Web3市場におけるラグプル(Rug Pull)と価格操作の実態分析【2026年版】

Last Updated on 2026年2月26日 by Co-Founder/ Researcher

暗号資産(仮想通貨)市場において、トークンの価格形成はプロダクトの実用性(ユーティリティ)だけでなく、SNS(XやYouTube等)を通じた「アテンション(注目度)」の増減に強く依存する構造を持ちます。

この構造を利用し、オンチェーンにおける情報の非対称性を突いた「Pump & Dump(意図的な価格の吊り上げと売り抜け)」や、スマートコントラクトの権限を悪用した「ラグプル(流動性の喪失)」といった事象が継続的に観測されています。

本稿では、インフルエンサー(KOL)を介したアテンション形成のプロセス、分散型取引所(DEX)における流動性プールの仕組み、およびハニーポット等の悪意あるコード構造を、オンチェーンデータが示す客観的現実(FACT)に基づき解剖します。

本記事の目的

本記事の目的は、特定のプロジェクトやインフルエンサーを非難することではありません。パブリック・ブロックチェーン上でトークンが発行・取引される際の「流動性メカニズムの技術的仕様」、およびスマートコントラクトに内在する「構造的リスク」の客観的現実(FACT)を解説することです。 読者がSNS上の情報(ノイズ)に流されず、オンチェーンデータに基づいたインフラの検証(Verify)を行えるようになることを目指します。

記事内容

アテンションの構造化:KOL主導型「Pump & Dump」

一部のトークンプロジェクトにおいて、SNSの拡散力を利用した意図的な価格操作(Pump & Dump)のアーキテクチャが観測されています。

  • 情報の非対称性の形成: トークン発行体(開発陣)が、影響力を持つKOL(Key Opinion Leader)に対して未公開トークンや報酬を事前に提供し、X(旧Twitter)やYouTube等で対象プロジェクトに関する情報を一斉に発信させることで、人為的なアテンションのスパイク(急増)を形成します。
  • トランザクションの偏りと売り抜け: アテンションの増加に伴い、一般の市場参加者が分散型取引所(Uniswap等)を通じて対象トークンを購入し、オンチェーン上の取引ボリュームと価格が急騰(Pump)します。この価格上昇のピーク付近において、事前にトークンを保有していた発行体やKOLの大口ウォレットから、一斉にトークンが売却(Dump)されるトランザクションが記録され、価格は数学的に暴落します。

流動性の消失メカニズム:「ラグプル」の類型

DEX等において、プロジェクト側が意図的にトークンの流動性を奪う事象(ラグプル)は、スマートコントラクトの仕様を悪用して実行されます。

  • ハード・ラグ(流動性の即時引き抜き):Uniswap等のAMM(自動マーケットメイカー)では、トークンの売買を成立させるために「流動性プール(対象トークンとETH等のペア)」が必要です。ハード・ラグは、開発者がスマートコントラクトの管理者権限を行使し、プールに預け入れていた基軸通貨(ETHやUSDC)を突如として全額引き抜く(Remove Liquidity)手口です。これにより、流動性プール内の資産バランスが崩壊し、一般ユーザーはトークンを売却・交換することが数学的に不可能になります。
  • ソフト・ラグ(緩やかな放棄): スマートコントラクト上の突発的な操作を避け、GitHubでのコード更新(コミット)の停止や、公式SNSの更新停止など、開発活動を意図的にフェードアウトさせる手法です。その間、開発陣のウォレットからは継続的かつ緩やかにトークンが売却されるオンチェーンデータが観測されます。

コードの権限悪用:ハニーポット(Honey Pot)

監査(Audit)を受けていない、あるいはアップグレーダブル(プロキシ)構造を持つスマートコントラクトにおいて、特定の関数が意図的に制限されている仕様が存在します。

  • ミント権限の濫用: 開発者のウォレットアドレスのみが、供給上限を無視して無限にトークンを新規発行(Mint)できる関数がコード内に記述されているケースです。
  • 売却関数のブロック: トークンを購入(Buy)することは誰でも可能ですが、スマートコントラクト内の「transfer(移転)」関数に条件分岐が記述されており、ホワイトリスト化された開発者のアドレス以外はトークンを売却(Sell)する処理が必ずエラー(Revert)になるようプログラムされている仕様です。

オンチェーンデータによる「検証(Verify)」のアプローチ

SNS経由の情報に依存せず、ブロックチェーンの公開データ(オンチェーンデータ)を参照することで、一定の構造的リスクを検証することが可能です。

  • トークン・ディストリビューション(配分比率): Etherscan等のブロックチェーンエクスプローラーを通じ、特定の少数のウォレット(開発者等)が総供給量の大部分を占有していないか、トップホルダーの保有比率をデータで確認します。
  • 流動性のロック状況の確認: DEXで取引されるトークンの流動性プール(LPトークン)が、第三者のスマートコントラクト(Team FinanceやUncx Network等)によって長期間引き出し不可能な状態にロック(Liquidity Lock)されているかを確認します。

FAQ

Q. 第三者機関によるスマートコントラクト監査(Audit)を受けているプロジェクトなら、ハニーポットやラグプルのリスクはゼロですか?
A. ゼロではありません。監査レポートは「コードがスナップショット(特定の時点)において意図通りに動作するか」を技術的に検証した文書に過ぎません。コントラクトが「プロキシ・パターン(後からロジックを差し替え可能な仕様)」で実装されている場合、監査通過後に開発者が悪意あるコードへアップグレードする権限を持っている可能性があります。

Q. Etherscanを見れば、トークンが詐欺かどうか確実に分かりますか?
A. 確実な判定は不可能です。ブロックチェーンエクスプローラーは、「どのアドレスが、どれだけのトークンを保有しているか」というトランザクションの事実(FACT)を表示するツールです。大口の保有者が将来トークンを売却するかどうかといった、オフチェーンの「意図」をオンチェーンデータから読み取ることはできません。

まとめ:構造理解のためのフレームワーク

本記事では、Web3市場における情報の非対称性と、スマートコントラクトの悪用リスクを考察しました。

  • アテンションの構造的悪用: KOLを通じた情報の意図的な拡散と、トランザクションの急増に乗じた大口の売り抜け(Pump & Dump)がデータ上存在します。
  • 流動性の技術的脆弱性: DEXにおける流動性プールの引き抜き(ハード・ラグ)や、売却関数をロックするハニーポットは、スマートコントラクトの管理者権限を行使することで実行されます。
  • インフラの検証: SNSの情報ではなく、Etherscan等を用いたトークン配分の確認や、流動性ロックの有無といったオンチェーンデータの直接確認が不可欠です。

インフルエンサーによる「評価」と、スマートコントラクトに記述された「コードの仕様(権限構造)」を切り離して検証することが、技術評価の鍵となります。

Crypto Verseからのメッセージ

暗号資産市場におけるボラティリティの高さは、オープンな流動性がもたらす結果であると同時に、情報の非対称性を利用したオンチェーンの権限行使(Dumpやラグプル)が日常的に発生するインフラ環境であることを意味します。

Crypto Verseは、特定のインフルエンサーの言説やプロジェクトのロードマップを信奉することなく、「スマートコントラクトの仕様」と「検証可能な事実(FACT)」のみを提示し続けます。LPトークンがロックされたコントラクトの期限を検証するのか、transfer関数に仕込まれた制限コードを読み解くのか。「Don’t trust, verify(信じるな、検証せよ)」――この原則こそが、次世代のデジタルインフラに向き合うための羅針盤となります。

データ参照元・出典

本記事の技術的背景および事実確認において、以下のデータ等を参照しています。

  • Etherscan: トークンのコントラクトソースコード、トップホルダーの保有比率、およびトランザクション履歴の検証
  • Uniswap Documentation: V2/V3におけるAMM(自動マーケットメイカー)のアーキテクチャおよび流動性プールの仕様
  • GitHub: パブリック・リポジトリを通じた開発コミュニティのコミット履歴・活動状況

重要な注記

  • オンチェーンデータに関する性質: 本記事におけるEtherscanやDEXの流動性に関する記述は、データ取得時点における客観的事実およびスマートコントラクトの技術仕様の紹介であり、特定のトークンの将来の価格推移や、プロジェクトの適法性を保証・判定するものではありません。
  • 技術的限界の性質: 本記事で言及した流動性ロック(Liquidity Lock)やスマートコントラクト監査は、コードに内在する未知の脆弱性(バグ)や、複雑なコンポーザビリティを利用したハッキングに対する安全性を完全に保証するものではありません。

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Crypto Verseの視点

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 複雑なWeb3の世界を、  
 もっとも信頼できる「地図」へ。
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 Crypto Verseが目指すもの:

  • 構造を正確に伝える
  • リスクを隠さず明示する
  • 統計的現実を提示する

本記事は、構造的に理解するための専門コンテンツであり、特定の暗号資産への投資や特定のDEXの利用を推奨するものではありません。

免責事項

本記事は、暗号資産市場の構造およびスマートコントラクトのアーキテクチャに関する客観的情報提供を目的としており、特定の暗号資産の購入、運用、特定のプロジェクトへの参加を推奨・非難するものではありません。本記事の内容は投資助言・投資勧誘を意図するものではありません。DEXでの取引や新規トークンの購入には、流動性の引き抜き(ラグプル)による売却不能リスク、意図的なコード制限(ハニーポット)による資産喪失リスク、および極端な価格変動による財務的損失リスクが伴います。各プロトコルの仕様や開発者の意図をオンチェーンデータから完全に判定することは不可能です。参加の決定および最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。

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ByCo-Founder/ Researcher

2015年、ITエンジニアリングの領域から暗号資産(Cryptocurrency)の世界へ。

当初、私の網膜を焼いたのは、証券市場には存在しない「眠らないマーケット」の衝撃でした。CEX(中央集権取引所)に渦巻いていた当時の熱狂とカオスは、単なる投機ではなく、次なる時代の胎動そのものでした。

やがて技術はDEX、そしてDeFiへと進化し、マネーは「プログラム可能な金融」へと昇華する。その過程で私が魅せられたのは、コードが自律的に経済圏を構築する「自律分散システム」の構造的な美しさです。

私の原点は、日本初の暗号資産「モナコイン(Monacoin)」にあります。誰の指示でもなく、コミュニティの熱量だけで経済が回り始める──その光景に見た「人間主権」の可能性こそが、今の私のコンパスです。

以来10年、最前線で観測し続けてきた技術の進化。「価格」というノイズを削ぎ落とし、その奥にある「技術の実装」と「社会変革の本質」を言語化すること。

2025年、成熟しつつあるデジタル経済の荒野において、読者が迷わずに歩める「信頼できる地図」を。ここ東京から、テクノロジーと人間の未来を記録します。