Last Updated on 2026年4月1日 by Co-Founder/ Researcher

Hederaネットワークは、従来のブロックチェーン(連鎖型データ構造)とは異なるDAG(有向非巡回グラフ)ベースのHashgraphコンセンサスアルゴリズムを採用する分散型台帳技術(DLT)です。本稿では、公開されている仕様と稼働データに基づき、そのアーキテクチャ、処理性能、およびガバナンス構造を客観的に解体・比較します。特定の指標への偏重を避け、プロトコルが選択した技術的トレードオフの全容を記述します。

本記事の目的

・Hashgraph構造(DAG)とGossip about Gossipプロトコルの技術的仕様を提示します。

・スマートコントラクトおよび状態管理モデルにおける他ネットワークとの構造的差異を比較します。

・Governing Councilによる運営体制とそれに伴う構造的リスクを抽出します。

記事内容

Hashgraphコンセンサスとデータ構造

Hederaは、単一のチェーンにブロックを接続するアーキテクチャではなく、トランザクションの履歴をDAG(Directed Acyclic Graph:有向非巡回グラフ)として記録します。この合意形成は「Gossip about Gossip」および「Virtual Voting」という2つの主要なプロトコルによって実行されます。

Gossip about Gossipは、ノード間でトランザクション情報と同時に、情報の伝播履歴(誰がいつ誰に伝えたか)を同期するメカニズムです。この履歴データを用いることで、各ノードは他のノードがどのように投票するかをローカル環境で計算可能となります(Virtual Voting)。この設計により、ネットワーク全体での通信量(投票メッセージのやり取り)が削減され、合意形成プロセスが効率化されています。

数学的証明として、Hashgraphは非同期ビザンチン障害耐性(aBFT:Asynchronous Byzantine Fault Tolerance)の条件を満たすよう設計されています[1]。これは、ネットワーク上の悪意あるノード、または機能不全のノードが全体の $1/3$ 未満($F < N/3$)である限り、トランザクションの順序とタイムスタンプの合意が確定する仕様を意味します。

処理性能とスループットの観測

メインネットの稼働状況を示すHashscanのデータ観測において、Hederaのネットワークは定常的に1,000〜3,000 TPS(Transactions Per Second)の帯域で推移しています[2]。

これを他の主要なパブリックネットワークの仕様と比較した場合、L1は設計上スループットが限定されており(約15 TPS)レイヤー2への処理の移行(Rollup)を前提とするEthereumモデルや、実効TPSは数千〜数万の範囲で変動するSolanaの処理モデルとは異なるアプローチをとっています。HederaはL1単体での高スループット維持を仕様上のターゲットとしており、エンタープライズ用途への適合性が高い設計となっています。

手数料モデルとオープンソース化

Hederaのネットワーク手数料は、ネイティブトークンであるHBARで支払われますが、そのコスト算出基盤は米ドル(USD)にペッグされています。トランザクションの種類ごとに法定通貨建ての固定料金が定義されており、HBARの市場価格の変動に応じて支払いに必要なHBAR数量がアルゴリズムによって自動調整される設計です。

また、初期開発元であるSwirlds社が保有していたHashgraphの特許は2022年に放棄され、基盤コードはApache 2.0ライセンスのもとでオープンソース化されました[3]。これにより、外部開発者によるコードの監査とフォークが可能な仕様へと移行しています。

ガバナンス構造とノード運用体制

Hederaのネットワーク管理・運営は、最大39社の多国籍企業・教育機関等で構成される「Hedera Council(旧 Hedera Governing Council)」によって行われています[4]。初期フェーズにおけるコンセンサスノードの運用は、このCouncilメンバーのみに限定された許可型(パーミッションド)体制が採られています。

Councilメンバーには任期(最大2期連続、最長6年)が設定されており、ソフトウェアのアップグレード、ネットワークの価格設定、トレジャリー管理などの意思決定権限を持っています。将来的にはコミュニティノードや匿名ノードの参加を許可する非許可型(パーミッションレス)ネットワークへの移行ロードマップが公開されていますが、現時点でのノード群は完全に特定の主体に限定されています。

構造的リスクとトレードオフの観測

アーキテクチャと運用体制の仕様から、以下の構造的リスクが観測されます。

第一に、ガバナンス集中に起因する構造的リスクです。初期段階におけるノード運用と意思決定権限が特定少数の企業群に集中しているため、パブリックブロックチェーンが前提とする「単一障害点の排除」という観点において、運営主体の偏りが存在します。

第二に、法的要求の対象となり得る構造です。ノード運用者が法的に登記された実在する組織であるため、各国の規制当局や政府からのデータ検閲、トランザクション停止などの法的要求に対して、構造上その影響を直接的に受け得る状態にあります。

第三に、ノードの制限とスラッシング機能の実装状態です。悪意のある行動をとったノードのステーク(預け入れ資産)を没収するスラッシング・メカニズムについて、Hederaは他の主要PoS(Proof of Stake)ネットワークと比較して限定的な実装状態にあります。これは、現状のノード運用者が信頼されたCouncilメンバーに限定されているという前提に基づく設計ですが、将来的なパーミッションレス化に向けた移行プロセスにおいて、経済的インセンティブ設計の再構築が必要となる構造を示しています。

FAQ

Q. Hedera(HBAR)はブロックチェーンですか?

A. データ構造として有向非巡回グラフ(DAG)を採用しており、厳密には単一のチェーン構造を持つブロックチェーンではなく、分散型台帳技術(DLT)に分類されます。

Q. HBARの発行上限は設定されていますか?

A. 公開仕様において、発行上限は500億HBARと定義されています。

Q. Ethereum上のスマートコントラクトをHederaに移行できますか?

A. 移行可能です。HederaはEVM(Ethereum Virtual Machine)互換性を実装しており、Solidityで記述されたスマートコントラクトを実行できる仕様となっています。

まとめ:構造理解のためのフレームワーク

・合意形成モデル:DAG構造に基づくGossip about GossipおよびVirtual Voting(aBFT条件準拠)。

・性能と手数料:Hashscan観測値に基づく定常1,000〜3,000 TPS帯域での稼働。USDペッグによる固定手数料設計。

・管理体制:最大39機関によるHedera Council主導体制。現状は許可型ノードによる運用。

・リスク構造:ガバナンス集中に起因する構造的リスク、法的要求の対象となり得る構造、限定的なスラッシング実装状態。

Crypto Verseからのメッセージ

分散型技術の評価において重要なのは、トランザクション速度や手数料の安さといった単一の指標に依存することではありません。プロトコルがどのようなデータ構造(チェーンかDAGか)を採用し、どのような運営体制(許可型か非許可型か)を選択し、その結果としていかなる構造的リスクを受け入れているかを解体し、全体像を把握することにあります。

データ参照元・出典

[1] Hedera Network Whitepaper (Hedera Official Docs)

https://hedera.com/papers

[2] Hashscan – Hedera Network Dashboard

https://hashscan.io/mainnet/

[3] Hedera Governing Council Votes to Purchase Hashgraph IP, Commits to Open Source (Hedera Official Blog, 2022)
https://hedera.com/blog/hedera-governing-council-votes-to-purchase-hashgraph-ip-commits-to-open-source-worlds-most-advanced-distributed-ledger-technology

[4] Hedera Council Official Website

https://hederacouncil.org

重要な注記

本記事に記載されたTPS(Transactions Per Second)やネットワークの稼働状況に関するデータは、観測時点(2026年4月)のHashscanの実測値に基づくものであり、ネットワークの利用状況により常に変動します。将来的なパーミッションレス化のスケジュールについては、公式ロードマップに依存します。

関連記事

関連記事(Hedera / HBAR記事用)

ブロックチェーンの仕組みと構造解剖:2026年における分散型台帳の技術的本質 → ブロックチェーン技術の3要素(ブロック構造・分散ネットワーク・コンセンサスメカニズム)を体系的に解説。スケーラビリティのトリレンマ(分散性・セキュリティ・スケーラビリティの同時達成不可能性)、PoW・PoS・DPoS・PBFTの各コンセンサスアルゴリズムの数理、および6種のリスク分類を客観的に整理。Hederaが「チェーン構造を放棄した」設計思想を理解するための基礎対比として不可欠な記事。

Arbitrum vs Optimism:L2(レイヤー2)の技術的構造比較 → EthereumのスケーラビリティをL2ロールアップで解決するArbitrumとOptimismの技術的差異を解説。Hederaが「L1単体でのスケーリング(DAG+aBFT)」というアプローチを採る一方、Ethereumエコシステムが「L1+L2の分業戦略」で同じ課題に挑む構造的対比を理解するための参照記事。

2026年のイーサリアム:「ガス代」の概念が消える日。Danksharding後の世界とETHの行方 → Hederaの比較対象として記事内で頻繁に参照されるEthereumの最新ロードマップ。EIP-4844によるL2コスト削減、Verkle Treesによるステートレス化、量子耐性への移行議論など、Ethereumのスケーリング戦略とHederaの設計思想との構造的な対比を深掘り。

イーサリアムステーキングの技術的構造:報酬メカニズム・リスク・実装方法の完全解剖【2026年版】 → Hederaの記事で指摘した「フルスラッシング未実装」というリスクを、Ethereumの完全実装されたスラッシングペナルティ設計と対比するための参照記事。PoSにおけるバリデータの経済的インセンティブとペナルティ構造を技術的に理解する。

DAO実践ガイド:2026年における組織設計の論理とガバナンスの実装構造 → HederaのGoverning Council(LLC構造・39社・1社1票)という企業主導ガバナンスと、DAOのトークンベース分散型ガバナンスとの構造的差異を理解するための記事。投票権集中の実態データ、フラッシュローン攻撃の事例など、ガバナンスモデルの設計上のトレードオフを客観的に比較可能。

Crypto Verseの視点

┌─────────────┐

 複雑なWeb3の世界を

 もっとも信頼できる「地図」へ

└─────────────┘

免責事項

本記事は技術的アーキテクチャおよび仕様の客観的な解析・情報提供のみを目的としており、暗号資産(HBAR)の購入、売却、または保有を推奨・勧誘するものではありません。投資を含むあらゆる意思決定は、読者自身の自己責任において行われるものとします。確実なデータが確認できない将来の価格推移やプロトコルの成否について、当メディアは一切の保証を行いません。

アバター画像

ByCo-Founder/ Researcher

2015年、ITエンジニアリングの領域から暗号資産(Cryptocurrency)の世界へ。

当初、私の網膜を焼いたのは、証券市場には存在しない「眠らないマーケット」の衝撃でした。CEX(中央集権取引所)に渦巻いていた当時の熱狂とカオスは、単なる投機ではなく、次なる時代の胎動そのものでした。

やがて技術はDEX、そしてDeFiへと進化し、マネーは「プログラム可能な金融」へと昇華する。その過程で私が魅せられたのは、コードが自律的に経済圏を構築する「自律分散システム」の構造的な美しさです。

私の原点は、日本初の暗号資産「モナコイン(Monacoin)」にあります。誰の指示でもなく、コミュニティの熱量だけで経済が回り始める──その光景に見た「人間主権」の可能性こそが、今の私のコンパスです。

以来10年、最前線で観測し続けてきた技術の進化。「価格」というノイズを削ぎ落とし、その奥にある「技術の実装」と「社会変革の本質」を言語化すること。

2026年、成熟しつつあるデジタル経済の荒野において、読者が迷わずに歩める「信頼できる地図」を。ここ東京から、テクノロジーと人間の未来を記録します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です