Last Updated on 2026年10月30日 by Co-Founder/ Researcher
STANDAGEは2024年、国産ステーブルコインを貿易決済に使う検討を始めていました。2028年度の商用化を目指して今回示した構想で、代金として動くのは、商工中金が発行するトークン化預金です。船荷証券の権利と銀行預金を同時に入れ替えるとき、何が仕組みに任され、何が銀行の手に残るのでしょうか。
STANDAGEとDCPは2026年10月28日、商工中金の参加のもとで、決済一体型の貿易プラットフォームの共同検討を始めたと発表した。STANDAGEが採用するCargoXの電子船荷証券(eB/L)の基盤と、DCPのトークン化預金の基盤を連携させる。スマートコントラクトを使い、eB/Lと、商工中金が発行するトークン化預金「DCJPY」を同時に決済するDvPの仕組みを検証する。両社は2028年度の商用化を目指し、実証実験の準備を進める。
STANDAGEは、この決済機能を自社の貿易プラットフォーム「デジトラッドペイメント」に組み込む。DCPは、将来的に国際決済網「Partior」などとの連携も見据えるとしている。
From: STANDAGE、DCP、2028年度の商用化に向け決済一体型貿易プラットフォームの共同検討を開始
【編集部解説】
ステーブルコインに取り組んできたSTANDAGEが、預金での決済を検討
STANDAGEは、ブロックチェーンを使った貿易決済に長く取り組んできた会社です。
2021年には、東京海上日動、NTTデータ、トレードワルツと組み、電子化した船荷証券と「デジタル通貨(または暗号資産)」を同時に移転する実証を行いました。このときSTANDAGEは、暗号資産の移転技術を担当しています。2024年1月には、三菱UFJ信託銀行、Progmat、Gincoとともに、国産ステーブルコインを貿易決済に使う共同検討を始めました。
2026年2月には、商工中金と資本業務提携を結びました。3月の発表の見出しは「ステーブルコインを活用した貿易決済の社会実装を加速」です。
今回の発表で決済に使うお金として示されたのは、商工中金が発行するトークン化預金「DCJPY」です。ステーブルコインの構想を取りやめるとは発表していません。確かなのは、2028年度の商用化を目指す新たな共同検討で、銀行の預金を決済に使うと示したことです。
何と何を、同時に入れ替えるのか
貿易では、前払いなら輸入する側に貨物を受け取れないリスクが、後払いなら輸出する側に代金を回収できないリスクが生じます。
これまでは、信用状による銀行の支払確約や、支払いと引き換えに船積書類を渡すD/Pなどで、こうしたリスクに対応してきました。今回の構想は、その時間差を「eB/Lの移転」と「DCJPYの移転」を同時に行うDvPで縮めようとするものです。
DCPは自社の基盤を二層で説明しています。銀行が預金を発行する「フィナンシャルゾーン」と、企業が取引をする「ビジネスゾーン」です。ビジネスゾーンでの権利の移転を、フィナンシャルゾーンの資金の動きとリアルタイムに同期させる設計だとしています。今回の構想も、eB/Lの権利の移転とDCJPYによる決済の連動を目指すものです。
一方、eB/Lの基盤を提供するCargoXは、自らを「パブリックブロックチェーンのeBL」を提供する事業者だと説明しています。リリースはCargoXとDCPの両基盤を連携するとしていますが、eB/Lの管理機能をDCPの二層構造にどうつなぎ、同時の受け渡しをどう実現するのかは公表されていません。これからの実証で詰める部分です。
また、リリースが24時間可能としているのはオンラインでの申請です。権利の移転と決済は「銀行による所定の確認」を経て行う構想で、申請後の処理がコードだけで完結するとは説明されていません。
銀行預金であることの意味
リリースの中で、DCPが自らの強みとして挙げているのは「銀行預金の安全性と厳格なコンプライアンス」です。
今回は、大口の企業間決済を想定した構想です。貿易の決済では、取引相手や関係する国などに応じたマネー・ローンダリング対策も求められます。リリースは、FATFの審査が厳しくなり、銀行に高度なAML/CFTの対応が求められていることを背景に挙げています。
トークン化預金は、銀行の預金そのものです。受け取った企業が持つのは、発行した銀行に対する預金の権利です。利用者の本人確認や取引の監視も、銀行の枠組みのなかで行われます。リリースによれば、企業は大きなシステムを作らずに、普段の預金口座と同じ感覚で使えるとしています。
Crypto Verseでは8月、トークン化預金の銀行間決済の実証に43社が集まったことを伝え、焦点は「決済資産の選択」にあると書きました。今回の発表は、企業間の貿易決済という具体的な場面で、その選択が一つ示された例と言えます。
円のトークンで、海外とどう決済するのか
今回の構想が第一段階として掲げるのは、「商流の電子化と金流との同期」を実証し、運用モデルを確立することです。DvPで使う決済資産として示されているのは、円建てのDCJPYです。一方、海外の取引相手がどの口座で受け取り、外貨への交換や送金をどう行うのかという具体的な流れは、公表されていません。
クロスボーダー決済網への接続は、将来の段階として位置づけられています。DCPは、国際決済網「Partior」などとの連携を「見据える」としています。2025年9月には、SBI新生銀行、Partior、ディーカレットDCP(当時)の3社が、トークン化預金での外貨取引の本格検討で基本合意しました。円建てのトークン化預金をPartiorの国際ネットワークにつなぐ構想です。
国内の銀行預金のトークンが、国境を越える決済網とつながるかどうか。今回の貿易プラットフォームが、その接続を試す場になる可能性があります。
政府が例に挙げた「貿易実務」
政府は2026年7月の「骨太の方針」で、オンチェーン金融の推進を掲げました。脚注では、オンチェーン金融を、トークン化預金やステーブルコインによる資金決済が、商流や物流のデータとプログラムで連動・一体化する金融と定義しています。活用が見込まれる例として、製造業の受発注データ、証券決済とともに「貿易実務における書類管理」を挙げています。
制度の側でも、10月23日、電子船荷証券を法的に位置づける商法などの改正案が国会に提出されました。リリースは、2027年度中の施行を見込んでいます。
政府の定義と、法改正の動きと、民間の構想が、同じ時期に一つの場面で重なったことになります。
【追記(2026年10月30日)】ここで触れた商法等の改正案の中身は、私がパートナーメディアであるinnovaTopiaで書いた「電子船荷証券の商法改正案が国会へ、STANDAGEとDCPは書類と代金の同時決済を2028年度に」で掘り下げています。電子船荷証券記録の新たな定義と「支配」の考え方、電子化が一律には義務づけられない点、国連のモデル法(MLETR)に沿った各国の動きに加え、紙の原本が貨物より遅れて届く実務の負担も整理しました。
書類と代金が同時に動くと、何が手元に戻るか
紙の船荷証券を使う取引では、書類の郵送や確認、代金の回収までの時間差が、中小企業の負担になってきました。企業は信用状などでリスクに備えてきましたが、書類と代金が別々に動く手間は残ります。
eB/LとDCJPYを連動させる構想は、その「待つ」と「信じる」のいくつかを、仕組みの側に引き受けさせる試みです。銀行による確認は残るものの、申請は24時間オンラインでできるとされています。取引の段取りを、郵便や窓口の時間ではなく、自分の側の都合で進められる部分が増える。それは、国境の向こうの相手と対等に取引するための、小さくない一歩です。
DCPは、他の金融機関もその基盤でトークン化預金を発行すれば、この貿易プラットフォームにつながれる設計だとしています。円建ての預金トークンが、国内の銀行の輪を越えて、国境の向こうの取引先の手元まで届くのか。2028年度に向けた実証を、その入口として見ていきたいと思います。
【用語解説】
電子船荷証券(eB/L)
船荷証券を電子データにしたもの。船荷証券は、運送人が貨物を受け取ったことを示し、その貨物の引き渡しを請求する権利を表す有価証券である。
トークン化預金
銀行預金を、ブロックチェーン上で移転できる形にしたもの。法的には発行した銀行に対する預金であり、預金トークンとも呼ばれる。
DCJPY
DCPのトークン化預金プラットフォーム上で、金融機関が発行・償還する円建てのトークン化預金。今回の構想では商工中金が発行する。
DvP(Delivery versus Payment)
渡すものと代金を同時に入れ替える決済の方式。片方だけが移って、もう片方が移らないというリスクをなくすために使われる。
スマートコントラクト
ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラム。契約の条件やルールをコードにして、条件を満たしたときに処理を進める。
信用状
輸入者の取引銀行が、条件に合った書類が出されることを条件に、輸出者への支払いを確約する仕組み。L/Cとも呼ばれる。
D/P(Documents against Payment)
輸入者が代金を支払うのと引き換えに、船積書類を受け取る決済の方式。信用状のような銀行の支払確約はない。
AML/CFT
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策。犯罪で得た資金やテロ資金の流れを止めるために、金融機関などが行う確認や監視を指す。
FATF(金融活動作業部会)
AML/CFTの国際基準を作り、各国・地域の対策を相互審査する政府間の機関。
オンチェーン金融
骨太の方針2026の定義では、ブロックチェーン上で、トークン化預金やステーブルコインなどによる資金決済が、商流・物流などのデータ管理とプログラムによって連動・一体化される金融。
【参考リンク】
STANDAGE(スタンデージ)|貿易をもっと自由に簡単に(外部)
中堅・中小企業の輸出支援と、デジタル貿易プラットフォーム「デジトラッド」を手がける。決済機能の「デジトラッドペイメント」も展開する。
DCP|トークン化預金プラットフォーム(外部)
トークン化預金「DCJPY」の基盤を提供する株式会社DCPのサイト。2026年7月にディーカレットホールディングスから商号を変更した。
商工中金(外部)
中小企業の金融を担う株式会社商工組合中央金庫のサイト。今回の構想で使うトークン化預金「DCJPY」の発行を担う金融機関である。
CargoX(外部)
電子船荷証券の管理・移転の基盤を提供する事業者。STANDAGEが採用しており、自らパブリックブロックチェーンのeBLと説明している。
Partior(外部)
シンガポールに本社を置く、銀行向けのブロックチェーン決済網。DCPは、円建てのトークン化預金をこの国際決済網につなぐ構想を示す。
【参考記事】
電子船荷証券の商法改正案が国会へ、STANDAGEとDCPは書類と代金の同時決済を2028年度に(パートナーメディア)
同じ発表を扱ったinnovaTopiaの記事。電子船荷証券を法的に位置づける商法改正案の内容と、紙の原本が貨物より遅れて届く実務の負担を軸に、書類が電子になっても残る代金の分断を整理している。
電子船荷証券(eB/L)とトークン化預金を活用した同時決済の実現に向け共同検討を開始(外部)
商工中金の同日の発表。DCJPYをDCP上で金融機関が発行・償還する預金と定義し、実証実験に向けた準備の段階と位置づけている。
三菱UFJ信託銀行・Progmat・STANDAGE・Gincoの協業による、「国産ステーブルコイン」の貿易決済活用に向けた共同検討開始について(外部)
2024年1月の発表。新興国との貿易で米ドルでの決済が難しいという問題に、国産ステーブルコインを使って対応する構想を示している。
株式会社STANDAGE、商工中金と資本・業務提携を締結 〜中堅・中小企業の輸出支援サービスの拡大と、ステーブルコインを活用した貿易決済の社会実装を加速~(外部)
2026年3月の発表。2月16日付で商工中金と資本・業務提携を結び、第三者割当増資で2.1億円を調達したと公表している。
新たな貿易決済の仕組みの実現に向けた実証実験を実施(外部)
NTTデータの2021年12月の発表。4社で、電子化した船荷証券とデジタル通貨(または暗号資産)を同時に移転できることを確認した。
トークン化預金について|DCP(外部)
DCPの基盤を、銀行が預金を発行するフィナンシャルゾーンと、企業が取引をするビジネスゾーンの二層で説明するページである。
SBI新生銀行、Partior、ディーカレットDCPの3社が トークン化預金での外貨取引に関する本格検討開始で合意(外部)
2025年9月の発表。円建てのトークン化預金をPartiorの国際ネットワークにつなぐ構想で、3社が基本合意書を結んだと公表した。
【編集部後記】
2024年にSTANDAGEが国産ステーブルコインの検討を始めたとき、目的に挙げていたのは新興国との貿易でした。為替の規制や信用状の制約で、米ドルでの決済が難しい相手がいる、という問題です。
今回の構想で動くのは、円建ての銀行預金です。ドルでの決済に苦労してきた新興国の取引先にとって、円のトークンは受け取りやすいお金になるのでしょうか。Partiorへの接続が、その答えの鍵を握りそうです。
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