ECX、13時間で25,000ブロック|難易度1678万の正体

ECX、13時間で25,000ブロック|難易度1678万の正体

Last Updated on 2026年8月24日 by Co-Founder/ Researcher

13時間で25,092ブロック。ポール・シュトルク氏によるビットコインのハードフォーク「ECX」のアルファ版が、そんな速さでブロックを積み上げました。ただ、報じられた難易度1678万を割り算してみると、これは勢いの証明ではなく、難易度が29倍出遅れているという事実のほうが見えてきます。


Drivechain考案者ポール・シュトルク氏によるビットコインのハードフォーク「ECX」が、ブロック高963,648でアルファ段階に入った。Bitcoin.comによると、米東部時間8月23日午前9時の時点で、稼働からおよそ13時間のあいだに25,092を超えるブロックが生成された。難易度は1から始まり、2,016ブロックごとの調整を経て1678万に達している。

採掘に投じられたハッシュレートは3.53ペタハッシュ毎秒で、首位はEcashpool-alpha。ほかにKikko、L2L Pool、Nurserypool、Ckpoolなどが参加している。同時点でECXは取引所に上場しておらず、市場価格も形成されていない。次の節目は、ホワイトペーパー公開から18年にあたる10月31日である。

From: Paul Sztorc’s Bitcoin Fork ECX Rips Past 25,000 Blocks in Just 13 Hours

【編集部解説】

25,000ブロックの正体

およそ13時間で25,092ブロック。単純に割れば、1ブロックあたり2秒を切る計算です。ビットコインの10分と並べると、300倍を超える速さです。

ただ、この数字が測っているのは支持の大きさではありません。新しいチェーンが、どれだけ出遅れているかです。

難易度が1678万に達したと報じられています。この値を、少し違う角度から眺めてみます。4の12乗は16,777,216。報じられた1678万と、ほぼ完全に一致します。

ビットコインの難易度調整には、1回あたり最大4倍という上限があります。つまりこの数字は、12回連続で上限に張り付いたまま上がり続けた結果です。25,092を2,016で割ると12.4。調整をちょうど12回終えて13回目の途中、という計算とも合います。

急騰したのではありません。プロトコルが許す最高速度でしか、上がれていないのです。

それでも、まだ29倍足りない

難易度1678万が想定しているのは、およそ120テラハッシュ毎秒のネットワークです。実際に集まっているのは3.53ペタハッシュ毎秒、すなわち3,530テラハッシュ毎秒。29倍の開きがあります。

この開きは、ブロック間隔にそのまま表れます。難易度がここまで上がってなお、期待される生成間隔は約20秒。10分にはまだ遠い。

いまの3.53ペタハッシュ毎秒前後が続くとすれば、10分へ近づくには最低でもあと3回の調整が要ります。1回4倍が上限なので、4の2乗である16では足りず、4の3乗の64まで積まなければ29倍を吸収できないからです。2,016ブロックが3回分。この記事を読んでいる頃には、その3回が終わっているかもしれません。

設計者は、これを織り込んでいます

大切なのはここです。以上は不具合ではありません。

公式の技術資料は、フォーク時に難易度をいったん最小へ戻し、そこから通常の再調整を始めると明記しています。採掘についても、ビットコイン用の機材がそのまま使えるとして、ASICと並べてBitaxeやNerdAxeのような小型機、さらにCPU向けのソフトウェアまで挙げています。8月2日時点の版には、最初のおよそ2,016ブロックは誰でもCPUで採掘できる、という一文もありました。この文はその後、テストネットの更新に合わせて現在の版から外れていますが、難易度の低い期間こそ小規模な採掘者が意味を持つ、という説明は現行版にも残っています。旧型のS9でも、手のひらに載るBitaxeでも参加できたのは、偶然ではなく招待です。

同じ資料は、その先をこう書いています。開発チームは、難易度がブロック報酬のドル価値に比例した均衡点へ落ち着くと見込んでいる、と。

この一文が、今回の数字の意味を決めています。

価格が決まらないことと、難易度が定まらないことは、同じ一つの空白です

Bitcoin.comによれば、8月23日の時点でECXは取引所に上場しておらず、市場価格も形成されていません。

そもそもアルファ期に配られているのは、pECX(practice ECX)と呼ばれる練習用のコインです。10月31日の正式版が始まったあとにバーンして交換する前提のもので、恒久的な資産として設計されていません。値がつく段階に、まだ入っていないのです。

そして開発チームの見立てでは、難易度は報酬のドル価値に比例して均衡する。ドル価値が未定であれば、均衡点も未定です。

いま観測されている3.53ペタハッシュ毎秒は、ECXの価値をめぐる市場の答えではありません。価格が決まる前に、仮に置かれた錘のようなものと読むほうが、設計に沿っています。

BIP-110との差は、どこまで測れているか

今月のBIP-110との対比も、各所で語られています。ただし、BIP-110には測定できる支持がなかった、とまで言うのは正確ではありません。BIP-110の側でも、少数ながらブロックは生成されていました。

対比として成り立つのは、まとまった採掘の支持が続かなかったBIP-110に対し、ECXでは8月23日の時点で3.53ペタハッシュ毎秒と10前後のプールが観測された、という形です。動くはずのものが動いた。その事実の重みは、率直に受け取ってよいと思います。

そのうえで、測れているものと、まだ測れていないものを分けておきます。

ECXの中核はBIP300とBIP301、すなわちドライブチェーンです。公式の手順では、ブロックを組むときに bip300301_enforcer が用意したテンプレートを使うよう推奨されています。ノード自前のテンプレートでも有効なブロックにはなりますが、その場合はBIP301のブラインド・マージド・マイニング手数料も、サイドチェーン提案への承認も付きません。

Bitcoin.comが掲載した8月23日時点のプール別集計からは、3.53ペタハッシュ毎秒のうちenforcer経由で掘られた割合までは確認できません。合計値は、この構想の本丸がどこまで試されたかまでは教えてくれない。ここは、これからの観測点です。

採掘という入口にも、鍵の問題があります

ECXはビットコインとアドレス形式を共有します。bc1で始まる、見分けのつかない文字列です。これはリプレイとは別の経路で、採掘者に固有のリスクを生みます。

独立系のプールであるNurseryPoolは、取引所の入金アドレスを支払い先に指定しないよう警告しています。それはビットコインのアドレスであり、そこへ送られたECXは受け取れないからです。

同じ手順でノード側にウォレットを作ると、12語の復元フレーズは発行されません。ディスクリプタ方式のため、ウォレットのフォルダそのものが鍵になります。控えを取らずに端末を失えば、取り戻す手段がありません。

前回、リプレイの設計を追いながら、鍵を持っているという事実だけでは身を守れない局面がある、と書きました。採掘という入口から入った人にも、同じことが待っていたわけです。

名前の重なりにも触れておきます。ECXが名乗るeCashは、2021年からXECのティッカーで動いている別のeCashとは無関係です。NurseryPoolが説明の冒頭で両者を区別しているのは、実際に取り違えが起きるからでしょう。日本語で検索すると、なおさら混ざります。

12週間の練習期間、そのアルファが始まりました

設計者は8月7日の投稿で、10月31日の正式版まで12週間の練習ができると述べました。それから約2週間半。8月23日に、その練習のアルファ段階が始まったところです。

分かったことは、思ったより地味かもしれません。難易度1から始まったチェーンに既存のSHA-256の設備が向けば、ブロックは飛ぶように積み上がる。それは技術が成立していることの確認であって、経済が成立することの証明ではない。元記事の結びも、そう述べています。

けれど、練習とはそういうものです。本番では確かめられないことを、値段のつかないうちに確かめておく。難易度が29倍の遅れを詰めていく過程も、再編成が起きやすい時間帯の扱いも、取引所やウォレットが分離の手順を試すことも、いまなら失うものが小さい。公式が最終パラメーターの公開先として挙げているdev.txtは、8月24日の時点でも2月19日付のままです。運用値そのものは実装と公式サイトに反映されていますが、案内の側が追いつくのはこれからで、練習期間とはそれを待つ時間でもあります。

10月31日、ビットコインのホワイトペーパーが世に出てから18年の日に、このチェーンがどんな姿になっているか。そのとき最初に見るべき数字は、積み上がったブロックの本数ではなく、難易度が10分にどれだけ近づいたかだと思います。

【用語解説】

ECX
LayerTwo Labsが進めるビットコインのハードフォーク、および同チェーンの通貨単位。フォークブロック時点のすべてのビットコインアドレスに、1対1でECXが割り当てられる。ビットコイン本体には影響しない。

pECX(practice ECX)
アルファ・ベータ期に発行される練習用のコイン。恒久的な資産ではなく、正式版の開始後にバーンして本来のECXと交換する設計になっている。

ハードフォーク
既存のチェーンから互換性のない形で分岐し、新しいチェーンを生むこと。分岐時点の残高は両方のチェーンに引き継がれる。

難易度
ブロックを1つ見つけるのに必要な計算量の指標。難易度1のとき、平均でおよそ43億回のハッシュ計算が必要になる。

難易度調整
ビットコインでは2,016ブロックごとに難易度を見直し、ブロック生成間隔を10分に近づける。1回の調整で変動できる幅は4分の1倍から4倍までに制限されている。

ハッシュレート
ネットワーク全体が1秒間に行うハッシュ計算の回数。1ペタハッシュ毎秒(PH/s)は1,000テラハッシュ毎秒(TH/s)にあたる。

SHA-256
ビットコインが採用するマイニングアルゴリズム。正確にはSHA-256を2回適用するSHA-256dを用いる。ECXも同じものを使うため、ビットコイン用の機材がそのまま転用できる。

ドライブチェーン(BIP300/BIP301)
ビットコインにサイドチェーンを持たせる構想。BIP300が資金の預け入れと引き出しを、BIP301がブラインド・マージド・マイニングを扱う。ECXの中核をなす。

ブラインド・マージド・マイニング
親チェーンを採掘する作業のついでに、サイドチェーンのブロックも確定させる仕組み。採掘者はサイドチェーンの中身を検証せずに済む。

bip300301_enforcer
ドライブチェーン用のブロックテンプレートを提供するソフトウェア。これを経由して組まれたブロックだけが、BIP301の手数料とサイドチェーン提案への承認を持つ。

BIP-110
今月支持を得られなかった、ECXとは別系統のビットコイン仕様変更提案。少数派チェーンが分岐したが、まとまった採掘の支持は続かなかった。

ブロック再編成
一度確定したように見えたブロックが、より長いチェーンの出現によって置き換わること。難易度が安定しない時期には起こりやすくなる。

リプレイ
一方のチェーンで行った送金が、もう一方のチェーンでもそのまま有効になってしまう現象。ECXではnLockTimeに特定の値を設定することで回避する。

ディスクリプタ方式
鍵の導出方法を記述子として保持するウォレットの方式。12語の復元フレーズを発行しないものがあり、その場合はウォレットのファイルそのものを保管する必要がある。

Bitaxe/NerdAxe
1台単位で扱える小型のSHA-256マイナー。消費電力も計算能力も小さいが、難易度が低い期間にはブロックを見つける機会がある。

S9
2016年に登場したビットコイン採掘機、Antminer S9のこと。現在のビットコインでは採算が合わないが、新しいチェーンの低難易度期には十分に機能する。

【参考リンク】

eCash(ECX)公式サイト(外部)
LayerTwo Labsが運営するECXの公式サイト。フォーク高や各段階の日程といった運用値を掲載し、正式版の節目を示している。

ecash-com/fast-facts(外部)
取引所と開発者に向けた統合ガイド。ノード構築、コイン分離、マイニングの手順を収める。本記事は8月2日版と現行版の両方を参照した。

fast-facts / 08-mining.md(外部)
ECXのマイニングを扱う公式手順書。難易度のリセット、再編成リスク、enforcer経由と自前テンプレートの違いを記載している。

ECX alphanet エクスプローラー(外部)
アルファネットのブロックエクスプローラー。ブロック高、難易度、プール別のハッシュレートを表示する。元記事の数値もここから取られている。

bip300301_enforcer(外部)
ドライブチェーン用のブロックテンプレートを提供するソフトウェア。これを経由したブロックだけがBIP301の手数料と承認を持つ。

simplepool(外部)
LayerTwo Labsが公開するstratumプールの実装。C言語による単一バイナリで、ECX向けの採掘プールを立てる際に用いる。

NurseryPool(外部)
独立系のECX採掘プール。ウォレットの作成手順に加え、支払い先アドレスの指定について具体的な注意を掲載している点が有用。

drivechain.info / dev.txt(外部)
Drivechain関連の技術情報を集めたテキストファイル。公式が最終パラメーターの公開先として挙げている場所にあたる。

eCash(XEC)(外部)
2021年から稼働する同名の別プロジェクト。ECXとは無関係だが、名称が重なるため、検索や送金の際には区別が必要になる。

【参考記事】

Bitcoin’s ECX Fork Is Coming: When It Hits and Who Gets Free Coins(外部)
分岐の日程と受け取りの条件を整理した記事。練習用コインをpECXまたはalpha ECXと明示し、恒久版と区別している。

Bitcoin holders face unresolved fork risks as new eCash test chain launches ahead of October deadline(外部)
アルファ稼働の実態を検証した記事。開始高で孤立した競合ブロックが生じた点を、まだ若い試験網である証拠として指摘している。

Bitcoin Holders Prepare For Matching ECash (ECX) Balances As Multi-Phase Hard Fork Begins(外部)
3段階に分けた展開の狙いを整理した記事。アルファ期に扱えるのが一時的な練習用トークンである点を、あらためて明記している。

Why eCash (ECX) is being launched in three stages(外部)
ECXが3段階を採る理由を解説した記事。drynet4の稼働と7つのサイドチェーンの準備状況を、8月11日の時点で伝えている。

How to Switch to the Core Chain(外部)
BIP-110の枝からCoreチェーンへ戻す手順書。8月9日のチェーン照合で、枝が2ブロックにとどまることを記している。

【編集部後記】

公式の技術資料を8月2日の版と今の版で見比べると、ネットワークの識別子が書き換わっていました。当初はビットコインと同じ信号とポート番号を使う設計で、ノードがうっかり混ざる危険と隣り合わせでした。それが今は独自の値になり、両者はつながれなくなっています。練習期間に何が起きるのかと問われれば、たとえばこういうことです。仕様が動くのを、値のつかないうちに見られる。消えた一行が、いちばん雄弁だったりします。

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By山本 達也

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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