Last Updated on 2026年5月17日 by Co-Founder/ Researcher
Xユーザー @cprkrn は2026年5月13日、AnthropicのClaude(AI)を用いて、約11年間ロックアウトされていたウォレットからおよそ5BTCを回収した。価値は40万〜50万ドルとされる。対象はアドレス14VJySbsKraEJbtwk9ivnr1fXs6QuofuE6にひも付くP2PKH形式のウォレットで、2014年または2015年からアクセスできない状態だった。
@cprkrn は大学在学中にパスワードを変更して失念し、復旧サービスに約250ドルを費やしていた。彼は大学時代のPCのファイルやノート、バックアップをClaudeにアップロードした。Claudeは旧ウォレットファイルを特定し、オープンソースの復旧ツールbtcrecoverが共有鍵とパスワードを誤った順序で連結するバグを修正、秘密鍵をWallet Import Formatで抽出した。
5BTCは2015年4月1日に受領され、回収完了日に送金された。Xのスレッドは数時間で41万4000回超表示された。
From: Bitcoiner Dumps Old Computer Files Into Claude AI, Recovers 5 BTC Lost Since 2015
【編集部解説】
このニュースは、X上で「Claudeがビットコインをハッキングした」「Claudeがビットコインを解読した」といった刺激的な言葉とともに拡散しました。しかし、技術的に何が起きたのかを冷静に追うと、その表現は正確ではありません。CoinDesk や Decrypt が指摘するとおり、Claudeはビットコインの暗号そのものを破ったわけではなく、ユーザー本人のPCの中に眠っていた「正しい鍵」を探し出す作業を担ったのです。本質はハッキングではなく、デジタル・フォレンジック(電子的な探索・復元)でした。
整理すると、回収の決め手は3つの要素の組み合わせです。第一に、ノートに手書きで残されていた古いパスワード。第二に、Claudeが大量のファイルの中から見つけ出した、パスワード変更より前のウォレットのバックアップファイルです。複数の海外メディアは、これを2019年12月時点のバックアップだと報じています(Bitcoin.com の記事では「パスワード変更以前の古いファイル」とだけ表現されています)。そして第三が、復旧ツール btcrecover が抱えていたバグの修正でした。
少し専門的な補足をします。btcrecover は、暗号化されたウォレットに対してパスワード候補を大量に試行する、オープンソースの定番ツールです。今回問題だったのは、このツールが「共有鍵」とパスワードを連結する順序を誤っていた点にありました。順序が違えば、たとえ正しいパスワードを入力しても復号は成功しません。Claudeはこのロジックの誤りを見抜き、コードを修正したうえで処理を走らせ、秘密鍵を WIF(ウォレットインポートフォーマット)という形式で取り出しています。
数字については各メディアで揺れがあり、注意が必要です。@cprkrn 本人は「7兆個ほどのパスワードを試した」と振り返って語っていますが、CoinDesk や Tom’s Hardware は実際の試行回数を約3.5兆通りと報じています。回収額も、Bitcoin.com は40万〜50万ドルと幅を持たせる一方、多くのメディアはおよそ40万ドル前後としています。購入当時の価格は1BTCあたり約250ドルだったとされ、十数年で価値が桁違いに膨らんだ計算になります。
では、この事例は私たちに何を示すのでしょうか。最大の意味は、ウォレット復旧の「コスト構造」が変わりつつあることです。これまで古いウォレットの復旧は、専門知識を持つ一部の人間にしかできない、いわば探偵的な仕事でした。@cprkrn 自身も、長年にわたり専門の復旧サービスへ累計で約250ドルを投じてきました。これに対し Cointribune は、今回Claudeにかかった費用を約15ドルと伝えています。膨大なファイルを横断し、手がかりを結びつける作業をAIに委ねられるなら、復旧は「特殊技能」から「検索の延長」へと近づいていきます。
ただし、ここには見過ごせないリスクが潜んでいます。@cprkrn 自身が広めた「PCもノートも全部Claudeにぶち込め」という手法は、裏を返せばウォレットファイルやシードフレーズ、場合によっては秘密鍵そのものをクラウド上のAIへ渡すことを意味します。今回は本人が正しいパスワードを既に持っていたからこそ成立した話であり、不用意な「全部投入」は資産流出の入り口になりかねません。便利さと危うさが同じ一つの技術の表と裏にある——この点こそ、読者のみなさんと強く共有したい部分です。
長期的な視点も加えておきます。AIがコードを読み解き、ツールの欠陥を見つける能力は、急速に高まっています。Anthropic は2026年4月、ソフトウェアの脆弱性を自律的に発見する研究用モデル「Claude Mythos」を公表しました。今回の復旧は一般向けのClaudeによるものですが、「AIが既存ツールのバグを指摘して修正する」という出来事は、その大きな潮流のごく身近な現れだと位置づけられます。世界には、所有者が鍵を失ったまま眠るビットコインが数百万単位で存在するとされます。それらが「眠れる資産」のままなのか、AIの手で少しずつ目を覚ましていくのか——私たちは、その転換点の入り口に立っているのかもしれません。
【用語解説】
P2PKH(レガシーアドレス)
「Pay to Public Key Hash」の略。ビットコイン初期から使われてきた旧式のアドレス形式で、多くは「1」から始まる。2015年以前のウォレットに典型的に見られる。
ニーモニック/シードフレーズ
ウォレットの秘密鍵を復元するための、複数の英単語からなる「合言葉」。これさえあれば、原則としてウォレット全体を再生成できる、最重要の情報である。※なお本件で @cprkrn が保持していた文字列は、標準的なシードフレーズではなく、ウォレットの旧パスワードに近いものだったと報じる媒体もある。
WIF(ウォレットインポートフォーマット)
「Wallet Import Format」の略。秘密鍵を、別のウォレットソフトへ取り込みやすい形に符号化した文字列形式を指す。
デジタル・フォレンジック
PCやストレージに残るファイル・痕跡を解析し、必要な情報を探索・復元する技術や手法。本件でClaudeが担ったのは、暗号解読ではなくこの探索作業にあたる。
Claude Mythos
Anthropicが2026年4月に公表した、ソフトウェアの脆弱性を自律的に発見する研究用モデル。一般公開はされておらず、本件の復旧に使われた一般向けClaudeとは別物である。
【参考リンク】
Claude(Anthropic)(外部)
Anthropicが開発する対話型AI。文章作成・コード解析・ファイル分析に対応し、本件で古いウォレットファイルの特定に使われた。
Anthropic(外部)
Claudeを開発する米国のAI企業。AIの安全性を重視した研究を掲げ、脆弱性発見モデルClaude Mythosも公表している。
btcrecover(GitHub)(外部)
暗号資産ウォレットのパスワード・シード復旧用のオープンソースツール。本件でバグが指摘・修正された。GitHubで公開されている。
X(外部)
旧Twitter。@cprkrnが回収の経緯と独自の手法を投稿し、暗号資産コミュニティへ急速に拡散したソーシャルメディア。
【参考記事】
Claude helps recover $395,000 in Bitcoin trapped on a computer for years(CoinDesk)(外部)
ハッキングではないと明言した記事。約3.5兆通りの試行、2019年12月のバックアップ発見、当時のBTC価格約7万9000ドルを伝える。
Bitcoin trader recovers $400,000 using Claude AI(Tom’s Hardware)(外部)
回収額を約40万ドル、試行回数を約3.5兆通りと報じる。2019年12月の旧バックアップ発見が突破口になった経緯を解説する。
AI: a user recovers 5 bitcoins with Claude’s help(Cointribune)(外部)
Claude利用費は約15ドル、過去の専門サービスは1回約250ドルとし、解析データ1GB超や復旧コストの構造変化に注目する。
Bitcoin Owner Claims Claude AI Cracked Lost Wallet Password(Decrypt)(外部)
投稿が600万回超表示と報じる一方、専門家による「暗号解読ではなくフォレンジック」との慎重な見方も紹介する記事。
Claude AI Recovered a Lost Bitcoin Wallet 11 Years Later(CCN)(外部)
回収額を40万〜50万ドル、購入時のBTC価格を約250ドルとし、利便性と危険性が表裏一体である点を論じた記事。
【関連記事】
Claude Codeが本番DBを全削除—AIエージェントに「任せすぎる」リスク AIが本番データを消失させた事案。古いデータを救い出した今回の事例と対をなし、AIに委ねることの光と影を映す。
Anthropic「Mythos」が金融を揺らす、金融庁が36団体で官民ワーキンググループ設置 本記事の用語解説でも触れた「Claude Mythos」を正面から扱った記事。AIの脆弱性発見能力と金融への影響を詳報する。
Claude Mythos Preview×IMF警告:AIサイバー攻撃が金融システムを揺らす日 AIによるコード解析能力の「脅威としての側面」を論じた記事。今回の救済的な現れと併読すると長期的視点が深まる。
「暗号資産ウォレット」MetaMask、最新アップデートで機能強化と対応チェーン拡大 秘密鍵を紛失しても復旧できる仕組みづくりを扱う記事。鍵を失うリスクへの「事前設計」型アプローチとして対比できる。
【編集部後記】
今回の話で、ふと「あの頃のPC、まだ実家にあったかも」と思い浮かんだ方もいるのではないでしょうか。眠ったままのデータが、AIの手を借りて意味を取り戻す——そんな時代の入り口に、私たちは一緒に立っているのかもしれません。
一方で、大切な情報をどこまでAIに預けてよいのか、迷う場面も増えていきそうです。みなさんなら、過去のデジタルの痕跡とどう向き合いますか。便利さと安心、その境目をどこに引くか。よかったら、その感覚をぜひ聞かせてください。一緒に考えていけたら嬉しいです。
——————–
※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
詳細は当サイトの免責事項をご確認ください。
——————–

