2026年のイーサリアム──「ガス代」の概念が消える日。Danksharding後の世界とETHの行方

未来都市の中心に輝くイーサリアムのロゴと、The VergeやThe Scourgeなど2026年のロードマップフェーズを示す光のラインDankshardingを経て「安くて速い」が当たり前になったその先へ。The Verge, The Scourge... ロードマップが描き出す、2026年のイーサリアム経済圏の構造。

Last Updated on 2026年2月8日 by Co-Founder/ Researcher

数年前まで、Ethereumを語る際のキーワードは常に「ガス代の高さ」と「処理の遅さ」だった。しかし、2026年現在、それらの議論はもはや過去の遺物となりつつある。

「Dencun」アップグレードによるプロト・ダンクシャーディングの導入以降、レイヤー2(L2)の取引コストは劇的に低下した。スケーラビリティ(拡張性)問題は「解決のフェーズ」を終え、現在は「いかにしてこの巨大なインフラを最適化し、分散性を維持するか」という次の次元へと移行している。

今回は、スケーラビリティの先にあるEthereumの真の姿を分析する。

目次

  1. 「The Surge」の完遂:データ可用性という名の革命
  2. スケーラビリティの影にある「断片化」への挑戦
  3. 究極の目標:分散性を捨てない「ステートレス性」の追求
  4. 結び:金融を超えた「地球規模のOS」へ
  5. よくある質問
  6. まとめ

この記事のポイント

  • Dencunアップグレードの衝撃:2024年3月13日のプロト・ダンクシャーディング導入により、L2手数料が10分の1以下に低下
  • 10万TPSへの道:無数のロールアップが並列動作し、エコシステム全体で秒間10万件処理を視野に
  • Verkle Treesによるステートレス性:2026年後半のHegotaアップグレードで、家庭用PCでも検証可能なネットワークへ
  • 分散性の堅持:処理能力を高めても「誰でも検証できる」という哲学を絶対に捨てない

「The Surge」の完遂:データ可用性という名の革命

現在のEthereumは、自らすべての取引を処理する「単一のチェーン」であることをやめ、L2に処理を任せて自らはデータの正しさを保証する「セキュアな土台」に特化する戦略をとっている。

Dencunアップグレード:歴史的転換点

実施日時
2024年3月13日にEthereumメインネットで稼働開始。The Merge以来最大のアップグレードと評価されている。

EIP-4844(プロト・ダンクシャーディング)の核心
EIP-4844は、Ethereum研究者Dankrad Feist とProtolambdaの名前から「Proto-Danksharding」と命名された。この提案の革新的な要素は以下の通りだ:

Blob(Binary Large Object)の導入
従来、L2ロールアップは取引データを「calldata」としてEthereumに送信していた。calldataは永久保存され、EVMから直接アクセス可能だが、そのコストがロールアップ手数料の90%以上を占めていた。

EIP-4844は、「blob-carrying transaction(blob搭載トランザクション)」という新しいトランザクションタイプを導入。blobはcalldataと異なり:

  • 一時的保存(約18日間)
  • EVMから直接アクセス不可(コミットメントのみ確認)
  • はるかに低いガスコスト

多次元手数料市場
EIP-1559を拡張し、blob用の独立した手数料市場を実装。blob-carryingトランザクションは通常のトランザクションとブロックスペースを競合しないため、ガス価格変動の影響を受けにくい。

KZG Commitment
Kate-Zaverucha-Goldbergコミットメントスキームにより、blobデータの完全性を暗号学的に検証。これにより、データ全体をダウンロードせずとも正当性を確認できる。

データ可用性(DA)の最適化

2026年のEthereumは、L2から送られてくる膨大な取引データを効率的に処理する「専用の高速道路」を完成させた。

L2手数料の劇的な低下
Dencun以降、主要L2の手数料は以下のように推移:

  • Optimism:約10分の1に低下
  • Arbitrum:約8分の1に低下
  • Base:1セント以下のトランザクションが標準化

現在のblobキャパシティ
ブロックあたり最大6つのblobを添付可能(各blob最大125KB)。これにより、ブロックごとに約750KBの追加データ容量が確保された。

10万TPSへの道

無数のロールアップ(L2)が並列で動作することで、エコシステム全体での処理能力は秒間10万件(10万TPS)の大台を視野に入れている。これは、既存の金融ネットワークを凌駕する数字だ。

Full Dankshardingの展望
プロト・ダンクシャーディングは、完全なDankshardingへの中間ステップだ。Full Dankshardingでは:

  • ブロックあたりblobが6個から64個に拡大
  • さらなる32倍のスループット向上
  • 百万TPS時代の技術的基盤

現実的なスケーリング目標
Ethereumの公式ロードマップでは、「10万TPS以上」を目標として掲げている。これは、L1とL2を組み合わせたエコシステム全体の処理能力だ。


この「ロールアップ中心の戦略」において、現在市場をリードしているのがArbitrumとOptimismである。両者の設計思想の違いや最新の技術比較については、Crypto Verseの別記事で詳しく解説している。


スケーラビリティの影にある「断片化」への挑戦

便利になった一方で、2026年のEthereumが直面している最大の課題は、ユーザーや流動性が各L2に分断されてしまう「断片化(Fragmentation)」だ。

これを解決するために、現在の開発リソースは以下の2点に集中している。

チェーン抽象化(Chain Abstraction)

ユーザーが「どのL2を使っているか」を意識せず、一つのウォレットでシームレスに操作できる技術だ。

技術的アプローチ

  • Account Abstraction(ERC-4337):スマートコントラクトウォレットにより、複数チェーン間のトランザクションを自動処理
  • Intent-based Architecture:ユーザーは「何をしたいか」を指定するだけで、最適なルートを自動選択
  • Unified Liquidity Pools:複数L2にまたがる流動性を単一プールとして扱う

ユーザー体験の変革
従来は「ブリッジ→トークンスワップ→目的のアプリケーション」という複雑な手順が必要だったが、チェーン抽象化により「ワンクリックで完結」する世界が実現しつつある。

相互運用性(Interoperability)

L2間を資金がワープするように移動できるインフラ。これにより、Ethereumは「バラバラな島の集合体」から「一つの巨大な経済大陸」へと再統合されようとしている。

主要な相互運用プロトコル

  • Optimism Superchain:OP Stack基盤の複数L2が収益とセキュリティを共有
  • Arbitrum Orbit:Arbitrum技術スタックを使用したカスタマイズ可能なチェーン群
  • Layer Zero / Wormhole:クロスチェーンメッセージング・プロトコル

経済的統合の進展
断片化された流動性を統合することで、DEXのスリッページ減少、より効率的な資本配分、エコシステム全体の経済効率向上が期待される。


究極の目標:分散性を捨てない「ステートレス性」の追求

Ethereumが他の高速な競合チェーンと一線を画すのは、どれほど処理能力を高めても「分散化(誰でも検証できること)」を絶対に捨てない点にある。

Verkle Treesの導入

Hegotaアップグレード(2026年後半予定)
2026年後半に予定されているHegotaアップグレードで、Verkle Treesの実装が計画されている。

Verkle Treesとは
現在のMerkle Patricia Triesに代わる、新しい暗号学的データ構造。主な特徴:

証明サイズの劇的な削減

  • Merkle Patricia Tries:約1KB
  • Verkle Trees:約150バイト
  • 約7分の1に圧縮

ベクトルコミットメント
ハッシュ関数の代わりに多項式コミットメントスキームを使用。これにより:

  • 兄弟ノードの提供が不要
  • ルートからリーフまでの距離が短縮
  • 証明サイズが固定(検証するリーフ数に依存しない)

ステートレス性(Statelessness)の実現

これにより、テラバイト級のデータを保持せずとも、家庭用PCレベルのスペックでネットワークの正しさを検証できる「ステートレス性」が実現しつつある。

ステートレスクライアントの動作原理

従来のフルノードは、Ethereumの全状態(約数百GB)をローカルに保存する必要があった。ステートレスクライアントは:

  1. ブロックと共に送られる「witness(証人データ)」のみを受信
  2. witnessには、そのブロックのトランザクション実行に必要な状態の断片のみ含まれる
  3. Verkle証明により、witnessが本当に正しい状態の一部であることを検証
  4. 全状態を保存せずともブロックの正当性を確認可能

ハードウェア要件の大幅な低下

  • 現在のフルノード:500GB+のストレージ、高速SSD必須
  • Verkle Trees後のステートレスクライアント:数GB、標準的なHDD/SSDで動作可能
  • 同期時間:数日→数分

中央集権化への抗い

特定の巨大企業やサーバーに依存せず、世界中のボランティアがノードを運営できる。この「検閲耐性(Censorship Resistance)」こそが、2026年においてもEthereumが世界の信頼を勝ち得ている根源的な理由だ。

分散性の重要性

  • 検閲耐性:単一の権威がトランザクションを拒否できない
  • ネットワーク強靭性:一部のノードが停止しても全体は継続
  • 信頼の最小化:誰でも独立して検証可能

Verkle Treesと量子耐性
Verkle Treesの多項式コミットメントは量子コンピュータに脆弱という指摘もある。そのため、将来的にSTARK証明へ移行する可能性も議論されている。しかし、2026年時点ではVerkle Treesの実装を優先し、量子コンピュータの進展を監視しながら次のステップを検討するアプローチが取られている。


結び:金融を超えた「地球規模のOS」へ

スケーラビリティの向上は、目的ではなく、その先にある「社会実装」のための手段だった。

技術的成熟の到達点

The Surge:達成済み
Dencunアップグレードにより、L2のデータ可用性コストは10分の1以下に低下。ロールアップ中心の戦略が確立された。

The Scourge:進行中
MEV(Maximal Extractable Value)対策、PBS(Proposer-Builder Separation)の実装により、より公正なトランザクション順序付けを実現。

The Verge:2026年後半
Verkle Treesの導入により、ステートレスクライアントが実現。誰でも簡単にネットワーク検証に参加可能に。

The Purge:計画中
不要な歴史データの削除(State Expiry)により、ストレージ負担をさらに軽減。

The Splurge:その他の改善
EVM改善、アカウント抽象化の完全実装等、ユーザー体験の向上。

地球規模のトラストレス・オペレーティングシステム

2026年、Ethereumは単なる暗号資産の枠を超え、金融、ID(身分証明)、サプライチェーン、さらにはガバナンス(意思決定)までもが透明なコードの上で動く、「地球規模のトラストレス・オペレーティングシステム」へと進化を遂げている。

実装事例

  • DeFi:数千億ドル規模の分散型金融エコシステム
  • NFT/デジタル所有権:アート、音楽、ゲームアイテム等の真正性証明
  • 分散型ID:自己主権型アイデンティティ(ENS等)
  • DAO:国境を越えた透明な組織運営
  • サプライチェーン:商品の原産地から消費者までの追跡

ノイズに満ちた市場価格に惑わされず、この巨大なインフラが構築しようとしている「分散型の未来」を直視すること。それこそが、Crypto Verseが提唱する真の洞察だ。


よくある質問

Q: プロト・ダンクシャーディングと完全なDankshardingの違いは何ですか?
A: プロト・ダンクシャーディング(EIP-4844)は、完全なDankshardingへの中間ステップです。現在はブロックあたり6つのblobですが、Full Dankshardingでは64個に拡大されます。これにより、さらに32倍のスループット向上が見込まれます。プロト版は「今すぐ実装可能」な形で設計され、2024年3月に稼働開始しました。

Q: Verkle Treesはいつ実装されますか?
A: 2026年後半のHegotaアップグレードで実装予定です。ただし、ブロックチェーンアップグレードは複雑なため、テストネットでの検証結果やコミュニティコンセンサスによって時期が変動する可能性があります。現在の目標は「2026年後半から2027年初頭」となっています。

Q: L2の手数料が下がると、Ethereumメインネットの手数料も下がりますか?
A: いいえ、Dencunアップグレードは主にL2の手数料削減を目的としています。Ethereumメインネット上での直接的なトランザクション(スワップ等)の手数料は、依然として高額($50-$100+)です。メインネットは「セキュリティレイヤー」として機能し、日常的なトランザクションはL2で行うことが推奨されています。

Q: なぜEthereumは分散性にこだわるのですか?
A: 分散性は検閲耐性と信頼の最小化の根幹です。中央集権的なシステムでは、単一の権威がトランザクションを拒否したり、ルールを変更したりできます。Ethereumは「誰でも検証できる」という原則により、どの国家や企業も制御できない中立的なプラットフォームを目指しています。この哲学的コミットメントが、Ethereumが「世界のコンピューター」として機能する基盤です。


まとめ

Ethereumの本質的な価値は、第三者に依存せず、誰もが平等にアクセスでき、検証できる「分散型インフラ」にある。しかし、その価値を実現するためには、スケーラビリティという技術的課題を克服する必要があった。

2026年現在、Ethereumは以下の不変の技術的事実によって支えられている:

Dencunアップグレードによる革命
2024年3月13日のプロト・ダンクシャーディング導入により、L2の手数料が10分の1以下に低下。blob-carryingトランザクションという新しいデータ保存方式が、ロールアップ中心のエコシステムを加速させた。

10万TPSへの明確な道筋
プロト・ダンクシャーディングは完全なDankshardingへの中間ステップ。ブロックあたりblobを6個から64個に拡大することで、さらに32倍のスループット向上が見込まれる。無数のL2が並列動作し、エコシステム全体で10万TPS以上を達成する技術的基盤が整った。

Verkle Treesによるステートレス性
2026年後半のHegotaアップグレードで、証明サイズを約150バイトに圧縮するVerkle Treesが導入される。これにより、家庭用PCでもEthereumネットワークの検証が可能になり、分散性が飛躍的に向上する。

断片化への対応
チェーン抽象化と相互運用性プロトコルにより、複数L2間のシームレスな資産移動とユーザー体験の統合が進行中。Ethereumは「バラバラな島」から「統合された経済大陸」へと進化している。

分散性への絶対的なコミットメント
処理能力を高めても「誰でも検証できる」という哲学を捨てない。この検閲耐性こそが、Ethereumが国家や企業の枠を超えた「中立的なグローバルインフラ」として機能する根拠だ。

今後の展望
Full Dankshardingの実装、Verkle Treesの完全稼働、さらなるL2エコシステムの成長が、次の進化の鍵となる。Ethereumは「世界のコンピューター」から「地球規模のトラストレスOS」へと、その役割を拡大し続けている。

スケーラビリティは解決された。次は、この巨大なインフラの上に、どのような分散型の未来を築くかだ。Web3の旅は、まだ始まったばかりだ。


参照ソース

Dencun Upgrade / Proto-Danksharding

Verkle Trees / Statelessness

Ethereum Roadmap

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ByCo-Founder/ Researcher

2015年、ITエンジニアリングの領域から暗号資産(Cryptocurrency)の世界へ。

当初、私の網膜を焼いたのは、証券市場には存在しない「眠らないマーケット」の衝撃でした。CEX(中央集権取引所)に渦巻いていた当時の熱狂とカオスは、単なる投機ではなく、次なる時代の胎動そのものでした。

やがて技術はDEX、そしてDeFiへと進化し、マネーは「プログラム可能な金融」へと昇華する。その過程で私が魅せられたのは、コードが自律的に経済圏を構築する「自律分散システム」の構造的な美しさです。

私の原点は、日本初の暗号資産「モナコイン(Monacoin)」にあります。誰の指示でもなく、コミュニティの熱量だけで経済が回り始める──その光景に見た「人間主権」の可能性こそが、今の私のコンパスです。

以来10年、最前線で観測し続けてきた技術の進化。「価格」というノイズを削ぎ落とし、その奥にある「技術の実装」と「社会変革の本質」を言語化すること。

2025年、成熟しつつあるデジタル経済の荒野において、読者が迷わずに歩める「信頼できる地図」を。ここ東京から、テクノロジーと人間の未来を記録します。