Last Updated on 2026年5月28日 by Co-Founder/ Researcher
トロントを拠点とするブロックチェーン投資家・研究者のウィリアム・モウガヤール氏が2026年5月24日、X上で「Leave the Foundation Alone」と題した投稿を公開し、Ethereum Foundationへの批判に反論した。同氏はETH、Ethereum、Ethereum Foundationを3つの別々の存在と位置づけ、財団はプロトコルの管理者であってマーケティング組織ではないと主張した。
財団はEthereumへの依存度を下げる「subtraction path」を歩み、プロトコルの堅牢化、アップグレードの実装、他では資金提供されない研究への出資を進めていると述べた。財団はBitMine Immersion Technologiesに対し3回のOTC取引で計25,000ETHを売却している。また17,035ETH(約4,000万ドル相当)およびLidoから21,270ETH(約5,000万ドル相当)のステーキングを解除している。執筆時点でETHは2,117.09ドル、2025年8月の最高値4,953ドルから57%以上下落している。
From: Blockchain researcher defends Ethereum Foundation, says it’s ‘exactly’ doing its job
【編集部解説】
今回のモウガヤール氏の発言は、一見すると「価格擁護派」と「原理主義派」の感情的な論争に見えますが、その奥には「公共インフラとしてのブロックチェーンを誰が、どのように運営すべきか」という、Web3全体に通じる本質的な問いが横たわっています。
まず押さえておきたいのは、彼が用いた「subtraction path(引き算の道)」という概念です。これは、Ethereum Foundation自らが時間とともに存在感を薄め、最終的にプロトコルが特定の組織に依存しなくなる状態を目指す、という方針を指します。Ethereum Foundation公式の哲学にも「自らの力を引き算し、組織が成長や権力蓄積へ向かう傾向に抵抗する」という思想が明記されており、中央集権的な企業が成長を「足し算」で測るのとは正反対の発想であり、分散型システム固有のガバナンス哲学と言えます。
そして比喩として引用されたIETF(Internet Engineering Task Force)とTCP/IPの関係性は、テクノロジー史を知る読者にとって非常に示唆的です。インターネットの基盤プロトコルであるTCP/IPは、特定企業の商業マーケティングよりも、IETFなどによる標準化と実装の積み重ねを通じて世界的に普及しました。モウガヤール氏は「Ethereumも同じ道を歩むべきだ」と主張しているわけです。
一方で、批判側の論点も正当性を持っています。実際、財団は2026年3月にBitMine Immersion Technologies社へ5,000ETH(平均価格約2,043ドル)を、4月下旬には10,000ETH(平均価格約2,387ドル)を、5月初旬には10,000ETH(平均価格約2,292ドル)を売却しています。これらを単価ベースで合算すると約5,700万ドル規模に達する取引となります(原報道では「約4,700万ドル」とも表記されており、数値の表記揺れには注意が必要です)。さらに、Lidoから21,270ETH(約5,000万ドル相当)を含む大規模なステーキング解除も実施しています。市場参加者からすれば、「なぜ価格が下落局面にあるタイミングで売り圧力をかけるのか」という疑問は自然なものでしょう。
特に注目すべきは「ドッグフーディング(dogfooding)」批判です。これは「自社製品を自社で使う」という意味のIT業界用語で、コミュニティの一部からは「開発者がETHで直接報酬を受け取っていないのではないか」という疑問が提起されています。ETHを「未来の金融基盤」と謳う組織が、運営費のためにそれを法定通貨へ換金し続ける構図に、コミュニティが矛盾を感じるのは無理もありません。
ここで重要な背景として、2026年に米国でClarity Act(暗号資産の規制枠組みを明確化する法案)の審議が進展していることが挙げられます。同法案は2026年5月時点で上院銀行委員会での審議段階にあり、Bessent財務長官も議会通過を求めるなど、規制明確化への期待が高まっています。BitMineのように大規模なETHトレジャリー戦略を採る企業も現れており、機関・上場企業によるEthereumへの関心は高まっています。実際、Tom Lee氏率いるBitMine社は2026年5月17日時点で5,278,462ETH(ETH総供給量の約4.37%相当)を保有していると公式発表しています。少なくともBitMineのような企業による大口蓄積が進む一方、Ethereum Foundationは運営資金確保のためにETHを売却しており、保有主体の変化を示す動きとして注目されます。
長期的視点で見ると、この論争は「公共財としてのブロックチェーン」が成熟期に入ったことの証でもあります。共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏の影響力に依存していた初期段階から、組織的・制度的に「卒業」していく過程で生じる必然的な軋轢と捉えることもできるでしょう。
ポジティブな側面として、財団が中立的な技術運営体に徹することは、規制当局からの「証券性」認定リスクを下げる方向に働く可能性もあります。逆に潜在的リスクは、コミュニケーション不足が市場心理を冷やし、開発者やユーザーの離反を招く可能性です。機関投資家の動向としても、ハーバード大学運用法人がわずか1四半期でBlackRockのiShares Ethereum Trust ETFポジション(約8,700万ドル相当)を全売却したと報じられています。
私たちが今この記事を取り上げる理由は、これがETHの価格動向の話題に留まらず、「分散型組織はどう自らを律し、進化していくのか」という、AI時代の組織論にも通じるテーマだからです。中央集権的なビッグテックへの依存に疑問が向けられる今、Ethereum Foundationの「自らを必要とされない存在へ導く」という逆説的なミッションは、未来のテクノロジー・ガバナンスを考える上で大きなヒントを与えてくれます。
【用語解説】
OTC取引(Over-The-Counter)
証券取引所を介さず、当事者同士で直接行う相対取引のこと。大口の暗号資産売買では市場価格への影響を抑えられるメリットがあるため、機関投資家や財団による大量取引で多用される。
ステーキング/アンステーキング
保有する暗号資産をブロックチェーンのネットワークに預け入れることでネットワーク維持に貢献し、報酬を得る仕組みがステーキング。預け入れを解除して引き出すことをアンステーキングと呼ぶ。Ethereumは2022年9月のThe MergeでPoS(プルーフ・オブ・ステーク)へ移行しており、ステーキングがネットワーク安全性の根幹をなしている。
subtraction path(引き算の道)
モウガヤール氏が用いた表現で、Ethereum Foundationが自らの中央集権的役割を意図的に減らし、最終的にプロトコルが特定組織に依存しない状態を目指す方針を指す概念。EF公式の哲学にも通じる思想である。
ドッグフーディング(Dogfooding)
「自社製品を自社で食べる」を意味するIT業界用語。製品やサービスを開発する側が、自らもそれを日常的に使うことで品質を高める文化を指す。今回の文脈では、EFが運営費の支払いにETHを使わず法定通貨へ換金する姿勢への批判的呼称として用いられている。
TCP/IP
インターネット通信の基盤となっている技術プロトコル群。IETFという技術標準化団体が仕様策定を担っており、商業的なマーケティングではなく標準化と実装の積み重ねを通じて世界中に普及した。Ethereumの「公共インフラ性」を説明する際の比喩として用いられた。
Pectraアップグレード
Ethereumのプロトコル更新の一つで、2025年5月7日にメインネットで有効化された。Execution layerとConsensus layerの双方に変更を含むネットワークアップグレードであり、アカウント抽象化、バリデータ運用効率の改善、blobスループット増加などの改善要素が盛り込まれている。
Clarity Act
米国で審議中の暗号資産規制明確化を目的とした法案。2026年5月時点で上院銀行委員会で審議が進められており、Bessent財務長官なども議会通過を求めている。デジタル資産の規制枠組みを明確化することで、機関投資家のEthereumおよび暗号資産市場への参入を後押しすると期待されている。
ヴィタリック・ブテリン
Ethereumの共同創設者の一人で、プロトコルの初期設計を主導した人物。Ethereum Foundationにおいて精神的支柱とされている。
【参考リンク】
Ethereum Foundation 公式サイト(外部)
Ethereumプロトコルの研究開発と生態系支援を担う非営利組織の公式サイト。ミッションや活動内容が公開されている。
Ethereum.org(外部)
Ethereumの一般向け公式情報サイト。プロトコルの仕組みや開発者向けドキュメントを多言語で提供している。
BitMine Immersion Technologies 公式サイト(外部)
Tom Lee氏が会長を務める米国上場企業。大規模なETHトレジャリー戦略を展開する暗号資産関連企業である。
Lido 公式サイト(外部)
Ethereumの代表的なリキッドステーキング・プロトコル。ETHを預けてstETHを受け取り報酬と流動性を両立できる。
IETF(Internet Engineering Task Force)公式サイト(外部)
インターネットの技術標準を策定する国際団体。TCP/IPなど基幹プロトコルの仕様を定めている。
CoinMarketCap(外部)
暗号資産の価格・時価総額・取引量などの市場データを提供する代表的な情報サイトである。
Fundstrat Global Advisors(外部)
Tom Lee氏が共同創業したマクロ調査・市場分析を専門とする金融リサーチ会社である。
William Mougayar 公式X(外部)
「Leave the Foundation Alone」投稿を行った著者本人の公式X。ブロックチェーン業界への発信を続けている。
【参考記事】
Ethereum Foundation Offloads $23M in ETH to BitMine for Third Time in Two Months(Cointelegraph)(外部)
BitMineへの3回目OTC売却の詳細と、3月以降の累計取引内容、ETH最高値からの下落率を記録した記事。
Ethereum Foundation Philosophy(Ethereum Foundation 公式)(外部)
EFが掲げる「自らの力を引き算し、成長や権力蓄積に抵抗する」という公式哲学を確認できる一次情報。
Bitmine Immersion Technologies Announces ETH Holdings Reach 5.28 Million Tokens(PR Newswire)(外部)
2026年5月17日時点でBitMineのETH保有量5,278,462ETH到達を公式発表したプレスリリースである。
Explainer: What is in the US Senate’s landmark crypto bill?(Reuters)(外部)
2026年5月時点で米国上院銀行委員会が暗号資産規制法案を審議していることを報じる記事。
Why Is The Ethereum Foundation Unstaking $50M ETH?(Arkham)(外部)
EFがLidoから21,270ETHをアンステークした経緯を、オンチェーン分析データに基づき解説した一次分析記事。
Harvard dumps entire ETH position after just one quarter(Cointelegraph)(外部)
ハーバード運用法人がiShares Ethereum Trust ETFポジションを1四半期で全売却したと報じる記事。
Ethereum Foundation defender says critics miss its real job(crypto.news)(外部)
モウガヤール氏の主張と財団の活動領域を関連付け、コミュニティとのスタンス相違を整理している。
【編集部後記】
「組織が自らの存在感を意図的に減らしていく」——Ethereum Foundationが掲げるこの逆説的な姿勢は、企業や行政が「拡大」を是とする現代において、とても新鮮に映りませんか。
ブロックチェーンに普段触れていない方も、ぜひ一度想像してみてください。もし、皆さんが普段使っているサービスの運営元が「私たちはいずれ要らなくなる存在を目指します」と宣言したら、どう感じるでしょうか。
短期的な価格や利便性と、長期的な分散・自律——どちらを重視すべきか。AI時代の組織論にも通じるこの問いを、ぜひ皆さんなりの視点で考えてみていただけたら嬉しいです。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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