StraitsXが描く「決済の未来」―ステーブルコインはなぜ東南アジアで静かに覇権を握りつつあるのか

StraitsXが描く「決済の未来」――ステーブルコインはなぜ東南アジアで静かに覇権を握りつつあるのか

Last Updated on 2026年4月3日 by Co-Founder/ Researcher

シンガポール拠点のStraitsXは、2024年第4四半期から2025年同期にかけてカード取引高が40倍、カード発行枚数が83倍に増加した。

BINスポンサーパートナーのRedotPayは2025年に29.5億ドル超のカード取引高を記録し、競合上位13社の合計の4倍超に達した。StraitsXの累計ステーブルコイン取引処理額は約300億ドルである。同社は2026年3月末にXSGDとXUSDをSolana Foundationとの連携のもとSolanaブロックチェーン上でローンチする予定だ。XSGDは東南アジアの非ドルステーブルコイン市場で70%超のシェアを持ち、シンガポールドルと1対1のペッグを維持している。シンガポール中央銀行の規制イニシアチブProject BLOOMのもとタイとの越境決済コリドーが稼働予定であり、日本、台湾、香港への展開も計画されている。

From:Stablecoin payments go ‘invisible’ in Southeast Asia as crypto card business surges

【編集部解説】

今回の記事の核心は、「ステーブルコインがインフラとして成熟した」という事実の宣言です。記事の数字について、ひとつ補足が必要です。記事中の「累計300億ドル近い取引処理」という数字は、カード決済・オフチェーン決済も含む広義の累計値です。一方、StraitsX自身が2025年末時点の公式ブログで公表しているオンチェーン取引量は「XSGD・XUSD合計で18億ドル超」となっています。どちらも事実ですが、「300億ドル」という数字の定義は記事内では明示されておらず、数字の受け取り方には注意が必要です。

Project BLOOMについても補足があります。記事では「シンガポール中央銀行の規制イニシアチブ」と紹介されていますが、正確にはMAS(シンガポール金融管理局)が主導する国際連携の枠組みで、「Borderless, Liquid, Open, Online, Multi-currency」の頭文字をとった名称です。また、タイとの越境コリドーは、Solanaではなく、Orbix TechnologyのQuarixとAvalancheを基盤とした仕組みを採用しています。記事内でSolanaと混同されやすい部分ですが、目的別に異なるブロックチェーンを使い分けている点が実態に近い理解です。なお、KBank公式プレスリリースおよびStraitsX公式ブログによると、Phase 1の稼働目標は2026年Q2とされており、記事の「間もなく稼働する」という表現より若干先になる見通しです。

このモデルが描く未来として特に注目したいのが、x402標準です。これはHTTPSがWebの通信を標準化したように、AIエージェント同士やマシン間の自律的な支払いを標準化しようとするプロトコルです。手数料がほぼゼロになることで、現在は経済的に成立しない「1円以下の支払い」が大量かつ連続的に行えるようになります。たとえばAIが別のAIのAPIを呼び出すたびにマイクロペイメントを実行するような、エージェント経済(Agentic Economy)の基盤になる可能性を秘めています。

ポジティブな側面は明確です。国際送金コストの大幅削減、ユーザーの再教育不要なシームレスな越境決済、そして既存のVisaネットワーク上で動作するため加盟店側の追加投資もゼロという点です。特に送金コストについては世界銀行のデータが示す通り、200ドルの国際送金に平均6.49%のコストがかかる現状は、東南アジアの出稼ぎ労働者にとって深刻な問題であり、ステーブルコインはその構造的な課題を解決しうる技術です。

一方でリスクも看過できません。StraitsXの成長は現時点ではRedotPayへの依存度が高く、RedotPayの2025年カード取引高29.5億ドルはパートナー上位13社の合計を4倍超えるとはいえ、それがStraitsXにとって「特定パートナーへの集中リスク」でもあります。加えて、マネーロンダリング対策は各プロジェクトが明示的に取り組んでいますが、規制環境が国ごとに大きく異なる東南アジアでの本格展開においては、今後の法規制の変化が事業継続の鍵を握ります。

【用語解説】

ステーブルコイン
価格が法定通貨(ドルやシンガポールドルなど)に連動するよう設計された暗号資産である。価格変動の激しいビットコイン等とは異なり、1枚=1ドルといった固定レートを維持することで、決済・送金・DeFiの実用的な手段として利用される。

BINスポンサー(Bank Identification Number Sponsor)
カード決済ネットワーク(VisaやMastercardなど)において、フィンテック企業やスタートアップがカードを発行するために必要な「番号管理者」の役割を担う金融機関または認定企業のことである。StraitsXはこの立場でRedotPayやUPayにカード発行インフラを提供している。

x402標準
Coinbase Developer Platformが提唱する、HTTP通信に決済機能を組み込んだオープンプロトコルである。長年未使用だったHTTPステータスコード「402 Payment Required」を実用化したもので、AIエージェントやソフトウェア同士がアカウントや人間の介在なしに自律的にマイクロペイメントを実行できる仕組みを提供する。

アジェンティック経済(Agentic Economy)
AIエージェントやソフトウェアが自律的にサービスを利用し、リソースの対価を支払い合う新しい経済圏の概念である。x402のようなプロトコルが普及することで、人間が介在せずにAI同士が商取引を行う「機械間経済」が現実のものになると見られている。

AMM(自動マーケットメーカー)
人間のトレーダーを介さず、アルゴリズムとスマートコントラクトによって自動的に通貨やトークンの売買レートを決定する分散型の取引所の仕組みである。流動性プールに預けた資産の比率に基づき、リアルタイムでレートが算出される。

【参考リンク】

StraitsX 公式サイト(外部)
MAS認可のステーブルコインインフラ企業。XSGDとXUSDを発行し、クロスボーダー決済・カードプログラム・DeFi連携などを提供している。

MAS Project BLOOM 公式ページ(外部)
MASが主導する越境決済の国際連携イニシアチブ。ステーブルコインや tokenized マネーを活用した実用化を推進している。

RedotPay 公式サイト(外部)
香港拠点のクリプトカード発行会社。StraitsXのBINスポンサーシップのもと、2025年に29.5億ドル超の取引高を記録した。

Solana Foundation 公式サイト(外部)
Solanaブロックチェーンの普及・開発支援を行う非営利組織。高スループット・低コストの特性でステーブルコイン決済基盤として注目されている。

x402.org 公式サイト(外部)
Coinbaseが主導するインターネットネイティブ決済プロトコル「x402」の公式サイト。AIエージェント向けマイクロペイメントの仕様・実装情報を公開している。

Artemis Analytics 公式サイト(外部)
ブロックチェーン・クリプト業界向けオンチェーンデータ分析プラットフォーム。本記事のクリプトカード市場規模データの出典元。

【参考記事】

KBank, Orbix Technology and StraitsX unveil project “Seamless Travel Payments on Chain” under MAS’s Project BLOOM|ThaiPR.NET(外部)
Singapore Fintech Festival 2025で発表された三社連名のプレスリリース。Phase 1の稼働目標が2026年Q2であること、Avalanche基盤の採用などを確認できる。

A New Thailand to Singapore Cross Border Settlement Experience|AvaCloud(外部)
タイ・シンガポール越境決済コリドーでAvalancheインフラが採用された経緯を解説した技術ブログ。Solanaとの役割の違いを理解する上で重要な文書。

StraitsX 2025 Wrapped|StraitsX Blog(外部)
StraitsXが2025年末に公開した年次振り返りブログ。オンチェーン取引量18億ドル超やGrabとのMOUなど、数字の検証に活用した。

StraitsX to Launch XSGD and XUSD Stablecoins on Solana by 2026|CoinTelegraph(外部)
XSGDの時価総額約1,300万ドル・流通量1,670万トークン、XUSDの時価総額約5,200万ドルなど具体的な市場規模の数字を確認するために参照した。

StraitsX to Extend Payment Network Across Asia|StraitsX Blog(外部)
タイ・日本・台湾への展開ロードマップとQ2 2026の稼働目標を記載。「日本、台湾、香港への展開計画」の裏付けとして参照した。

【編集部後記】

あなたが今日、カフェでスマートフォンをかざして支払ったとき、その裏側で何が動いていたか、気にしたことはありますか。インターネットがそうであったように、本当に優れたインフラは「存在を忘れられたとき」に完成するのかもしれません。ステーブルコインが水道や電気のような存在になる日は、思っているより近いのかもしれません。

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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
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ByTaTsu@innovaTopia

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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