Last Updated on 2026年3月25日 by Co-Founder/ Researcher
SECとCFTCは2026年3月17日、暗号資産を「デジタル証券」「ペイメント型ステーブルコイン」「デジタルツール」「デジタルコレクティブル」「デジタルコモディティ」の5つに分類する共同解釈的ガイダンスを公表した。SECの監督対象となるのはデジタル証券のみとされ、CFTCは商品取引所法に基づきこのガイダンスを運用すると表明した。
またCFTCは同日、ノン・カストディアル型ウォレットプロバイダーに対してノーアクション・レターを発行した。一方、アリゾナ州は同じく3月17日にKalshiに対して刑事訴追を行い、ネバダ州は4月3日の公聴会まで同社の予測市場サービスの提供停止を命じた。マーケット・ストラクチャー法については、ダウニング議員が4月中の前進は可能と述べ、3月22日にはアルソブルックス上院議員とトム・ティリス上院議員がイールド問題で合意に達したと報じられた。
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The SEC explains how it’s viewing a crypto security: State of Crypto
【編集部解説】
今週、米国の暗号資産規制において歴史的な転換点となる出来事が重なりました。SECとCFTCによる共同解釈的ガイダンス、Kalshiへの刑事訴追、そしてマーケット・ストラクチャー法の前進——それぞれが独立したニュースでありながら、すべては「米国が暗号資産をどう制度に組み込むか」という一つの大きな問いに収束しています。
まず、今回のガイダンスの本質を理解するうえで押さえておきたいのが「解釈的ガイダンス」という性質です。これは正式な法律でも規制でもなく、SECとCFTCが「自分たちはこう解釈する」と示した行政上の見解にとどまります。法的拘束力はなく、将来の政権によって覆される可能性もあることは、記事中でダウニング議員も指摘しています。それでもなお、10年以上にわたり「規制による取り締まり(regulation by enforcement)」で業界を翻弄してきたゲンスラー前SEC委員長の路線からの明確な訣別であり、業界にとっては待望の方向転換です。
ガイダンスの核心は、暗号資産を5つのカテゴリーに分類したことにあります。デジタルコモディティ、デジタルコレクティブル、デジタルツール、ステーブルコイン、そしてデジタル証券です。このうちSECの監督対象となるのは「デジタル証券」のみで、ビットコイン、イーサリアム、Solana、XRPなどの主要銘柄はデジタルコモディティとして分類され、SECではなくCFTCの管轄下に置かれることが明確になりました。
特に注目すべきは「投資契約の動的な変化」という概念が初めて明文化されたことです。あるトークンが当初は証券として販売されていても、ネットワークが分散化し、発行者の経営努力への依存がなくなった時点で、証券の地位を「卒業」できるという考え方です。これはICO(新規トークン発行)時代に証券として扱われてきた多数のプロジェクトに、規制上の出口を示す可能性があります。
一方で課題も残ります。このガイダンスはCFTCに非証券型暗号資産の管轄を明示的に付与するものではなく、記事中でゴットリーブ弁護士が指摘するように「SECに管轄がないからといって、CFTCにあるとは限らない」という状態は解消されていません。管轄の空白を埋めるには、やはり議会によるマーケット・ストラクチャー法の成立が不可欠です。
Kalshiをめぐる動きは、規制の地殻変動が別の戦線でも起きていることを示しています。アリゾナ州が米国で初めて予測市場プロバイダーへの刑事訴追に踏み切ったこと、ネバダ州が同社サービスの一時停止を命じたことは、連邦規制当局(CFTC)と州規制当局の間で管轄権争いが激化していることを意味します。予測市場では現在、週あたり約50億ドル(Dune Analytics調べ)の取引が行われており、その経済的規模が各州を動かす動機になっています。
暗号資産業界全体の視点から見ると、今回のガイダンスは確実に前進ですが、完成形ではありません。法的安定性を本当に確保するには、議会立法という次のステップが必要です。4月が一つの節目になりそうですが、年末に向かうほど中間選挙が視野に入り、法案通過の難易度は上がります。「ルールブック」の最終版が完成するまでには、まだ時間がかかりそうです。
【用語解説】
ハウィーテスト(Howey Test)
1946年の米最高裁判例(SEC v. W.J. Howey Co.)に由来する、ある取引が「投資契約=証券」に該当するかを判断する基準。「金銭の投資」「共同事業」「他者の努力による利益の期待」という要件をすべて満たす場合、証券と見なされる。今回のガイダンスの根幹をなす概念である。
ノーアクション・レター(No-Action Letter)
規制当局が特定の企業や個人に対し、「この行為については法執行を行わない」と通知する書簡。正式な規制ではなく、あくまで当局の裁量による不訴追の意思表示であり、法的拘束力を持たない。
ノン・カストディアル型ウォレット
ユーザー自身が秘密鍵(資産へのアクセス権)を管理するタイプの暗号資産ウォレット。取引所などの第三者が資産を預かる「カストディアル型」とは異なり、資産の自己管理が可能な一方、鍵の紛失リスクも自己責任となる。
マーケット・ストラクチャー法 / クラリティ法(CLARITY Act)
暗号資産に関するSECとCFTCの管轄範囲を明確に定めることを目的として、米議会で審議中の法案。現在の解釈的ガイダンスはあくまで行政上の見解にとどまるため、法的安定性を担保するにはこの立法の成立が不可欠とされている。
解釈的ガイダンス(Interpretive Guidance)
規制当局が既存の法律をどう解釈するかを示した行政上の文書。正式な法律や規制ではなく、行政手続法上の正式なルール制定プロセスを経ていないため、法的拘束力は限定的で、次の政権によって覆される可能性もある。
Regulation by Enforcement(規制による取り締まり)
明確なルールを事前に示さず、個別の法執行行為(訴訟や制裁)を通じて事実上の規制を行う手法。ゲンスラー前SEC委員長時代に多用され、業界から強い批判を受けた。今回のガイダンスはこの手法からの訣別を明示している。
ICO(Initial Coin Offering)
企業やプロジェクトが独自のトークンを新規発行し、投資家に販売することで資金調達を行う手法。2017〜2018年に急増したが、多くが証券法違反の疑いでSECの調査対象となった。今回のガイダンスにより、当時ICOで販売されたトークンが証券の地位を「卒業」できる可能性が生まれた。
【参考リンク】
SEC(米国証券取引委員会)(外部)
米国の証券市場を監督する連邦規制機関。今回の共同ガイダンスの主体で、投資家保護と市場の公正性確保を使命とする。
CFTC(商品先物取引委員会)(外部)
米国の商品先物・デリバティブ市場を監督する連邦規制機関。非証券型暗号資産をコモディティとして管轄する方針を示した。
Kalshi(外部)
CFTCに登録された米国最大の予測市場プラットフォーム。選挙・スポーツ結果に対してYes/No契約を売買できる。現在複数の州で訴訟中。
Dune Analytics(外部)
ブロックチェーン上のオンチェーンデータを誰でも照会・可視化できるデータ分析プラットフォーム。予測市場のデータ源として活用されている。
【参考記事】
Arizona AG Files Criminal Charges Against Prediction Market Kalshi(CNN)(外部)
アリゾナ州が米国初の刑事訴追を行った詳細を報道。予測市場の週間取引高が約50億ドルに達すること、起訴件数20件の内訳も記載。
Arizona Attorney General Files Unprecedented Criminal Charges Against Kalshi(National Law Review)(外部)
Kalshiへの20件の刑事訴追の法的詳細を法律専門誌が解説。3月12日の提訴から仮差止め却下、刑事訴追に至る経緯を網羅する。
SEC’s Token Taxonomy is Official: 16 Crypto Assets Are Now Digital Commodities(Disruption Banking)(外部)
SECとCFTCによる68ページの共同解釈文書を詳細分析。デジタルコモディティに分類された16銘柄の一覧と基準を示す。
SEC Unveils Landmark Interpretive Guidance(A&O Shearman)(外部)
国際法律事務所による詳細な法的分析。エアドロップ・ステーキング・マイニングへの影響と投資契約の終了概念を詳述する。
Crypto Finally Gets Its Rulebook: Landmark SEC/CFTC Guidance Arrives(Snell & Wilmer)(外部)
ガイダンスが過去のSECスタッフ声明を上書きし、規制による取り締まりから原則ベース規制への転換を宣言することを整理する。
【編集部後記】
「ルールがない」ことが、むしろリスクだった時代がようやく終わりを迎えようとしています。とはいえ、今回のガイダンスはあくまで「解釈」であり、法律ではありません。
あなたが注目している暗号資産やプロジェクトは、この5分類のどこに位置するでしょうか?ぜひ一度、自分ごととして考えてみてください。

