Last Updated on 2026年5月9日 by Co-Founder/ Researcher
2026年5月7日、web3.devmeebits中国語コミュニティ創設者の798.ethが、NFTプロジェクト「Slonks」に関する分析を公開した。SlonksはCryptoPunksをオンチェーンのニューラルネットワークモデルで再構成したNFTで、24×24ピクセルと222色のパレットでレンダリングされる。
元画像との差分を「slop」と呼び、値は0から576の範囲をとる。Slonkを「void」コントラクトに送るとslop値と同数の$SLOPトークンがミントされ、上限は576万である。「Merge」では同レベルのSlonk2体を組み合わせ、ドナー側はバーンされる。Slonksは2026年5月1日にデプロイされ、5日経過時点で総供給量9,505、累計ミント10,012、累計バーン507、バーン率5.06%に達した。日次バーン数はDay 1から順に0、79、175、60、69、124件である。
$SLOPコントラクトは未デプロイで、現時点のバーンはすべて融合行為によるものだ。CryptoPunksでは9体のAlien、24体のApe、88体のZombieが希少種とされている。
From: Slonks: An NFT project that disappears on its own.
【編集部解説】
このプロジェクトを単なる「燃やすNFT」として消費してしまうのはもったいない、というのが率直な感想です。Slonksには、AI、スマートコントラクト、トークノミクス設計が一つの作品として束ねられており、Web3アートと金融工学の交差点に立つ実験として読み解く価値があります。
技術面で特筆すべきは、Slonksが「ニューラルネットワーク様のモデルをEthereum上で動かしている」点です。PANewsに掲載された別の解説記事によれば、サイズ22.7KBのトランスフォーマーモデルが9つのコントラクトにSSTORE2方式で分割格納され、ミントや融合のたびにEVM上で順方向推論が走り、SVGがその場で描画される構造になっているとされます。語彙数1万、エンベディング10次元、アテンションヘッド18という小さな構成と報じられていますが、これらの技術詳細は二次情報に基づくもので、公式ホワイトペーパーやコントラクト監査による一次確認が今後望まれます。それでも、AIの「描き損ない」そのものをアートとして成立させた発想自体に独創性があることは確かです。
ここで提示されているのは、「AIが描き間違えたピクセル=slop」を肯定的に再定義する発想です。生成AI時代において、出力の不完全さは欠陥として扱われがちですが、Slonksはそれを資産化しました。slop値が高いほどトークンを多く獲得できるという設計は、AIの誤差そのものを経済価値へ変換する仕組みであり、これまでにあまり例を見ない切り口です。
経済設計の中核は、「Merge(融合)」と「void(無効化)」の二つの動詞です。融合は同レベルのSlonkを2体組み合わせ、片方を永久に焼却するもので、無効化は将来$SLOPトークンと交換するための行為とされています。この二重構造により、保有者は「希少な原型を残すのか、$SLOPの量を最大化するのか」という相反する判断を迫られます。コレクションそのものが市場参加者の選択を通じて自己選別する、ダーウィン的な仕組みです。
PANewsの別記事は、Slonksの設計をUniswap V4の「Hook」機能と関連付けて論じており、本記事の論点を補強しています。NFTから派生したフラクショナルなトークンがDEX上で取引可能な経済圏を形成し得る点で、これはNFTとDeFiの境界を再び溶かす試みと位置づけられます。
潜在的なリスクも見過ごせません。$SLOPコントラクトは未デプロイにもかかわらず、すでに約5%のSlonksが焼却されている事実は、トークン価格が未確定のまま市場参加者が「期待値」だけで意思決定を進めていることを意味します。実際にローンチされた$SLOP価格が低位に留まれば、希少なソースを失った保有者は二重に損失を被る可能性があります。CoinMarketCapやCoinGeckoには「SLOP」という名称のトークンが既に存在しますが、これらはSolana系の別プロジェクトであり、Slonksの$SLOPとは異なる点にも注意が必要です。
規制面では、NFTを焼却してファンジブルトークンを発行する設計が、各国当局からどう評価されるかが今後の論点となります。実質的な「証券性」の有無、AML/KYCの観点、消費者保護の観点など、設計の巧妙さと法解釈の余地は紙一重です。
長期的視点で見ると、Slonksが提示しているのは「希少性をハードコードしない」という考え方です。CryptoPunksに代表される第一世代NFTが「発行時に1万体規模で決まっている」固定的な希少性であったのに対し、Slonksの希少性は市場参加者の集合的判断によって動的に決定されます。この設計思想は、AIエージェントが資産を判断・取引する未来において、より重要な意味を持ってくるでしょう。
最後に、記者としての観点を一つ。Slonksは「自ら消えていくNFT」という形をとりながら、実は「AIの不完全性を文化資源化する装置」でもあります。AIによる完璧な複製ではなく、AIによる誤差の方に価値を見出すという反転は、生成AIの普及によって「正確さ」がコモディティ化していく時代における、極めて示唆的な姿勢だと受け止めています。
【用語解説】
CryptoPunks
2017年にLarva Labs(Matt HallとJohn Watkinson)がEthereum上にローンチした、初期NFTの代表格。1万体規模のドット絵アバターからなる。ERC-721標準の制定以前にデプロイされたが、後のERC-721の着想源の一つとなったとされる。
NFT(Non-Fungible Token)
ブロックチェーン上で発行される、固有性を持つ代替不可能なトークン。デジタルアートやコレクティブルの所有権証明として広く使われている。
slop(スロップ)
本記事固有の概念で、Slonksがレンダリングした画像と元のCryptoPunksとのピクセル単位の誤差を指す。キャンバス全体(24×24=576ピクセル)に対して、AIが「描き損ねた」点の数である。
void(ボイディング)
Slonkを専用コントラクトに送り、保有するslop値と同数の$SLOPトークンを得る行為。NFTを「分解して」ファンジブルトークンへ変換する仕組みだ。
Merge(融合)
同じmergeLevelを持つSlonk2体を組み合わせる行為。ドナー側は永久に焼却され、サバイバー側は新しいエンベディングを得てレベルが1段上がる。
mergeLevel
各Slonkがチェーン上に保持する内部値で、これまでに何度融合を経たかを記録する。同レベル同士でしか融合できないため、上位レベルへ進むほど指数関数的に多くのL0が必要となる。
バーン(burn)/ミント(mint)
バーンはトークンを永久に流通から取り除くこと。ミントは新しいトークンを発行することを指す。
エンベディング
ニューラルネットワークが入力を内部的に表現する数値ベクトル。Slonksでは融合の際に2体のエンベディングが平均化され、それを元に新しい画像が描かれる。
Alien/Ape/Zombie
CryptoPunks 1万体規模のうち、それぞれ9体・24体・88体しか存在しない希少種。セカンダリー市場で極めて高値で取引される。
SSTORE2
Ethereumのストレージ書き込みコスト(SSTORE)を回避するため、データをコントラクトのバイトコードとしてデプロイする手法。Slonksでは22.7KBのモデル重みを9分割して格納するために用いられている。
EVM(Ethereum Virtual Machine)
Ethereumのスマートコントラクトを実行する仮想機械。Slonksは描画のたびに、ここでトランスフォーマーの推論を走らせている。
トランスフォーマー/アテンションヘッド
2017年にGoogleが発表した深層学習の主要アーキテクチャ。アテンションヘッドは、入力の異なる側面を並列で捉えるための要素。Slonksの構成は語彙数1万、エンベディング10次元、アテンションヘッド18である。
SVG(Scalable Vector Graphics)
ベクター形式の画像フォーマット。Slonksは推論結果をオンチェーンでSVGとして描画している。
Uniswap V4 Hook
Uniswap V4で導入された拡張機構で、流動性プールに任意の処理を差し込めるようにするもの。NFTとファンジブルトークンを繋ぐ経済設計に応用可能とされる。
DeFi(Decentralized Finance)
中央管理者を介さず、スマートコントラクト上で金融機能を提供する仕組みの総称。
ホワイトペーパー
プロジェクトの設計思想・経済モデル・技術仕様を記した公式文書である。
【参考リンク】
Slonks 公式サイト(外部)
本記事の主題となるNFTプロジェクトの公式サイト。「slopこそがアート」というコンセプトを示している。
Slonks Merge Lab(外部)
融合シミュレーター。ガス代を消費する前に融合後のslopやmergeLevelを試算できる。
CryptoPunks 公式サイト(外部)
SlonksのソースとなったオリジナルNFTコレクションの公式サイト。各個体の属性が確認できる。
OpenSea(外部)
世界最大級のNFTマーケットプレイス。Slonksのフロア価格や取引履歴の確認、フィルタリングが行える。
Uniswap(外部)
イーサリアム上の代表的な分散型取引所。$SLOPがローンチされた場合、ここで取引される可能性が高い。
Ethereum 公式サイト(外部)
Slonksがデプロイされているスマートコントラクトプラットフォームの公式サイト。
【参考記事】
Slonks · slop is the art.(Slonks公式サイト)(外部)
プロジェクト本体の公式説明。CryptoPunksのオンチェーンによるニューラル再構成というコンセプトと、サバイバー/ドナーの基本仕組みを公式の文言で確認できる。
NFT or GameFI? The Perfect Design of Hook v4 – Slonks(PANews)(外部)
22.7KBのトランスフォーマーが9分割でSSTORE2方式によりオンチェーン格納されている構造、語彙数1万・エンベディング10次元・アテンションヘッド18の構成、$SLOP上限が10,000×576=576万であることなど、技術数値の根拠となった。
Slonks NFT Project: Disappearance Through Merging and Voiding(Phemex News)(外部)
5日間で500体超のバーン、当初10,012から9,505へ、5.06%の喪失という数値を独立に裏付けている英文ニュース。デフレ的な希少性形成というSlonksの本質を簡潔にまとめている。
CryptoPunks NFT Floor Price Chart(CoinGecko)(外部)
CryptoPunksの全体構成と希少種の内訳(男性6,039体、女性3,840体、Zombie 88体、Ape 24体、Alien 9体)を記載しているデータページ。希少種と全体規模の数値根拠である。
CryptoPunks NFT tracker, sales volume, floor values, price charts, rarity(CryptoSlam)(外部)
CryptoPunksの取引動向や属性別レアリティを追跡するマーケットトラッカー。2017年中盤に1万体規模の固定セットとしてローンチされたという来歴を確認するために参照した。
【編集部後記】
Slonksが提示した「自ら消えていくNFT」という発想は、皆さんにはどう映ったでしょうか。AIが描き損ねた誤差を価値に変え、保有者の選択そのものが希少性を作っていく——この設計思想は、生成AIが日常に溶け込みつつある今の私たちに、いくつかの問いを投げかけているように感じます。
完璧な複製ではなく、不完全さの中にこそ固有性があるのだとしたら、私たち自身が作るコンテンツや表現にとって、それはどんな意味を持ち得るのでしょうか。皆さんがこの仕組みに触れて何を感じたか、ぜひ聞かせてください。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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