USDC vs USDT:流動性・透明性・リスクから読み解くステーブルコインの構造的比較

Last Updated on 2026年2月28日 by Co-Founder/ Researcher

暗号資産市場において、法定通貨とペッグ(連動)するステーブルコインは、単なる価値の移転手段としてだけでなく、DeFi(分散型金融)におけるプロトコル利用の基盤、さらにはクロスボーダー決済のインフラとして不可欠な存在となっています。

現在、この市場を二分しているのが、Tether社が発行する「USDT」と、Circle社が発行する「USDC」です。一見すると同じ「1ドル=1コイン」の価値を持つデジタルデータですが、その裏付けとなる準備金(リザーブ)の構造、ターゲットとするユースケース、スマートコントラクト上の挙動、そしてシステムが抱える潜在的リスクには極めて明確な違いが存在します。

本記事では、2026年2月現在のFACT(事実)に基づき、両者のエコシステムの構造的差異と、暗号資産に関わるすべてのユーザーやプロジェクトが認識すべきカウンターパーティリスク(自分ではなく、相手側の問題でシステムが影響を受けるリスク)を徹底的に比較・分析します。

本記事の目的

本記事は、Web3市場に関わるユーザー、DeFiの仕組みを利用する方々、およびブロックチェーンを活用した事業開発を検討するプロジェクトチームに向けて、ステーブルコインの「真の構造」を理解するための客観的な情報を提供することを目的としています。

時価総額といった表面的な数値だけでなく、発行体のコンプライアンス体制、準備金の質、オンチェーンの流動性構造を軸にステーブルコインのリスク構造を整理し、それぞれの利用目的や事業フェーズに応じた技術的・法務的背景を把握するための判断材料をお届けします。

記事内容

ステーブルコイン市場におけるシェアと流動性の現状

現在、米ドルペッグのステーブルコイン市場において、USDTとUSDCは圧倒的なシェアを占めていますが、流動性が存在する「場所」に大きな違いがあります。

  • USDT(Tether)の流動性構造:時価総額で市場の首位に位置するトークンです。主に中央集権型取引所(CEX)における取引ペアの基盤として圧倒的な流動性を誇り、デリバティブ取引の証拠金としても標準的に組み込まれています。また、Tron(TRC-20)ネットワーク上での発行量が非常に多く、新興国でのP2P決済や、法定通貨の代替となる価値保存手段として実体経済の決済レイヤーに深く根付いているという特徴があります。
  • USDC(Circle)の流動性構造:DeFi(分散型金融)プロトコルにおける「信頼のアンカー」として機能しています。Ethereumメインネットや主要なレイヤー2環境のDEX(分散型取引所)やレンディングプロトコルにおいて、USDCは最も流動性が厚いステーブルコインの一つです。オンチェーンでのトランザクションを主眼とするユーザーや、Web3プロトコル開発者にとって標準的なインターフェースとして採用される傾向にあります。

準備金(リザーブ)の構造と透明性の比較

ステーブルコインの価値を担保する準備金の構成は、カウンターパーティリスク(自分ではなく、相手側の問題でシステムが影響を受けるリスク)を客観的に評価する上で最も注視すべきFACT(事実)です。

  • USDC:短期米国債と現金同等物を中心とした保守的運用
    Circle社は、準備金を現金および短期米国債を中心とした極めて流動性の高い資産で構成しています(一部はレポ市場等を通じた運用も含まれます)。準備金の大半は「Circle Reserve Fund」として世界最大の資産運用会社BlackRockが運用し、BNY Mellonなどの大手金融機関で保管されています。Deloitte(デロイト)による月次の準備金証明レポートを公開しており、市場からの透明性に関する要求に高い水準で応えるシステムを構築しています。
  • USDT:透明性の向上と独自の資産基盤
    過去に懸念されたコマーシャルペーパー(CP)を完全に排除し、現在では短期米国債の保有比率を大幅に高めています。注視すべきは、Tether社が「ステーブルコインの裏付けとなる準備金」とは別に、自社の利益を内部留保し、「自己勘定資産」としてビットコイン(BTC)や貴金属(ゴールド)を保有している点です。これにより企業としての自己資本比率と耐久性を高めていますが、準備金と自己勘定資産の区分けの透明性については、BDO Italiaによる四半期レポート等を通じて市場へのデータ開示を続けている段階です。

オンチェーンデータとスマートコントラクトの特性

オンチェーンでの挙動やエコシステムのインフラ整備においても、両者は異なるアプローチをとっています。

  • ブラックリスト機能(凍結リスク):USDTとUSDCはともに、発行体が特定のウォレットアドレスの残高を凍結できる「ブラックリスト機能」をスマートコントラクトに実装しています。これはマネーロンダリング対策(AML)や法執行機関への対応として必須の機能ですが、ユーザーにとっては中央集権的な単一障害点(SPOF)となり得ます。両社ともOFAC(米国財務省外国資産統制室)の制裁リストに該当するアドレスの凍結を行っており、法規制に抵触した際のオンチェーン資金の差し押さえリスクは等しく存在します。
  • クロスチェーン転送インフラ:マルチチェーン化が進む中、両トークンとも各ブロックチェーン上でネイティブ発行を拡大しています。その中でCircle社は「CCTP(Cross-Chain Transfer Protocol)」という公式のブリッジインフラをいち早く標準化し、複数のチェーン間でUSDCを直接「バーン(焼却)&ミント(発行)」できる環境を整備しました。USDTも流動性は豊富ですが、公式の統合プロトコルによるエコシステム全体の標準化という点ではUSDCが先行する形となっています。

規制対応(コンプライアンス)の現在地と法的リスク

グローバルな暗号資産規制の波が押し寄せる中、両者の事業戦略は対照的です。

欧州連合(EU)の包括的な暗号資産規制「MiCA(Markets in Crypto-Assets)」が段階的に施行される中、Circle社は電子マネー機関(EMI)ライセンスを取得し、USDCをMiCA準拠ステーブルコインとしていち早く適応させました。

一方、Tether社はMiCAの要件(準備金の大半を欧州の銀行に預託することによる既存金融システムへのリスク集中等)に懸念を示しており、一部の欧州向けCEXではUSDTの取引ペアが制限されるなどの影響が出始めています。オンショア(規制区域内)規制に準拠するUSDCと、オフショア(規制区域外)の機動力を維持するUSDTでは、法制化の進展に伴い活用されるドメインが明確に分かれつつあります。

ディペッグ(価格乖離)リスクと過去のストレステスト

ステーブルコインが1ドルから乖離する「ディペッグ」は、システム全体に甚大な影響を与えます。

  • USDTのディペッグ事例(2022年5月):Terra(UST)崩壊ショックの際、市場のパニックから一時的に0.95ドル付近まで下落しました。しかし、Tether社が数百億ドル規模の法定通貨への直接償還(Redemption)に滞りなく応じたことでペッグは速やかに回復し、「取り付け騒ぎに耐えうる流動性」をシステムとして証明する結果となりました。
  • USDCのディペッグ事例(2023年3月):シリコンバレー銀行(SVB)の破綻に伴い、準備金の一部(約33億ドル)が同行に拘束されたことが判明し、一時は0.87ドル台まで急落しました。最終的に米政府の預金全額保護により1ドルに回復しましたが、この事象は「法定通貨の準備金を預託する既存の銀行システム自体がリスクになり得る」という、コンプライアンス重視型モデル特有の構造的脆弱性を浮き彫りにしました。

事業開発・DeFi利用における構造的な違い

今後、ブロックチェーンを活用したビジネスやDeFiプロトコルを利用する際、どちらの基軸通貨が採用されているかは、システム上のリスクに直結する要素となります。

  • DeFiプロトコルにおける流動性の仕組み:DEX(分散型取引所)やCoinPool(コインプール)のような流動性管理プロトコルにおいて、特定の価格帯に資金を集中させる高度な仕組みを利用する場合、微細なディペッグが致命的なインパーマネント・ロス(変動損失)を引き起こすメカニズムとなっています。そのため、準備金の透明性が高く、EthereumエコシステムにおいてDeFiネイティブな流動性とコンポーザビリティ(構成可能性)が担保されているUSDCが、プロトコルの基盤として採用されるケースが多く見られます。
  • グローバル決済インフラの構築:新興国のユーザーをターゲットとする送金・決済アプリケーションの基盤では、送金手数料が安価なTron上のUSDT対応が事実上の標準仕様となるケースが多く見られます。実需の決済インフラやオフショア環境での汎用性においては、USDTのネットワーク効果が広く活用されています。

FAQ

Q. USDTとUSDC、システムとして一概にどちらが安全と言えますか?

A. どのような指標を「安全性」と定義するかによって評価は異なります。USDCは、短期の米国債や現金を中心に準備金を保有し、定期的にその内容を公表している点、また米国やEUの規制枠組みに沿った運営がなされている点が特徴です。一方のUSDTは、世界中の取引所で広く使われており流動性が非常に高く、過去の大きな市場ショック時にも多額の償還に対応して価格を回復したというシステム耐久性の実績があります。

ただし、発行会社の経営状態、準備金を預けている銀行の破綻リスク、そして規制当局の判断によって資金が凍結される可能性はどちらのシステムにも共通して存在します。「完全に無リスクなステーブルコイン」は存在しないため、利用環境に合わせて技術的・構造的リスクを認識することが重要です。

Q. プロジェクトやサービスにDeFiの仕組みを組み込む場合、どのような基準で選定されることが多いですか?

A. どのステーブルコインが採用されるかは、連携するプロトコルの仕様、事業が属する法域、内部のコンプライアンス基準によって異なります。

Ethereum上の主要なDeFiプロトコルではUSDC建ての流動性プールが広く提供されています。規制遵守やトレーサビリティが重視される環境では、USDCが採用されている事例が報告されています。

一方で、多くの中央集権型取引所ではUSDT建ての取引ペアが提供されており、Tronネットワーク上ではUSDTの送金量が大きいことが確認されています。これらの特性から、CEXと連動する設計や国際送金・新興国市場向けのユースケースでUSDTが利用されている事例があります。

Q. 複数のステーブルコインを利用するアプローチは有効ですか?

A. 特定のトークンに依存するリスクを軽減する仕組みとして、複数のステーブルコインが活用されるケースがあります。単一のシステムへの集中は、万が一その発行体が破綻したり、スマートコントラクト上の不具合が起きたりした際の影響を直接受ける構造になります。特定の企業や銀行に依存するカウンターパーティリスク(自分ではなく、相手側の問題でシステムが影響を受けるリスク)を分散させるという観点で、複数の技術やプラットフォームを併用することは、システム上のリスク管理手法の一つと考えられています。ただし、分散によってリスクそのものが完全に消失するわけではありません。

まとめ:構造理解のためのフレームワーク

USDCとUSDTの特性を以下のフレームワークで整理します。

  • USDT(Tether)の構造特性
    • 時価総額・流動性トップであり、CEXにおける絶対的な基軸通貨
    • Tronネットワーク等を通じた新興国での強力なP2P決済の実需
    • 自己勘定資産(BTC等保有)の拡充による独自の企業耐久力向上
    • オフショアでの機動力を生かしたグローバル展開
  • USDC(Circle)の構造特性
    • DeFiプロトコルやスマートコントラクトにおける「信頼のアンカー」
    • 短期米国債・現金等を中心とした高い透明性と厳格な監査体制
    • CCTPなどの公式なクロスチェーン・インフラによるエコシステムの統合
    • MiCA等オンショア規制にいち早く適応する強固なコンプライアンス体制

ブロックチェーン上のデータを扱うすべての人は、自身が「どこで」「どのような仕組みの上で」データを動かしているのかを明確にし、それぞれのステーブルコインが内包する構造的リスクとトレードオフを正確に把握しておく必要があります。

Crypto Verseからのメッセージ

ステーブルコインは「1ドル」という価格の安定性を提供する優れた技術ですが、その裏側にあるシステムは決して「無リスク」ではありません。特定の企業が発行・管理している以上、発行体の破綻リスク、規制当局によるアカウント凍結リスク、そして準備金を預託する既存の銀行システムが抱える連鎖倒産リスクが常に内包されています。

利便性の高さだけで利用するのではなく、そのトークンが「どのような資産に裏付けられ、どのような法的枠組みにあるか」という一次情報に常にアクセスする姿勢を持ち続けてください。自己責任が原則となるWeb3の世界において、正確な構造理解こそが安全な利用への第一歩となります。

データ参照元・出典

  • Tether Transparency Report(2026年2月時点)
  • Circle Reserve Fund Holdings(2026年2月時点)
  • CoinGecko Stablecoins Market Capitalization(2026年2月時点)
  • 欧州連合(EU) MiCA規則 ガイドラインおよび施行状況

重要な注記

  • 本記事に記載された時価総額、準備金構成、法規制の状況などは2026年2月時点のものであり、市況や各国の規制当局の判断により急速に変化する可能性があります。
  • ステーブルコイン発行体による「特定アドレスの資金凍結リスク」が、USDTおよびUSDCの両トークンに構造上存在していることを認識した上で、各々の活動に活用してください。

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Crypto Verseの視点

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 複雑なWeb3の世界を、

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免責事項

本記事は、暗号資産やブロックチェーン技術の構造的理解を深めるための客観的な情報提供のみを目的としており、金融商品取引法に基づく投資助言業務を構成するものではありません。また、特定の暗号資産の購入、売却、または保有を推奨・勧誘するものではありません。暗号資産に関わる活動、特にDeFi(分散型金融)プロトコルの利用には、資金を失うリスクやスマートコントラクトのハッキング等の重大なリスクが伴います。最終的な判断や行動は、必ずご自身の責任において行ってください。事業等でステーブルコインを取り扱う場合は、各国の最新の法令をご確認の上、必要に応じて法務専門家の意見を仰ぐようにしてください。

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ByCo-Founder/ Researcher

2015年、ITエンジニアリングの領域から暗号資産(Cryptocurrency)の世界へ。

当初、私の網膜を焼いたのは、証券市場には存在しない「眠らないマーケット」の衝撃でした。CEX(中央集権取引所)に渦巻いていた当時の熱狂とカオスは、単なる投機ではなく、次なる時代の胎動そのものでした。

やがて技術はDEX、そしてDeFiへと進化し、マネーは「プログラム可能な金融」へと昇華する。その過程で私が魅せられたのは、コードが自律的に経済圏を構築する「自律分散システム」の構造的な美しさです。

私の原点は、日本初の暗号資産「モナコイン(Monacoin)」にあります。誰の指示でもなく、コミュニティの熱量だけで経済が回り始める──その光景に見た「人間主権」の可能性こそが、今の私のコンパスです。

以来10年、最前線で観測し続けてきた技術の進化。「価格」というノイズを削ぎ落とし、その奥にある「技術の実装」と「社会変革の本質」を言語化すること。

2025年、成熟しつつあるデジタル経済の荒野において、読者が迷わずに歩める「信頼できる地図」を。ここ東京から、テクノロジーと人間の未来を記録します。