Ethereum 共同創設者ブテリン氏が提唱、AIと形式検証で暗号資産のセキュリティはどう変わるか

Ethereum 共同創設者ブテリン氏が提唱、AIと形式検証で暗号資産のセキュリティはどう変わるか

Last Updated on 2026年5月20日 by Co-Founder/ Researcher

2026年5月18日、Ethereum 共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏が新たなエッセイを公開し、AIの進歩が暗号資産システムへの攻撃と防御のあり方を変える可能性があると述べました。

強力なAIモデルがスマートコントラクト、ゼロ知識インフラ、暗号プロトコルなどの脆弱性の発見と悪用を容易にしうると指摘し、暗号資産業界が従来の監査やテストに加えて「形式検証」を採用すべきだと主張しています。形式検証は、ソフトウェアが特定条件下で正しく動作することを数学的に証明する手法です。ブテリン氏は、AIを活用したコーディングと形式検証ツールの組み合わせがより安全なソフトウェアを生み出しうるとも示唆しました。エッセイは、ブロックチェーンのコンセンサスシステム、暗号インフラ、OSレベルのコンポーネントなどを小さな「セキュアコア」に集約する未来像を示し、Ethereum などの重要システムが数学的に検証されたソフトウェアを必要としうると述べています。

From: Vitalik says AI-driven exploits could reshape crypto security

【編集部解説】

最初に、この記事が報じている「エッセイ」の正体を整理しておきます。元になっているのは、ヴィタリック・ブテリン氏が5月18日に自身のサイトへ公開した「A shallow dive into formal verification(形式検証への浅い潜水)」という長文の技術論考です。AMBCrypto の記事は、その要点を抜き出した二次的なレポートにあたります。そこで原典に立ち返って議論の射程を確かめておきたいと考えました。

なぜ今これを取り上げるのか。理由は明快です。AIがソフトウェアの脆弱性を「人間より速く、大量に」発見しはじめた転換点に、この議論が置かれているからです。これまで監査チームが数週間かけて読み込んでいたコードを、AIは数分で走査できます。攻撃側がAIを手にすれば防御は崩れる——そうした悲観論への、ブテリン氏なりの反論がこのエッセイなのです。

鍵になる「形式検証(フォーマル・ベリフィケーション)」について補足します。通常のソフトウェアテストは「いくつかの入力を試し、正しく動くように見えるか」を確かめる手法です。これに対し形式検証は、「いかなる条件下でもコードが仕様どおりに振る舞う」ことを数学の定理として証明します。証明はコンピューターが機械的に検証できる形で書かれるため、人間が証明文を一行ずつ読まなくても正しさを担保できる、という発想です。

この技術自体は新しいものではありません。機械検証可能な証明という分野の歴史は、約60年にさかのぼります。長く専門家の狭い領域にとどまっていた理由は、証明を人間が手書きするのが極端に難しく、手間がかかったからでした。ブテリン氏が「潮目が変わった」と見るのは、その退屈で非直感的な作業こそAIが得意とするからです。エッセイでは、Lean という証明言語を用いた具体例や、暗号メッセンジャー Signal の安全性を数学的に証明しようとする取り組みなどが紹介されています。

この技術が普及すると何が可能になるのでしょうか。最も直接的な恩恵は、スマートコントラクトの「資金流出バグ」の根絶に近づくことです。ブロックチェーン上の契約は一度デプロイすると修正がきかず、バグがあれば取り返しがつきません。事前に「このコントラクトは設計どおりにしか動かない」と証明できれば、暗号資産のセキュリティモデルそのものが書き換わります。

注目したいのは、ブテリン氏がAIを「脅威」ではなく「解決策の一部」として位置づけた点です。AIがコードと証明の両方を高速に生成し、人間は「高レベルの仕様が本当に意図どおりか」の確認に専念する。彼はこれを、ブロックチェーンのスケーリングになぞらえました。一つの技術がトレードオフを生み、別の技術がそれを埋め合わせる、という関係性です。

ただし楽観一辺倒ではありません。ブテリン氏は形式検証の限界も率直に認めています。検証したのがシステムの一部だけなら、未検証の箇所に致命的なバグが潜みうる。証明すべき「重要な性質」を指定し忘れることもある。仕様そのものが誤っていれば、証明は無意味になってしまいます。さらに、ハードウェアのサイドチャネル攻撃のように、数学的に正しいコードでも回避されうる経路が残ります。「証明された正しさ」は「人間が直感的に思う正しさ」と同じではない——この指摘は、過信への重要な戒めだと受け止めるべきでしょう。

長期的な視点では、エッセイが描く「セキュアコア」という未来像が示唆に富みます。AIが生成したコードが社会の隅々に広がる世界では、本当に守るべき中核——コンセンサス、暗号、OSの基盤部分——を小さく切り出し、徹底的に検証して隔離する。周辺のアプリは柔軟なまま残しつつ、権限を絞ることで被害を局所化する。これは暗号資産にとどまらず、ソフトウェア全体の設計思想に通じる考え方です。

規制や産業への波及も見逃せません。金融インフラやデジタル公共財に「数学的に証明された安全性」という新たな基準が生まれれば、監査のあり方や、規制当局が求める保証レベルも変わっていく可能性があります。「テストで問題が出なかった」から「正しさが証明されている」への移行は、信頼の根拠そのものを更新する動きだと言えます。

この議論の本質は暗号資産の枠を超えています。AIがコードを書く時代に、人類はどうやってソフトウェアを「信頼」し続けるのか。ブテリン氏の答えは、信頼を人やプロセスではなく「証明可能な数学」に置き直すという、静かでありながら根源的な提案なのです。

【用語解説】

ヴィタリック・ブテリン氏
Ethereum の共同創設者。ブロックチェーン技術や暗号、スケーリングなどに関する技術論考を自身のサイトで継続的に発表しており、業界でもっとも影響力のある人物の一人とされる。

形式検証(フォーマル・ベリフィケーション)
ソフトウェアが特定の条件下で仕様どおりに動作することを、数学の定理として証明する手法。証明はコンピューターが機械的にチェックできる形で書かれる。「動くように見えるか」を試すテストとは異なり、「正しさそのもの」を保証しようとする。

スマートコントラクト
ブロックチェーン上で自動実行される契約プログラム。一度デプロイすると基本的に修正できないため、コードにバグがあると資金流出など取り返しのつかない事態を招きうる。

ゼロ知識証明
ある事実が正しいことを、その事実の中身そのものを明かさずに証明する暗号技術。プライバシー保護やブロックチェーンのスケーリングに用いられる。

コンセンサスメカニズム
分散した多数のコンピューターが、取引履歴という「唯一の正しい記録」について合意を形成する仕組み。ブロックチェーンの根幹をなす。

ポスト量子暗号
将来実用化されうる量子コンピューターによる解読に耐えられるよう設計された暗号方式。量子耐性暗号とも呼ばれる。

サイドチャネル攻撃
処理時間や消費電力など、プログラムの「動作の副産物」を観測して秘密情報を推測する攻撃手法。コードが数学的に正しくても回避されうるため、形式検証の限界例として挙げられる。

証明支援システム(プルーフ・アシスタント)
人間が書いた数学的証明を、機械が検証できる形で記述・確認するためのソフトウェア。Lean、Coq、Isabelle などが代表例である。機械検証可能な証明という分野自体の歴史は、約60年にさかのぼる。

セキュアコア
ブテリン氏がエッセイで提示した概念。コンセンサス、暗号、OSの基盤部分など「本当に守るべき中核」を小さく切り出し、徹底的に検証して隔離するという設計思想を指す。

【参考リンク】

Ethereum 公式サイト(外部)
Ethereum の概要、技術仕様、エコシステム情報を提供する公式ポータル。日本語表示にも対応している。

Lean 公式サイト(外部)
エッセイで例示された証明言語「Lean」の公式サイト。プログラミング言語であると同時に、証明の記述・検証ツールでもある。

Signal 公式サイト(外部)
エッセイで安全性証明の対象として言及された暗号化メッセンジャー。エンドツーエンド暗号化を採用している。

【参考記事】

Vitalik Buterin says AI formal verification could actually make crypto much more secure(外部)
AIによる脆弱性発見の加速への応答として、AI活用の形式検証が暗号資産インフラの安全確保に不可欠になりうるとするブテリン氏の主張を伝える。

Vitalik says AI-assisted formal verification could be ‘final form’ of software development(外部)
AIと形式検証の組み合わせがソフトウェア開発の「最終形態」になりうるとするブテリン氏の見解と、有力な適用候補を整理した記事である。

Vitalik Buterin: AI And Formal Verification Can Make Critical Code Unhackable(外部)
形式検証を「機械検証可能な証明を書く実践」と位置づけ、信頼できるデジタルの未来への道筋になりうると論じる記事である。

Ethereum’s Vitalik Buterin Explains How AI Could Make Smart Contracts Truly Secure(外部)
形式検証の利点とともに、その失敗パターンをブテリン氏が慎重に説明していたことを伝える記事である。

【編集部後記】

AIがコードを書き、AIがそのバグを見つける。そんな時代に私たちが本当に問われているのは、「何をもって安全と呼ぶか」という定義そのものなのかもしれません。ブテリン氏の提案は、信頼の置き場所を人やプロセスから「数学」へと静かに移し替えるものでした。

これは暗号資産だけの話ではなく、私たちが毎日触れているアプリやサービスの足元にも関わってきます。完璧な保証ではないという但し書きも含めて、この議論をこれからも追いかけていきたいと考えています。みなさんが気になったポイントがあれば、ぜひ一緒に考えていけたら嬉しく思います。

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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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ByTaTsu@innovaTopia

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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