Last Updated on 2026年5月8日 by Co-Founder/ Researcher
Polygonは2026年5月7日、平均ブロック時間を250ミリ秒短縮し1.75秒とした。ジェネシス以来初のブロック時間短縮である。Polygonソフトウェアエンジニアのルッカ・マルティンス氏によれば、本アップグレードにより1秒あたりの決済処理量は約14%増加し、理論上の最大スループットは約3,260TPSに達する。
今回の変更はPolygon Improvement Proposal(PIP-86)の一環であり、最終的にブロック時間を1.5秒まで短縮し、POLトークンの発行率を目標値1%に維持するためチェックポイント報酬を調整する2段階の提案である。Polygonは火曜日、ゼロ知識証明で検証されるシールドプールを通じてステーブルコイン取引をプライベートにルーティングする新ウォレット機能も発表した。POLトークンは執筆時点で0.09ドル、過去1年で54%下落している。Visaは4月29日、ステーブルコイン・パイロットの対象にPolygon、Base、Canton Network、Arc、Tempoを追加した。
From: Polygon reduces block time to 1.75 seconds as payments push accelerates
【編集部解説】
今回のPolygonによるブロック時間短縮は、一見すると「2秒が1.75秒になっただけ」の地味な技術アップデートに見えるかもしれません。しかし、innovaTopia編集部がこのニュースに注目するのは、これがブロックチェーンが「投機の場」から「日常の決済インフラ」へと役割を本格的に移しつつある転換点になりうる動きを象徴しているからです。
そもそもPolygonの2層構造を理解しておくと、今回の変更の意味が見えやすくなります。Polygonは、トランザクションを実際に処理する「Bor」と、Ethereumとの整合性を担保しチェックポイントを送信する「Heimdall」という2つのレイヤーで動いています。今回短縮されたのはBor側のブロック生成時間で、ユーザーがDEXでスワップを行ったり、ステーブルコインを送金したりする際の「確定までの待ち時間」が直接縮まることを意味します。
注目すべきは、これが2020年5月のジェネシス(メインネット稼働)以来、約6年で初のブロック時間短縮であるという点です。長年「2秒」を一度も動かさずに来たプロジェクトが、ついにその最深部のパラメータに手を入れた事実そのものが、Polygonの戦略転換の本気度を物語っています。
技術的な巧妙さは、PIP-86の設計にも表れています。ブロック時間を短縮すると、同じ時間内により多くのチェックポイントが発行され、結果としてバリデーターへの報酬(つまりPOLトークンの発行)が増えてしまう。これを放置すれば年間1%というインフレ目標が崩れます。そこで報酬パラメータを比例的に縮小し、トークノミクスを維持したまま速度だけを上げる──この経済設計の整合性は、Polygonがインフラ運営者としての成熟度を高めていることを示す好例といえます。
このタイミングが偶然でないことは、Visaとの動きと重ねるとよく見えてきます。Visaは4月29日、ステーブルコイン決済パイロットの対応ブロックチェーンをPolygon、Base、Canton Network、Arc、Tempoの5つに拡張し、合計9ネットワーク体制となりました。同パイロットの年間換算決済額は四半期で50%成長し70億ドル規模に達したと、Visaは公表しています。さらに、Cryptopolitanなど複数の報道によれば、世界のUSD建てステーブルコイン送金のうち約35%がPolygon上を流れているとされ、Polygonは事実上「ドル送金網」としての地位を確立しつつあります。
つまり今回のブロック時間短縮は、「Visaが選ぶに値する高速・低コストの決済レール」というポジションをさらに強化するための布石なのです。投機ではなく、現実世界のドルの動きを支えるインフラへ──Polygonの軸足の置き方は、ここ数年で大きく変わりました。
5月4日に公式発表されたゼロ知識証明ベースのプライベート決済機能も、この流れの一部です。送信者・受信者・金額をオンチェーンで秘匿しながら、KYT(Know Your Transaction)スクリーニングと監査可能なファイルでコンプライアンスを維持するという設計は、企業会計や機関投資家の参入障壁となってきた「全取引が公開される」という公開ブロックチェーンの宿命的弱点に正面から取り組んでいます。プライバシーと規制適合の両立──これは企業がブロックチェーンを基幹決済に採用する際の、最大の論点です。
ただし、編集部としてはポジティブな側面ばかりを強調する気はありません。POLトークンは執筆時点で0.09ドルにとどまり、過去1年で54%下落しています。技術的アップグレードや大型提携が相次いでも、トークン市場はそれを十分に評価していない、というのが現実です。背景には、Solanaの数百ミリ秒級のブロック時間や、Stripeが支援するTempoのような決済特化型L1の台頭、さらにはCircleがArcという独自レイヤー1を立ち上げるなど、「決済特化型ブロックチェーン」の競争が激化している事情があります。Polygonが速度競争で常に追われる立場にあるのは事実です。
規制面でも論点は残ります。プライベート決済機能は、コンプライアンス手段を組み込んでいるとはいえ、各国のマネーロンダリング対策(AML)当局がどこまで「シールドプール+監査ファイル」というハイブリッド方式を許容するかは未知数です。規制当局との対話の中で、設計が修正される可能性も十分にあります。
長期的な視点で見るなら、今回のニュースが映し出しているのは「ブロックチェーンが見えなくなる未来」です。ユーザーが「Polygonを使った」と意識せずに、Visaのカードでコーヒーを買うような感覚でステーブルコイン決済を行う世界。秒の単位で確定する送金が、銀行送金網を時代遅れにする日。その実現可能性を、1.75秒という小さな数字が静かに告げているのです。
未来は派手な発表ではなく、ミリ秒単位の積み重ねでやってきます。だからこそinnovaTopiaは、この250ミリ秒の重みを読者の皆さまにお伝えしたいと考えました。
【用語解説】
レイヤー2(L2)ネットワーク
Ethereumなどの基盤ブロックチェーン(レイヤー1)の処理速度や手数料の課題を解決するために、その上に構築されるスケーリング技術の総称。Polygonは長らくEthereumのL2/サイドチェーンとして利用されてきた。
ブロック時間(Block Time)
ブロックチェーン上で新しいブロックが生成される間隔。短いほど取引の確定が早くなり、ユーザー体験が向上するが、ネットワーク全体の整合性維持には高度な設計が要求される。
TPS(Transactions Per Second)
1秒間に処理できる取引件数を示す指標。決済インフラとしての処理能力を評価する代表的な数値であり、VisaのTPS(理論上数万件規模)と比較される文脈で語られることが多い。
ジェネシス(Genesis)
ブロックチェーンの最初のブロック、すなわちネットワーク稼働開始時点を指す。Polygonのジェネシスは2020年5月であり、今回のアップグレードは約6年で初のブロック時間変更となる。
チェックポイント(Checkpoint)
PolygonがEthereum上に定期的に提出する、自ネットワーク上の全取引のマークルルート。これによりPolygonはEthereumのセキュリティの一部を継承する。
PIP(Polygon Improvement Proposal)
Polygonネットワークの改善提案を指す枠組み。今回のPIP-86はチェックポイント報酬パラメータを再調整する2段階の提案で、ブロック時間を1.5秒まで段階的に短縮する計画を含む。
POLトークン
Polygonネットワークのネイティブトークン。旧称はMATICで、2024年以降POLへの移行が進められた。年間1%のインフレ目標が設定されている。
ステーブルコイン
米ドルなど法定通貨に価値を連動させた暗号資産。価格変動が小さいため、決済や送金、貸借といった「お金としての用途」に適している。
ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)
ある事実が真であることを、その事実そのものを開示せずに証明できる暗号技術。プライベート決済では、取引の正当性を保ちつつ送受信者・金額を秘匿するために用いられる。
シールドプール(Shielded Pool)
ゼロ知識証明によって取引情報を秘匿したまま処理する、プライバシー保護型のトランザクション処理空間を指す。
KYT(Know Your Transaction)
取引内容を分析し、マネーロンダリングや制裁対象との関連を検知するコンプライアンス手法。従来の本人確認(KYC)を補完する位置づけである。
DeFi(Decentralized Finance)
中央管理者を介さずブロックチェーン上で動作する金融サービスの総称。取引、貸借、デリバティブなどがスマートコントラクトで自動実行される。
Bor
Polygon PoSチェーンの実行レイヤーで、EVM互換のブロック生成エンジン。今回ブロック時間が短縮されたのはこのBor層である。
Heimdall
Polygonのコンセンサス層で、バリデーター管理とEthereumへのチェックポイント送信を担う。Borと連携してネットワーク全体を機能させる。
ランレート(Run Rate)
直近の実績値を年換算した指標。Visaのステーブルコイン決済「年間換算70億ドル」は、現在のペースが1年続いた場合の規模を示す。
【参考リンク】
Polygon(公式サイト)(外部)
Polygon Labsが運営する公式サイト。プロトコルやエコシステム、開発者向け情報が掲載されている。
Polygon Community Forum(PIP-86提案ページ)(外部)
今回のブロック時間短縮の根拠となるPIP原典。提案者と技術背景、経済設計の詳細が公開されている。
Polygonscan(外部)
Polygon PoSチェーンのブロックエクスプローラー。ブロック生成時間や取引情報をリアルタイムで確認できる。
Visa(公式コーポレートサイト)(外部)
グローバル決済ネットワークVisaの公式サイト。ステーブルコイン決済を含む各種事業情報が掲載されている。
Visa – Stablecoin Settlement Expansion(公式プレスリリース)(外部)
Visaが対応ブロックチェーンを9つに拡張したことを発表する公式リリース。幹部コメントを掲載している。
CoinMarketCap(POLトークンページ)(外部)
POLトークンの価格、時価総額、取引量、価格チャートを提供する暗号資産情報サイトのページ。
Cointelegraph(外部)
ブロックチェーンと暗号資産分野を中心に扱うグローバルメディア。今回の元記事の発行媒体である。
Base(Coinbase系L2)(外部)
CoinbaseによるEthereum系レイヤー2ネットワーク公式サイト。Visaパイロットの新規対応チェーンの一つだ。
Circle(外部)
USDC発行体Circleの公式サイト。同社のレイヤー1チェーン「Arc」もVisaパイロット対応となっている。
Canton Network(外部)
規制対応のプライバシー設定を備えたブロックチェーンネットワーク公式サイト。機関投資家向け決済に特化する。
Private Payments Are Live on Polygon(Polygon Labs公式ブログ)(外部)
2026年5月4日にPolygonがプライベート決済機能をローンチしたことを伝える公式ブログ。USDC・USDTに対応している。
【参考記事】
Visa Adds Base, Polygon, Canton, Arc and Tempo to Stablecoin Settlement Program(Decrypt)(外部)
Visaの対応チェーン9拡張を解説。年70億ドル規模、四半期50%成長、各ネットワークの役割分担に言及している。
Visa names Polygon in 5-blockchain expansion of $7B stablecoin settlement pilot(Cryptopolitan)(外部)
世界のUSDステーブルコイン送金の約35%がPolygon上を流れる市場シェアと、USDC送金実績データを提示する。
Visa (V) expands stablecoin settlement network as volume hits $7 billion run rate(CoinDesk)(外部)
銀行送金網を介さずほぼリアルタイムで国境を越えた決済を可能にするモデルの意義を金融視点で整理している。
Visa Accelerates Stablecoin Momentum: Adding Five Blockchains for Settlement(Visa公式プレスリリース)(外部)
各ブロックチェーンの特徴と、Polygon Labs CEOマーク・ボワロン氏のコメントなど一次情報を確認できる。
PIP-86: Recalibrate CHECKPOINT_REWARD for reduced Polygon block times(Polygon Community Forum)(外部)
1.75秒および1.5秒へのブロック時間短縮計画と、報酬縮小によるPOL発行率1%維持の意図が記述されている。
【編集部後記】
「2秒が1.75秒になった」というニュースに、未来のかたちを感じ取れた方は、きっとテクノロジーが社会を静かに書き換えていく瞬間を察知できる感性をお持ちなのだと思います。皆さんが普段使っているクレジットカードの裏側で、ブロックチェーンが当たり前に動く日が、想像より早く来るかもしれません。
皆さんなら、その世界でどんな決済体験を望みますか?速さでしょうか、プライバシーでしょうか、それとも国境のなさでしょうか。一緒に未来の輪郭を描いていけたら、私たちにとってそれ以上の喜びはありません。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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