Last Updated on 2026年5月23日 by Co-Founder/ Researcher
ステーブルコインを「決済の道具」として日本で扱うためのルールが、また一歩前進します。金融庁は2026年5月19日、外国の信託銀行が発行する信託受益権型ステーブルコインを、資金決済法上の「電子決済手段」として正面から受け入れる内閣府令改正を公布しました。
施行は6月1日。これまで「有価証券かもしれない」というグレーゾーンに置かれていた海外発の信託型ステーブルコインに、ついに国内流通の法的道筋が引かれます。ただし条件は厳しく、「日本制度との同等性」と「金融庁と情報連携できる海外監督当局の監督下にあること」が必須。開放と引き締めが同時に進む、この改正の本当の意味を読み解きます。
金融庁は2026年5月19日、「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」を公布した。あわせて、事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係17 電子決済手段等取引業者関係)の一部改正も公表した。改正案は2026年2月3日から3月5日までパブリックコメントに付され、16件の意見が寄せられた。改正の柱は二つである。
一つは、日本の電子決済手段法制度と同等性が確保された外国法令にもとづく信託受益権を資金決済法上の「電子決済手段」として規定すること。
もう一つは、当該外国信託受益権を金融商品取引法上の「有価証券」から除外することである。判断基準として「相当する」を「同等と認められる」に改め、海外監督当局による監督要件も追加された。
内閣府令は同日公布され、事務ガイドラインとあわせて2026年6月1日から施行・適用される。内閣総理大臣は高市早苗である。
From: 「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果等について
【編集部解説】
このニュース、一見すると「外国の信託受益権についての細かな条文修正」にしか見えません。けれど、その背後で動いているのは、日本がステーブルコインという”次世代のお金”の通り道をどう設計するかという、きわめて戦略的な意思決定です。少し背景を補いながら読み解いてみます。
そもそも日本では、2023年6月施行の改正資金決済法によって「電子決済手段」という新カテゴリが生まれ、ステーブルコインを正面から法律で扱える国になりました。世界に先駆けた制度設計でしたが、開業ハードルが高く、海外発のステーブルコインが日本市場へ正規ルートで入る道筋はなかなか定まりませんでした。
その状況に最初の風穴を開けたのが、2025年3月のSBI VCトレードによる日本初のステーブルコイン取扱ライセンス取得です。CircleのUSDCが、日本で正規に流通を始めた最初のグローバルなドル建てステーブルコインとなりました。今回の改正は、その流れをさらに広げ、これまで法的グレーゾーンだった「外国の信託銀行が発行する信託受益権型ステーブルコイン」までも資金決済法の世界に迎え入れる、いわば第二の扉を開けるものです。
ポイントは、この改正が二段構えになっている点にあります。一段目で資金決済法の「電子決済手段」として明確に位置づけ、二段目で金商法の「有価証券」から明示的に外す。同じ対象を片方の法律に組み入れ、もう片方からは抜く、という外科手術的なアプローチで、これまで「有価証券扱いされてしまうリスク」に縛られていた海外発の信託型ステーブルコインに、決済手段としての法的地位を与えています。
ただし、開放と引き締めはセットです。今回の改正で従来の「相当する外国の法令」という基準が「同等と認められる外国の法令」へ格上げされました。「相当」は『似ている』の世界、「同等」は『日本基準と並ぶ厳しさで判断する』の世界。同等性は個別審査で実態に即して判断されると金融庁は明言しており、つまり国名を一括承認するホワイトリスト方式ではなく、案件ごとの審査主義を採用したと読み取れます。
さらに見逃せないのが、発行者の監督要件に「金融庁長官の要請に応じて報告・資料を提供できる海外監督当局の監督下にあること」という条件が明文で加わった点です。これは技術要件というより地政学的フィルターとして機能すると考えられます。日本の金融庁と国境を越えた情報共有体制を組める当局でないと、その国のステーブルコインは事実上、日本では扱いにくくなります。
寄せられた16件のパブコメに対し、金融庁が文言レベルで受け入れた指摘はわずか1件(文法的な「その管理の状況について」への修正のみ)。「同等」という曖昧な基準への明確化要求や、運用負担への懸念には、ほぼ原案維持で押し切りました。「決して緩めない」という強い意志が読み取れる回答ぶりです。
世界の文脈に置くと、この立ち位置の意味がよりはっきりします。欧州はMiCA(暗号資産市場規則)で詳細な規則を事前に固める「ルールベース」、米国は2025年7月18日に署名・成立したGENIUS Actで、ステーブルコインに初の連邦規制システムを設けました。そして日本は、各国制度との「同等性」を金融庁が個別判断するという独自路線——いわばゲートキーパー型の制度を選んでいます。
読者のみなさんへの影響を整理すると、まず海外発ステーブルコインの選択肢が将来的に広がる可能性があります。同時に、SBIホールディングスとStartale Groupが新生信託銀行を発行体として準備している円建てステーブルコイン「JPYSC」が、必要な規制承認を条件に2026年第2四半期にローンチ予定とされており、国内勢の動きもここに連動して加速する見込みです。決済、貿易金融、トークン化資産の流通、そしてオンチェーン決済を前提とした新しい金融サービス設計に、6月1日以降は確かな法的足場が用意されます。
潜在的なリスクとしては、二点だけ意識しておきたいところです。一つは、同等性審査の透明性。どの国・どの当局・どの発行者がOKでどこがNGなのか、市場の予見可能性をどこまで確保できるか。もう一つは、自国の監督当局と日本との連携が薄い国・地域のステーブルコインは、いくら技術的に優れていても日本市場には入りにくい構造になったということ。これはイノベーションの追い風と地政学リスクが、同じコインの裏表になったことを意味します。
公布から施行までわずか13日というスピード感も含めて、この改正は静かながら、Web3時代の日本の金融インフラの設計図を一段引き上げる出来事だと、私は受け止めています。
【用語解説】
ステーブルコイン
法定通貨(米ドルや日本円など)に価値を連動させたデジタルトークンの総称である。価格変動の激しい暗号資産と異なり、決済や送金、トークン化された証券の決済通貨として実用に耐える価値の安定性を持たせている。裏付け資産の保有方式により、法定通貨担保型、信託受益権型、暗号資産担保型、無担保アルゴリズム型などに分類される。
電子決済手段
2023年6月施行の改正資金決済法によって新設されたカテゴリで、法定通貨建てで発行され、不特定の者に対する支払い・送金に使えるデジタル資産を指す。日本ではステーブルコインがこの「電子決済手段」として規制される建付けとなっている。
信託受益権/特定信託受益権
信託の仕組みで管理されている財産から利益を受け取る権利を「信託受益権」と呼ぶ。このうち、銀行・信託会社が一定の要件のもとで発行する信託受益権型のステーブルコインは「特定信託受益権」として、資金決済法上の「電子決済手段」(第3号)に位置づけられる。今回の改正は、海外で発行される信託受益権型ステーブルコインのうち、特定信託受益権に該当しないものを新たに「電子決済手段」(第4号)として扱う道を開いた点が要点となる。
内閣府令
内閣府の長である内閣総理大臣が定める命令の一つで、法律を実施するために必要な具体的事項を定める。法律そのものではなく、法律に委任された範囲で詳細ルールを設定する位置づけとなる。
パブリックコメント
行政機関が政省令や指針などを定める際、案を事前に公表し、広く一般から意見を募集する制度である。今回の改正案には2026年2月3日から3月5日にかけて意見募集が行われ、計16件のコメントが寄せられた。
同等性(同等と認められる)
今回の改正で従来の「相当する」から格上げされた、外国法令が日本の法制度と並ぶ水準にあるかを判断する基準である。利用者保護の規制内容や監督権限などを踏まえ、案件ごとに実態に即して個別審査される。
MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)
欧州連合が2023年に成立させた暗号資産関連の包括的規則で、ステーブルコインを電子マネートークンと資産参照トークンに分類し、発行者の要件を事前に詳細に定める「ルールベース」のアプローチを採用している。
GENIUS Act
2025年7月18日に米国で署名・成立したステーブルコイン関連の連邦法。ペイメント・ステーブルコインに対する初の連邦規制システムを創設するものとされる。
JPYSC
SBIホールディングスとStartale Groupが、新生信託銀行を発行体として準備している信託型の円建てステーブルコインの名称。必要な規制承認を条件に、2026年第2四半期にローンチが予定されている。
【参考リンク】
金融庁 公式サイト(外部)
日本の金融制度の企画立案・監督を担う行政機関の公式サイト。本件改正資料が掲載されている。
SBI VCトレード 公式サイト(外部)
2025年3月に日本初の電子決済手段等取引業ライセンスを取得した暗号資産取引業者である。
Circle 公式サイト(外部)
ステーブルコインUSDCを発行する米国フィンテック企業の公式サイト。日本法人を展開する。
Circle プレスリリース:日本でのUSDC取扱拡大について(外部)
SBI VCトレードによる本格展開と国内主要取引所への展開計画が示された発表である。
SBI Holdings 公式PDF:JPYSC発表資料(外部)
新生信託銀行発行の円建てステーブルコインJPYSCの一次資料。2026年第2四半期ローンチ予定。
【参考記事】
Japan’s FSA opens qualified path for foreign trust-type stablecoins under new payment rules(外部)
金融庁が外国の信託型ステーブルコインを「電子決済手段」と認める内閣府令改正を発表したことを報じている。承認は案件ごとの個別審査となり、日本の監督当局と情報共有できる海外当局の管轄下にある発行者のみが対象となる点を強調している。欧州MiCAおよび米国GENIUS Actとの国際的文脈にも触れている。
Japan Creates Legal Path for Foreign Stablecoins Under FSA Rules(外部)
2026年6月1日施行の改正により、日本の法制度と同等とみなされる外国法令にもとづく信託受益権型ステーブルコインを電子決済手段として位置づけ、有価証券からも除外する点を解説している。日本のデジタル金融分野の成長を後押しする規制変更との位置づけで報じられた。
FSA Overhauls Digital Asset Framework: Foreign Trust-Type Stablecoins to Enter Japan’s Payment Ecosystem(外部)
2026年2月3日から3月5日のパブリックコメント期間、5月19日の公布、6月1日の施行という規制ロールアウトのタイムラインを整理して報じている。経過措置により施行前の行為については従前の罰則ルールが適用される点にも触れている。
Japan is Adopting a Reverse CLARITY Act With Foreign Stablecoins(外部)
高市早苗内閣総理大臣下で承認された本制度改正により、外国発の信託型ステーブルコインが資金決済法上の電子決済手段に再分類される点を解説している。日本がアジアにおけるグローバルステーブルコインの入口を再設計する動きとして位置づけている。
Japan clarifies legal status of foreign trust-based stablecoins(外部)
海外発ステーブルコインは国内のライセンス事業者を通じてのみ流通可能で、SBI VCトレードが2025年3月にCircleのUSDCを取り扱う初のライセンスを取得した経緯を整理している。今回の改正は、これまで有価証券扱いされるリスクがあった信託受益権方式の海外ステーブルコインに新たな法的道筋を与えるものと位置づけている。
Fact Sheet: President Donald J. Trump Signs GENIUS Act into Law(外部)
2025年7月18日にGENIUS Actが署名・成立し、ステーブルコインに初の連邦規制システムを創設する旨を米ホワイトハウスが公式に発表した資料である。
SBI Holdings and Startale Group Introduce JPYSC, the First Trust Bank-Backed JPY Stablecoin(外部)
新生信託銀行発行の円建て信託型ステーブルコインJPYSCに関する一次資料。2026年第2四半期にローンチ予定と記載されている。
【編集部後記】
ステーブルコインや電子決済手段というと、つい「自分にはまだ関係のない世界の話」と感じてしまうかもしれません。でも今回の改正は、6月1日からじわじわと、海外送金のコスト、越境ECの決済、トークン化された資産との橋渡しといった、私たちの日常のすぐ隣にある体験を変えていく可能性を秘めています。
みなさんは、もし日本で扱える海外ステーブルコインの選択肢が広がったら、どんな場面で使ってみたいでしょうか。逆に「ここは慎重に見守りたい」と感じるポイントはありますか。気になった切り口があれば、ぜひ一緒に追いかけていきたいと思っています。
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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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