【解説】暗号資産の分離課税はまだ動かない。金商法改正成立で投資家が知るべき3つの変化

金商法改正が成立、暗号資産の20%分離課税とETFの焦点を解説

Last Updated on 2026年7月16日 by Co-Founder/ Researcher

「暗号資産の税金が20%になった」。そう聞いて含み益の利確を思い浮かべた方もいるかもしれませんが、この20%はまだ動いていません。適用は早くて2028年、いま売れば旧ルールのまま税率は最高で約55%です。「決まった」という言葉と「効いている」という事実の間には、2年近い距離があります。


20%の申告分離課税を定めた税制改正法は、すでに2026年3月31日に成立・公布されている。その適用は、暗号資産を金商法に位置づける改正法の施行を前提としており、2026年7月15日、その前提となる金商法・資金決済法改正法が参議院本会議で可決・成立したと報じられた。これにより、暗号資産取引業者に対する業規制・取引規制の中心が資金決済法から金商法へ移り、暗号資産は有価証券とは別カテゴリーの「金融商品」として位置づけ直される。もっとも、株式と同じ有価証券になるわけではなく、一律20%の分離課税が全取引に及ぶわけでもない。20%(特別所得税等を含めると20.315%)の対象は、登録簿に登録された「特定暗号資産」を、暗号資産取引業者への売委託または同業者への直接譲渡というかたちで売却した場合が基本で、取引経路によって課税方式が変わる。金商法改正は原則として公布から1年以内に施行され、2027年中の移行が見込まれる。分離課税の適用は、その施行の翌年、早ければ2028年1月からとなる可能性が高い。

7月15日に成立した内容の要点

まず全体像です。今回の改正は、暗号資産取引の主要な規制の中心を「決済の法律(資金決済法)」から「投資の法律(金商法)」へ移すものです(ステーブルコインなど一部は資金決済法に残ります)。登録業者の呼び名は「暗号資産交換業者」から「暗号資産取引業者」へ変わり、業者は第一種金融商品取引業に相当する規律(安全管理、銘柄審査、責任準備金など)を課されます。発行者への情報開示義務、暗号資産を対象とするインサイダー取引規制、無登録業者への罰則強化(拘禁刑3年以下→10年以下、罰金300万円以下→1000万円以下)も導入されます。ただし一点、誤解しやすいのは「暗号資産が株式のような有価証券になった」わけではないこと。金融庁は一貫して「有価証券とは別の金融商品」と説明しています。

本題──「20%」は全取引ではない。鍵は”経路選択”

ここが投資家にとっての核心です。20%の申告分離課税は、暗号資産のあらゆる利益に自動で適用されるわけではありません。財務省の大綱によれば、対象となるのは「金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産(特定暗号資産)」を「暗号資産取引業を行う者に対して譲渡等した場合」。つまり、持っている銘柄だけでなく、どこで・誰に売るか(取引経路と相手)が課税方式を決める制度設計です。一部の税務実務家はこれを「経路選択」と呼んでいます。

具体的には、特定暗号資産を、国内の登録業者への売委託または当該業者への直接譲渡というかたちで売却すれば20%の分離課税です。一方で、海外取引所やDEX(分散型取引所)、個人間(P2P)を通じた売却・交換などは、この「登録業者への売委託・直接譲渡」に当たらないため、原則として新しい分離課税の対象外となる可能性が高い、というのが専門家の見立てです。とくにDeFiでは、交換のほかに貸付け・流動性供給・報酬受領など複数の取引類型があり、所得区分や課税のタイミングは取引内容ごとの確認が必要です。「一律20%になった」という理解のまま海外取引所で利益を確定すると、想定と税負担が大きく食い違うおそれがあります。

しかも、総合課税に残る側には”減税”どころか厳格化が入ります。総合課税の譲渡所得となる暗号資産については、譲渡所得の特別控除を適用しない、5年超保有時の2分の1課税を適用しない、他の総合課税所得との損益通算を認めない、という措置が大綱に明記されています。損益通算も特定暗号資産の現物取引の枠内に限られ(現物・デリバティブ・ETFは別グループ)、株式などとの通算も認められません。「20%への引き下げ」というニュースの裏で、対象外の取引には別の締め付けが同時に進んでいる、と押さえておくべきです。

一方で、投資家に有利な明確化もあります。改正前に購入して長期保有してきたビットコインなども、適用開始日以後に国内取引所で売却すれば分離課税の対象になります。取得価額を改正前後で再計算する必要はなく、従来どおり総平均法または移動平均法で評価すればよい、と整理されています。

投資家目線で見る、税制以外の3つの変化

1. ETF解禁への道は開くが、成立だけでは実現しない

暗号資産が金融商品として位置づけられたことは、暗号資産ETF(上場投資信託)解禁に向けた前提整備でもあります。ただし今回の成立で国内ETFが承認されたわけではありません。ETFには、商品組成、投資信託関連法令の改正、当局承認、取引所上場、税制適格性、そしてNISA適格性といった、それぞれ別のハードルが残ります。「金融商品化=ETFやNISAで買える」ではない点は冷静に見ておきたいところです。

2. 情報開示・インサイダー規制で「銘柄選び」の材料が増える

特定暗号資産の募集・売出しを行う発行者には、暗号資産の性質や供給量、基盤技術などの情報公表が義務づけられ、重要事象の臨時開示や、募集・売出しを行った場合の年1回の定期開示も求められます(十分に分散化した暗号資産には承認による免除の仕組みもあります)。発行者のいないビットコインのような銘柄では、取扱業者側が情報を公表します。加えて、未公表の重要情報を使った売買を禁じるインサイダー取引規制も新設されます。判断材料が増える点は投資家に歓迎できる変化ですが、発行者の開示義務違反などがあれば、行政判断により取扱業者に売買停止や取扱中止が命じられ、実質的に上場廃止に近い動きが起きる可能性もあります。

3. 個人投資家向けの投資上限や熟慮期間も検討

財務監査を受けていない暗号資産の募集では投資者の投資上限を設けるなど、個人投資家保護を目的とした制限が想定されています。金融庁の資料では、新規口座開設直後にアンホステッド・ウォレット(自己管理ウォレット)へ移転できないようにする「熟慮期間」の案まで例示されています。詐欺対策である一方、通常のセルフカストディへの出庫にも影響し得るため、詳細は内閣府令の確定待ちです。

施行スケジュール──成立してもすぐには変わらない

「成立=即日スタート」ではありません。本体は公布から1年以内の政令指定日に施行されるため、新制度が動き出すのは2027年中の見込みです。加えて、実務上は複数の”時計”が並行して走ります。公布から20日後に一部の罰則・執行規定が先行施行され、本体施行後は2週間以内に既存業者の届出、3か月以内に既存取扱銘柄の情報公表、6か月以内に新制度への登録申請、という期限が続きます。期限内に申請すれば審査中も最長2年は営業を継続できます。ふだん使う取引所がすぐ使えなくなるわけではありませんが、各社のシステム改修や銘柄の取扱い見直しが進むため、対応状況の告知はこまめに確認しておくと安心です。

国会が付けた「留保」も見ておく

投資家として頭の片隅に置きたいのが、国会自身が付けた附帯決議です。報道によれば、参議院財政金融委員会は7月14日、森ゆうこ氏ら与野党の共同提案による14項目の附帯決議を全会一致で採択し、片山さつき財務相は「政府として配慮していく」と応じました(発言の逐語は公式会議録の公開後に確認予定です)。なお同趣旨の内容は、衆議院の附帯決議として公式にも公開されています。そこでは、投資家保護や分離課税は「国が暗号資産投資にお墨付きを与えるものではない」こと、規制と分離課税の対象は暗号資産取引の一部にとどまり、規制の及ばない取引が残ること、執行体制を強化し状況によっては施行後5年を待たず制度を見直すことが求められています。同委員会の採決に先立つ反対討論では、日本共産党の小池晃氏が、価値の裏付けのない投機だとしたうえで、サナエトークンなどのミームコインやDEX(分散型取引所)に規制が及ばないまま金商法移管や分離課税化を進めれば「事実上のお墨付き」になりかねないと指摘し、法案への反対を表明しました。制度が整うことと、個々の銘柄が安全であることは別、という当たり前を、国会も念押ししている格好です。

なお、本記事は制度と一般的な情報を解説するものであり、特定の銘柄や取引を推奨するものではありません。分離課税の対象範囲や個別の税務判断は、今後の政省令・通達で詳細が固まるため、実際の申告にあたっては税理士等の専門家にご確認ください。


さて、本記事では「20%の分離課税が全取引に適用されるわけではない」という実務的な落とし穴を中心にお伝えしました。一方で、「なぜそもそも、税法と金商法で『特定暗号資産』の定義がズレるような複雑な制度になったのか?」という背景や、国会が敢えて残した「お墨付きへの警鐘」といった社会的・歴史的な意味合いについては、私が『innovaTopia』の方で深く考察しています。

自身の資産を守るための本記事と、技術と社会の交差点を見つめるinnovaTopiaの解説記事。ぜひ両方を読み比べて、今回の法改正がもたらす「本当の変化」を立体的に捉えてみてください。

【用語解説】

特定暗号資産(税法上)
金融商品取引業者登録簿に登録された一定の暗号資産などを指す。20%分離課税の対象になるかを分ける、税制上の重要な区分だ。

特定暗号資産(金商法上)
特定の者のみが発行権限を持つ暗号資産(IEOトークンなど発行者がいるもの)を指す。同じ言葉だが税法上の定義とは別物で、開示規制の対象を画する区分だ。

経路選択
同じ暗号資産でも、どこで・誰に売るかによって課税方式(分離課税か総合課税か)が変わることを指して、税務の実務家が用いる呼称である。法令上の用語ではない。

申告分離課税
他の所得と分けて一律の税率で課税する方式である。暗号資産には一律20%(住民税・特別所得税等を含めて20.315%。2027年分以後は防衛特別所得税の新設と復興特別所得税率の引き下げが同時に行われ、合計20.315%は変わらない)が適用されるが、対象は一部の取引に限られる。

アンホステッド・ウォレット
取引所などの第三者を介さず、利用者自身が秘密鍵を管理するウォレットである。セルフカストディとも呼ばれる。

附帯決議
法案の可決にあたり委員会が付す決議である。拘束力は限定的だが、政府に運用上の配慮を求める国会の意思表示として位置づけられる。

【参考リンク】

本稿は、金融庁が第221回国会に提出した改正法案を一次情報とし、以下の公的資料・報道・専門家解説を参照して構成した。成立は報道段階であり、参議院・金融庁の公式反映や公布日、法律番号は追って更新する。

金融庁|第221回国会 提出法案(本改正法案)
法案の概要・要綱・新旧対照条文など、一次資料をまとめてたどれる。

財務省|令和8年度 税制改正の大綱
分離課税の対象・税率・適用時期といった条件を原典で確認できる。

泉絢也税理士事務所|経路選択と繰越控除の要件
「どこで・誰に売るか」で課税方式が変わる仕組みを条文に沿って詳解。

カオーリア会計事務所|分離課税の対象と損益通算
適用開始や損益通算の可否など、投資家が迷いやすい点を網羅。

参議院|本改正法案の議案情報
会議録情報と附帯決議への公式リンクをたどれる一次情報。

NADA NEWS|参院委の附帯決議採択と反対討論
国会が付した留保の中身を具体的に把握できる報道。

So & Sato法律事務所|金商法改正の実務解説
経過措置やDEXの扱いまで条文に即して詳解している。

金融庁|暗号資産に係る規制の見直し 説明資料
開示・インサイダー規制・罰則の要点を一次資料で確認できる。

【編集部後記】

見出しは、未来形をよく省きます。「20%に下がる」が「20%になった」と読まれた瞬間、人はまだ来ていない制度を前提に動き始めます。ところが2026年も2027年も、確定した利益にかかるのは旧ルール。減税を待つつもりの利確が、いちばん高い税率で精算される——そんなすれ違いが、この2年、あちこちで起こりそうです。

制度が変わる前の空白は、情報の差がそのまま税額の差になる時間でもあります。あなたが次に利確ボタンを押すのは、旧ルールの年ですか、新ルールの年ですか。

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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
 詳細は当サイトの免責事項をご確認ください。
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By山本 達也

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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