に特化した独自のレイヤー1である。
建玉(オープンインタレスト)
決済されずに市場に残っている契約の総量。デリバティブ市場の規模や活況を測る代表的な指標である。
TVL(預かり資産総額)
Total Value Lockedの略。あるサービスやプロトコルに預け入れられている資産の合計額で、利用規模を示す目安となる。
カストディ
資産の保管・管理を指す。第三者が分別して保管する「第三者カストディ」は、運営者の破綻時に資産が守られやすい設計とされる。
プルーフ・オブ・リザーブ
事業者が顧客資産に見合う準備金を実際に保有していることを、第三者検証可能な形で証明する仕組み。レンディングの透明性を測る要点である。
暗号資産トレジャリー(DAT)
Digital Asset Treasuryの略。企業が財務戦略の中核として暗号資産を保有・運用するモデル。2020年の米MicroStrategyによるビットコイン購入を契機に世界へ広がった。
Celsius/BlockFi
いずれも2022年に経営破綻した米国の暗号資産レンディング大手。顧客資産の不透明な運用や無担保融資が原因とされ、現在の業界が教訓とする崩壊事例である。
【参考リンク】
HyperLending(公式サイト)(外部)
本記事で取り上げた暗号資産レンディングサービスの公式サイト。料率やリスク説明、事前登録の案内を掲載する。
株式会社ICHIZEN HOLDINGS(公式サイト)(外部)
HyperLendingの運営元。金融に強みを持つWEB3コンサル企業で、企業の暗号資産トレジャリー戦略支援などを手がける。
Hyperliquid(公式アプリ)(外部)
HYPEの基盤となる分散型取引所の公式取引アプリ。暗号資産や株式指数などを24時間オンチェーンで取引できる。
DeFiLlama(Hyperliquid)(外部)
HyperliquidのTVL・手数料・収益・取引高を追跡するダッシュボード。本文の市場データの最新値を確認できる。
CRYPTO Governance(公式サイト)(外部)
ICHIZEN HOLDINGSが提供する、暗号資産の会計処理と内部統制を担う法人向けシステムの公式サイト。
金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」(外部)
暗号資産制度や登録業者一覧など、利用者向けの一次情報をまとめた金融庁の公式ページ。規制の現状を確認できる。
【参考記事】
Why Crypto Lenders Fail: Lessons for Investors(FinanceFeeds)(外部)
過去のレンディング破綻を整理。Celsiusの資産凍結やBlockFiの破産申請に触れ、高利回りの裏のリスクを説く。
Bankrupt Crypto Lender Celsius Sued by SEC and CFTC(Investopedia)(外部)
Celsiusの破綻と当局による提訴を伝える記事。資産凍結や説明上の問題点など、破綻の経緯を確認できる。
HYPE Token ETFs: What Hyperliquid Is(Yahoo Finance)(外部)
HYPEの2026年の急伸とETF動向を報道。取引高やTVLなど市場データに触れる英語の分析記事。
金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」第5回(金融庁)(外部)
暗号資産規制を資金決済法から金商法へ移す方向性を議論した会合の議事次第。規制転換の一次資料。
仮想通貨レンディング金利一覧【2026年】(会社設立のミチシルベ)(外部)
国内レンディング事情を整理。専業事業者の登録状況や利率水準、法的保護の弱さを指摘する解説記事。
【Crypto Verse関連記事】
本記事のHyperLending・HYPEトークン・暗号資産レンディング・自社運用と第三者カストディ・規制動向・機関投資家の暗号資産戦略の構造的背景をより深く理解するための、Crypto Verseの関連解説記事をご案内します。
【Hyperliquid(HYPE)基盤の構造理解】
- Hyperliquidとは?HYPE基盤のレイヤー1ブロックチェーンとオンチェーンCLOBアーキテクチャの完全解剖 → 本記事のHyperLendingが対応するHYPEトークンの基盤プロジェクト「Hyperliquid」の技術的構造を解説した記事。レイヤー1ブロックチェーン・オンチェーンCLOB・毎秒20万件規模の処理性能・HYPEトークノミクスの全体像を網羅しています。本記事の前提となる「金融がチェーンへ移る入り口」の実態を理解する出発点としてお読みください。
【DeFiの安全性とセキュリティ検証】
- アライドアーキテクツ × Nyx Foundation、AIがDeFiの安全を”検算”する時代へ → 本記事のレンディングサービスが依存するDeFi領域で進む、AIによる安全性検証の動向。「自社運用」では見えないコード外のリスクをどう検証するかの最新事例を理解できます。
【米国の規制動向との比較】
- CLARITY Act、Coinbase・Rippleら200社超が上院に採決要求─成立確率60%に低下 → 本記事が言及した日本の金商法移行と並走する、米国における暗号資産規制の整備動向。日米規制の比較理解により、HyperLendingが直面する規制環境の全体像が見えてきます。
【セルフカストディとの対比】
- SecondFi始動|「鍵は自分のまま」EMURGOが挑む、暗号資産で使う・貯める・稼ぐ時代 → 本記事のレンディング(運営者に預ける)と対極にある、自己管理型サービスの実装事例。「預ける利便性」と「自己管理の安全性」のトレードオフを理解できます。
機関投資家のオンチェーン金融参入
- ビットコイン6万2000ドル割れ、Strategy 32BTC売却が招いた18億ドル清算の連鎖 → 本記事の運営元ICHIZEN HOLDINGSが支援する「暗号資産トレジャリー(DAT)戦略」の代表例であるStrategy社の動向。企業が暗号資産を「持つ」から「運用する」へ移る潮流を理解できます。
- ビットコインETF、過去最長13日の純流出。約43億ドルが抜けた背景とETFが「限界的な買い手」になった構造変化 → 本記事のレンディング利回りの背景にある、機関フローと市場変動の構造。BTC・ETHの価格変動リスクを利用者が負う構造の補完情報。
【RWA・オンチェーン金融の拡大】
- XRP Ledger vs Ethereum、RWA資本移動説の真相─未検証の15億ドルをどう読むか → 本記事の「金融がチェーンへ移る」潮流と並走する、RWA市場の資本移動の検証。オンチェーン金融全体の拡大と検証の重要性を理解できます。
【AI×Web3・新興トークン領域】
- Worldcoin(WLD)とは?AI時代の「本人性証明」と独自のデジタルIDインフラ構造【2026年版】 → 本記事のHYPEと並ぶ、新興トークンの構造解説。トークンの背後にある事業構造を理解することの重要性を、別領域で学べます。
- Worldcoin(WLD)はヘイズなしで価格を保てるか—AI時代の身分証トークンを読む → 本記事のHYPEのような新興トークンを運用対象とする際の、価格変動リスクの実例。著名投資家の動向で価格が大きく変動する構造を理解できます。
【運用リスク・セキュリティ事案】
- Hola Browser にクリプトマイナー混入、Sophos が発見—サプライチェーン侵害の手口とは → 本記事の「コードの外側にあるリスク」というテーマと共通する、ソフトウェア配信経路の汚染事例。レンディングにおける運営主体のリスクを別角度から理解できます。
【編集部後記】
「預けるだけで増える」という響きには、つい心が動きますよね。ただ、その利回りが何によって支えられ、市場が大きく揺れた時には何が起きるのか——そこまで一緒に想像してみると、このニュースの景色は少し変わって見えてきます。
金融がチェーンの上へ移っていく流れの、ちょうど入り口に私たちは立っているのかもしれません。あなたなら、この一歩をどう眺めますか。よければ、感じたことをSNSで共有してみてください。
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