Strategy(旧MicroStrategy)、ビットコイン購入を一時停止─セイラー氏「債券を買った、BTCは買っていない」発言を読み解く

Strategy(旧MicroStrategy)、ビットコイン購入を一時停止─サイラー氏「債券を買った、BTCは買っていない」発言を読み解く

Last Updated on 2026年5月25日 by Co-Founder/ Researcher

Strategy Inc.(旧MicroStrategy)のマイケル・セイラー会長が2026年5月24日にX上で「今週はビットコインではなく債券を購入した」「BitVacは充電中」と投稿した。5月18日の開示を最後に、5月24日時点では新たなビットコイン購入の開示は確認されていない。同社の保有量は843,738 BTC、ダッシュボード上の準備資産評価額は約644.5億ドルと報じられている。

5月18日には平均価格約80,985ドルで24,869 BTCを約20.1億ドルで取得したことを開示済みで、平均取得コストは1ビットコインあたり約75,700ドル、累計取得額は約638.7億ドル。5月14日に契約締結、翌15日に公表された2029年満期0%転換社債の買戻しは、額面約15億ドルに対し対価約13.8億ドル(額面の約92%)で、資金源には現金準備・ATM株式売却・ビットコイン売却が挙げられている。米ドル準備金は22.5億ドル、負債は82.54億ドル、優先株式は154.79億ドル、年間配当総額は17.12億ドル、2026年のBTCイールドは12.6%、企業価値は777.1億ドル、NAVマルチプル1.21倍とダッシュボード上で示されている。

From: Strategy pauses bitcoin buying after Saylor’s BitVac post

【編集部解説】

「BitVac」とは、Bitcoin(ビットコイン)とVacuum(真空・吸引機)を掛け合わせたセイラー氏の造語で、市場に流通するビットコイン供給を吸い上げ続けるStrategyの姿勢を象徴する言葉として使われています。今回の「充電中(charging)」という表現について、市場では「次の大規模購入に向けた資金調達・流動性確保を示唆するもの」と受け止められました

注目すべきは、セイラー氏のこの種の投稿が、報道ベースでは過去に大型ビットコイン購入の開示前に投下された例があると指摘されている点です。投資家たちが投稿のたびに先回りして反応するという現象自体が、Strategyが暗号資産市場における強い指標的存在感を獲得しつつあることを物語っています。

一方で、約15億ドル相当の2029年満期0%転換社債の買戻しについて、SECへの届出書(Form 8-K)では契約締結日は2026年5月14日、公表は5月15日となっています。買戻し対価は約13.8億ドル、すなわち額面の92%程度のディスカウントとなり、Strategyにとっては有利な条件で負債を圧縮できる取引でした。決済は5月19日頃に予定されています。

この買戻しの資金源としてSEC開示文書には「現金準備、ATM株式売却の手取金、および/またはビットコイン売却の手取金」が明記されています。長年「絶対に売らない(never sell)」を公言してきたセイラー氏は、2026年第1四半期の決算発表時(125.4億ドルの純損失計上)に、配当支払い目的での少量のBTC売却を行う可能性に言及しており、「never sell」のスタンスから、BTC売却を資金調達の選択肢として明示する段階へと変化していることは重要な事実です。

Strategyは現在、ビットコインを「デジタル資本」、STRC(年率11.5%相当の変動配当を持つ永久優先株式)などを「デジタル信用」、MSTR普通株を「レバレッジド・エクイティ」と位置づける資本構造を構築しています。複数報道によれば、2033年までに「1株あたりビットコイン数(BPS)」の最大化を目指す7年計画が示されており、今回の「BitVac充電」もこの長期戦略の一場面と読み解けます

ポジティブな側面としては、ビットコインを企業財務に組み込む「ビットコイン・トレジャリー戦略」のロールモデルとして、Strategyが債券・優先株・普通株を組み合わせた高度な資本設計を世界の上場企業に示している点が挙げられます。日本でもメタプラネット社が同様のアプローチを採り、自社を「日本初の上場ビットコイン・トレジャリー企業」と位置づけており、企業財務における暗号資産活用の世界的な広がりが進行中です。

潜在的なリスクも無視できません。ダッシュボード上で示されるNAVマルチプル1.21倍は、株主がビットコイン保有額そのものよりも高く同社を評価していることを意味しますが、この「Saylorプレミアム」は市場心理に左右されやすく、BTC価格急落時には負債と優先株配当(報道ベースで年17.12億ドル)が重くのしかかる可能性があります。米ドルでの配当カバー期間が15.8ヶ月という数字は、フィアット流動性の余裕が大きくはないことを示しています。

規制面では、こうした「ビットコイン担保型上場企業」のモデルが大型化するにつれ、米財務会計基準審議会(FASB)のASU 2023-08(暗号資産の公正価値会計基準)に基づく開示や、SECによる開示義務の運用が今後も論点となり得ます。同社の動きは、暗号資産が機関投資家ポートフォリオの中で「資産クラス」として制度的に組み込まれていく未来の試金石です。

長期的に見れば、Strategy一社の購入ペースは2026年だけで17万1,000 BTC超と、新規マイニング供給量を上回ると報じられており、これは「企業需要が新規供給を吸収する」というビットコイン経済の構造変化を象徴します。BitVacの“吸引力”が今後どこまで持続するか、そしてその「充電」がいつ次の購入として放電されるかは、暗号資産市場全体の方向性を占う重要な指標となりそうです。

【用語解説】

BitVac
セイラー氏が用いる造語で、Bitcoin(ビットコイン)とVacuum(真空・吸引機)を組み合わせたもの。Strategyが市場流通中のビットコイン供給を継続的に吸い上げる存在であることを表現している。「charging(充電中)」は、次の購入に向けて資金調達能力を蓄積している状態を示すセイラー氏特有のメタファーとして使われている。

0%転換社債(Zero-Coupon Convertible Senior Notes)
利息(クーポン)が付かないが、発行体の株式に転換できる権利が付いた社債のこと。投資家は将来の株価上昇を期待して保有し、発行体は無利子で資金を調達できる。Strategyの2029年満期ノートはこの形式で発行された。

BTCイールド(BTC Yield)
Strategyが独自に定義した指標で、希薄化を考慮した発行済株式数の増加率に対する、ビットコイン保有量の増加率を示す。2026年の12.6%は、株式を発行して資金調達しても1株あたりビットコイン保有量(BPS)が向上していることを意味する。

NAVマルチプル / Saylorプレミアム
Strategyの企業価値が、保有ビットコインの純資産価値(Net Asset Value)の何倍で評価されているかを示す指標。1.21倍は、市場が同社をBTC現物保有額より約21%高く評価していることを意味する。このプレミアム部分が一般に「Saylorプレミアム」と呼ばれる。

STRC(Stretch Preferred Stock)
Strategyが発行する変動利付永久優先株式の通称(ティッカーシンボル)。年率11.5%相当の変動配当を提供する仕組みで、ビットコイン購入資金の調達ツールの一つとして位置づけられている。同社にはほかにSTRK(8%)、STRD(10%)、STRF(10%)などの優先株シリーズも存在する。

BPS(Bitcoin Per Share)
「1株あたりビットコイン保有量」を意味する独自指標。希薄化を考慮した想定発行済株式数とBTC保有量の比として定義される。Strategyが資本配分の成否を測るKPIとして用いている。

Form 8-K
米国の上場企業が、株主にとって重要な事象が発生した際にSEC(米証券取引委員会)へ提出する臨時報告書。今回の社債買戻しもこの形式で開示された。

FASB ASU 2023-08
米財務会計基準審議会(FASB)が公表した暗号資産の会計・開示基準。2024年12月15日後に始まる会計年度から適用され、企業が保有する暗号資産を公正価値で計上することなどを求めている。

ビットコイン・トレジャリー戦略
企業の現金準備の一部または全部をビットコインで保有する財務戦略。Strategyが先駆者として知られ、追随企業が世界中で増加している。

【参考リンク】

Strategy(旧MicroStrategy)公式サイト(外部)
世界最大のビットコイン保有上場企業として知られる米国Strategy Inc.の公式サイト。

Strategy インベスター・リレーションズ(外部)
財務情報、開示資料、IR発表などStrategyの投資家向け情報を一元的に確認できる公式ページ。

Strategy Bitcoin Purchases(BTC取得履歴)(外部)
Strategyの累計ビットコイン取得状況・平均取得コスト・直近購入を一覧できる公式ページ。

Strategy プレスリリース(2029年転換社債買戻し発表)(外部)
2026年5月15日付、15億ドル相当の2029年満期転換社債買戻しを公表した同社プレスリリース。

Michael Saylor 公式X(旧Twitter)アカウント(外部)
Strategy会長セイラー氏の公式X。今回の「BitVac is charging」投稿もここから発信された。

SEC EDGAR(Strategy提出書類一覧)(外部)
Strategyが提出した8-Kを含む各種開示書類を原文で閲覧できるSEC公開データベース。

Metaplanet(メタプラネット)公式About(外部)
日本初の上場ビットコイン・トレジャリー企業を自称するメタプラネットのビジョンとミッション。

FASB 暗号資産の会計・開示基準(ASU 2023-08)(外部)
米国会計基準における暗号資産の公正価値会計と開示要件を定めたFASB公式の解説ページ。

【参考記事】

Strategy Pauses Bitcoin Buying as Saylor’s ‘BitVac’ Comment Puts Next BTC Buy on Watch(news.bitcoin.com)(外部)
セイラー氏5月24日投稿後の購入停止と843,738 BTC・644.5億ドルなど主要数値を伝える記事。

Strategy (MSTR) buying back convertible debt at a discount(CoinDesk)(外部)
2029年満期0%転換社債15億ドル分を約13.8億ドルで買戻す件を報じたCoinDeskの記事。

Strategy Inc. Form 8-K(SEC EDGAR)(外部)
社債買戻し契約締結日(5月14日)・買戻し対価約13.8億ドル・決済日5月19日頃を確認できる一次資料。

Strategy Announces First Quarter 2026 Financial Results(Strategy公式)(外部)
Q1純損失125.4億ドル、Q1時点BTCイールド9.4%、BPS等の独自指標定義を示す公式Q1決算発表。

Strategy to retire $1.5 billion in convertible notes at a discount, may sell bitcoin to fund buyback(The Block)(外部)
額面1ドルにつき92セントでの割引買戻しと、資金源にBTC売却が含まれる意義を解説。

Bitcoin treasury firm Strategy breaks from ‘never sell’ approach to the flagship crypto(CNBC)(外部)
Q1の125億ドル純損失を受け「never sell」スタンスから能動的BS管理へ転換した経緯を解説。

Michael Saylor said he would never sell bitcoin. Now he says he might(MarketWatch)(外部)
「絶対に売らない」を掲げてきたセイラー氏の発言が、BTC売却容認方向へ変化した経緯を解説。

Michael Saylor says 2026 Bitcoin sale not unlikely(crypto.news)(外部)
2026年内のBTC売却可能性と三層構造資本モデル、2033年までの7年計画を解説した記事。

Michael Saylor’s “BitVac” Post Fuels New Strategy Bitcoin Buy Speculation(Blockonomi)(外部)
2026年中に17万1,000 BTC超を追加取得しマイナー新規供給を上回るペースを指摘する記事。

Strategy lifts STRC dividend to 11.5% as MSTR extends monthly losing streak(CoinDesk)(外部)
STRC優先株の配当が11.5%へ引き上げられた経緯と、MSTR株価動向の関係を報じた記事。

【編集部後記】

セイラー氏のたった2行の投稿が世界中の投資家を動かす——この光景は、ビットコインがすでに「個人の投機対象」から「企業財務インフラ」へと姿を変えつつあることを示しているように、私たちには映ります。

みなさんは、自社や取引先のバランスシートにビットコインや暗号資産が組み込まれる未来を想像したことがありますか。「BitVacの充電」が次にどんな形で放電されるのか、そしてStrategyのモデルが日本企業の財務戦略にどう影響していくのか、ぜひご自身の関心領域と重ね合わせて考えてみてください。みなさんの気づきや問いを、ぜひ聞かせていただけると嬉しいです。

——————–
※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
 詳細は当サイトの免責事項をご確認ください。
——————–

ByTaTsu@innovaTopia

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です