デジタル画像の時代は終わった。2026年、NFTは「見えないインフラ」として社会を包囲する

2026年の東京の街並みに重なるデジタルネットワークの光。人々や建物の上にIDや権利証などのアイコンが浮かび、NFTが社会インフラとして機能している様子を描いたイメージ図。図:見えないインフラとして都市を覆うNFT 2026年、NFTは「投機的な画像」から「社会を動かすOS」へ。不動産権利(RWA)や個人のIDが、ブロックチェーンのネットワークを通じて東京の街と人々をシームレスに接続している。

Last Updated on 2026年2月8日 by Co-Founder/ Researcher

「NFTは死んだ」——2023年頃、市場から投機熱が引いたとき、多くのメディアがそう書き立てた。しかし、2026年の今、私たちはその言葉が間違いだったことを知っている。死んだのは「無意味な画像の転売ゲーム」だけだった。今、私たちのウォレットにあるのは、現実資産(RWA)の権利証であり、コミュニティへの貢献を証明するIDであり、外部データと連動して姿を変える「生きたプログラム」だ。本稿では、東京から見える景色を通じて、インフラとして再定義された「NFT 2.0」の真実を紐解く。

目次

  1. 瓦礫の下で進んでいた「構造改革」
  2. 静的から動的へ:dNFT(Dynamic NFT)の衝撃
  3. RWA:金融資産との完全なる融合
  4. 日本独自の進化:「万博」が証明したマスアダプション
  5. 見えないインフラになる日
  6. まとめ

この記事のポイント

  • 静的から動的へ:買って終わりのJPEGではなく、外部データ(天候や戦績)と連動して進化する「Dynamic NFT」が標準化した
  • 16兆ドルの巨大市場:不動産や債権などの現実資産(RWA)がトークン化され、DeFi市場へと流入。その規模は2030年までに16兆ドル(約2,400兆円)に達すると予測されている
  • 日本発の「体験」実装:大阪・関西万博(2025)やFIFAワールドカップ(2026)でのチケット活用など、投機ではない「ユーティリティ」としての社会実装が完了した
  • ERC-4337:アカウント・アブストラクションにより、秘密鍵管理なしでWeb3を利用できる新時代が到来
  • ERC-3643:コンプライアンス準拠型トークンにより、証券法をクリアしながらパブリックチェーンの流動性を活用可能に

瓦礫の下で進んでいた「構造改革」

2025年から2026年にかけて、NFT市場は奇妙なパラドックス(逆説)の中にあった。一方で「価格」は落ち着きを見せたが、もう一方でNFTの「発行総数」は爆発的に増加していたのだ。

NFTの性質変化

これは何を意味するのだろうか?答えはシンプルだ。NFTが「高値で売買される商品」から、「大量に発行され、消費されるインフラ」へと性質を変えたのだ。

2025年のデータによれば、RWA(Real World Assets)トークン化市場は2022年の50億ドルから2025年半ばには240億ドルへと約5倍に成長した。これは、NFT技術が投機的な画像取引から、実用的な金融インフラへと進化したことを示している。

かつて私たちは、猿やパンクスの画像をアイコンにすることに熱狂した。しかし今、私たちが熱狂しているのは、ブロックチェーンという「信頼の基盤」の上で、既存の金融やエンターテインメントが再構築されるプロセスそのものだ。

静的から動的へ:dNFT(Dynamic NFT)の衝撃

これまでのNFTは「Static(静的)」だった。一度ブロックチェーンに刻まれたメタデータは永遠に変わらず、それは「完成された絵画」を所有するのと同じ体験だった。しかし、2026年の標準は「Dynamic(動的)」だ。

オラクルが吹き込む「生命」

Chainlinkなどのオラクル技術が成熟したことで、NFTは外部世界のデータをリアルタイムに取り込めるようになった。

Dynamic NFT(dNFT)は、以下のメカニズムで機能する:

データ取得
Chainlink Oracleが外部データソース(天候API、スポーツ統計、IoTデバイス等)から情報を取得する。

オンチェーン化
取得したデータをブロックチェーン上で検証可能な形式に変換し、スマートコントラクトに送信する。

メタデータ更新
スマートコントラクトは、受け取ったデータに基づいてNFTのメタデータを自動的に更新する。

実装事例

例えば、ゲーム内のキャラクターNFTは、プレイヤーの勝率や活動時間に応じて、見た目やステータスが不可逆的に進化する。天候データと連動し、東京で雨が降れば、デジタルアートの中も雨模様になる作品も登場した。

LaMelo Ball NFTsは、Dynamic NFTの代表的な事例だ。NBA選手LaMelo Ballの8つのNFTは、彼の実際の試合成績(得点、リバウンド、アシスト等)に連動して、背景色やビジュアルが変化する。これにより、NFTは単なる静的な画像から、選手のキャリアを記録する「生きた」デジタル資産へと進化した。

技術的な意義

エンジニア視点で見れば、NFTは単なるポインタ(場所を示す記号)から、「ユーザーの体験や歴史を保存するコンテナ」へと進化したと言える。これは、投機的な値上がり期待ではなく、「自分と共に成長した」という「愛着のオンチェーン化」という新しい価値基準を生み出した。

RWA:金融資産との完全なる融合

DeFi領域において、最も破壊的なトレンドがRWA(Real World Assets:現実資産)のトークン化だ。

2,400兆円市場への道

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)とADDXによる2022年の共同レポートは、現実資産のトークン化市場が2030年までに16兆ドル(約2,400兆円)に達すると予測した。これは世界GDPの約10%に相当する。

他の予測も同様に強気だ:

  • McKinsey:2兆〜4兆ドル(保守的予測)
  • Standard Chartered:30兆ドル(2034年)
  • Ripple/BCG:18.9兆ドル(2033年)

2025年半ば時点で、RWAトークン化市場は既に240億ドルに達している。これは、不動産、国債、社債、プライベートクレジットといった流動性の低い資産が、ブロックチェーンによって24時間取引可能になることを意味する。

主要な資産クラス

米国債トークン
BlackRockのBUILDファンド(29億ドル)やFranklin TempletonのFOBXX等、トークン化された米国債市場は2025年に42億ドルに達すると予測されている。

不動産
グローバル不動産市場は300兆ドル以上の価値を持つ。その0.5%がトークン化されるだけで、1.5兆ドルの市場となる。

プライベートクレジット
Apollo GlobalのACRED等、機関投資家向けプライベートクレジットのトークン化が進行中だ。

「許可型トークン」の発明

ここで技術的に重要なのが、ERC-3643(T-REX)などのコンプライアンス準拠型規格の普及だ。

従来のNFT(ERC-721)は誰にでも送信できたが、金融資産を扱うには法規制の壁があった。ERC-3643は、スマートコントラクトレベルで「KYC(本人確認)済みのウォレットにしか送信できない」という制限を実装した。

ERC-3643の主要機能

  • オンチェーンID検証:トークン転送前にKYC/AML検証を自動実行
  • 地域制限:特定の法域からのアクセスを制限
  • 投資家適格性チェック:適格投資家要件を自動検証
  • コンプライアンスルール:保有上限、ロックアップ期間等を強制

これにより、証券法をクリアしたまま、パブリックチェーンの流動性を活用することが可能になったのだ。

日本での実装例

日本では「Progmat(プログマ)」が三菱UFJ信託銀行により開発され、不動産の受益権や社債などのRWAをセキュリティトークンとして発行・管理する基盤が実用化されている。

家賃収入が毎秒ウォレットに着金する未来は、もはや夢物語ではなく2026年のポートフォリオの一部となっている。

日本独自の進化:「万博」が証明したマスアダプション

世界がRWA(金融)に向かう一方で、日本は独自の「カルチャー経済圏」を築き上げた。その転換点となったのが、2025年の大阪・関西万博(EXPO 2025)だ。

「ウォレット」を意識させない勝利

万博では、独自のデジタルウォレットを通じて、パビリオンの周遊記念NFTや、電子マネーと交換可能なポイントが配布された。

特筆すべきは、利用者の多くが「Web3を使っている」と意識することなく、自然にNFTを受け取っていた点だ。

ERC-4337:アカウント・アブストラクションの力

この背景には、ERC-4337(Account Abstraction)の技術的恩恵がある。

ERC-4337の主要機能

2023年3月にEthereumメインネットで稼働開始したERC-4337は、以下を実現する:

  • 秘密鍵管理の不要化:Googleアカウントや生体認証だけでウォレット操作が可能
  • ガス代の柔軟化:ERC-20トークンでのガス支払い、ガス代スポンサー機能
  • バッチトランザクション:複数の操作を一括実行
  • マルチシグとソーシャルリカバリー:友人や家族を通じたアカウント復旧

2024年には約2,000万の新規スマートアカウントが展開され、累計で4,000万以上のスマートアカウントが稼働している。UserOperation(ユーザー操作)の総数は1億を超え、2023年から10倍に増加した。

技術的な仕組み

ERC-4337は、Ethereumのコンセンサスレイヤーを変更することなく、以下のアーキテクチャで動作する:

UserOperation
ユーザーの意図を表す擬似トランザクションオブジェクト。通常のトランザクションとは異なり、スマートコントラクトウォレットによって実行される。

Bundler
複数のUserOperationをまとめて、EntryPointコントラクトに送信するアクター。

EntryPoint
UserOperationを検証し、スマートコントラクトウォレットで実行する中央コントラクト。

Paymaster(オプション)
ユーザーに代わってガス代を支払うコントラクト。

万博以降の展開

この成功体験は、2026年のFIFAワールドカップやTicketmasterによるチケットNFT化の動きとも連動している。

Ticketmasterは、Flowブロックチェーンとのパートナーシップにより、数百万枚規模のチケットをNFTとしてオンチェーン化した。これにより:

  • 転売ボットの排除
  • 真のファンへのチケット配布
  • 二次流通の透明化
  • イベント参加証明の永続的な記録

日本においてNFTは、投機対象ではなく、「体験の証明書」として社会に根付いた。

その他の実装例

Lufthansa Uptrip
航空会社ルフトハンザは、「NFT」という言葉を使わずに、搭乗履歴や会員ステータスをブロックチェーンで管理するロイヤリティプログラムを展開している。

Starbucks Odyssey
スターバックスは、Web2のユーザー体験を保ちながら、ロイヤリティプログラムにNFTを統合。顧客は「デジタルスタンプ」を集めることで特別な報酬を獲得できる。

見えないインフラになる日

2026年、私たちはもはや「これはNFTだ」と意識することなく、日々の生活でそれを使っている。

日常に溶け込むNFT

カフェの会員証、イベントのチケット、不動産の契約書。それら全てが、裏側ではブロックチェーン技術によって支えられ、改ざん不可能な「証明」として機能している。

  • 会員証・ポイントカード:Starbucks、航空会社等
  • イベントチケット:コンサート、スポーツ観戦、展示会
  • 証明書:卒業証書、資格証明、参加証明
  • 金融資産:不動産受益権、社債、プライベートクレジット
  • ゲーム内アイテム:装備品、スキン、キャラクター

インターネットとの類似性

かつてインターネットが「情報」を自由にしたように、Web3とNFTは「価値」と「権利」を自由にした。

1990年代、人々は「これはインターネットで送信されたメールだ」と意識していた。2026年、誰もメールの背後でTCP/IPプロトコルが動作していることを意識しない。

同様に、2026年のユーザーは「これはNFTだ」と意識することなく、ブロックチェーン技術の恩恵を享受している。これが真のマスアダプションの姿だ。

よくある質問

Q: Dynamic NFTは通常のNFTとどう違うのですか?
A: 通常のNFTは一度発行されるとメタデータが変わりませんが、Dynamic NFTはChainlink等のオラクルを通じて外部データを取り込み、リアルタイムにメタデータを更新できます。例えば、スポーツ選手の成績に連動して変化するNFTなどが可能です。

Q: RWAトークン化のメリットは何ですか?
A: 主なメリットは:(1)24時間365日取引可能、(2)フラクショナル化(小口化)による参入障壁の低下、(3)決済の高速化、(4)透明性の向上、(5)プログラマブルなコンプライアンス、です。

Q: ERC-4337を使うには特別な知識が必要ですか?
A: いいえ、ユーザーとしては特別な知識は不要です。Googleアカウントでログインするような感覚でWeb3アプリケーションを利用できます。開発者の場合は、スマートコントラクトウォレットの実装知識が必要です。

まとめ

NFTの本質的な価値は、第三者に依存せず、自分自身で価値と権利を管理・移転できる「人間主権」にある。しかし、その主権を行使するためには、正しい知識と適切な実装という「基盤」が必要だ。

2026年現在、NFTは以下の不変の技術的事実によって支えられている:

Dynamic NFTによる進化
Chainlinkオラクルを通じて、NFTは外部データと連動し、ユーザーの体験を記録する「生きた」資産となった。

RWAトークン化の巨大市場
2030年までに16兆ドルと予測される市場は、不動産や債券など従来流動性の低かった資産をブロックチェーン上で取引可能にする。

コンプライアンス準拠型トークン
ERC-3643により、証券法を遵守しながらパブリックチェーンの流動性を活用できる新時代が到来した。

ユーザー体験の革命
ERC-4337により、秘密鍵管理という最大のハードルが消滅し、Web2と同等のUXでWeb3を利用できるようになった。

日本独自の文化的実装
万博やワールドカップでの実証により、NFTは投機的資産から「体験の証明書」へと進化した。

ノイズを脱ぎ捨て、本質的な価値だけが残ったこの世界で、次は何をオンチェーンに刻むだろうか?Web3の旅は、まだ始まったばかりだ。


参照ソース

市場・トレンド予測

技術・実装事例

実装事例

ブロックチェーンデータ

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ByCo-Founder/ Researcher

2015年、ITエンジニアリングの領域から暗号資産(Cryptocurrency)の世界へ。

当初、私の網膜を焼いたのは、証券市場には存在しない「眠らないマーケット」の衝撃でした。CEX(中央集権取引所)に渦巻いていた当時の熱狂とカオスは、単なる投機ではなく、次なる時代の胎動そのものでした。

やがて技術はDEX、そしてDeFiへと進化し、マネーは「プログラム可能な金融」へと昇華する。その過程で私が魅せられたのは、コードが自律的に経済圏を構築する「自律分散システム」の構造的な美しさです。

私の原点は、日本初の暗号資産「モナコイン(Monacoin)」にあります。誰の指示でもなく、コミュニティの熱量だけで経済が回り始める──その光景に見た「人間主権」の可能性こそが、今の私のコンパスです。

以来10年、最前線で観測し続けてきた技術の進化。「価格」というノイズを削ぎ落とし、その奥にある「技術の実装」と「社会変革の本質」を言語化すること。

2025年、成熟しつつあるデジタル経済の荒野において、読者が迷わずに歩める「信頼できる地図」を。ここ東京から、テクノロジーと人間の未来を記録します。