Strategy(MSTR)セイラー氏、ビットコイン売却発言の真意—「資産毀損」を避けるための布石

Strategy(MSTR)セイラー氏、ビットコイン売却発言の真意——「資産毀損」を避けるための布石

Last Updated on 2026年5月19日 by Co-Founder/ Researcher

Strategy 会長のマイケル・セイラー氏は、5月10日に YouTube で公開されたポッドキャスト「The Wolf Of All Streets」で、スコット・メルカー氏の取材に応じ、同社の決算説明会でビットコイン売却の可能性に言及した理由を語った。

セイラー氏は、同社が約650億ドル相当のビットコインを保有しているとし、市場が同社は決して売却しないと考えれば、信用格付け機関がそれを資産とみなさなくなると述べた。さらに、ビットコイン市場には同社の株式や信用と相関しない200億〜1000億ドルの流動性があり、それを使わないと表明すれば資産を毀損することになると説明した。Strategy は2020年8月以降ビットコインを買い増しており、現在818,869 BTC を平均取得単価75,540ドルで保有する。同社は5月4日から10日にかけて535 BTC を4,300万ドル、平均80,340ドルで取得した。セイラー氏は5月6日、X に「Buy more bitcoin than you sell」と投稿した。

From: Michael Saylor floated Bitcoin sales idea to avoid ‘impairing’ the asset

【編集部解説】

セイラー氏の今回の発言は、一見すると「Strategy がビットコインを売るかもしれない」というセンセーショナルなニュースに見えます。しかし本質は逆です。彼が伝えようとしているのは「売れる状態にしておくこと自体が、資産価値を守る」という、企業財務の論理なのです。

ここで鍵になるのが「信用格付け」です。社債を発行する企業は、格付け機関からの評価で資金調達コストが変わります。もし市場が「Strategy のビットコインは絶対に売られない=換金されない」と認識すれば、格付け機関はそれを担保力のない凍結資産とみなしかねません。逆に「必要なら売却できる」という選択肢を示すことで、ビットコインは初めて「流動性のある企業資産」として評価されます。セイラー氏の言う「資産の毀損(impairing)」とは、この格付け上の扱いを指しています。

背景には、同社の財務構造の変化があります。第1四半期、Strategy はビットコイン価格の下落を受けて約125億ドルの純損失(普通株主に帰属する純損失では約128億ドル)を計上しました。2025年1月に採用された会計基準により、同社は保有ビットコインを四半期ごとに時価評価する必要があり、未実現損失が損益に直接反映されるようになっています。「永久に売らない」という物語は強力でしたが、四半期決算の現実とは緊張関係に入りつつあります。

もう一つの文脈が、優先株「STRC(ストレッチ)」の存在です。セイラー氏は決算説明会で、STRC の優先配当を支払うために必要があればビットコインを売却する用意があると述べており、今回のポッドキャストはその初の体系的な説明にあたります。同社の説明によれば、STRC を通じて調達した資金は即座にビットコイン購入に充てられ、損益分岐点は保有量の2.3%──ビットコインの年間上昇率がこれを上回る限り、配当のための売却を行っても同社は毎月・毎四半期ネットでの買い越しを維持できるという構造になっています。「売る」と「買い越す」は矛盾しない、というのが同社の主張です。

実際、言葉と行動は一致しています。セイラー氏は週末のポッドキャストで、売却するビットコインよりはるかに多くを同じ月のうちに買い戻すと述べ、ネットでの蓄積者であるべきだと強調しました。その直後に同社は535 BTC を追加取得しています。今回の発言は方針転換というより、これまで曖昧だった「never sell」の定義を「使ったら同じ期間で補充せよ」へと精緻化したもの、と読むのが正確でしょう。

ポジティブに捉えれば、これはビットコイン財務戦略が「物語」から「運用」へと成熟した兆候です。第1四半期には MARA Holdings、Riot Platforms、Core Scientific といった上場マイナーが3万2000 BTC超を売却し、Nakamoto や Sequans など小規模なトレジャリー企業はビットコインが最高値圏の約12万6000ドルから半値近くまで下落したことで保有分の売却を迫られました。市場全体が下落局面にあり、各社が売却圧力にさらされるなか、最大手が「売却は破綻ではなく財務管理の手段」と再定義することは、業界の語彙そのものを変える可能性があります。

一方でリスクも明確です。Strategy のモデルは、ビットコインの長期的な値上がりを前提とした「フライホイール」です。価格が長期低迷すれば、配当のための売却が買い増しを上回り、循環が逆回転しかねません。ポッドキャストの司会者メルカー氏自身が、映画になぞらえて「吸い込み」が「吐き出し」に転じる懸念に触れています。最大手の売却が市場心理に与える影響は、本人が意図するほど中立ではないかもしれません。

規制・制度面でも示唆に富みます。「ビットコインを担保とした優先株や永久配当」という金融商品が拡大するほど、それは伝統的な債券・信用市場の評価枠組みに組み込まれていきます。格付け機関がビットコイン保有企業をどう扱うかは、今後の機関投資家マネーの流入を左右する論点になるはずです。

長期を見据えるなら、注目すべきは「ビットコインが企業バランスシート上で本当に通貨や準備資産のように振る舞い始めた」という一点です。売らない聖域から、使い・補充する運転資本へ──この移行が定着するかどうかが、ビットコインが投機の対象を超えて「人類の金融インフラ」になれるかの試金石となります。今この発言を報じる意味は、まさにその転換点に私たちが立ち会っているからにほかなりません。

【用語解説】

Strategy(ストラテジー)
米国のソフトウェア企業。旧社名は MicroStrategy。2020年8月以降、ビットコインを主要な財務(トレジャリー)資産として保有する戦略へ転換し、現在は世界最大の法人ビットコイン保有者となっている。

ビットコイン財務戦略(ビットコイン・トレジャリー)
企業が余剰資金や調達資金をビットコインで保有し、バランスシート上の準備資産とする経営手法。Strategy が先駆けとなり、多くの追随企業を生んだ。

信用格付け機関
企業や金融商品の債務返済能力(信用力)を評価し、格付けを付与する専門機関。格付けの高低は社債などの資金調達コストを左右する。

時価評価(マーク・トゥ・マーケット)
保有資産を取得原価ではなく、その時点の市場価格で評価し直す会計処理。価格下落時は未実現損失が決算上の損益に反映される。

STRC(ストレッチ)
Strategy が発行する優先株の一種。調達した資金をビットコイン購入に充て、保有者には毎月配当を支払う設計の金融商品。

ネットでの買い越し(ネット・アキュムレーター)
ある期間に売却した量より多くを買い戻し、保有量を差し引きで増やしている状態。セイラー氏が「never sell」の実質的な定義として用いている概念。

債務担保証券(CDO)/ 永久配当のラッパー
資産を担保に組成された証券化商品や、満期のない配当付き金融商品の総称。ディクソン氏の発言では、ビットコインを担保とするこれらの商品が念頭に置かれている。

【参考リンク】

Strategy 公式サイト(Bitcoin 購入実績ページ)(外部)
Strategy のビットコイン取得履歴・保有量・平均取得単価などを公式に開示する一次情報源のページ。

Cointelegraph(外部)
暗号資産・ブロックチェーン分野を専門とする国際的なニュースメディア。本記事の出典元である。

BnkToTheFuture(外部)
サイモン・ディクソン氏が共同創業した、フィンテックや暗号資産関連事業を扱うオンライン投資プラットフォーム。

The Wolf Of All Streets(外部)
スコット・メルカー氏がホストを務め、業界関係者へのインタビューを配信する暗号資産系ポッドキャスト。

【参考記事】

Strategy Inc — Form 8-K(FY2026 第1四半期決算)/SEC(外部)
純損失約125億ドル、5月3日時点で約81万8334 BTC を保有と開示する公式書類。数値の一次情報源。

Michael Saylor Clarifies Bitcoin Selling Strategy, Emphasizes Net Buying/KuCoin(外部)
STRC の損益分岐点は保有量の2.3%とする、売却方針の体系的説明をまとめた記事。

Strategy (MSTR) Buys $43 Million More Bitcoin After Saylor Defends Potential BTC Sales/Bitcoin Magazine(外部)
535 BTC 追加取得を報道。第1四半期にビットコインが23%下落した経緯にも触れている。

Bitcoin Treasury Strategy Shifts as Michael Saylor Reveals When Strategy Could Sell BTC/Coinpedia(外部)
上場マイナーや小規模トレジャリー企業の売却動向など、業界全体の文脈を伝える記事。

MicroStrategy considers selling $65 billion in BTC holdings/Bitget News(外部)
本件を扱った別メディアの報道。Cointelegraph 記事との事実整合性の確認に用いた。

【編集部後記】

「売らない」という言葉は、信念の表明としては力強い一方で、ときに思考停止のスローガンにもなりえます。今回セイラー氏が示したのは、その言葉を一度立ち止まって定義し直す作業でした。私たち自身も、資産であれ習慣であれ、「絶対にこうする」と決めたものほど、その理由を問い直す機会を失いがちです。

テクノロジーや金融の進化を追うことは、同時に「自分は何を、なぜそう扱っているのか」を見つめ直すことでもあります。こうした問いを読者のみなさんと共有しながら、未来の手触りを一緒に確かめていきたいと考えています。

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※本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
 詳細は当サイトの免責事項をご確認ください。
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ByTaTsu@innovaTopia

『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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