Last Updated on 2026年5月11日 by Co-Founder/ Researcher
2026年5月10日、Cointelegraphが韓国の暗号資産市場の急縮小を報じた。韓国の投資家が保有する暗号資産の価値が、2025年1月末の121兆8000億ウォン(833億ドル)から2026年2月末の60兆6000億ウォン(414億ドル)へと半減した。Upbit、Bithumb、Korbit、Coinone、Gopaxの主要5取引所の1日あたり取引高も、2024年12月の116億ドルから2026年2月には30億ドルに縮小した。一方、ステーブルコイン保有額は2024年7月末の885億ウォン(約6400万ドル)から2025年12月末の8723億ウォン(約6億3200万ドル)へピークを付け、2026年2月末も6071億ウォン(約4億4000万ドル)と高水準を維持した。
韓国金融当局は8月に改訂AML規則を導入し、海外取引所や個人ウォレットが関与する1000万ウォン超の取引を自動的に疑わしい取引扱いとする方針である。業界団体DAXAは報告件数が約6万3000件から540万件超へ拡大すると試算した。企画財政部は2027年1月1日から22%の暗号資産課税の実施を確認した。Samsung SDSは韓国預託決済院(KSD)向けブロックチェーン証券プラットフォームを2027年2月までに構築する。
From: South Korea crypto holdings halve in a year as investors turn to stock market
【編集部解説】
このニュースの核心は、単なる「暗号資産価格の下落」ではなく、韓国というアジア有数の暗号資産大国で、投資家の資金配分そのものが構造的に変化しているという点にあります。
背景として押さえておきたいのが、韓国株式市場(KOSPI)の異例の好調ぶりです。KOSPIは2025年に年間76%上昇し、年末には4,214ポイントで引けました。これは1987年(93%)、1999年(83%)に次ぐ史上3番目の上昇率です。さらに2026年に入ってからもAI半導体ブームと企業統治改革への期待を背景に上昇を続け、5月時点では7,000ポイント台に達しています。Samsung ElectronicsやSK Hynixといった半導体銘柄が世界のAIインフラ需要を取り込み、桁外れのリターンを生んだことが原動力となりました。
つまり、韓国の暗号資産保有額が半減した最大の理由は、ビットコインなどの価格下落だけではなく、「より魅力的なリターンが見込める株式市場へ個人マネーがシフトした」という非常にクリアな構図です。取引所のウォン建て預金(投資家の待機資金)が10兆7000億ウォンから7兆8000億ウォンへ減少した事実は、これを裏付けています。
一方で、編集者として読者にお伝えしたい重要な「ねじれ」があります。ステーブルコインだけは異なる動きを見せている点です。原典Cointelegraphの2026年2月数値には他媒体との不整合がありますが、韓国経済TVやAJU PRESSなど現地報道に遡ると、ステーブルコイン保有額は2024年7月末の約885億ウォン(約6400万ドル)から2025年12月末には8723億ウォン(約6億3200万ドル)へとピークを付け、2026年2月末時点でも6071億ウォン(約4億4000万ドル)と高水準を維持していることが確認できます。短期間で約7倍に急増した計算です。
これが意味するのは、韓国の投資家は「暗号資産=リスク資産」から距離を置きつつも、ドル連動のステーブルコインを通じて「ドル建て資産へのアクセス手段」として暗号資産インフラを利用し続けているということです。韓国ウォンの対ドルでの軟調が続く中、デジタルな形でドル資産を保有する手段としてステーブルコインが選ばれている、と読み解けます。
そして、ここから先がさらに重要です。8月に施行が予定される新AML規則の影響です。海外取引所や個人ウォレットを介した1000万ウォン(約110万円)超の取引を自動的に疑わしい取引として扱う、というのは、世界のクリプト規制の中でも極めて厳格な部類に入ります。業界団体DAXAが「報告件数が85倍になる」と試算するのも誇張ではなく、実務上、コンプライアンスの破綻すら危惧されるレベルです。
潜在的なリスクは2つあります。1つは、規制強化がユーザーをBinanceなどの海外取引所へ逃避させる結果、かえって国内取引所の存在感が低下し、規制の実効性が失われる可能性。もう1つは、2027年1月から発効する22%の暗号資産課税と相まって、韓国の暗号資産市場全体が「縮小均衡」に陥るシナリオです。
ただし、長期的な視点で見ると、韓国はクリプトを「投機商品」から「金融インフラの一部」へと格上げしようとしているとも解釈できます。Samsung SDSがKorea Securities Depository(韓国預託決済院)向けのブロックチェーン証券プラットフォームを2027年2月までに構築する契約を獲得したことは、まさにその象徴です。スマホで誰でも参加できる小口投機の世界を絞り込みつつ、伝統金融とブロックチェーンを接続するトークン化証券の制度的基盤を整えようとしているわけです。
日本の読者にとって、この動きは決して対岸の火事ではありません。新NISA制度の追い風で日本の個人マネーも株式市場へ大きく流れ、暗号資産取引量は伸び悩んでいます。さらに、日本でもステーブルコイン関連の法整備が進んでおり、トークン化証券(セキュリティトークン)の議論も活発化しています。韓国で起きている「クリプト投機の縮小」と「制度化されたトークン化金融の拡大」の同時進行は、数年遅れで日本市場にも訪れる景色かもしれません。
「Tech for Human Evolution」という観点から見ると、暗号資産が単なるギャンブル的な投機対象を超え、いよいよ社会の金融インフラへと組み込まれていく局面に入ったことを、韓国の事例は鮮やかに示しているように感じます。
【用語解説】
AML(マネーロンダリング対策)
Anti-Money Laundering の略。金融機関や取引所が、犯罪収益の隠匿や送金など不正な資金移動を防ぐために実施する一連の規制と業務手続きを指す。日本でも「犯罪収益移転防止法」によって同様の枠組みが整備されている。
疑わしい取引報告(STR: Suspicious Transaction Report)
取引所などの事業者が、不正な可能性のある取引を当局へ通知する仕組み。今回韓国で議論されている改訂案は、海外取引所や個人ウォレットを介した一定額以上の取引を一律に報告対象とする内容であり、現行ルールと比較して報告件数が桁違いに増えると業界団体が警鐘を鳴らしている。
ステーブルコイン
米ドルなど特定の資産に価値を連動させるよう設計された暗号資産。価格変動の大きいビットコインなどと異なり、決済手段やドル建て資産への一時的な退避先として用いられる。代表例にUSDT(Tether)、USDC(Circle)がある。
プライベートウォレット(自己保管ウォレット)
取引所などの第三者を介さず、利用者本人が秘密鍵を管理する暗号資産ウォレットのこと。Ledgerなどのハードウェアウォレットや、MetaMaskなどのソフトウェアウォレットがこれに該当する。取引所アカウントと異なり、当局の監視が及びにくい点が規制論議の焦点になっている。
トークン化証券(セキュリティトークン)
株式や債券、不動産といった伝統的な金融資産をブロックチェーン上で発行・流通させる仕組み。決済の即時化や小口化、24時間取引などのメリットがある一方、既存の証券法制との整合性が課題となっている。日本では「セキュリティトークン」「ST」とも呼ばれ、すでに法制度化が進んでいる。
KOSPI(韓国総合株価指数)
Korea Composite Stock Price Index の略。Korea Exchange(韓国取引所)の有価証券市場に上場する全銘柄を対象とする時価総額加重平均型の代表的株価指数。日本の日経平均株価やTOPIXに相当する位置付けである。
1000万ウォン
韓国の通貨単位「ウォン」で1000万ウォンは日本円で約110万円(2026年5月時点のおおよそのレート)に相当する。今回のAML規則改訂案では、この金額を超える海外関連取引が一律に疑わしい取引として扱われる方針が示されている。
【参考リンク】
Cointelegraph(外部)
2013年創刊の暗号資産・ブロックチェーン専門メディア。グローバルなクリプト関連報道を網羅している。
DAXA(Digital Asset eXchange Alliance)(外部)
韓国の主要暗号資産取引所5社を中心に2022年設立された自主規制団体。業界横断のルール策定を担う。
Korea Securities Depository(韓国預託決済院/KSD)(外部)
1974年設立の韓国の中央証券保管機関。ブロックチェーン証券プラットフォーム構築を進めている。
Bank of Korea(韓国銀行)(外部)
韓国の中央銀行。今回の暗号資産保有額データを国会に提出した主体である。
Samsung SDS(外部)
Samsungグループのシステムインテグレーション企業。ブロックチェーン基盤「Nexledger」を展開する。
Upbit(外部)
韓国最大手の暗号資産取引所。運営会社はDunamu(ドゥナム)で長年取引量上位に位置する。
Bithumb(外部)
韓国の主要暗号資産取引所のひとつ。長年にわたり国内取引量上位の常連となっている。
【参考記事】
South Korea Crypto Holdings Halve From December Peak as Stock Rally Draws Investors Away(外部)
韓国経済TV報道を基にステーブルコイン保有額の詳細な月次推移を伝える記事。原典との数値差異を補完する重要ソース。
South Koreans’ Crypto Holdings Halve in a Year as Stablecoins Surge(外部)
AJU PRESSが現地一次情報を基にステーブルコイン保有額の高水準維持を伝える。本記事の数値修正の根拠とした。
Kospi tops global markets with world’s strongest gains in 2025(外部)
KOSPIが2025年に年間76%上昇し4,214ポイントで引けたと報じる。1987年・1999年に次ぐ史上3番目の上昇率である。
Korea’s KOSPI breaks 7,000 as AI rally catapults Samsung into $1 trillion club(外部)
Reutersが2026年5月6日のKOSPI 7,000突破とSamsung Electronicsの時価総額1兆ドル超えを報じる。
Samsung SDS wins tokenization contract with Korea Securities Depository(外部)
Samsung SDSがKSDのトークン化証券基盤契約を獲得し、2027年2月までの構築を目指すと報じる専門メディア。
South Korea shifts from crypto to stocks and stablecoins(外部)
暗号資産半減と並行してドル建てステーブルコイン保有が急増した構図を読み解く分析記事である。
【編集部後記】
韓国で起きている「クリプトから株式へ」という資金の大移動は、私たち日本の投資家にとっても遠い話ではないように感じます。新NISAで株式に資金を移した方、ステーブルコインに関心を持ち始めた方、あるいは規制強化のニュースに不安を覚えた方──それぞれの立場で、この動きをどう受け止められたでしょうか。
投機の縮小と、トークン化証券のような制度的インフラの拡大が同時に進む。この「ねじれ」の中に、未来の金融の輪郭が見え隠れしている気がします。皆さんが今、デジタル資産と伝統金融のどちらに「触りたい未来」を感じているか、ぜひお聞かせいただけたら嬉しいです。
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