Last Updated on 2026年4月4日 by Co-Founder/ Researcher

分散型取引所(DEX)における集中流動性(Concentrated Liquidity)の提供は、特定の価格帯に資金を配置することで資本効率を向上させる設計です。しかし、この仕組みは流動性提供者(LP)に対し、価格変動に伴うインパーマネントロス(変動損失)の発生リスク、市場価格が設定範囲(Tick)を逸脱した際の流動性の非アクティブ化、そしてポジション調整に伴うガス代の負担といった技術的・経済的課題をもたらします。本稿では、これらの課題に対してポジション管理を自動化するALM(Automated Liquidity Management)プロトコルの基本構造と、主要プロトコル(Gamma、Arrakis Finance、Aperture Finance、Steer Protocol、DefiEdge(※現在、プロトコルは各種データサイト等で活動停止(Inactive)状態として扱われており、フロントエンドとなるウェブサイトも閉鎖されています。)、Sommelier Finance)の機能的特徴について、客観的なデータに基づき解説します。

本記事の目的

集中流動性モデルにおけるポジション管理を自動化するALMツールの仕組みと、各プロトコルの技術的アプローチ(アルゴリズム型、インテントベース型、マネージャー主導型など)の違い、および潜在する構造的なリスクを分類・理解するための情報を提供することです。

記事内容

集中流動性とALM(Automated Liquidity Management)の構造

集中流動性プールでは、提供された資産は特定の価格区間内に配置されます。市場価格がこの区間内にある場合のみ手数料収益が発生し、区間を外れると手数料の獲得は停止します。これを防ぐための「リバランス(ポジションの再構築)」には、最適なタイミングの算出とトランザクション実行のガス代が必要となります。ALMは、スマートコントラクトを介してこれらの一連のプロセスを自動化するインフラとして機能します。

ALMの運用方針(受動型 vs 能動型)分類

ALMプロトコルは、リバランスの頻度や戦略の性質に基づき、大きく以下の運用モデルに分類されます。

  • Active ALM(能動型): 高頻度でポジションのリバランスを行い、市場のボラティリティに追従する戦略です。(例:Gamma、DefiEdge(※現在、プロトコルは各種データサイト等で活動停止(Inactive)状態として扱われており、フロントエンドとなるウェブサイトも閉鎖されています。))
  • Semi-active ALM(半能動型): 一定の条件や期間に基づいて戦略を見直すが、極端な高頻度操作は行わない戦略です。(例:Arrakis Finance)
  • Passive ALM(受動型): 広い価格帯に流動性を配置し、リバランスの頻度を低く抑える戦略です。

主要なALM・流動性管理プロトコルの技術的アプローチ

1. Gamma (Gamma Strategies)

Uniswap V3などのプールにおいて、ポジションの自動リバランスと手数料の自動複利運用(オートコンパウンド)を行うActive ALMプロトコルです。

  • 構造: 「Hypervisor」と呼ばれるスマートコントラクトを介して資金をプールする。アルゴリズムが市場のボラティリティや過去データに基づき価格帯を算出し、流動性を配置します。
  • 特徴: 手数料の自動再投資機能により、ユーザー側での手動収穫(Harvest)と再投資のガス代を削減します。

2. Arrakis Finance

トラストレスな環境下で高度な戦略を実行するためのマーケットメイキング・インフラです。

  • 構造: Arrakis Vaultsを通じて、DEX上の集中流動性をERC-20トークンとして抽象化する。外部のストラテジーマネージャーが流動性配置戦略を設計し、オンチェーンで実行されるManagerモデルの構造を持ちます(Semi-active)。
  • 特徴: プロジェクト自身が自社トークンの流動性を管理するためのインフラ(PALM:Protocol Automated Liquidity Management)としての利用に強みを持ちます。

3. Aperture Finance

インテント(意図)ベースのアーキテクチャを採用した流動性管理ツールです。

  • 構造: インテントはOrder abstraction(注文の抽象化)レイヤーとして機能し、ユーザーが宣言した目標状態(特定価格でのクローズなど)を、オフチェーンの「ソルバー(Solver)」と呼ばれる参加者がネットワーク上で競争して解決します。
  • 特徴: Solverはトランザクションの最適実行(価格・ガス代・MEV最適化を含む)を競争的に提供し、オンチェーンへの実行責任を負います。

4. Steer Protocol

複数のブロックチェーンやAMMにまたがり、データ駆動型の戦略を実行できるインフラです。

  • 構造: オフチェーンのデータ計算環境とオンチェーンの実行環境を組み合わせたスマートプール機能を利用します。
  • 特徴: 開発者が独自の計算を伴うトレーディング戦略を、ガス代を抑えつつ構築・展開できるアーキテクチャを提供します。

5. DefiEdge(※現在、プロトコルは各種データサイト等で活動停止(Inactive)状態として扱われており、フロントエンドとなるウェブサイトも閉鎖されています。)

流動性提供者(資本)と、戦略を構築する専門のマネージャーを繋ぐプロトコルです。

  • 構造: 資産運用マネージャーがパーミッションレスに戦略を作成し、ユーザーはそこへ資金を預け入れます。
  • 特徴: 運用判断をサードパーティのマネージャーに委譲するモデルであり、マネージャーの裁量に依存するActive型の運用構造を持ちます。

6. Sommelier Finance

オフチェーンの計算モデルを利用してDeFiポートフォリオを最適化するプロトコルです。

  • 構造: Cosmos SDKベースのバリデーターネットワークがオフチェーンで高度なデータ分析と戦略の計算を行い、その結果に対する合意(コンセンサス)を形成した上で、Ethereum等のスマートコントラクト(Cellarと呼ばれるVault)へ実行指示を送る構造を持ちます。
  • 特徴: ブロックチェーンのコンセンサスメカニズムを活用して戦略実行の透明性を担保します。

ALMプロトコルにおける4つのリスクレイヤー

ALMツールの利用においては、以下の構造的リスクが伴います。

  1. スマートコントラクトリスク: プロトコル自体のコードに存在する脆弱性やハッキングのリスク。
  2. 戦略リスク(ALM固有): プロトコルやマネージャーが設定したアルゴリズム・戦略が、実際の市場環境において機能不全に陥るリスク。
  3. 市場リスク(IL): 資産価格の変動に起因するインパーマネント・ロス(変動損失)が、手動運用時よりも拡大するリスク。
  4. 実行リスク(Solver/Manager): インテントベースにおけるSolverの実行失敗、またはマネージャー主導型におけるオペレーションミスのリスク。

FAQ

  • Q. 特定のDEXへの依存リスクは存在しますか?

    A. 存在します。現在稼働する多くのALMプロトコルは、Uniswap v3の流動性構造を前提として設計されているため、対象となるDEX(基盤プロトコル)自体に致命的なバグや流動性の枯渇が発生した場合、その影響を直接的に受ける「プロトコル依存リスク」を内包しています。
  • Q. インテントベースのプロトコルと従来のALMツールの技術的な違いは何ですか?

    A. 従来のALM(例:Gamma)がプロトコル側のスマートコントラクトに組み込まれたアルゴリズムに従って受動的または能動的なリバランスを実行するのに対し、インテントベース(例:Aperture)はユーザー自身が設定した特定の条件をトリガーとし、外部のSolverがMEV最適化を含めた実行ルートを構築・処理するアーキテクチャの違いがあります。

まとめ:構造理解のためのフレームワーク

流動性提供の自動化ツールは、その「運用決定の主体」と「実行アーキテクチャ」によって以下の3つに構造化されます。

  • プロトコル・アルゴリズム主導型(例:Gamma, Arrakis):計算式に基づき自動最適化を実行(または外部マネージャーが設計した戦略のオンチェーン実行)。
  • ユーザー・インテント主導型(例:Aperture):ユーザーの意図をトリガーとし、Solverが最適な実行(MEV対応含む)を担う。
  • マネージャー/コンセンサス主導型(例:DefiEdge※現在、プロトコルは各種データサイト等で活動停止(Inactive)状態として扱われており、フロントエンドとなるウェブサイトも閉鎖されています。), Sommelier):運用者またはバリデーターネットワークの合意形成によって戦略が決定・実行される。

Crypto Verseからのメッセージ

自動流動性管理(ALM)プロトコルの選択においては、対象資産のボラティリティ特性と、各プロトコルが内包する4つのリスクレイヤー(スマートコントラクト、戦略、市場、実行)、および基盤となるDEXへの依存リスクを客観的に評価することが求められます。戦略の完全性を保証するプロトコルは存在せず、構造的差異の理解がリスク管理の前提となります。

データ参照元・出典

  • Gamma Strategies: https://www.gamma.xyz/
  • Arrakis Finance: https://www.arrakis.finance/
  • Aperture Finance: https://aperture.finance/
  • Steer Protocol: https://steer.finance/
  • Sommelier Finance: https://www.sommelier.finance/
  • DefiEdge: ※および関連する公式ドメイン(defiedge.io)は現在アクセス不能な状態となっています。
    現在観測されている事実は以下の通りです。
    ・2024年10月中旬、DefiEdgeはユーザーインターフェースからの新規預け入れ(デポジット)機能を停止しました。
    ・同時期にPancakeSwapなどの提携プラットフォームも、DefiEdgeのVault機能のサポート終了をアナウンスし、ユーザーへ資金の引き出しを推奨する措置をとりました。
    ・現在、プロトコルは各種データサイト等で活動停止(Inactive)状態として扱われており、フロントエンドとなるウェブサイトも閉鎖されています。

    運営によるドメイン完全閉鎖の詳細な経緯や、今後のフロントエンド再開予定等に関する確実なデータは存在しないため、詳細はわかりません。

重要な注記

プロトコルの仕様、対応ネットワーク、手数料体系、およびSolverやManagerの権限範囲は、各プロジェクトのDAOによるガバナンス提案の可決によって変更されるデータです。実際の利用に際しては、公式の最新ドキュメントおよびオンチェーンデータを確認する必要があります。

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Crypto Verseの視点

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 複雑なWeb3の世界を
 もっとも信頼できる「地図」へ

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免責事項

本記事は暗号資産やDeFiプロトコルの技術的構造に関する客観的な情報提供のみを目的としており、特定のプロトコルの利用推奨や投資助言を行うものではありません。DeFiプロトコルの利用には元本喪失のリスクが伴います。意思決定は利用者自身の責任において行われるものとします。

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ByCo-Founder/ Researcher

2015年、ITエンジニアリングの領域から暗号資産(Cryptocurrency)の世界へ。

当初、私の網膜を焼いたのは、証券市場には存在しない「眠らないマーケット」の衝撃でした。CEX(中央集権取引所)に渦巻いていた当時の熱狂とカオスは、単なる投機ではなく、次なる時代の胎動そのものでした。

やがて技術はDEX、そしてDeFiへと進化し、マネーは「プログラム可能な金融」へと昇華する。その過程で私が魅せられたのは、コードが自律的に経済圏を構築する「自律分散システム」の構造的な美しさです。

私の原点は、日本初の暗号資産「モナコイン(Monacoin)」にあります。誰の指示でもなく、コミュニティの熱量だけで経済が回り始める──その光景に見た「人間主権」の可能性こそが、今の私のコンパスです。

以来10年、最前線で観測し続けてきた技術の進化。「価格」というノイズを削ぎ落とし、その奥にある「技術の実装」と「社会変革の本質」を言語化すること。

2026年、成熟しつつあるデジタル経済の荒野において、読者が迷わずに歩める「信頼できる地図」を。ここ東京から、テクノロジーと人間の未来を記録します。

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