民主党が米上下両院を奪還、CLARITY Actは1月3日の任期切れが期限に

民主党が米上下両院を奪還、CLARITY Actは1月3日の任期切れが期限に

Last Updated on 2026年11月6日 by Co-Founder/ Researcher

9月15日の上院で、CLARITY Actの審議入りが49対50で止まりました。その7週間後の選挙で、上院の多数派そのものが入れ替わることになります。否決された「入口」は、制度の上ではまだ開け直せる形で残っています。ただし、開け直すための時間は2027年1月3日の正午までしかありません。


2026年11月3日の米中間選挙で、民主党が上下両院の多数派を獲得した。暗号資産の市場構造法案H.R. 3633(Digital Asset Market Clarity Act)は、2025年7月17日に下院で294対134で可決され、上院では2026年9月15日、審議入り動議のクローチャーが49対50で否決された。ティリス議員が再審議の動議を出しているが、第119議会が終わる2027年1月3日までに議会での手続きを終えられなければ、法案は廃案となる。上院銀行委員会の委員長には、暗号資産業界に批判的なウォーレン議員が就く見通しと報じられている。オハイオ州では、暗号資産業界のスーパーPACが落選を狙ったブラウン元議員が当選した。

From: Congressional Record, Daily Digest, September 15, 2026(GovInfo)

選挙で変わったのは、法案の条文ではありません。変わったのは、残された時間の政治的な意味と、次に法案を扱う人です。

9月の記事で、上院が否決したのは法案そのものではなく、審議入りの「入口」だったと書きました。否決されたのは、審議入り動議をめぐる討論を打ち切るクローチャーです。ティリス氏は、その採決の再審議を求める動議を提出しています。再審議を経て、クローチャーをもう一度採決する道は、制度の上ではいまも開いています。ただし、再審議を認めることと、60票を集めることは別の問題です。

1月3日が、なぜ期限になるのか

米国の議会は2年ごとに区切られ、審議中の法案を次の議会へそのまま持ち越すことはできません。いまの第119議会は、合衆国憲法修正第20条の定めにより2027年1月3日の正午で終わります。上院が条文を修正して可決すれば、下院もその条文に同意する必要があります。この議会のうちに議会での手続きを終えられなければ、H.R. 3633は廃案となり、次の議会では法案を出し直すところから始まります。なお、議会の終わりと大統領の署名は別の時計で動いており、すでに大統領へ送られた法案は、議会が終わったあとでも、送付から10日間(日曜日を除く)のうちに署名されれば成立し得ます。

選挙から新議会の発足までのこの期間を、米国では「レームダック会期」と呼びます。審議を担うのはいまの議会の議員で、上院の多数派はまだ共和党です。法案を主導してきたルミス氏は今期で引退するため、この会期は、1年以上の交渉をまとめた本人にとって、現職議員として最後の機会にもなります。

ただ、9月の49対50という数字そのものは動いていません。必要なのは60票で、民主党から賛成票を得られなかった構図も同じです。選挙前には、交渉役の一人だった民主党のアルソブルックス氏が年内の合意に期待を示したとの報道もありました。1月から多数派になる民主党には条文の修正を求める余地が広がった一方で、新しい議会でも60票と大統領の拒否権という制約は残るため、いまの議会での決着を目指す議員もいます。

出し直しになったら、誰が扱うのか

新しい議会では、主要な常任委員会の委員長も民主党の議員へ交代する見通しです。暗号資産の法案を扱う上院銀行委員会では、いまの民主党筆頭であるウォーレン氏が委員長に就く見通しだと、PYMNTSなどが報じています。選任はまだ決まっていません。

ウォーレン氏は9月15日の本会議で、この法案に反対する演説をしました。議会議事録によれば、同氏は、共和党と民主党が合意できる暗号資産の法案は作れると述べたうえで、この法案は大統領の利益相反を助長すると批判しています。

下院では、金融サービス委員会の委員長の座を、民主党筆頭のウォーターズ氏と、キャステン氏が争っていると報じられています。ウォーターズ氏は2025年5月21日に、大統領や議員とその家族による暗号資産の発行や取引を制限する「Stop TRUMP in Crypto Act」(H.R. 3573)を提出しました。委員会に付託されたあと、採決などの正式な立法手続きは進んでいません。

委員長は、どの法案を審議し、誰を公聴会に呼ぶかを決めます。選挙前の8月、民主党の議員たちは、多数派を取ればトランプ大統領の暗号資産をめぐる関係を調べる構えを示していたと、Bloomberg Governmentが報じています。次の市場構造法案の議論は、利益相反の問題を入口に始まる可能性が高いと考えられます。

【追記(2026年11月6日)】委員長の交代で議題が変わるのは、暗号資産だけではありません。私がパートナーメディアであるinnovaTopiaで書いた「【解説】米中間選挙で民主党が両院奪還、AI規制の州法上書きは新議会の課題に」では、AI規制で州法を上書きする全国基準をめぐり、大統領令14365号と超党派のFRONTIER法の条文から、州に残す領域と連邦でそろえる義務の線引き、公聴会など法律の成立を待たずに議会が動ける手段、60票と拒否権の壁を読んでいます。

最終交渉案は、交渉の材料として残る

それでも、ゼロからやり直すわけではありません。

9月の記事で見たとおり、9月に公表された最終交渉案は、7月の段階で「抜け道」とも読めた倫理規定を書き換えていました。州の司法長官に執行の役割を加え、制裁金を引き上げ、2029年1月20日に効力を失う条項を削っています。本会議でルミス氏は、最終交渉案が共和党のティリス氏と民主党のガレゴ氏による倫理案の大半を反映したと説明しました。

民主党の賛成にはつながらなかったものの、1年以上の交渉で何が譲られたかは、この条文に記録されています。次の議会で交渉が始まるとき、この条文は参考となる材料として残ります。

ソフトウェア開発者を送金業者として登録させないための保護など、開発者の法的な位置づけを定める規定も、この最終交渉案に入っていました。秘密鍵を自分で持つ人や、ノードを動かす人の立場にかかわる規定です。現議会で成立しなければ、こうした規定の法制化も次の議会の課題になります。

業界の政治資金と、オハイオの結果

選挙では、暗号資産業界の政治資金も試されました。

業界最大級のスーパーPACであるFairshakeと系列団体は、2024年の選挙でも約4,000万ドルを投じて落選を狙った、上院銀行委員会の元委員長ブラウン氏の返り咲きを阻むため、オハイオ州の上院選に多額の資金を投じました。CoinDeskは11月1日、その額が約5,600万ドルに上ると報じています。それでもブラウン氏は、共和党のハステッド氏を破りました。

この結果を、暗号資産をめぐる有権者の判断と読むことはできません。選挙全体が民主党に大きく傾いたことに加え、POLITICOとPublic Firstの調査を伝えた報道では、候補者選びで暗号資産政策を重視するという回答は少数でした。ブラウン氏自身も、出馬を表明した2025年8月のCointelegraphの取材に、暗号資産は米国経済の一部だと答えています。

本選の前、予備選ではFairshakeが支援した候補の多くが勝ったと報じられていました。その好成績は、オハイオ州の本選での勝利にはつながりませんでした。

選挙後の反発と「織り込み済み」という見方

ビットコインは開票が進む夜間に一時約7万5,700ドルまで下げ、米東部時間4日の朝には約7万9,300ドルへ戻したと報じられました。Banklessは、民主党の勝利が事前に織り込まれていたとの見方を示しています。

ただし、値動きの理由を選挙だけに求めることはできません。米国の現物ビットコインETFには11月4日、3営業日続いた流出のあとで約7,460万ドルの純流入がありました。4日に一時8万1,000ドル前後まで上がったあと、5日には米国株の下落とともに7万7,000ドルを下回る場面もありました。議会の構成は、短期の価格よりも、数年単位の制度の設計に効いてくる要素です。

ルールの書き手は、当局にも残る

法律ができない時間が続くあいだも、規制当局によるルールづくりは進みます。ルミス氏自身も9月、SECとCFTCはこの法律の有無にかかわらず暗号資産の規則を書くと述べていました。議会の多数派が交代しても、当局の既存の規則が自動的に覆るわけではありません。議会が立法や議会審査法で規則を覆すには、大統領の承認か、拒否権を覆すための両院の3分の2の賛成が要ります。

一方で上院は、当局の委員の人事を承認する権限を持っています。Bitcoin Magazineによると、TD Cowenは、民主党が多数を握る上院がSECやCFTCの人事の承認を阻み得ると指摘しています。

次の議会で問われること

暗号資産の市場構造を法律で定める試みは、2024年のFIT21法案に続き、今回も下院は通ったものの、上院で成立への道筋がつかない状態です。それでも、議論は前に進んでいます。上院の委員会での審議を経た法案があり、その後の交渉を反映した条文も公表されています。譲られた項目の記録は、次の交渉にも残ります。

EUではMiCAが全面的に適用され、日本では暗号資産を金融商品取引法の枠組みへ移す改正が成立しました。米国は、2027年からの新しい議会で、利益相反をどう防ぐかという問いに答えながら、市場のルールを作り直すことになります。その議論の行方は、海外の取引所やステーブルコインを使う日本の利用者にとっても、無関係ではありません。

【用語解説】

クローチャー(討論終結)
上院で審議の引き延ばしを打ち切り、採決へ進むための手続きである。原則として60票の賛成が必要で、法案そのものの可決とは別の採決になる。

再審議の動議
いったん決着した採決を、もう一度やり直すよう求める動議である。上院規則第13条により、採決で勝った側に投票した議員か、投票しなかった議員が提出できる。

レームダック会期
選挙が終わってから新しい議会が始まるまでのあいだに開かれる会期である。審議を担うのは、選挙前から議席を持つ議員だ。

第119議会
2025年1月から2027年1月3日正午までの米連邦議会である。審議中の法案は、議会が終わると次の議会へそのまま持ち越せない。

スーパーPAC
候補者の陣営から独立して、選挙の広告などに上限なく資金を投じられる政治団体である。支出は連邦選挙委員会(FEC)に届け出る。

現物ビットコインETF
実際のビットコインを保有し、その価格に連動するよう運用される上場投資信託である。米国では2024年1月に取引が始まった。

議会審査法
規制当局が定めた規則を、議会が決議によって無効にできる法律である。決議には大統領の署名が要り、拒否されれば両院の3分の2で覆す必要がある。

FIT21法案
2024年5月に下院を通過した暗号資産の市場構造法案である。上院では採決されず、第118議会の終わりとともに廃案となった。

MiCA
EUの暗号資産市場規則である。暗号資産の発行者やサービス事業者に、EU全体で共通の免許と情報開示を求める。

【参考リンク】

H.R. 3633 (RS) – Digital Asset Market Clarity Act(GovInfo)(外部)
上院銀行委員会が2026年6月1日に報告したCLARITY Actの修正版の条文。米政府出版局が全文と書誌を公開している。

Congressional Record, September 15, 2026(GovInfo)(外部)
2026年9月15日の議会議事録。クローチャー否決の票数と、ティリス議員の再審議の動議、本会議での賛否の演説を記録している。

Lummis, Boozman, Scott Release Final CLARITY Act Text(ルミス上院議員事務所)(外部)
9月に公表された最終交渉案についての公式発表。倫理規定の強化や失効条項の削除など、7月の統合ドラフトからの変更点を説明している。

H.R.3633 – Digital Asset Market Clarity Act of 2025(Congress.gov)(外部)
米議会図書館による法案の審議経過の一覧。2025年7月の下院可決から、上院での採決と再審議の動議の提出までの記録をたどれる。

Defend American Jobs(FEC)(外部)
暗号資産業界のFairshake系スーパーPACの届け出ページ。候補者ごとの独立支出の明細を、連邦選挙委員会のデータで確認できる。

【参考記事】

【解説】米中間選挙で民主党が両院奪還、AI規制の州法上書きは新議会の課題に(パートナーメディア)
同じ中間選挙を、AI規制の州法上書きの側から読んだinnovaTopiaの記事。大統領令14365号とFRONTIER法の条文から、州に残す領域と連邦でそろえる義務の線引きを整理し、AI業界の政治資金の結果にも触れている。

Crypto PACs spent $170 million, with most going to Republicans in final weeks before midterm election(CoinDesk)(外部)
暗号資産系のPACが選挙全体で約1億7,000万ドルを投じ、オハイオ州ではブラウン氏への対抗に約5,600万ドルを使ったと伝える。

Crypto Holds Steady as Democrats Sweep Congress(Bankless)(外部)
開票の夜に約7万5,700ドルまで下げたビットコインが約7万9,300ドルへ戻したと伝え、民主党の勝利は織り込み済みとの見方を示す。

Warren Poised to Lead Senate Banking as FinTechs Weigh Launch Risks(PYMNTS)(外部)
ウォーレン議員が上院銀行委員会の委員長に就く見通しと、フィンテック企業が新サービス投入のリスクを見極めている状況を伝える。

Democrats Raring to Probe Trump Crypto Ties if They Win Midterms(Bloomberg Government)(外部)
2026年8月19日付。民主党の議員たちが、多数派を取ればトランプ大統領と暗号資産業界の関係を調べる構えを示したと伝える。

Crypto PAC spends $11M to oppose Sherrod Brown in Ohio(Cointelegraph)(外部)
オハイオ州の上院選での暗号資産業界の支出を伝え、暗号資産は米国経済の一部だとするブラウン氏の2025年8月の回答を掲載している。

【編集部後記】

再審議の動議を出したティリス氏は、2025年6月に再選を目指さないと表明しています。法案を主導してきたルミス氏も、今期で議会を去ります。

1月3日の正午には、「入口」を開け直す手続きを出した人と、1年以上かけて条文をまとめた人が、そろって議席を離れることになります。条文は記録として残ります。けれども、どの項目が何と引き換えに譲られたのかを内側から語れる人は、次の議会の上院にはいなくなります。その記憶は、誰が引き継ぐのでしょうか。

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By山本 達也

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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