Last Updated on 2026年5月6日 by Co-Founder/ Researcher
Circleが2026年4月20日、フランス金融市場庁(AMF)から、MiCA(暗号資産市場規制)の枠組みのもとで暗号資産サービスを提供する認可を取得した。CircleはEUのMiCAのもとで最大規模の規制対象電子マネートークン発行体である。今回の認可により、Circle FranceはMiCA第60条第4項に基づき、同社が発行するステーブルコインであるUSDCおよびEURCに関連する暗号資産のカストディおよび送金サービスを、欧州経済領域(EEA)全域の顧客に提供できるようになる。
Circleの最高戦略責任者兼グローバルポリシー・オペレーション責任者であるダンテ・ディスパルテ氏は、このマイルストーンが欧州の規制枠組みのもとでの業務と、フランスおよびEU全域における信頼性の高いデジタル金融インフラの発展支援への継続的なコミットメントを反映したものであると述べた。
From: Circle France receives approval to offer crypto-asset services under MiCA
【編集部解説】
今回のニュースは、欧州における暗号資産規制の本格運用フェーズが、いよいよ実装段階に入ったことを示す象徴的な出来事です。Circleが取得した認可は、単なる一企業のライセンス取得にとどまらず、ステーブルコインがグローバル金融インフラへ組み込まれていく過程を映し出しています。
まず重要なのは、今回のAMF認可がCircleにとって「2階建て」のライセンス体制を完成させる位置づけにあるという点です。Circleは2024年7月、フランスの銀行規制当局ACPR(Autorité de contrôle prudentiel et de résolution:健全性監督・破綻処理機構)から電子マネー機関(EMI)ライセンスを既に取得しており、これによってUSDCとEURCはMiCA準拠のe-moneyトークンとして発行可能になっていました。今回のAMF認可は、それとは別の、暗号資産サービス(カストディと送金)を提供するための独立した認可です。
MiCA第60条第4項という条文に基づく認可である点も注目に値します。これはEMIライセンスをすでに保有する事業者が、追加的に暗号資産サービスを提供する際の簡略化された手続きを定めたもので、規制の階層構造をうまく活用した戦略といえるでしょう。
実務的な意味は明快です。Circle Franceは「パスポーティング」と呼ばれる仕組みにより、フランス一国のライセンスでEEA(欧州経済領域:EU加盟27カ国+ノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタイン)の顧客にサービスを提供できます。各国ごとにライセンスを取り直す必要がなく、欧州市場への展開コストが大幅に圧縮される構造です。
Circleが拠点として選んだのがフランスである点も示唆的です。フランスはMiCA以前から独自のDASP(デジタル資産サービスプロバイダー)登録制度を運用しており、100社以上の登録実績がありました。AMFは欧州でも厳格な監督機関として知られており、ここで認可を得たという事実そのものが市場への信用シグナルとして機能します。
ポジティブな側面として、機関投資家や銀行がステーブルコインを業務に取り入れる際の心理的・法的ハードルが下がることが挙げられます。Circleは現在EU最大のMiCA規制対象e-moneyトークン発行体であり、規制された欧州デジタルユーロ(EURC)の流通拡大は、米ドル一極依存からの分散という地政学的な含意も持ちます。
実際、2024年時点でEURCをはじめとするコンプライアントなユーロ建てステーブルコインは、ユーロ建てステーブルコイン市場の90%を占めているとのデータもあり、規制対応の早さがそのまま市場シェアへ直結している現状が浮かび上がります。
一方で潜在的なリスクも存在します。MiCA準拠が「お墨付き」として機能する反面、規制対応コストの高さは新興プレイヤーの参入障壁となり、結果として既存大手による寡占を加速させる可能性があります。Circleの最大のライバルであるTether社(USDT発行体)はMiCA認可を取得しておらず、Coinbase Europe(2024年12月)、Crypto.com(2025年1月末)、Binance(2025年3月)、Kraken(2025年3月末)など欧州主要取引所でUSDTの上場廃止が相次ぎました。2025年7月にESMAが公表した認可済み53社(CASP 39社、EMT発行体14社)のリストにもTetherの名前はなく、規制対応で先行するCircleが欧州ステーブルコイン市場で優位な立場を築きつつあります。
長期的な視点では、今回の動きはCircle自身が4月に発表していた「エージェント経済のための金融レール構築」というビジョンと地続きで捉える必要があります。AIエージェントが自律的に決済を行う時代に向けて、規制された決済インフラを欧州全域で構築する布石と読み解けます。
innovaTopiaの読者の皆さまに注目していただきたいのは、これが「暗号資産業界のニュース」というよりも「金融インフラ刷新のニュース」として理解されるべき事案であるという点です。USDCやEURCは、もはや投機商品ではなく、24時間365日稼働するプログラマブルな決済通貨として、銀行・企業・AIエージェントの新しい共通言語になりつつあります。
【用語解説】
MiCA(暗号資産市場規制:Markets in Crypto-Assets Regulation)
EUが2024年から段階的に施行している、暗号資産に関する包括的な規制枠組み。EU加盟27カ国で統一されたルールを適用し、ステーブルコイン発行体や暗号資産サービスプロバイダーに対する認可・監督要件を定めている。
MiCA第60条第4項
すでにEMI(電子マネー機関)ライセンスを保有する事業者が、自社発行ステーブルコインに関連する暗号資産サービス(カストディ・送金など)を提供する際の、簡略化された手続きを定めた条文。
EMI(電子マネー機関:Electronic Money Institution)ライセンス
電子マネーの発行・管理を行う事業者に対して付与される、EU圏共通の規制枠組みに基づくライセンス。CircleはACPRから2024年7月にこのライセンスを取得している。
ACPR(健全性監督・破綻処理機構:Autorité de contrôle prudentiel et de résolution)
フランスの銀行・保険業界を監督する規制当局。フランス銀行(中央銀行)の傘下に置かれ、金融機関の健全性監督と破綻処理を担う。
EEA(欧州経済領域:European Economic Area)
EU加盟27カ国に、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインを加えた30カ国で構成される経済圏。MiCAライセンスはこの域内全体で「パスポーティング」が可能となる。
カストディ(Custody)サービス
顧客の資産(この場合は暗号資産)を安全に保管・管理するサービス。秘密鍵の管理を含み、機関投資家がデジタル資産を扱う際に必須のインフラとされる。
パスポーティング
EU域内のいずれか一国でライセンスを取得すれば、他のEEA加盟国でも追加ライセンスなしで同等のサービスを提供できる仕組みのこと。
USDC(USD Coin)
Circleが発行する米ドル連動型ステーブルコイン。1USDC=1米ドルで価値が裏付けられている。
EURC(Euro Coin)
Circleが発行するユーロ連動型ステーブルコイン。1EURC=1ユーロで価値が裏付けられている。
e-moneyトークン
MiCAの分類における、単一の法定通貨を参照して価値が安定化されたステーブルコインの呼称。
DASP(デジタル資産サービスプロバイダー)登録制度
フランスがMiCA施行以前から独自に運用していた暗号資産事業者向けの登録制度。100社以上が登録され、欧州でも整備された市場の一つを形成していた。
CASP(暗号資産サービスプロバイダー:Crypto-Asset Service Provider)
MiCAの枠組みのもとで、暗号資産関連サービスを提供する事業者の総称。カストディ、取引、運用など各種サービスごとに認可要件が定められている。
Tether(USDT)
世界最大のシェアを持つ米ドル連動型ステーブルコインを発行する企業。MiCAの認可を取得しておらず、欧州市場での取引に大きな制約を受けている。
【参考リンク】
Circle 公式サイト(外部)
USDCおよびEURCを発行する米国フィンテック企業の公式サイト。製品情報や規制対応状況、透明性レポートを公開。
Circle USDC 製品ページ(外部)
Circleが発行する米ドル連動ステーブルコインUSDCの公式紹介ページ。対応ブロックチェーンや利用方法を確認できる。
Circle EURC 製品ページ(外部)
Circleが発行するユーロ連動ステーブルコインEURCの公式紹介ページ。MiCA準拠のデジタルユーロとして展開されている。
Autorité des marchés financiers(AMF)公式サイト(外部)
フランスの金融市場を監督する独立行政機関の公式サイト。今回Circle Franceに認可を付与した規制当局である。
AMF Circle Internet Financial Europe SAS 認可ページ(外部)
AMFの公式登録簿における、Circle France(Circle Internet Financial Europe SAS)の認可情報ページ。
ACPR 公式サイト(外部)
フランスの銀行・保険業界を監督するACPRの公式サイト。CircleへのEMIライセンス付与元の規制当局である。
ESMA MiCA関連ページ(外部)
MiCAの実装と運用を統括するEUレベルの機関ESMAによる、規制の概要および公式ガイダンスを提供するページ。
Tether 公式サイト(外部)
USDTを発行するTether社の公式サイト。世界最大のシェアを持つステーブルコイン発行体だが、MiCA認可は未取得。
【参考記事】
Circle Secures MiCA Approval to Expand Crypto Services Across Europe(外部)
今回のAMF認可が2024年7月のEMIライセンスに積み上げられた追加認可である点を解説。
EU Approves 53 Crypto Firms Under MiCA, But Tether and Binance Left Out(外部)
2025年7月時点でESMAが認可した53社のリストとTetherやBinance不在の事実を報じている。
How MiCA Is Opening New Grounds For Stablecoin Adoption in The EU(外部)
EURCなどコンプライアントなユーロ建てステーブルコインが市場の90%を占有するデータを提示。
What MiCA Means for Tether (USDT): Delistings, Custody, and the Future of Stablecoins in the EEA(外部)
主要取引所におけるUSDT上場廃止の時系列を整理し市場の構造変化を把握できる。
Circle France Secures Regulatory Approval For Expanded Crypto Services Across Europe Under MiCA(外部)
MiCA第60条第4項に基づくパスポーティングの仕組みを丁寧に解説した記事。
Circle Gains France AMF Approval Under MiCA for Crypto Services(外部)
フランスの旧DASP制度100社以上の登録実績とAMFの厳格な監督を背景に解説している。
Blockchain & Cryptocurrency Laws & Regulations 2026 | France(外部)
フランスの旧DASP制度がMiCAベースのCASP制度へ移行した経緯を整理した解説。
【編集部後記】
今回のCircleのフランスでの認可取得は、私たちにとって少し遠い欧州の話のように見えるかもしれません。けれども、ステーブルコインが規制された決済インフラとして整備されていく流れは、海外送金のあり方や、近い将来当たり前になるであろうAIエージェント同士の自律的な取引の基盤を、確実に塗り替えつつあります。
皆さんが普段使っている決済サービスの裏側で、こうした「規制対応済みデジタル通貨」が静かに動き始める日は、思っているより近いのかもしれません。デジタル通貨が「当たり前の選択肢」になったとき、皆さんはどんな場面で最初にそれを実感したいでしょうか?
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