なぜDAOの投票は機能しないのか?「トークン主権」の限界と、2026年に訪れるガバナンスの成熟

アバター画像

ByCo-Founder/ Researcher

2026年2月6日 ,
DAOガバナンスの成熟(2026) 実験的なカオスを脱し、堅牢なセキュリティと持続可能性を備えた「社会基盤」へと進化したDAOの概念図。

Last Updated on 2026年2月8日 by Co-Founder/ Researcher

2026年、私たちは「組織」という概念の劇的な転換点に立っている。かつてDAO(分散型自律組織)は、理想主義的な実験、あるいは単なる投資の仕組みと見なされていた。しかし、人間主権のプロトコルが整備され、プログラマブルマネーが社会の血液となった現在、DAOは国家や企業の枠組みを超え、個人の意志を直接「経済的価値」に変換する、人類にとって最も透明な「共創のOS」へと進化を遂げた。

なぜ、2026年のDAOは「崩壊」せず、むしろ強固な「経済的重力」を持つに至ったのか。その成熟の背景にある、構造的・技術的な変革を紐解く。

目次

  1. 「Endgame」の完遂:MakerDAO(Sky)に見る構造改革
  2. 経済的裏付けの強化:ガバナンス・トークンから「価値捕獲」へ
  3. 「専門的委任」とAIによるガバナンスの補助
  4. 制度化されるDAO:法的枠組み「DUNA」の誕生
  5. 結論:人間主権と共創のファイナル・アンサー
  6. よくある質問
  7. まとめ

この記事のポイント

  • 構造改革の完遂:MakerDAOのEndgame計画によるSubDAO(Sky Stars)モデルで、専門性と意思決定速度を両立
  • 経済的価値の還元:Optimismのバイバック提案(OP-0017)により、ガバナンストークンがネットワーク成長を直接享受
  • 液状民主主義とAI活用:プロフェッショナルな代理人とAIエージェントの組み合わせで、投票疲れを解消
  • 法的実体の獲得:Wyoming州DUNA法により、DAOが正式な契約締結・税務申告・法的保護を享受可能に

「Endgame」の完遂:MakerDAO(Sky)に見る構造改革 {#endgame-makerdao}

DAOが直面した最大の壁は、かつて「意思決定の遅さ」と「無関心」だった。数万人で全てを議論する初期のモデルは、激動する市場においては非効率すぎたのだ。

これを打破したのが、現在のSky(旧MakerDAO)が完遂した「Endgame」計画である。

サブDAO(Sky Stars)による専門化

2026年の巨大DAOは、もはや単一の巨大な集会所ではない。特定の役割に特化した独立したDAO「Sky Stars」へ権限を分散する「多層構造」を採用している。

Endgame計画の技術的詳細

MakerDAOの共同創設者Rune Christensenが提唱したEndgame計画は、2022年10月にガバナンス承認され、2024年8月にSkyへのリブランディングとして具現化した。この計画の核心は以下の通りだ:

SubDAOの独立性
従来のCore UnitモデルからSubDAOへの移行により、各専門領域(レンディング、RWA管理、インフラ等)が独自のガバナンストークン、ルール、コミュニティを持つ。

最初のSky Star:Spark Protocol
DeFiレンディングプロトコルとして30億ドル以上のTVLを持つSparkは、最初のSky Starとして独立稼働している。Sparkは独自のSPKトークンを発行予定で、MakerDAO本体とは別の意思決定を行う。

メインDAOの役割縮小
Sky本体は、全体の「憲法」(Maker Atlas)と資金配分(予算承認)のみを司る。日々の運営判断はSubDAOに委譲される。

効率と透明性の両立

この多層構造により、中央集権に近い「意思決定の速さ」と、オンチェーンでの「完全な透明性」を両立させた。

Scope Artifacts(範囲成果物)
5つのScope(Stability、Support、Protocol、Governance、Accessibility)ごとに明確なルールを定義し、SubDAOが遵守すべき境界を設定。これにより、イノベーションを促進しつつ、リスクを最小化する。

Aligned Voter Committees(AVC)
価値観を共有する投票者グループが、重要な意思決定に集中。無関心な大多数の代わりに、専門家集団が高度な判断を下す「液状民主主義」の実装。

2027年完成予定の最終形態
Endgame計画は2027年に完全実装され、自律的で不変なガバナンス構造が完成する。この時点で、MakerDAOは真に「終わりのない」自己進化するエコシステムとなる。


経済的裏付けの強化:ガバナンス・トークンから「価値捕獲」へ

2024年まで、多くのガバナンス・トークンは「投票できるだけで、経済的メリットがない」という批判を浴びていた。しかし、2026年の主要DAOは、プロトコルの収益をトークンホルダーへ還元するモデルを確立している。

Optimism(OP)のバイバック・レボリューション

象徴的なのは、イーサリアムのL2であるOptimismの動向だ。2026年1月に提案され、同月28日に84.4%の賛成で承認された「OP-0017」提案の実行は、DAOの経済圏を劇的に変えた。

OP-0017提案の詳細

承認プロセス
2026年1月22日に投票開始、1月28日に終了。380万票以上が賛成、わずか1.9万票が反対という圧倒的支持を得た。

バイバックの仕組み
Superchain(Base、Unichain、World Chain、Soneium、Ink、OP Mainnet等)のシーケンサー収益の50%を、OPトークンの買い戻しに充当する12ヶ月のパイロットプログラム。

収益の規模
過去12ヶ月でSupernchainは5,868 ETHの収益を生成。50%配分の場合、約2,700 ETH(当時の価格で約800万ドル)がバイバックに使用される計算となる。

実行方法
月次でOTC(店頭取引)を通じてOPトークンを購入。購入したトークンはOptimism Collectiveのトレジャリーに保管され、将来的にバーン(焼却)、ステーキング報酬、またはエコシステム資金として利用される。

透明性の確保
すべてのOTC取引は、stats.optimism.ioまたはガバナンスフォーラムで公開報告される。

ネットワーク成長=トークン価値

これにより、トークンを持つことは「ネットワークの成長(GDP)を直接享受する権利」となり、DAOは強力な経済主体へと昇華した。

Superchainの市場シェア
L2手数料市場の61.4%を占め、全暗号資産トランザクションの13%を処理している。

価値創出のフライホイール
より多くのチェーンがSupechainに参加→シーケンサー収益増加→バイバック額増加→OP価値上昇→開発者/ユーザー/インフラ提供者の参画意欲向上→さらなる成長、というポジティブなサイクルが形成される。

批判と懸念
一部のデリゲートは「OPを配布しながら買い戻すのは矛盾」「OTC実行は市場価格に直接影響しない」「財務の持続可能性への投資を優先すべき」と指摘。しかし、多数派は「バイバックのミーム(象徴性)が重要」「将来的なステーキング報酬への布石」として支持した。


「専門的委任」とAIによるガバナンスの補助 {#delegation-and-ai}

「全ユーザーが全ての提案に目を通す」という初期の幻想は、2026年には技術的に解決されている。

プロフェッショナルな代理人の台頭

2026年の上位DAOでは、一般ホルダーから票を託された「プロ代理人(Delegate)」が意思決定を代行する「液状民主主義(Liquid Democracy)」が主流だ。

Aligned Delegates(整列代理人)
MakerDAO/Skyでは、Aligned Voter Committees(AVC)と連携するAligned Delegatesが、トークンホルダーの投票権を預かり、専門的判断を下す。

デリゲート報酬
積極的なガバナンス参加に対して、DAOから報酬が支払われる。これにより、プロフェッショナルな代理人が継続的に活動できる環境が整備された。

AIエージェントの介入

2026年には、上位DAOの40%以上がガバナンスプロセスにAIエージェントを活用している。

AIの役割
AIが膨大な提案を要約し、リスクを抽出することで、人間は重要な戦略的意思決定にのみ集中できるようになった。

具体的な実装例

  • 提案の自動要約:長文の提案書を数行のサマリーに凝縮
  • リスク分析:財務的影響、技術的実現可能性、コミュニティセンチメントを自動評価
  • 類似提案の検出:過去の議論との重複を防止
  • 投票パターン分析:デリゲートの投票傾向から最適な委任先を推奨

人間の役割
AIは情報処理を担当するが、最終的な価値判断は人間が行う。これにより、効率性と人間主権のバランスが保たれている。


制度化されるDAO:法的枠組み「DUNA」の誕生

かつてDAOの最大の懸念は、法的責任の所在だった。しかし、米国ワイオミング州での「DUNA(分散型非法人非営利団体)」法を筆頭に、2026年には世界中でDAOに法的実体を与える動きが標準化した。

Wyoming州DUNA法の詳細

成立時期
2024年3月7日にMark Gordon州知事が署名、2024年7月1日に施行。

DUNAの定義
Decentralized Unincorporated Nonprofit Association(分散型非法人非営利団体)とは、以下の要件を満たす組織:

  • 最低100名のメンバー
  • ブロックチェーン・分散台帳技術を活用したガバナンス
  • DUNA法に基づいて設立(他の法域の法律では設立不可)
  • 非営利目的(ただし営利活動は可能、収益は目的に再投資)

DUNAの主要機能

法人格の付与
DAOは独立した法的実体となり、メンバーとは別個の人格を持つ。

有限責任
メンバーは個人的にDAOの債務や法的責任を負わない。これにより、ゼネラルパートナーシップとして扱われるリスクを回避。

契約能力
DUNA名義で契約締結、資産保有、訴訟の当事者になれる。銀行口座の開設も可能。

税務処理の明確化
DUNAは独立した納税主体となり、メンバーは個人的にDAOの収益を申告する必要がない。将来的に501(c)ステータス(税制優遇)取得の可能性も。

スマートコントラクトによるガバナンス
「管理原則(governing principles)」をスマートコントラクトで定義可能。トークン購入による自動メンバーシップ付与も認められる。

実装事例

Uniswap(DUNI)
最大のDEXであるUniswapは、DUNAフレームワークを採用し「DUNI」として法的実体を獲得。2024年8月に最初期の採用例の一つとなった。

Syndicate Network Collective
2024年8月にDUNAとして稼働開始した初期事例の一つ。

WYDE
チャリティガバナンスと501(c)(3)資金配分にDUNAフレームワークを適用したテストケース。

課題と今後の展望

採用の遅れ
施行から18ヶ月経過した2026年初頭時点で、DUNA採用組織は3つ(Uniswap、Syndicate、WYDE)+ 検討中1つ(Compound)のみ。予想よりも採用が遅い。

連邦規制との齟齬
Wyoming州法はDAOに州レベルの正当性を与えるが、SEC、CFTC、IRSといった連邦規制当局の解釈とは別問題。ガバナンストークンが証券と見なされれば、州法では保護されない。

判例の不在
法廷での解釈がまだ確立されていない。最初の係争事例が、DUNAの実効性を決定する。

評価
DUNAは「DAO 1.5」と評価されている。従来の法的包装よりは優れているが、分散型ガバナンスと現実世界の制度との完全な調和には至っていない。


結論:人間主権と共創のファイナル・アンサー

DAOはもはや、「誰にも縛られないための逃げ場」ではない。2026年、それは「正当な評価と、国境なき共創を実現するための、最も効率的な舞台」だ。

プログラマブルマネーと民主的意思決定の融合

プログラマブルマネーが「意志」を持って動き、DAOがその「意志」を民主的に形にする。この連携こそが、既存の企業組織が直面している「情報の非対称性」や「官僚化」を打ち破る、人間主権の最終形態だ。

技術的成熟の到達点

構造改革
MakerDAO/SkyのEndgame計画により、巨大DAOでも効率的な意思決定が可能に。

経済的整合性
Optimismのバイバックモデルにより、ガバナンストークンがネットワーク成長と直結。

AI支援ガバナンス
人間の判断力とAIの処理能力を組み合わせた最適な意思決定環境。

法的基盤
DUNA法により、分散性を保ちながら法的保護を享受する道が開かれた。

新しい生き方の中心

私たちは今、誰かに雇われるのでもなく、誰かを支配するのでもなく、一つの「プロトコル」への貢献を通じて世界と繋がる。その新しい生き方の中心に、DAOという名の宇宙(バース)が広がっている。

ノイズを脱ぎ捨て、本質的な価値だけが残ったこの世界で、DAOは実験から実装へ、理想から実利へと進化を遂げた。2026年のDAOは、人間主権を技術的に担保する、最も透明な「共創のOS」として、次の10年の社会基盤となるだろう。


よくある質問

Q: SubDAOモデルの最大のメリットは何ですか?
A: 専門性の担保と意思決定速度の向上です。従来の単一DAOでは、全メンバーがすべての議題に投票する必要がありましたが、SubDAOでは各専門領域(レンディング、RWA管理等)が独立して意思決定を行います。これにより、市場変化への対応が劇的に速くなりました。

Q: Optimismのバイバックは本当にトークン価値を高めるのですか?
A: OTC取引のため直接的な市場価格への影響は限定的ですが、「ネットワーク収益がトークンホルダーに還元される」という明確なメッセージが重要です。これにより、投機ではなく、プロトコルの成長に基づいた長期保有インセンティブが生まれます。また、将来的なバーンやステーキング報酬の原資となる可能性もあります。

Q: DUNA採用DAOが少ないのはなぜですか?
A: 主な理由は3つです。(1)新しい法的枠組みのため判例がなく、リスクが未知数、(2)最低100名のメンバー要件が小規模DAOには厳しい、(3)非営利制約が利益分配を目的とするDAOには不適合。ただし、公共インフラやプロトコルガバナンスを目的とするDAOには最適な選択肢です。

Q: AIがガバナンスを乗っ取る可能性はありませんか?
A: AIはあくまで「情報処理」と「分析」を担当し、最終的な価値判断は人間が行います。提案の要約やリスク分析は自動化されますが、投票そのものは人間(またはデリゲート)が実行します。AIは意思決定の「質」を高める道具であり、「主体」にはなりません。


まとめ

DAOの本質的な価値は、第三者に依存せず、自分自身で意思決定に参画し、その結果を透明に共有できる「人間主権」にある。しかし、その主権を行使するためには、正しい構造と適切な技術実装という「基盤」が必要だ。

2026年現在、DAOは以下の不変の技術的・制度的事実によって支えられている:

構造改革の完遂
MakerDAO/SkyのEndgame計画により、SubDAO(Sky Stars)モデルが確立。専門性と効率性を両立させた多層構造が、巨大DAOの意思決定を加速させた。

経済的価値捕獲の実現
Optimismのバイバック提案(OP-0017)により、ガバナンストークンがプロトコル収益を直接享受する仕組みが実装された。投票権だけでなく、経済的メリットを持つトークンへと進化した。

液状民主主義とAI支援
プロフェッショナルなデリゲートとAIエージェントの組み合わせにより、「全員が全提案を読む」という非現実的な前提から脱却。専門家による高度な判断と、一般ホルダーの主権が両立した。

法的実体の獲得
Wyoming州DUNA法により、DAOは正式な契約締結、税務申告、法的保護を享受できるようになった。分散性を犠牲にせず、現実世界の制度と接続する道が開かれた。

今後の展望
2027年のMakerDAO Endgame完全実装、Optimismバイバックの1年間評価、DUNA法の判例形成、AI支援ガバナンスの普及拡大が、次の進化の鍵となる。

DAOは実験から実装へ、理想から実利へと進化を遂げた。Web3の旅は、まだ始まったばかりだ。


参照ソース

MakerDAO / Sky Endgame

Optimism OP-0017

Wyoming DUNA

DAO Platform & AI Agents

General DAO Resources

関連記事

アバター画像

ByCo-Founder/ Researcher

2015年、ITエンジニアリングの領域から暗号資産(Cryptocurrency)の世界へ。

当初、私の網膜を焼いたのは、証券市場には存在しない「眠らないマーケット」の衝撃でした。CEX(中央集権取引所)に渦巻いていた当時の熱狂とカオスは、単なる投機ではなく、次なる時代の胎動そのものでした。

やがて技術はDEX、そしてDeFiへと進化し、マネーは「プログラム可能な金融」へと昇華する。その過程で私が魅せられたのは、コードが自律的に経済圏を構築する「自律分散システム」の構造的な美しさです。

私の原点は、日本初の暗号資産「モナコイン(Monacoin)」にあります。誰の指示でもなく、コミュニティの熱量だけで経済が回り始める──その光景に見た「人間主権」の可能性こそが、今の私のコンパスです。

以来10年、最前線で観測し続けてきた技術の進化。「価格」というノイズを削ぎ落とし、その奥にある「技術の実装」と「社会変革の本質」を言語化すること。

2025年、成熟しつつあるデジタル経済の荒野において、読者が迷わずに歩める「信頼できる地図」を。ここ東京から、テクノロジーと人間の未来を記録します。